天使のにゃんにゃんブートキャンプ!
“ししょー”はくびをかしげました。
いつものじかん、いつものばしょ。
いつもどおりの集合でしたがこの日、ミューはお客さんをつれてきたのです。
たしかこのハチワレは、ハッジという名前だったっけ。
まえにけんかをしてから、ほとんどくちもきいていません。
でもその子がなぜか、ミューのうしろでしんみょうに、かしこまっています。
「どうしたの、ミュー。その子、町のこねこだよね?」
「うん。あのね、“ししょー”にきたえてもらいたいんだって」
「おっす!
ボクも、ミューみたいになりたいのです!
“ししょー”、どうかボクも、漢にしてください!!」
ハッジはいきおいよく頭をさげました。
ちょっとだけいきおいがよすぎて、じめんに頭をぶつけそうになりましたが、ぎりぎりでセーフです。
ハッジとミューは、どきどきと“ししょー”をみつめます。
「……ふむ、なかなかみどころがあるこねこだニャ!
よろしい、きょうからキミもボクの弟子ニャ! へんじは……」
「さー! いえっさー!」
「よしっ!
それじゃあはじめるぞ! ボクはきびしいからニャ! かくごするのだニャ!」
「さー! いえっさー!」
ハッジはこねこ集会のみんなの入れ知恵で、ちゃんと予習をしてきたようです。
そのかしこさと熱意にめんじて、“ししょー”は弟子入りをきょかしたのでした。
その日から、こねこの体力トレーニングはさんびきチームになりました。
「ほらいっちに! いっちに!
ミュー! ちょうちょにきをとられない!
ハッジ! しゅうかいおくれはおいてくぞ!」
「「ミャー! いえっさー!」」
* * *
そうこうしているうちに、ハッジもおおきくなりはじめました。
それまでは、ちょっとむくむくしていた食いしんぼうハッジでしたが、さいきんではしゅっとしはじめて、こちらはこちらでなかなかの“いけめん”です。
そろそろスタイルが気になりはじめたみけねこティティも、迷った末に弟子入りです。
するとティティも、もともとかわいかったのが、すらりとした美少女こねこになり、町を歩けばちゅうもくのまと。
そんなかのじょにあこがれて、こねこ集会に入ってきたちいさなこねこたちも、つぎつぎ弟子入りしていきます。
おい、ことしのこねこ集会、レベル高いぞ。
そんなうわさがまちのねこたちの間にながれはじめます。
ついにはおとなのねこたちまでも、“ししょー”に弟子入りしはじめました。
どんどんと弟子がふえるうち、木立の広場ではきゅうくつになってきました。
“ししょー”はねこ語のわかるエレンさんに、あることをおねがいします。
エレンさんはその日のうちに町をまわって、町の人たちにおねがいしてくれました。
『朝の一時間だけ、ふんすい広場をねこたちにかしてもらいたいんです』と。
もともと、ねこがだいすきな町の人たちです。
ほとんどのひとが、すぐにさんせいしてくれました。
さいしょはしぶっていた何人かも、れんしゅう風景をみてしまえばいちころです。
かくして、クレールの町のねこたちは、ひろびろとした朝のふんすい広場で、おもいっきりトレーニングができるようになったのでした。
* * *
いったい、だれが名づけたのでしょう。
『天使のにゃんにゃんブートキャンプ』とよばれるようになったそれは、夏が来るまえにはすっかり、クレールの町の名物になっていました。
かわいらしくもうつくしい、にゃんこたちのトレーニング風景をみようと、とおくの町からもお客さんがやってきます。
町のお店はだいはんじょう。
いつもからっぽだったぼきん箱にも、たくさんのお金がなげこまれます。
あつまったおかねは、町のこじいんと、パペルのみなとまちに寄付されました。
パペルは春先のあらしで、海ぞいのおうちがこわされて、とてもこまっていたのです。
かんしゃしたパペルのひとたちは、豊漁となったおさかなを、お礼としてクレールにおくります。
クレールではさっそく、豊漁まつりがひらかれました。
ひともねこたちもおなかいっぱい、おいしいおさかなをまんきつしました。
こんな、たのしい日々が、これからもずっとつづいていくと、だれもが思いました。
ひとり、リーシャをのぞいては。