マリーちゃんもモウクンレン!
ミューは、まるでちゃしろのいなずまです。
ろじうらを、へいのうえを、まるでとぶように走っていきます。
ちいさな女の子の足ではちっとも、おいつけません。
ついに、みっつめのまがりかどのところで、見失ってしまいました。
いったい、どこにいっちゃったのだろう。
マリーちゃんは路地から路地へ、おろおろとあるきまわりますが、もちろんみつかるわけもありません。
しんぱいなのに、おいつけないもどかしさ。
マリーちゃんのすみれいろの目に、じわっとなみだがうかびます。
「どうしたんだい? かわいい女の子が、なきべそかいたりして」
そこにやってきたのは、れんきんじゅつしのエレンさんでした。
親切で、おかおもすてきで、れんきんじゅつもとてもじょうずな、町じゅうのにんきもの。
うなじでくくった、さらさらの銀色のかみも、緑色のれんきんじゅつしのようふくも、さりげないのに“きまって”ます。
そんなエレンさんがやさしく声をかけてくれたものですから、マリーちゃんはエレンさんにだきついて、わっとなきだしてしまいました。
* * *
「おちついた、マリーちゃん?」
「はい、ごめんなさい……。」
ここは、エレンさんのおうちです。
一階の奥がアトリエ、手前がお店になっています。
ちょっとしたおもてなしもできる、かわいいお店のテーブルで、マリーちゃんは手作りのハーブティーをいれてもらいました。
やさしいかおりに落ち着くと、はずかしさがこみあげてきます。
もう、わたしったら! まるでちいさいこどもみたいに、なきついたりして!
マリーちゃんだってもう5さい。あこがれのエレンさんのまえでは、いつもすてきなレディでいたいのです。
けれどエレンさんは、町のおとこのこたちのように、からかってきたりなんかしません。
つゆくさいろの瞳でそっとほほえみ、ぜんぶ包みこんでくれました。
「ううん、いいんだよ。
でも、きみみたいな小さな子が、あんなに心配そうにして……
いったいなにがあったの? ちからになってあげるから、話してみて?」
「あのね、……」
ときめきながらもマリーちゃんは、ミューのことを話します。
うん、うん、とうなずきながら、ぜんぶをききおわるとエレンさんは、ひとつおおきくうなずきました。
そして、ひょい、と立ちあがります。
「そういうことなら、ついておいで。
ミューちゃんがいるところをおしえてあげる。
でも、おおきな声は出さないで、しずかにすること。
そして、けっしてじゃましちゃいけないよ。
やくそくできる?」
「はい、やくそくします!」
よし、といたずらっぽく笑ったエレンさんが、マリーちゃんに手をさしだします。
えっ、お手手つないじゃっていいの? わたしが、エレンさんと?
マリーちゃんはドキドキして、そのばに固まってしまいます。
エレンさんは、どこからきたのか。男のひとなのか、女のひとなのか。ほんとはいったい何才なのか……
なぞばっかりのひとでもあります。
でも、だからこそ、マリーちゃんたちにはみりょくてきなのです。
まほうのくにからきた、おうじさまなんじゃないかしら? マリーちゃんのおともだちは、そんなふうに言っています。
それはともかく、かたまっていてもはじまりません。
ええい、ままよ! さし出された手に手をかさねると、一気にしんぞうがはねあがります。
それでも、せいいっぱいレディらしく、マリーちゃんはエレンさんのエスコートをうけて、しずしずあるいていくのでした。
* * *
アトリエのうら口から外に出ると、そこにはちょっとした木立がひろがっていました。
しずかで、空気のきれいなばしょです。
わあ、すてきなばしょね。それにだあれもいない。
まるでわたし、王子さまとかけおちしてくみたい!
マリーちゃんの胸は、ますます高鳴ります。
いけないわ、ミューはたいへんなめにあっているかもしれないのに。
でも、エレンさんはわらってた。
ミューはもしかして、ほかのこねことあそんでいるだけなのかも。
とにかく、いってたしかめなくちゃ!
はたして、たどりついたさき。
こもれびのさしこむ、ちいさな広場のすみっこに、ミューはいました。
町でうわさの、つばさの生えたこねこもいっしょです。
そのこねこは、ミューにミィミィなにかいいつつ、へたっぴに、でもけんめいに、毛づくろいをしてあげておりました。
エレンさんは、にっこり笑ってマリーちゃんの手をひきます。
マリーちゃんはこっくりうなずき、ふたりはそっと、アトリエにもどっていくのでした。
* * *
「さいしょはね、用意しておいた『げんき草』の減りがやけにはやいな、と思ったんだよ。
どうやらあの子が外に持ちだしてるようだから、あとをつけてみたんだ。
そうしたらおどろいた、二匹のこねこが、ちいさな広場をぐるぐる、ぐるぐる走ってるんだもの。
すくにぴんときたよ。二匹は体力トレーニングをしてるんだってね」
そうしてアトリエにもどってくると、エレンさんはそういいました。
ととったお顔には、またしても、いたずらっぽい笑みが浮かんでいます。
「きっとミューちゃんは、そらをとべるようになりたいんだね。
だから、がんばってきたえているんだよ。
さてさて、どうしたものかなぁ?」
そして、やんちゃな少年のように瞳をきらきらさせながら、かんがえごとをはじめます。
マリーちゃんはおじゃましては悪いとおもい、お礼をいって、アトリエを出ました。
おうちへのかえりみち、思い出すのは、さっきのミューたちのようすです。
かわいかったなあ。それにとってもなかよし。
わたしも、エレンさんと、なかよくなりたいなあ。
そうよ、あの子にミューがおせわになっているのだし、お礼にクッキーでもやいて、もっていこう。おかあさんにおしえてもらって、ひとりでもやけるようになって!
マリーちゃんはぱっと顔をかがやかせ、はしりだしました。
そうしておうちにとびこむなり、お母さんにいっしょうけんめいおねがいして、こちらはこちらで、モウクンレンの日々がはじまるのでした。