おともだちになろうとしたら……
ミューがその子をみつけたのは、まちはずれの木立のなかでした。
こもれびをうけてたたずむその子は、まるでやっぱり、てんしです。
なんて、きれいなこなんだろう。
ぼーっとみてると、その子はくるっとふりむきます。
やわらかそうな毛を逆立てて、フー!
みどりの瞳もはげしく光り、すごいけんまくでおこってきます。
「そこのちびねこ、なに、じーっとみてるんだよ!
けんかうりにきたのか、ちびっこのくせに!」
ミューは、どうしていいかわかりません
(というか、早口すぎてなにをいってるのか聞きとれません)。
でも、なにかせつめいをしなくちゃ、いけないようです。
だってここにきたのは、けんかをするためじゃないのです。
けれど、ミューはちいさなこねこです。
あたまのなかでつっかえたいろんなことを、じゅんばんに外に出すしかありません。
こわいけど、なきそうだけど、つっかえつっかえ、ことばにします。
「あの、ね、その、ね、すてき、、なの」
「え?」
これは予想外だったのでしょう、その子はぽかーんとしてしまいます。
「だから、ね、そのね、ぷれ、ぜ、んと……ききたい、の……」
「……うん、ちょっとおちつこうにゃ。
なかないで、そこにすわって、なにがあったのか『さいしょっから』話そうにゃ?」
どうやら、その子はもう怒ってないみたいです。
ほっとしたミューは、おまねきいただいたちいさなひだまりのなかで、いっしょうけんめいに話しました。
じぶんは、ミューという名前で、よそでうまれたこねこであること。
ごしゅじんさまのマリーちゃんにもらわれて、この町にひっこしてきたこと。
そのとちゅうに、その子をみて、おはなししたいとおもったこと。
せんぱいこねこたちにそれを言ったら、おめかししてプレゼントをもっていくといいと言われたこと。
でもその子がなにをすきなのか、だれもわからなかったので、ききにきたのだ、ということ。
ぜんぶ聞きおえるとその子は、ころげまわって笑いました。
「みゃははは! みゃははは!
キミみたいな子、はじめてだにゃ!
あのね。おめかしもプレゼントも、“ふぁーすと・いんぷれっしょん”をよくするためなんだにゃ!」
「“ふぁーすと・いんぷれっしょん”……?」
きいたことのないことばです。ミューはくびをかしげます。
するとその子は、いっしゅんがっくりと肩をおとして、それでもちゃんとせつめいしてくれました。
「…… えっと、だからね。
ボクがキミをみたしゅんかんに、キャーイケメンステキけっこんしてー!! っておもっちゃうように、おしゃれしてプレゼントもってけ、って、あのこたちはいったのにゃ。
だってのに自分でききにきたらだいなしにゃん。
あーもーサイコー。“まじうける”のにゃー!」
その子が口にすることばは、きっと町のことばなのでしょう。まだ小さい、農場うまれのミューにはよくわかりません。
だから、ミューはいちばんだいじそうなところをきいてみます。
「ええっと、……それって、おもしろいってこと?」
「そうそう!
おもしろくって、たのしくて、ちょーわらっちゃうってことなのニャ!」
「よかった!
よくわかんないけど、きみがたのしくなってくれて!」
「………………」
うれしくなったミューがぴょんっととびはねると、その子はまたしてもぽかーんとしてしまいます。
でも、なんかいやではなさそうです。ミューはきいてみることにしました。
「えっと、おなまえと、すきなぷれぜんと、おしえて?」
「名前は、…… ないしょ。
すきなプレゼントは、こねこかな」
その子は、ちょっといじわるくこたえました。
でも、ミューにはつうじません。
「そっかあ。
それじゃあないしょちゃん、ぼくをあげる!
ぼくもこねこだし、いいでしょ。おともだちになろう!」
“ないしょちゃん”はまたしてもぽかん。
そして、いいました。
「ま……まずは、弟子からだ、ニャ!
はねも生えてないこねこがおともだちなんて、ひゃくねん早いのだニャ!
ボクのことはきょーから“ししょー”とよぶニャ!
へんじは『サー、イエッサー!』いってみるニャ!」
「……さーいえっさー?」
「ぎもんけいでいわない! もういちど!」
その日から、おにぐんそう“ないしょちゃん”のもとでの、ミューの“モウクンレン”がはじまったのでした。