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よくないうわさ

 くろねこリーシャの言ったことをわかるには、ちょっぴり助けがひつようでした。

 だって、ミューはまだ二ヶ月半のこねこです。

 ミューがききかえすと、リーシャはきんいろの瞳をまたたかせ、しんせつにせつめいしてくれました。


「ええっと、それって……?」

「あ、ごめんごめん。

 あのね、このまちにはたしかに、そういう子はいるよ。

 れんきんじゅつしのエレンさんのとこの子。

 こないだ、エレンさんとこにきて……なまえは、ぼくもしらないや」

「れんきんじゅつしの、エレンさんとこの……」


 これはおぼえなくっちゃいけないことでしょう。

 ミューはしんちょうに“ふくしょう”します。

 でも、リーシャは言います。


「でもね、あの子、いじわるなんだ」

「そうそう。いつもつんつんして、いやなことばっかいってさ」

「………………」


 リーシャだけではありません。ハッジもそういいます。

 あんなきれいな、かわいいこが、いじわるだなんて!

 しんじられなくて、ミューはだまってしまいます。


「それで、めんどうになるととんでにげちゃうから、もうだれもあいつとはあそばないんだ」

「あの子のほうも、わたしたちとあそぼうとはしないしね……」

「………………」


 いつもやさしいティティまでも、あの子にはちょっと冷たいかんじです。

 ミューはなんだか、かなしくなってしまいました。

 かわいらしいおひげもおみみも、しょぼんと下をむいています。

 それを見て、せんぱいこねこたちははっとくちをつぐみました。


「ご、ごめん、もしかしてなかよしだった?」

「ううん、ちがうの。

 ぼく、あの子をおひっこしのとちゅうでみかけたの。

 それで、おはなししたいなって、おもったの……」


 いつものげんきはどこへやら、うつむいてそういうミューのようすに、みんなはなにかを感じとったようです。

 すりすり、ぺろぺろ。なぐさめてやさしく、あやまってくれます。


「そうだったんだ。わるかったね、ミュー」

「なんか、ごめんね。わるくち、きかせちゃって」

「ボクもゴメン。ちょっと、いいすぎちゃったかも」


 くろねこのリーシャも、みけねこのティティも、ハチワレのハッジも、みんな、やっぱりやさしいせんぱいたちです。

 ミューはうれしくなって、だいじょぶだよ、ぷるぷるとくびをふりました。

 せんぱいこねこたちを代表して、リーシャが口をひらきます。


「ぼくたちとあの子はそんなかんじで、なかがよくはないのだけれど……

 もしかしてミューなら、なかよくなれるかもしれないね。

 いちど、会っておいでよ。

 ミュー、エレンさんちはしってる?」

「えっと、あのかわったえんとつのある、おうちだよね?」

「そうそう!

 知ってるならよかった。

 いや、知らなかったらおしえてあげるつもりだったけど……

 ぼくたちがいっしょにいくと、ミューまでわるくおもわれちゃうかもって思って、さ」


 くろねこリーシャ、もはやこねことは思えない気のまわしようです。

 このぶんだと、こねこ集会をそつぎょうするのも、もうじきでしょうか。

 そんなリーシャのすがたにティティはほほえみ、声をはずませます。


「さあ、そうときまったらおめかしね!

 もちろん、プレゼントもきめなくちゃ!」

「あ、それじゃあボクのとっておきをあげる!」

「いやいや、ここはミューがじりきで“げっと”したものじゃなきゃ!」

「ぼくが、じりきで……」


 ミューはまだまだちいさいこねこなので、狩りをすることはできません。

 だから、もっていくならおいしいものじゃなくて、きれいなものでしょう。


 ミューの知ってる、きれいなものといえば……


 マリーちゃんの金の髪、そこにむすばれてる赤いリボン。

 これはだめです、マリーちゃんをあげちゃうなんてできないし、マリーちゃんのリボンはマリーちゃんのたからものなのです。


 自分のくびにむすんでもらった、このリボンはどうでしょう。

 マリーちゃんとおそろいの、赤いきれいなリボンです。

 でも、これは『自力で“げっと”した』といえるのでしょうか。


 あきちにさいているお花も、これはこれできれいです。

 でも……

 こねこの女の子は、お花をよろこぶでしょうか?


 ううん、ミューはくびをふります。

 もんだいは、そこじゃないや。

 あの子はよろこんでくれるのかな?


 あの子はなにが、うれしいだろう。

 あの子はなにが、すきなんだろう?


「ねえみんな。

 あのこがすきなもの、しらない?」


 にゃんにゃんみいみい。あーでもない、こーでもないといいあっていたこねこたちは、ミューのそんなしつもんに、ぴたっとくちをつぐみます。


「……そういえばしらないわ!」

「あんまり話したことも、ないからね……」

「うーん……どうしよう?」

「よし! それじゃあぼく、きいてくる!」

「ええええ?!」


 ミューはぴょん、とはねると、はしりだしました。

 ちいさなこねこならではの肝っ玉に、みんなはおどろきあきれます。

 だいじょうぶだろうか。しんぱいになりますが、みんながいっしょにいてはミューがわるく思われるかもしれません。

 しんちょうに、しんちょうに間をあけて、せんぱいこねこたちはミューのあとをおいかけました。

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