つばさのにゃんこ
「ほらミュー、見えてきたわ!
あれがクレールのまちよ!」
のりあい馬車のまどから顔をのぞかせ、マリーちゃんはかんせいをあげました。
きれいな金のかみと赤いリボンを、さわやかな初夏の風がなびかせます。
まばゆいおひさまのひかりをはじいて、ふわふわ、きらきら。
マリーちゃんの胸にだかれたミューの、ちっちゃなおひげもふわり、きらきら、なびきます。
ミューは茶白のこねこです。
マリーちゃんのしんせきのおうちで、この春うまれたおとこのこ。
きょうはごしゅじんさまのマリーちゃんと、マリーちゃんのおとうさんおかあさんといっしょに、あたらしいおうちにおひっこしです。
ほんとうは、もうちょっと早くに、おひっこしをするよていでしたが……
『パペルのみなとまち』からクレールの町に行くひとが、ことしはかなりおおかったため、ちょっと予定をずらしたのです。
「みて、たてものがいっぱいよ。
ほら、あのえんとつ。れんきんじゅつしのおうちのしるしよ!」
「……ミィ」
マリーちゃんははるかな景色をゆびさして、声をはずませています。
ですが、ちいさなこねこの目ではとおすぎて、残念ながら、よく見えません。
ちょっぴりこまってよそみした、そのとき!
みちばたにミューはふしぎなものをみました。
それは、背中からまっしろな、鳥のようなつばさをはやした、とてもかわいらしいこねこでした。
としごろは、ミューとおなじくらいでしょうか。
ふんわりした白の毛なみにうかぶ、やわらかなはいいろのしましまもよう。
きらきらとかがやく、エメラルド色のおおきな瞳。
シックな黒いリボンで首もとにむすばれた、大きめの金色のすず。
いいえ、そこまでは、ふつうのこねことおなじです
(というか、どっちかというとかわいくておしゃれです)。
でも、ミューのおとうさんおかあさん、きょうだいたちにごきんじょさん。
だれにも、つばさなんて生えていませんでした。
なんてふしぎな、きれいな子だろう。
もしかして、てんしさまかな?
でも、あたまのうえに、わっかはないし。……
おもわずぼうっとみていると、その子と目があいました。
ふかいふかい、エメラルド色のひとみは、まるで生きた宝石みたい。
ミューはそのまま、すいこまれそうなここちになります。
でも、その子はぷいっ、とそっぽをむいてしまいました。
白にちかい灰じまの、ちっちゃなあしがぴょん、と地面をければ、背中のつばさはばさりとひるがえり、その子はそのまま、どこへともなく飛びさっていきました。
さいごにみえたその子のしっぽは、まあるくてまるでポンポンみたい。
さわってみたいなあ、とミューは思いました。
と、どうじに、なんだかさみしそうな子だったなとも、思いました。
このあたりの子なのかなぁ。
もし、またあえたら、こんどはおはなしできるといいなぁ。
そんなふうに考えていると、なんだか眠くなってきて……
ミューはマリーちゃんのうでの中、なんどめかのおひるねをはじめていたのでした。
* * *
あたらしいおうちにひっこして三日。
げんきいっぱいのミューは、すっかり町のねこたちみんなとおともだちになっていました。
でも、そのなかにあの子はいません。
おもいきって、いつものこねこ集会できいてみることにしました。
こねこ集会はさんかじゆう。
『あきちにひだまりができたら、なんとなくかいさい』の、のんびりとしたあつまりです。
メンバーのなかで一番のおにいさんは、しっかりもののくろいこねこ、リーシャ。
つぎにおねえさんなのは、かわいいものがだいすきな、みけもようのティティ。
ちっちゃなハチワレのハッジは、ミューと一週間ちがい。でもくいしんぼうなせいか、ミューよりけっこうおおきくみえます。
そして、いちばん“しんいり”の茶白ねこが、ミューです。
こねこ集会のメンバーは、いまのところこれでぜんぶ。
ついこのあいだ、リーシャのおねえさんたちが、こねこ集会を卒業してしまったし……
もっと小さな子たちは、小さすぎてまだおもてに出してもらえないから、一時的にですが、メンバーがすくなかったのです。
ともあれ、ミューはやさしいせんぱい三人とすりすりくんくん、さいごにお鼻でちゅっ、といつものごあいさつをすると、さっそくきりだしました。
「ねえねえみんな。このまちに、つばさのはえた子っている?
しろっぽい灰じまで、目がみどりで、しっぽはまるくてポンポンみたいで……」
すると、みんなはだまりこみました。
やがて、こねこたちのなかでいちばんおおきな、くろねこのリーシャがいいました。
「あいつにはかかわんないほうがいいよ」
え?