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南へ 5

※注意※

このお話には人を殺すシーンが入っています。気分が悪いと思われる方は飛ばしてください。

15.(※注意 人を殺すシーンがあります)

 

 

「すげえなぁ……お前、バケモンか?」

 

 素晴らしいほどの体躯を誇った男が、そんな言葉を口にする。まったく見事なほどに肥え太った男――これが、この連中のトップらしい。いや、実際にそうなのだろう。

 そいつの周りには、どうやら術士なのだろう連中が固まって、こちらに杖を突き出している。

 だがしかし、である。

 答えてやる義理も、やられてやる筋合いもない。

 悪いな――と心の中だけで返事をし、そしてひとつひとつ、連中の希望を潰していく。

 

 まずひとり、杖を折ってやった。次に、腕を折ってやった。次は喉を潰してやった。

 

 そうして残ったクソ野郎ひとり。

 

「なっ!? あ、お、おいっ!」

 

 必死に叫んでいる肥え太った男に、けれど情をかけてやる余地なしだ。なにせ、こいつは――『俺のコマを、俺の玩具を――』と叫んでいたのだから。

 それに、だ。

 こいつはどうやら自分を見て、奴隷にでもしようと思っていたんだろう。手には人間を思い通りにするための『奴隷の首輪』を持っていたのだから。これを付けられて呪文を投げられたら、一時的でも自分の意思を失っていただろう。

 そして、その後は本格的な呪術を掛けて――奴隷になった人間に意思はなくなる。そして、好き勝手に使われ、死ぬまでこき使われるのがこの世界の奴隷制度。

 

 普通の犯罪奴隷であったならば意思が削がれる可能性はなく、また任期が開けた途端、奴隷の首輪を取られて自由になれる。

 けれど、一般の人間たちが奴隷にされるときに用いられるそれは、犯罪奴隷のものとは大違いの悪質なもので、その首輪は一生涯取れることが叶わない。もちろん任期などないのだから、一生、奴隷で終わるのだ。

 

 この男は、たぶん自分をそうやって好き勝手に使うつもりだったのだろう。よく、そんなことを考えられたものだと思う。自身よりも力が上の人間を奴隷に墜とすなど、できるはずもないのに。

 

 肥え太った腹に一撃、ケリを入れれば、面白いほどに飛んでいく男を追いかけて、今度は刀剣で腹に傷をつけてやった。

 残念だな……出るのは血なんだ。脂肪が飛び出してくるのかなって、少しだけ漫画みたいなことを思ってしまった自分を哂った。

 

「ぎゃああああああああっ、ま、待て待て! 待ってくれ!」

「待たない」

 

 即答したけれど、たぶん男には届いてないと思われる。しかし、気にするつもりもない。

 ジャンプしながら盗賊のトップであろう男の目の前で着地すると、刀剣を首に密着させた。

 

「待ってくれ、頼む!! 死にたくないっ。何でもやる。ほら、コレもやるから!! 全部くれてやるから! だから殺さないでくれっ。何でも言うことを聞くしっ!!!」

「そう言って、何人の人間たちがお前たちに頭を下げた?」

「頼むっ!!」

 

 こちらの話など聞いてない男は、必死な形相で言葉を――いや、汚らしい音を吐き出していた。

 もしかしたら、言葉が通じてないのかもしれないな。そんなことを思いながら、躊躇うこともなく刀剣を男の首へと滑らせていった。

 

 断末魔は――なかった。

 ただ静かに、ゴロリと墜ちていく首を見ながら、終わったと思っただけだった。

 

 

 もしかしたら、本当に自分は最初から壊れているのかもしれない。心も何もかも。

 でも、とも思う。

 最初のころに感じた焦燥感やら悲しみやら辛さは、間違いなく今も心の中に存在しているのだ。

 

 ゲームの中だと今も思っているのか?

 残念ながら、この体に付けられた傷の痛みが生きているのだと、ここにいるのだと証明してくれている。

 

 では、なぜなのか――。

 

 

 やめよう。

 こう思うことこそ、壊れていくための儀式なのだから。

 

 やめよう。

 自分は生きて、生まれ育った世界に戻るのだから。

 

 でも、戻っても自分を保っていられるのか?

 

 バカだな――こことあっちでは、全然違うだろう?

 

 

 

 

 終わったなって思っていると、どこからかまだ人の気配を感じた。

 たぶんだが、さっきの盗賊たちが根城にしていた場所からだろう。

 けれど、弱々しいそれに、盗賊のような悪意は感じ取れなかった。

 

 そっと隠れながら移動してみれば、そこには汚れてボロボロになっている女性たちがいた。

 首元には――奴隷の証はない。

 

 ボロボロの布を入り口に張っただけの洞窟――それが盗賊たちの根城だったのだろう。

 

 ひとりふたり、女性たちが見える。

 こちらもぼろ布をまとっただけの女性たち。

 

 奥には――たぶんだけど、四人。ということは、六人程度か。

 助けるか否か。

 

 奥の連中にも奴隷の証がないようなら、連れていける――どこかの町までは。

 けれど、面倒を見ることは不可能だろう。

 

 とはいえ、ここに放置すれば後味が悪いなと考えて、自分が『あぁ、まだ壊れてないや』と思えるキッカケになった。

 そっか――自分は悪党を人間として数えてないだけなのだ、と。

 

 では、さてさて、どうしますか。

 と考えてから、一度キョウのところへ戻ることにした。格好だけは偽っていくつもりだけど、彼女たちをこのまま放置するわけにもいかないだろう。かといって、自分たちと一緒に旅をするのには――たぶん、心が崩壊してしまう。

 

 

 

「ということで、山の麓辺りを根城にしてた盗賊はサクッと討伐完了!」

「……カナさん、ホント、軽いよ」

「けど、どうしよっか?」

「女性、たちのこと?」

「うん、このまま放置もできないしさ」

「それは、うん。放置はできないけど……大丈夫なのかな?」

「うーん、どうかなぁ。生きていけるかどうかは、本人たちの意思次第だろうけど」

 

 そんなことを話しながら、一緒に女性たちのいるだろう場所に移動。お互いに変装アバタで、本来の姿から遠いものを選んでいる。

 さて、どうやって接触を図るか――そんなことは考えてもいない。というよりも、行き当たりばったりでいいじゃないかって思ってたりもする。キョウも概ねそれでいいと言って手伝ってくれることになったし、食事も彼女たちのことを考えてすぐさま量を増やしてくれたほどだ。

 

 珍しくアイテムを使って歩く速度を早めた。というか、走る速度だろうか? かなりの距離なのに、ほんの数分で到着した気がする。

 そして洞窟付近まで歩を進めると――女性たちが、なにやらコソコソと外に出始めていたのである。その格好たるや、純情キョウが顔どころか耳も首も全身を真っ赤にさせるほどのものであり、とーっても情操教育には良くなさそうなものだな、と思った。 

 そりゃそうか――ボロ布をまとってるだけで、足も胸元も隠れているようで隠れてないんだもんな。

 

 けれど、そんなことに構っている余裕もないだろう。なにせ、彼女たちは人権を著しく侵害されてきた者たちなのだから。

 すぐさま、気配を感じ取らせるよう、大きな音を立てて洞窟に近づいていく。それに反応して女性たちが身を固くしたのが分かったが、気にしてやる必要もないだろう。

 そして――。

 

「あんたら、ここで何してんの?」

 

 大きな声で、しかも敵意を感じさせないように話しかけてみた。すると、女性たちが悲鳴を上げながら洞窟へと走り込んでいく――のだが、ひとりだけ気丈に振る舞っているのか、その場に留まっている女性がいた。

 

「あ、あの……」

「あ、良かった。言葉が通じるみたいだな! なんか、ひどい格好だけど、流行りとかじゃなさそうだし、この辺の先住民的な人たち?」

 

 向こうが話しかけてくるのを遮って、まるでオチャラケているかのように声をかければ、相手の女性は少しだけ目を見開いたあと自身の格好に気づいたのだろう、必死に両手で胸元と腰元を隠そうとしていた。

 

「違うんだな。ってことは、服がねえの?」

 

 その問いかけにコクコクと大きく頷いている女性に、そっかと返事をしてからアイテムバッグを取り出した。

 でもって、取り出したのは以前にクランメンバーから作ってもらった布である。大きな大きな布一枚。これはアバタ衣装のひとつで、装備も付与も何もない布である。それを数枚取り出すと、彼女の方へ放り投げてやった。

 

「とりあえず、身を隠すためにどうぞ。服じゃないのが申し訳ないけど、体に巻き付けるといいよ」

 

 そうやって言えば、女性は慌てて布を体に巻きつけていく。それもすごく器用に――まるで、どっかの衣装のように。そして奥に逃げてしまった女性たちにも布を渡すように言えば、少しだけ困ったように頷いていた。その際に『武器も持ってきな――怖いだろうから』って言えば、驚いたように顔を強張らせてみせる。

 

「当然だろう? いきなり知らない人間が来て、しかも今までのことを考えたら、また虐げられるって思うのは女性として当たり前の気持ちだ」

「武器は――ないです」

「は? ないわけ」

「ココにはないんです……どこかに隠してるとは思いますが」

 

 そう言われて納得した。そりゃそうだ。女性たちを逃さないようにしてるってのに、武器とか置いとけば自害されかねないもんな。

 

「分かった。とりあえず、布を巻いたら出てきてくれ。でなければ、仲間で押し入るから――いい?」

 

 そう問いかければ、女性はコクリと大きく頷いてみせた。

 これなら、たぶん大丈夫だろう。そう思ってキョウを見れば、やっぱりまだ沸騰中のようだった――早く復活してくんないと、飯、食えないんだけどなぁ……そんなことを思いながらキョウの後頭部を適度な力を込めて殴ってやった。

 

 

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