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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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94 懐かしい味

「リアム・・・。私もう一つ食べたいわ」


「冷たいものを食べ過ぎるとお腹壊しますよ?」


「そうなの?・・・でも食べたいの!! だってこんな美味しいお菓子食べたの初めてなんだもん!!」


 すでにストロベリー、バニラ、ストロベリーというトリプルアイスを食べたミリアがお代わりを強請る。


「こらミリア。その辺でやめておきなさい? ・・・でもミリアが強請るのもわかるわ〜」


「ええそうね。このお菓子はこの時期にぴったり、更に上品な口当たりと甘さがまたたまらないわ」


「ふむ、このミント味は疲れた頭をスゥーっと晴らしてくれるな。気に入った」


「・・・これは僕も虜になりそうだ」


 そして他の公爵一行も、こちらはトリプル三種を口にし、各々舌鼓を打っていた。女性にはやはりバニラやクリームチーズを混ぜてあるストロベリーが、日頃特に忙しい男性陣からはミントが評判であった。


「それにこのアイスクリームとやらが保温されている容器は先日、君がブラド商会から提出した魔法箱だな?」


「これは素晴らしい・・・というかこれは流通に革命を起こす一品では?」


「そうだな・・・。申請書類に目を通した限り、物が凍らない程度から凍るまで温度を自由に調節でき、かつ魔力のみならず魔石による蓄積駆動にも対応している。・・・憎らしいほど見事な一品だ」


 現在の流通にも凍らせて品を運ぶ・・・という概念は一部存在しているようだが、そもそも氷魔法の担い手がそう多くはない上、定期的な魔法の使用が必要、品によってはその調節も難しいため、冷蔵・冷凍輸送は手段として非常にコストのかかるものらしい。


「まあ、ブラームス様が憎らしいほどと仰るなんて。・・・リアムさん、是非帰るまでに一つこの箱を融通してくれないかしら?」


「えっ・・・?」


 突如、自分に一つこの魔法箱を売って欲しいと申し出たシータに、僕は上手く言葉を返す事ができない。


「あら・・・、もしかしてエレアへのお土産?」


「そうよ・・・リアムさん、実は私にもあなたと同じ齢の子がいるのだけれど・・・ほら、さっきブラームス様が仰ってたエレアよ」


 するとマリアからの質問を肯定したシータが、その理由について説明を始める。


「元々優しくて大人しい子だったのだけれど、最近は更に大人しくなっちゃって・・・、なんと言うか図書館にこもってばっかりなのよ」


 図書館にこもってばかり・・・。勉強嫌いよりはよっぽどいいことであろうが、確かに親としてそれは心配なところであろう。


「だから、これはあなたと同じ歳の子が作ったのよ〜・・・って娘に渡せば、いい刺激になるんじゃないかと思って」


「・・・でも、果たしてそれで外に出てくれるようになるでしょうか・・・」


「・・・確かに、それだと余計引きこもってしまうかもしれないけど・・・。試して少しマイナスに動いてしまっても、それは何もしないでゼロがゼロのままなのとあまり変わらないわ」


「・・・なるほど」


 僕はシータの話を聞いて少し考え込む。そして──


「では、シータ様がお帰りになるまで僕の方でも少し考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?・・・約束はできませんが、もちろん魔法箱の方は別でお土産としてご用意いたします。どうでしょう?」


 それは僕からの自主的な提案。なぜこのようなことを申し出たかというと理由は単純。前世では外での自由が制限されていた僕が、今を通してより外でしか得られない経験の大切さを、十二分に噛み締めているから。図書館の中に大抵を見出しているという彼女に、少しだけ、体験が齎す感情の変化を知ってもらいたいと思ったから。


「まあ、リアムさんはミリアちゃんの家庭教師様ですもの。願ってもない申し出ですわ」


 するとそれを聞いたシータも、喜んでそれを許してくれた。


「私は今日から3日間公爵城に滞在する予定です。また明後日の午前の十時にここを発つこととなっていますので、どうぞよろしくお願いいたしますね」


「はい、ではお帰りの1時間前、午前の九時までには城に顔を出します。公爵様もそれでよろしいでしょうか?」


「うむ、よかろう。門番には伝えておくからそうしなさい。それに──」


「リアム、そのあとはみっちり夜まで私に付き合いなさい。今日みたいにそそくさと帰ったら許さないから」


「わが・・・我が愛しの娘の要望だ。それはもう断腸の想い、今ここで貴様を解雇クビにしたいが、止む終えん」


「あなた? こんなに素晴らしいリアムくんを私に断りもなく解雇にしたら、実家に帰らせていただきますよ?」


「そ、そんなバカな・・・」


「ホント、如何しようも無い親父だ。早く隠居して土いじりにでも勤しめば良い」


「パトリック、お前まで私をそんなないがしろにせんでも・・・」


 そして何故か ──


「こうなったらリアム! ミリアを幸せにせんと許さんからなーッ!」


「・・・あらあら、あの人ったら。リアムくん、これからもミリアと仲良くしてあげてくださいね」


「大丈夫よお母様。ちゃんと私がリアムの面倒を見てあげるから」


「ではまた明後日に──」


 叫びながら次のブースへと向かうブラームスを皮切りに、嵐のように一行が去っていく。


「リアムくん、父はああ言っているがあれで君のことをそれなりに考えている」


 すると一人、僕の前に出てきて小声で話しかけてくるものがいた。


「実際、商品に関わる特許申請を出せば、一定の力を持つ家にはある程度情報が入る。貴族が経営する商家もあるし、君みたいな平民の子供を取り込もうとする家も今夜のことでおそらく動き出す・・・そしてハワードのことも・・・」


 そして最後の言葉は理解することができなかったが、全体的に何処か意味深な言葉を残すと──


「兎に角、我々の訪問も終わったし、この後は自由に会場を歩き楽しみなさい。きっと、良い牽制になったはずだ」


「・・・ありがとうございます。パトリック様」


「ああ、ノーフォーク中から様々な商品が集まっている。楽しめよ」


「はい」


 先行く公爵一行の後を彼は早足で追いかけ去っていく。確かに、かなり(傍点)強引な手段ではあったが、公爵家にわざわざ手を出すようなことをする者もこの場にはいないだろう。それは一種の反逆に相当する行為であり、王弟のブラームスに手を出そうものなら国家反逆の罪も免れないのだから。


「・・・ということでピッグさん、エクレアさん。僕は少し、会場の中を見て回ってきても良いですか?」


 ましてや今日、王族であるシータと繋がりを持ったことでそれがより強固な確信へと変わったことを悟り、僕は会場の中を回りたいとピッグたちに告げる。


「・・・是非行ってらしてください、若」


「・・・気をつけてね」


 だが未だ、過ぎ去った嵐に放心状態の二人。


「・・・ではいってきますね」


 僕はそんな二人に申し訳ない気持ちになるが、そそくさとこの場を去る。きっと僕がいては、皆畏まってテーゼ商会の商品を見にこれないであろうから。


 僕がブースを離れたのち、テーゼ商会のブースが騒がしさに包まれる。その半分は公爵家が絶賛したアイスクリームを求める者、もう半分ほどが僕のことやアイスクリームの取り扱い、またはテーゼ商会とのパイプを作ろうとする者たちの声であった。


『エクレアさんたち・・・対処できるかな・・・』


 ふと、その騒がしさに僕は後ろ髪引かれ戻ってしまいそうになるが ──


『はぁ〜、だからそれじゃあダメだっでば』


 それが本末転倒であることを再確認した僕は一人、パーティー会場の中を歩いて回る。


 ・

 ・

 ・


「鈴屋?・・・それにこの匂いはもしかして・・・」


 それはこの社交的なこの場において一切人が寄り付いていないホールの角にあった。


「醤油? ・・・それにこっちは味噌に干物・・・海苔や鰹節まで!!」


「ん? 僕ちゃん・・・その歳でこれを知ってるとは中々通だねぇ!」


 西洋風のホールに並ぶ日本食材の数々。それを僕が手に取り騒いでいると、ブースの内側から声が掛かる。


「こんばんは!私は鈴屋のアオイってんだ! 鈴屋ウチは東のルートからアウストラリアに商品を仕入れる貿易商で、一部商品は現地で培った技術を生かして生産・加工して商売している店さ!」


 その粋が良い女性はカリナ姉さんより少し上といった年頃で、黒髪黒目の日本人らしい顔立ちをしていた。


「東? ・・・それってまさか小さな島国とか・・・?」


「確かに倭国からも仕入れてるよ? それに華国なんからもね」


「あの・・・それじゃあもしかしてアオイお姉さんは倭国の出身ですか?」


「オイオイ、お姉さんは照れるから良しとくれ!・・・そうだな、アオイで良いよ!・・・私は一応この国の出身。ただ母親が倭国の出身なんだ」


 どうやらこの世界にも日本と同じような国があったらしい。まさかこんなんところで懐かしの文化に再会できるとは。


「僕はリアムって言います。自己紹介が遅れてすいません」


「知ってるよ・・・さっきあんなに目立っていたからね」


「ははは・・・やっぱり目立ってましたか」


 自己紹介を済ませ、僕は早速色々と質問を始める。


 ・

 ・

 ・


「でな、最近港町の方から内部に向け進出してこのノーフォークに拠点を置いたんだけど・・・現状は見ての通り閑古鳥が鳴くほどすっからかん。まだまだ受け入れがたい品が多いらしくてね・・・」


 僕は出された緑茶を口に少しずつ含みながら話を聞く。久しぶりの緑茶からは緑の香りがスゥーっと香り、少し暑い夏の夜を涼ませてくれた。


 アオイの話から、鈴屋の情報をある程度纏める。鈴屋は最近ここノーフォークに拠点を構え、主に和物を販売している店。他領の港町にある本店では食事処もやっており、今日は献上品としてそれを模した料理を、見本としてこの並べられた食品を持参した。しかし状況はやはり厳しく、目新しい商品は客の好奇心を誘うものの、繊細な和食には好奇心を購買欲に変化させる起爆剤が少し足りていないようだ。舌の肥えた一部の貴族にはようやく受け入れられ始めたが、大衆はまだまだ。アオイの目標は賑わう本店に負けないほどに、この支店を成長させることらしい。


「あの・・・それじゃあもしかして個人である程度買い込んでも迷惑になりませんか?」


「 ・・・そりゃあ普通だったらお断りだけど・・・なんだい? そんなにウチの商品が欲しいのかい?」


「はい! それはもう買い占めたいほどに!!」


「ははは! そりゃあありがたいね!・・・そうだ、なんだったら今日持ってきた見本、展示品で悪いけど良かったら持って帰るかい?」


「良いんですか!?」


「ああ、良いよ」


 本当にアオイは気前がいいというか男前というか。その気質からは江戸っ子のようなそれを感じる。


「・・・すいません。本当なら僕も交換して出せるものがあれば良いんですけど・・・」


「気にする必要はないさ。・・・リアムの考案した商品は大人気だし、そもそも私もさっき試食させてもらったよ・・・あれは本当にいいものだった・・・」


 すると、恍惚とした表情で何やら思い出している様子のアオイ。やはり彼女も女性。甘いデザートには目が無いようである。


「だったら、今度お店にお邪魔すると思うので、その時にでも差し入れますよ」


「本当かい!?」


「ええ、今日のお礼で」


「それは嬉しいね! 是非楽しみにさせてもらうよ!」


 それからも僕は彼女と和食談義を交わし、鈴屋への来店を約束して場を後にする。その頃にはもうパーティーも終盤で、他の店を回る時間はなかったが、これはどう考えても一番の収穫。僕は亜空間に仕舞った食品達を思い出しながら、ホクホク顔でテーゼ商会のブースへと戻るのであった。


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