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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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86 シャーベット

「材料と器具は・・・うん、あれ以外は一通りある」


 僕はテーブルに並べられた材料と道具を見て確認する。


「あら〜リアムちゃん、まだ何か足りない?」


 厨房に入り、リゲスの奥さんかつこの店のパティシエであるエクレアが僕に話しかける。因みにエクレアの印象はほんわかおっとりした優しいお姉さんのような感じで、とてもリゲスの奥さんとは思えないが、想像の中で二人を並べてみればこの人以外にリゲスのお嫁さんはあり得ないような不思議なパラドックスに襲われる。

 

「エクレアさん・・・実はこのデザート、冷やして作るものなんですが、よくよく考えてみると冷やすための装置がなくて・・・」


 僕は駄目元でエクレアに相談する。ここは焼き菓子屋であるが仮にも厨房。もしかしたら自分の知らない食べ物を冷やすためのものがあるかもしれないと思ったからだ。


「冷やす? うーん・・・今は夏だしそれは無理ね〜・・・」


 しかし、やはりそのような装置はなかったようだ。


「・・・そうですね、わかりました。では、何かこのくらいの大きさの金属でできた箱は無いでしょうか・・・」


 そこで僕は、エクレアに金属製の長方形の金型がないか尋ねる。


「それなら使ってないやつがあるわね〜・・・待っててねー・・・」


 すると、どうやらエクレアにも心当たりがあったようで・・・。


「これね〜・・・。うちはもうパドックを作ってないから何個かあるけど、何に使うのかしら?」


 それは大きな長方形の金型。辺は縦が30cm、横が40cm、高さが20cmといったところだ。


「パドック?」


 僕はそのエクレアの言葉の中にあった、よく理解らない単語に注目する。


「パドックは昔から流行っている馬を競わせて楽しむ娯楽に勤しんでいた貴族たちの間で食べられていたお菓子で、その時の茶会に持ち行ったお菓子を力の象徴のために大きくしていったのが起源。そして私たち菓子職人はこのパドックを綺麗に焼き上げることができて一人前で〜、私も昔はこれを作っては火の調整法を学んで勉強していたのよ〜」


 すると、エクレアが僕の疑問に答えてくれる。確かにこの大きさだと生焼けしたり焦がしたり何かと大変そうだ。


「そうなんですね・・・。ではこれらをリサイクルして別のものにしてしまっても大丈夫ですか?」


「ええ・・・。念の為に一つだけ残してもらえば、あとは大丈夫ですよ〜」


「ありがとうございます・・・では、カスタマイズ」


 エクレアに改造の許可を得た僕はカスタマイズを唱えてスキルのUIを呼び出す。


「魔石を吸収する魔力タンクに、氷魔法を応用して威力調整で温度を調整。大体10度からマイナス18℃以下にできる様陣をなぞって供給魔力を絞れる回路を付け加える。ついでに内部まで均等に冷気が伝わるように時短モードも・・・。あっ! 冬場を想定して少し大きな箱を重ねるようにして隙間に薄い空間の壁が発動するように・・・」


 そして、次々と冷蔵庫を模して同じような働きができるよう設定していき、それを魔法陣に適用する。


「・・・できた」


 僕はそれを立体版上のUIに表示された魔法陣に魔力を流して型取り、それを固定して剥がし、金型に凹凸として刻み込む。

 因みに魔力を使ってこうして魔法陣を貼り付けるのはとても難しく、多少、物によってはかなりムラができて線が消えてしまったり太くなってしまったりすることがあるのだが、僕のオリジナルスキルであるカスタマイズを介して貼り付けを行うと、そのへんの調整も勝手にやってくれて綺麗にムラなく貼り付けることができる。


「・・・すごいわねリアムちゃん。アイナさんから話には聞いていたけど・・・いいえ、話に聞いてた以上にすごい・・・」


 そしてそれを横で見ていたエクレアは、ただただ感嘆の声を漏らしていた。


「では、早速これを使って試作品を・・・といきたいのですが何せこのデザート、できるまでにそこそこ時間がかかってしまうんですよねー・・・」


「そうなの?」


 僕の呟きに不安そうに首を傾けるエクレア。そこで今回はアイスクリームの代わりにあるお菓子を代用して作ることを提案する。


「はい。・・・ですので、ピッグさんをそんなにお待たせするわけにもいかないですし、今日はそのアイスクリームに似たシャーベットという果実を使ったデザートで代用したいと思います。・・・アイスクリームは後日、エクレアさんが都合の良い時にお訪ねしますので、その時にでも」


 それは同じ氷菓子のシャーベット。滑らかなアイスを作るにはじっくり凍らせながらかき混ぜたりとその工程に結構手間をかけないといけないため時間がかかるのだが、シャーベットなら一気に果汁やピューレなどを凍らせて細かく砕くだけ。更にメレンゲなどを加えて耐熱性をあげれば、今回は上々であろう。どうせならちゃんとしたものを提供したいし、氷と塩を使った時短法を使っては余計に塩を使ってしまうため、今回は避ける。


「ピッグさん、こちら試作ですがいかがでしょうか?」


 僕は闇魔法で果汁を絞り、氷魔法で一気に凍らせて砕いたミカンとレモンの柑橘系を2種、リンゴでできたものを一つの3種類を試作し、ピッグや母さんたちに振る舞う。


「これは美味しい。冷やされた果実の甘い風味と酸味が口に入ると同時に溶け出し広がる。さらに滑らかな中にもシャリッとした食感が混ざり暑さ増す今日この頃には最適な代物ですな・・・」


「今回はピッグさんのお時間の都合も考えまして、アイスクリームと類似点が多いシャーベットと呼ばれるこのデザートを作りましたが、当日はこれの他にクリーミーなミルク風味のものなど更に滑らかさをました上品な一品をご用意できるかと思いますので、完成品ができましたら再度お試しください」


「ははッ!・・・それは重畳ですな」


 そしてピッグは試作品に満足し、承認も得られた・・・と思ったが ──


「・・・ですが申し訳ない。一つ気になる点がございまして・・・私はこの味で丁度よく感じるのですが、何せ今度は公爵様をはじめとする貴族様もいらっしゃいます。もう少し味が甘ければ私のお気持ちといいますか、熱を見せれるといいますか・・・」


 どうやら材料をふんだんに使った濃い味のデザート。そう言えば、さっきエクレアが話してくれたパドックにしろ、前世で読んだ昔の貴族社会が描かれた本では、そんなわかりやすく不合理な方法で権威を示すような話があった気がする。しかし──


「その点は大丈夫だと思いますよ? ・・・ピッグさん。あなたは今までにこのように冷たい食べ物を食べたことがありますか?」


「・・・お恥ずかしながら、ありませんな」


 僕の質問に難しそうな顔をするピッグ。


「でしょうとも・・・実はこのアイス。冷たいこともさることながら、性質は氷そのもの。常温では溶けてしまい、適切な保温しなければ保存がきかない食べ物なのです」


「んな!それでは・・・」


「大丈夫です。僕がこのアイスを保温するためのケースを作ります。それにあまり目立たれては目の上のたんこぶ、ベテランで先輩の商家の方達の立場も考えなければなりません」


 ピッグの不安要素を取り除くべく、口を動かす。


「・・・ですが魔法陣に込める魔力、または吸収させる魔石の経費をご負担いただく必要があります。・・・更に味ごとに一纏めで会場にお持ちいただき、現地で盛り付けさせていただけるとこちらとしても助かるのですが・・・」


 これはあくまでもエクレアとリゲスのお店から出すもの。であれば僕が魔力まで不用意に提供すれば、後に自力での同価格の販売は困難になる。


「そうですな・・・。では、同行が許されている人員の枠が一人余っておりますのでどなたか一人、私とご同行いただけないでしょうか・・・」


 話を聞いて、誰か一人にパーティーまでついてきてほしいと願うピッグ。


「そうね〜・・・。できれば私もついていきたいけど、ここは考案者のリアムちゃんかデザートを作るエクレアちゃんが妥当よね〜・・・」


 ピッグの提案に、首を傾げるリゲス。


「本当はリアムちゃんがいいんだろうけど、盛り付けをしなくちゃいけないのなら大人の方がし易いし、困ったわね〜・・・」

 

 すると、隣でそれを聞いていたエクレアもどうしたものかと首を傾げる。


「・・・あの、だったら僕は別で公爵様にパーティーに招待してもらえるよう頼んでみましょうか」


「「「えっ?」」」


 唐突に、僕からでた提案に、僕とブラームスの繋がりを知らないリゲス、エクレア、ピッグが同様の驚きを見せる。


「実は僕、昨日公爵様の長女であらせられるミリア様の家庭教師を仰せつかりまして・・・もし僕が考案したデザートのお披露目に立会いたいとでも言えばもしくは・・・」


 どうせ雇われとしてではあるが、折角繋がりを持ったのだ。というか、僕がブラームスと協力関係にある一方、あっちは貴族という身分違いも身分違いの天の原の住人。もし僕が新しい商品の開発に携わり、それを献上しなかったとなれば後が怖い・・・。


「・・・ッ!これは失礼した!まさか公爵家と繋がりのある坊ちゃまとはいざ知らず・・・」


 するとそれを聞いたピッグが急に畏まり、頭を下げる。しかしどうせなら、この成りでミリアの家庭教師などもっと他のツッコミどころもあった気がするが・・・──


「あら、リアムちゃんったらそんな凄いことをやってたの?」


「いえ、さっきも言った通り昨日決まったばかりの案件でして、約束はできませんがそれならそれで考案者として先に顔見せもできますし、万事オーケーかと思って・・・だからピッグさんもそんなに畏まらないでください」


「それは恩情をかけていただきこちらとしては誠にありがたいことですが・・・」


 無理そうならミリアに一曲、餌にしてでも勝ち取ってみるか。

 ピッグはその後僕の提案を吟味し、色々と考えていたが、もうほとんどその考えは決まっていることだろう。


「・・・あの、リゲスさん」


「あら、何かしらリアムちゃん?」


 今も一人、対応を考えているピッグの答えにある程度の検討をつけた僕は、リゲスに先ほどの続きの話を持ちかける。


「実はですね、僕には他にいくつもの新しい料理やデザートのレシピが知の書のおかげでありまして・・・」


 こそこそと小さな声で態とらしく間をためて ──


「けどその先は、リゲスさんが引き受けてくれたら少しずつ教えていこうかと」


 二人の内緒話を始める。


「やだ〜もうこの焦らし上手!いいわリアムちゃん、私ますますあなたが気に入っちゃった❤︎」


 それを聞いたリゲスは、両手を頬に当てて少しぶりっ子してみせると、そのまま僕に向かってウィンクをする。


『ハハハ・・・。つい悪ふざけで演じてみたけど、今度からは止めよう』


 そんなリゲスと付き合っていく上でまた一つ、大切な教訓を得た僕はついに、次の成長に向けて下準備を終わらせここでの件は一件落着・・・と思っていたのだが ──


「おいしいわね〜、バルサ?」


「キュルル〜ッ♪」


 この焼き菓子屋では店内でも食事を楽しめるカフェの一面も持っている。精霊の食事は魔力や魔石であり、人間が口にするものは精霊によって好き嫌いして食べるのだが、どうやらバルサに甘いデザートは別腹の様だ。


「父さん・・・ここは僕が払うよ・・・。元々の原因は僕だし、昨日正式に大金が入ったばかりだから」


「子供が妙な気を遣ってるんじゃねぇ・・・。もし仮に俺の持ち金で足りなくても、皿洗いでもして払ってみせるさ」


 僕の提案に、肩に手を置きながら必要ないと首を振る父さん。それにしても、もし仮に皿洗いをすることになると、一体どのくらいの期間がかかるのだろうか。


 子供がそれを心配することは本当に野暮なのかもしれないが、やはり原因を作った責任あるものとして、僕は右往左往する・・・すると──


「リュー?」


 父さんの足元近くから、聞き慣れた可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。


「モ・・・モグリ? なんでお前が出てきてるんだ?」


 その声の主は、父さんの契約精霊である土精霊のモグリであった。


「リューリュ?」


 呼び出してもいないのに出現している自分の精霊。父さんはそんなモグリを見つけるとたじろいで一歩引く。 


 これは僕が昔、精霊と契約できない原因を追求していた頃、教会の司祭であるアストルさんに聞いたことであるのだが、精霊は世界の狭間に存在するという精霊界、世界樹の聖域で生まれそこに住んでいるらしい。そして、精霊は契約という形で人に更なる力をもたらし、その契約の親和性が高まることでアースへの干渉力が強くなり、勝手にこちらの世界に具現化することができる様になるそうだ。


 モグリは、ジッと母さんたちの独占するケーキを見詰めていた。


「お、おいモグリ・・・。まさかお前まで・・・、それはないよな?」


 ダラダラと汗をかきつつも、にこやかな顔でモグリの行動を探る父さん。しかしそれはもはや、予見できた未来だったのだろう。なんだかんだで、父さんとモグリの付き合いは長いのだから。


「リュリュ〜♪」


 嬉しそうな鳴き声をあげ、真っ先に母さんたちの方へと向かっていくモグリ。


「この裏切り者〜・・・ッ!」


 父さんは、そんなケーキまっしぐらなモグリに膝をつき、藁にもすがる様に震える手を差し伸べるが・・・。その手がモグリ、ましてや母さんやバルサに届くことはなかった。


 それにしてもモグリは一体どうやってケーキの匂いを嗅ぎつけたのだろうか。また一つ、精霊について疑問が増えた。


『そういえばあれから、アストルさんに会ってないな』


 僕はふと、教会司祭であるアストルのことを思い出す。僕が2回目の精霊契約に失敗してからというもの、彼とは一度も会っていない。


『お礼もまだしてないし、お詫びも兼ねてお菓子を差し入れにでも行こうかな・・・大量に』


 この街の教会には孤児院も併設しており司祭であるアストルはそこの院長もしている。それこそ今回試作したアイスを作って土産にするのも悪くない・・・そう思った、賑やかなカフェでの一幕であった。



▽ ▽ ▽ ▽


「母さん・・・昨日言ったことだけど・・・」


「なあに、リアム?」


 午後、夏という季節のおかげで日差しがピークに達し徐々に弱まり始めた頃、僕と母さんは活気ある露店並ぶ路地を一緒に歩いていた。・・・因みに、父さんはリゲスのところで皿洗いである。


「僕の婚約の話・・・。母さんは怒ってる?」


「そうね・・・。怒ってるわ・・・」


 僕の質問に怒っていると答える母さん、しかし ──


「でもね・・・同時に懐かしくなったわ・・・」


「・・・懐かしく?」 


 目尻を下げながらも、懐かしそうに昔に思いを馳せる母さん。


「実はね・・・父さんと母さんの結婚は周り、特に父さんの実家から良く思われていなかったの・・・」


 そして、そんな僕が初めて聞く話を母さんが語る。


「えっ・・・でも・・・」


 僕はその信じられない話に、驚きを隠せない。だって、父さんと母さんはそんな様子を微塵たりとも感じさせないほど、日常で幸せな家庭を築いていると自覚しているからだ。


「でも、私たちはそれを踏まえた上でお互いに好きだった。それで反対する彼の家に縛られないため、ウィルと一緒にこの街に来たの」


 すると、母さんの下がっていた目尻は元に戻り、その細まった目からは先ほどまで見て取れた哀情が消えていた。


「けどこれ以上は秘密・・・。あなたがもう少し大きくなったら、父さんと母さんの口から話すことがある。・・・だからその時までリアムも待っていてね・・・」


 そして、母さんは僕に微笑みかけると ──


「だから母さんは許します・・・リアム」


 僕の頭を撫でて、全てを許してくれた。


「今度、先方に一緒に挨拶にいきましょ? 今日リアムが作ってくれたシャーベットはかなり美味しかったし、お土産にでもして・・・私にも、作り方を教えてね!」


 そんな話の途中で、嬉しそうにデザートに走る母さん。・・・それは、今日までに見た事のない母さんの一面であった。


「うん!・・・良かったら他にもラインナップがあるし、もしよかったら別の料理のレシピもたくさん記憶にあるから、今度一緒に作ろう?」


 僕はついでに、母さんに料理の手伝いを進言する。母さんの作る料理も好きだが、ブラームスとの契約の確認・アイスクリームの件もあるし、そろそろ料理レパートリーの充実を図っていっても良い頃であろう。


「まあ嬉しい♪」


 そんな僕の提案に手を合わせて賛成してくれる母さん。しかし ──


「ただ・・・次の手紙でもいいから、ちゃんとカリナには伝えるのよ?」


 なるべく穏やかに・・・と付け加えて、母さんは一種の警告をする。


「あ・・・」


 僕はその警告で気づいた難題に ──


「ふふふッ、頑張ってね」


 からかうように笑う母さんの表情に頭を抱えつつも、変わらないその優しさに密かに浸るのであった。

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