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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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82 揺れる心、少女の思い ──

「君に、エリシアとの婚約を結んでもらいたい」


 簡単に略せば、目の前に座る男は今・・・そういったのだろうか。


「・・・今のは、僕の聞き間違いですか? ・・・間違いでなければ今、 エリシアと婚約して欲しいと聞こえたような気がするのですが・・・」


 僕は急すぎる現実を、受け止めることができていなかった。


「間違いでも、ましてや冗談などではない。・・・急ではあるが、これからその理由について話をするのであしからず・・・だ」


 そんな僕の疑問をヴィンセントは肯定しながら、話を続けようとする。


「君に話した魔族の種族癖・・・。それが私たち一族には、求血期と呼ばれる形で現れる」


 ・・・吸血期?・・・求血期。


「要は自らの罪源を縛ることのできる血を求め、満たさなければならぬ欲が体調の変化としてに現れる時期。それが一定周期で訪れ、その間に自分と相性の悪い血の匂いを嗅ぐだけで目眩を起こしたり、思考能力が低下したりもする」


 僕は今の説明で点と点を線でつなげかける。・・・魔族の種族癖、・・・罪源の衝動、・・・ブラッドフォード家の求血期とその症状。しかし一点だけ、なぜそこから僕とエリシアの婚約までに話が飛躍するのか分からない・・・。


「そしてそれを解消するには自分と相性の良き者の血を、吸血行為によって体内に納めなければならない。・・・私は、エリシアに君の血を提供してもらいたいのだよ」


「それは・・・これまでの流れでなんとなくわかったんですけど・・・。それからどうして、僕とエリシアが婚約することに・・・」


「・・・これは大事な契約事項だ。包み隠さず話そう・・・」


 また一つ、大切なことを確かめるように視線を下ろすヴィンセント。


「私たち吸血種の血を引くものは、その求血期が訪れ一度吸血行為を行うと同時に魔力契約を行う」


「・・・それは一体」


 僕は生唾を飲む・・・。


「それは血の盟約。・・・我々は種族癖を満たすために吸血の際に特殊な魔力を纏い、提供者の魔力と血を混ぜ合わせて自分の体内に宿す」


 ヴィンセントは目の前に置かれたミルクピッチャーを手に取ると ──


「そして宿した提供者の血は我々の欲を縛ると同時に、魔力も縛る」


 紅茶の入ったカップにミルクを注ぐ。


「契約は血の提供者がこの世から旅立つ時まで続くもの。盟約により提供者が生き続ける限り、我々はその提供者の血でしか種族癖を満たすことができなくなり、また、提供者がいなくなった後は直ぐに新たな提供者を探す必要がある」


 そしてそれをスプーンでかき混ぜると


「魔族は生物界においては長命。平均でその寿命は500年ほどであるが、我が父は既に900を超えているらしくな・・・。故に今でも新たな出会いを求めて放浪している」


 一口、カップに口をつけて一息つく。


「エリシアは人とのクォーターであるから、常識に照らし合わせればその寿命はおそらく150〜200歳ほど。緩和された血のおかげで一度でも魔力契約を結びそれを成就した暁には善の神に認められ、もう種族癖に振り回されることもなくなる」


 私の齢の離れた兄が一人、そうであるとそこに付け加えるヴィンセント。そして ──


「魔装もそうだ。・・・魔装は通常、純粋な魔族であれば生まれつき発現が可能なもの。しかし我々混血種は種族癖により魔族の血が強く呼び起こされなければそれを自覚するきっかけには至らない」


 煩わしいだろ? と自身の種族について憂いを見せる。確かに、それだけ聞くと魔族混血は純粋な魔族種の劣化版に思える。


「しかしデメリットばかりではない。・・・例えば魔族はその特性上、魔と対をなす精霊魔法に弱いのだが、我々人種の血が混ざった者はその限りではない・・・」


 どうやらデメリットばかりではないらしい。


「・・・まあ話を戻すとつまり、私たちの吸血行為とは己の欲を抑えるものであると同時に、儀式でもあるのだよ」


「でも・・・、それじゃあエリシアは望むこともないその相手と半生添い遂げることに・・・」


 僕はその話に、思わず顔を歪めてしまう・・・が ──


「そんなに複雑そうな顔をしないでくれ・・・先ほども言ったが、我々の種族癖で顕になる罪源の類は高慢、そして色欲。高慢は君も目にしたかもしれないが、しかし色欲はまた毛色が違う・・・。我々に現れる罪源の色欲は常に纏わりつき、求血期とそれ以外で多少の増減が見られるものの、その性質はいたって静か。表立って悪さをすることはないが、それは私たちにある感情をもたらす・・・」 


 ヴィンセントは僕のその感情を見透かして


「・・・その感情とは恋。自分と相性の良い血を持つものを第六感で嗅ぎ分け、やがて惹かれていく」


 感慨にふけるように再びカップに口をつける。


「エリシアにはその自覚症状があったのかどうかは分からぬが、家で君の話をする娘の姿はまさにそれであった。・・・恋は人を盲目にする。もしかすると君の前で時折、頬を染めてはおかしな行動や態度をとったりしたことがあるのではないかな?」


「・・・自意識過剰でなければ」


 ・・・これは決して自意識過剰ではない。かなり控えめに、万が一にものレベルまで可能性を引き下げた結果であるが、そのような思いあたる節が過去に確かにいくつかあった。


 僕は顔を赤くする。間接的、かつ想像に基づく見解ではあるものの、そんな甘酸っぱい話をされるのは初めてだった。しかし


「でも・・・。もし仮にエリシアが僕に惹かれていたとして、それは本当に好意を抱いていることになるんでしょうか・・・。その、それは結局魔族という種族の本能的な野生に支配された状態と変わらないのでは・・・」


 僕は再び、その恋と呼ばれた感情に疑問を持つ・・・。


「私も同じ種族癖に苦しめられ、今の妻と巡り合った。・・・しかしそれを喜びこそすれど、後悔は一切ない・・・」


 するとヴィンセントは自身の身の上と馴れ初めを語る。


「故に私は恋とはもっと根幹的な部分で生まれる感情、動物的なものであり、直感的なものであると信じているよ」


 そして力強く目を据えると、じっと僕の顔をみる。


「・・・わかりました」


 僕はヴィンセントの態度に一度考えをまとめるため、視線を外すと ──


「しかしそれはあくまでもエリシアの気持ちを確かめた後、僕とエリシアのわだかまりが解け、エリシアはもちろん、僕の周りからも許しを得られた後のお話にしてください」


 彼の顔を再び見据え、一度確認の断りを入れる。そもそもこれはあくまでヴィンセントの創造に伴った話。それに ──


「よかろう・・・。それが筋というもの」


 父さんや母さんに話もせずに勝手に決めるなど、言語道断だ。


 ・

 ・

 ・


「お嬢様、扉を開けますぞ・・・」


 ブラットフォード家の執事であるバットが断りを入れると、その中に入る僕に深々と頭を下げて見送り、扉を閉める。


「・・・じい、お願いだから今は一人にして・・・」


 部屋に入ると、一人枕に顔を埋め、執事のバットに一人にしてと吐くエリシア。


「え・・・、エリシア・・・」


 僕はそんなエリシアの名前を呼び、自分がここに居ることを知らせる。


「・・・ッ!」


 すると、枕に顔を埋めていたエリシアが飛び起きる・・・が ──


「・・・いえ、リアムがここにいるはずはない。・・・これは夢ね」


 僕がそこにいることを夢だと思ったのか、再び枕に顔を埋める。


「・・・夢じゃあないんだけど」


 そんなエリシアに僕は再び、自分が居ることを伝えるべく呟く。


「・・・・・・」


 束の間の沈黙・・・


「・・・ッ!リアムッ!?」


 そして一瞬、静かな沈黙が流れたかと思うと、再びエリシアがその顔を上げると、ハッとした驚愕の顔を浮かべて僕の名を叫ぶ。


「そ、その・・・。どうかな・・・具合の方は・・・」


 そんな彼女に、僕はとりあえず話のタネとしてエリシアの具合を尋ねる。しかし ──


「・・・大丈夫」


 エリシアが一言、そう答えると会話が途切れてしまった。


「ヴィンセントさんと話をしてて、思い出したよ・・・。昔、エリシアと出会った日のこと」


 そこで僕はまた会話を再開するため、話題の転換を試みる・・・。すると


「・・・父さんに全部聞いたのね。・・・それに、覚えててくれたんだ・・・」


 ベットの上で膝を抱え座るエリシア。そして ──


「・・・怖かったから」


 ポツンと溢れた彼女の気持ち・・・。


「まさかあの時、リアムたちと仲良くなれるとは思ってもみなかったし、それに・・・」


 エリシアの言うあの時とは、おそらく僕の言った実力テストの結果発表の日。廊下に結果が張り出されたボードの前で、彼女が僕たちに話しかけてきた時の話であろう・・・。そして ──


「リアムは私と似ていたから、唯一違った魔族の血・・・。これを伝えて避けられるのが怖かったから」


「・・・似ていた?」


 顔を膝に埋めている・・・僕がエリシアと似ていると言う彼女に疑問を返す。


「リアムはさ・・・。精霊と契約ができなかったんでしょ?」


「まあ・・・、そうだけど・・・」


 僕はとりあえず話の流れから、曖昧な答えを返す。・・・精霊と契約ができなかったと言う質問から、決して嘘をついたわけでもはっきりしたわけでもないので、後に発覚したステータスの称号と説明の文面から僕が精霊王と何かしらの繋がりがありそうなことは伏せておく。


『・・・そう言えば浮気はダメ・・・だったんだっけ・・・ハハッ』


 僕はふと、その内容を思い出して内心複雑で苦笑いだ・・・。


「私もね・・・。この血筋の所為で精霊とは契約ができなかったの・・・」


 すると落ち込んだ声で、意外な告白を始めるエリシア。


「魔族にも魔精霊っていう堕天の性質を司る精霊がいるらしいんだけど、そもそも私は人の血が混じっているから彼らと契約はできないし・・・」


 これは順当に考えれば当たり前なことだった。確かに、大きな貴族家の一員として世襲制の精霊契約を持ち加護という形で恩恵を受けているアルフレッド、同じくそれに仕え加護を得ているフラジールたちの精霊を見たことはないが、エリシアの精霊もまた、僕は見たことがなかった。


「それを含めて魔族の血を引いてること、その特徴や性質の話をして、リアムたちがどう思うかって考えると話づらかった」


 魔族と言えばつい100年ほど前までこの国と戦争をしていた種族。それは話しづらいであろう。


「・・・でも」


 しかしエリシアはそこから、でも・・・と前置きを置くと ──


「・・・でもね、本当はそれだけじゃなかった・・・」


 更なる身の内を打ち明けるように言葉を紡ぐ。


「最初はそれでいいって思ってた・・・。昨日、リアムから怒られて、叱られて・・・。辛くて、悲しくて虚しくて・・・。そして・・・胸の奥がすごく痛かった・・・」


 声を震わせながら、身の内を打ち明けるエリシア。その震えは声のみにあらず、時折小刻みに、うずくまっている体もまた同様であった。


「勝手なことをしてみんなを危険にさらして・・・。でも・・・、リアムに私のことを言えなかったこと。それにリアムが私について知らないことがあって、そして・・・自業自得で我儘な私なんかを傷つけてしまったことを叫んでくれてなんか・・・、なんかッ!・・・辛いのと同時に嬉しかったの・・・」


 膝から顔を離して、歪んだ顔を必死に引きつらせながら笑顔を作ってみせる。そんなエリシアはいつもより強く、大人びてさえ見えた。


「リアム・・・。ちょっとごめんだけど・・・、隣に座ってくれる・・・?」


 いつもより大人びて見える彼女が、僕の顔をじっと見つめる。


「・・・うん」


 そんな彼女に誘われて、僕は子供一人分、僕たちにとっての人一人分を空けて彼女の隣に座る。そして ──


「リアム・・・。私は・・・ 」


 僕が隣に座るとエリシアは僕の名前を呼びながら目に浮かべた涙をその小さな手で拭い取り ──


「私は、リアムが好き・・です ── 」


 彼女は僕が何かを聞くよりも早く、吐息を漏らすように全ての心の内を告白する。


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