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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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81 訪問と面会

「まあなんだ・・・。僕たちはこうして無事和解したわけだが・・・」


 あれからフラジールも中に誘い、ソファに座るアルフレッドが少し照れながら話を切り出す。


「あいつのところにはもう行ったのか?」


 そして、彼女の淹れてくれた紅茶を手に態度は遠回しに、言葉は率直に僕に質問をしてくる。

 

「それがまだで・・・」


 僕は少し背中を丸くしながら答える。


「エリシアさん・・・、あの後かなり落ち込んでいて・・・。だからできれば早く行ってあげてください」


 お茶を淹れて、一緒にソファに座るフラジールが昨日のあの後のエリシアの状態を教えてくれた。


「けど、エリシアに連絡を取る手段がなくて・・・。できれば家を訪問してでも早く解決したいんだけど・・・」


 そして僕は二人に相談する。


「あいつの身内も貴族だからな。家は貴族街にあるし突然の訪問はあまり良くないということか・・・」


 アルフレッドが僕の話を吟味する。そうなのだ、今日はなし崩し的にこの二人に会えたが、普通平民がここに入るには貴族側からの招待が必要で、かつ突然家に訪問するのはよろしくない行為だ。


「だがまあ・・・、思い切って訪問してみたらどうだ?」


 すると一転、そんな身も蓋もないことを言い出すアルフレッド。


「でもそんなことをしてもし機嫌を損ねるようなことがあれば・・・」


「大丈夫だ。お前はなんのために公爵様の庇護下にいるのだ?」


 僕の悩みを一蹴するアルフレッド。


「それにお前は貴族じゃないからな。そんな形式すっ飛ばして常識知らずな平民に激怒するほど、あいつとお前の関係も悪くないだろ? なんなら、僕が家の門までついて行ってやる」


 そしてアルフレッドは胸を張り、自分に任せろと言って退ける。友とはなんと頼もしいものであろうか。


「エリシアさんのお宅なら私は一度お邪魔したことがあるので、場所は存じています。よければ私もついて案内しますよ?」


 更にフラジールも、案内がてらに一緒についてきてくれるらしい。


「・・・そうだね。なんか二人のおかげで大丈夫な気がしてきた・・・お願いするよ」


 そしてそんな頼もしい二人に、だんだん僕も乗り気になる。・・・こんなに簡単に流されるとは。


「では早速出かけよう。でなければ夕食どきに訪問することになる・・・それはまずい」


「そうですね・・・行きがけに私たちの屋敷の前も通りますから、軽くそこで身なりを整えましょう」


「そうだな・・・それがいい。ついでにうちの場所も覚えて今度遊びにこい。いつでもいいぞ?」


 話が決まってから、どんどん予定が組み立てられていく。・・・本当に頼もしい友人たちである。


「わかった。これから僕も色々考えてるし、時間ができた時になるけど是非遊びにいくよ」


 決戦前夜・・・ではないが、僕はそんな二人の優しさに甘えることにし、カップを手に紅茶を飲み干した。



▽ ▽ ▽ ▽


「全く・・・お前という奴は」


「せっかくお似合いでしたのに」


 揺られる馬車の中、不満を零す二人。


「よくよく考えてみると平民なんだし、こっちの身なりの方がいいよ」


 そんな二人に僕は愛想笑いをかけ、機嫌を取る。


 公爵様の城を後にし、エリシアの家に向かう道すがら僕はアルフレッドの家を訪問した。公爵様に借りている借家らしいがやはりアルフレッドの屋敷も大きく、立派なものだったのだが・・・僕はそこでアルフレッドのお下がりという服を何着か着せられ、そのうちの一つを選んで訪問しろと言われたのだ・・・。しかしその衣装はどれも貴族らしい布をふんだんに使った服や、装飾の凝ったものばかりで、鏡で姿を見たとき僕は身の程というものを知った。まさに衣装に着られているという表現が似つかわしく、完全に浮いて見えたからだ。


「手土産のお菓子を融通してもらっただけで、僕は十分感謝してるよ」


 僕はアルフレッドの家で融通してもらった菓子の箱を掲げる。


「しかしお前はやるといってるのに結局ポイントと交換してしまうし、もっと友を頼っても良いのだぞ?」


「でも値段は割引いてくれたじゃない・・・僕はそれだけで十分だよ」


 このお菓子の値段は大体銀貨1枚分。前世と比較すればその辺のスーパーで買えるぐらいの普通の焼き菓子であるが、こちらの世界では砂糖が高いおかげでそれほどまで値段が上がるというわけだ。

 僕はこのお菓子を1pt=1円、銀貨が大体1万円ほどの価値を持つものなので、換算して5000ptという半額の値段でアルフレッドから買い取った。因みにダンジョンポイントの交換はかなり簡単で、カード同士をかざすだけ。そして交換ポイント数の決定も簡単で、頭の中で数字を浮かべるだけ。なんでもフランから聞いた話によれば、ダンジョンポイントは個人の魔力に紐づけられた見えない何かを視覚化したもの・・・らしく、ギルドカードの元になっている魔道具はそのポイントの紐付けを管理し、こうしたやり取りを可能にする代物なのだとか。


「・・・ついたようだな」

「はい」


 そんなこんなで、一時の談笑を楽しんでいると馬車が停止した。


「ご用件は・・・」


「私はアルフレッド・ヴァン・スプリングフィールド。今日は訳あって我が友人、リアムの付き添いで来た。そちらのエリシア・ブラッドフォード嬢に面会したい。取り次いでくれ」


「了解しました。主人に確認させていただきますので、少々お待ちください」


 屋敷の門番に、堂々と名乗りをあげるアルフレッド。


「僕ができるのはここまでだ。あとはしっかりやってくるのだぞ」


「ありがとう。恩に着るよ」


 僕はアルフレッドに相槌を打ち、お礼を言う。


「主人の許可が取れましたので、どうぞ中へお入りください」


 すると、屋敷の中から出てきた門番が、許可が取れたことを伝えに戻る。


「今度また、みんなでお茶でもしましょう」


「それはいいな、早速招待状を作ろう」


「ははは、急かしすぎだよ二人とも・・・それじゃあ」


「・・・ああ、またな」


「頑張ってください」


 そして僕は2人に見送られながら、門兵に案内されて屋敷の中へと入っていく。


▼ ▼ ▼ ▼


「君がリアムくんか・・・」


 屋敷の扉をくぐると、一人の男が僕を迎え入れる。身なりは黒い髪に白い肌、そして血のように真っ赤な目の映える高身長の男だった。


「おっと失礼。私はこの屋敷の主人代理、ヴィンセント・ブラッドフォードである」


「リアムです。此度の突然の訪問、お受けいただき誠にありがとうございます。そして不躾ではありますが何分一介の平民の身、先の件を含めましても礼儀がなっていないこと、どうぞお許しください」


 僕は自己紹介とともにできる限り謙って許しを請う。


「許そう。・・・娘から君の話は聞いている。しかし何分昨日外から帰ってきた娘の様子がおかしいのだ・・・。もし何か原因を知っているのであれば、どうか少し私に時間をくれまいか・・・」


「もちろんです。・・・その前にこちら手土産です。シンプルな焼き菓子ですが、貴族の友人から勧めてもらった品です。是非お召し上がりください」


「これはかたじけない。では話がてら茶の供としてこちらをいただこう。・・・バット、茶の準備を」


「・・・はっ」


 そして土産を受け取ったヴィンセントは、執事らしき男にそれを渡すと、奥の応接室へと僕を通す。


 ・

 ・

 ・


「なるほどな・・・。ただならぬ様子であったが、遂にやってしまったわけか・・・」


 ヴィンセントは僕から聞いた話に目を瞑る。

 

「あの・・・。やってしまったというと・・・」


 僕は昨日のことを根掘り葉掘り包み隠さずヴィンセントに話した。


「ん? なんだ、娘は何も話していないのか?」


 僕の質問に、眉を上げて驚いた様子のヴィンセント。


「それは迷惑をかけたな・・・。であれば、娘に君の言葉は相当応えたであろう・・・」


 再び目をつぶって、感慨深そうにそう呟く。僕はその言葉に少し落胆してしまうが ──


「すまない。・・・なに、君を責めているわけではないのだ。むしろ君の怒りは正しい」


 それを取り繕うように、謝辞を入れ ──

 

「これから私が話すことは少々込み入ったもの・・・であるが娘の豹変、将来にも関わる重要なことでもある。聞いてもらえるか?」


 改まって話を聞いて欲しいと頭を下げる。


「頭を上げてください。もちろん聞きますから・・・」


 僕はそんな様子のヴィンセントに畏まりながら、頭を上げてもらう。


「かたじけない・・・」


 そしてヴィンセントはそう礼を言うと、自らの出自とエリシアについて語り始めた。


「私の父は魔族。それも高位魔族の吸血種に連なるものなのだよ」


 確かだいぶ昔、まだ僕がエリシアと出会った頃に一度だけ、自分は吸血種の血を引く一族だというようなことを言っていたような気がする。


「私は人と魔族のハーフ。そして我が妻もまた人であり、エリシアは魔族と人のクォーターとなるわけだが・・・」


 それからヴィンセントの口からもたらされる様々な家の事情・・・。


 ヴィンセントの父にして魔族であるエリシアの祖父は昔、戦乱の時代に勇者に惹かれパーティーに参加。魔国との和平の後は勇者とともに咎竜を屠り、その功績が認められて当時のこの国の王より名誉貴族として男爵位を賜った。

 好色家かつ放浪癖があるため現在は家に姿を見せることもなく放浪しているおり、その祖父の代わりにヴィンセントが代理として家をしきり、現在は魔道具などを取り扱う商売を担っていることなどを語る。


「・・・まったく困ったものだよ」


 そうしてため息をつくヴィンセントからは、どこか哀愁のようなものを感じられる。


「お疲れ様です」


「ん? ああ、ありがとう。・・・すまないな。余計なぐちを零した」


「いえ、僕でよければいつでも付き合いますよ」


「では次の機会にでも、頼むとしようかな・・・」


 僕の言葉に、ヴィンセントは顔を綻ばせる。


 時折、僕はダリウスの愚痴に付き合わされるため、もうそう言う忍耐力は多少ついていた。酔っ払いが横で仕事嫌だ〜・・・とか言って絡んでくるより、こちらの方が断然慎ましく、共感もできるものだ。僕の供は果汁を絞った100%ジュースであるが・・・


「それでは、我が家の成り立ちに軽く触れたところで・・・。ここからが本題であるが・・・」


 改まって、表情を元に戻したヴィンセントが口を開く。


「君は、魔族の種族癖については知っているかな?」


「・・・いいえ」


 魔族の種族癖。残念ながら僕はまだ他種族の特性や世俗を習っていないため、聞き覚えのないワードだ。


「魔族はその昔、邪神に崇めていた魔物が進化し、分類学的に言えば人と魔物の中間をなすような存在なのだよ」


 それを聞いたヴィンセントは、魔族の起源から丁寧にそれの説明を始めてくれる。


「それ故に、魔族の中に魔物の時の名残を大きく残しているものも結構いてね・・・」


 どうやら魔族という存在はエルフやドワーフを魔物寄りにした存在であるらしい。それら妖精種は神に仕える精霊と、人という種の中間に当たる存在であるという話はエルフであるマレーネにこそっと聞いたことがある。


「魔族に伝わる7つの罪源・・・高慢・貪欲・嫉妬・怒り・色欲・貪食・そして怠惰。それらを体現したものはやがて死を経て邪神様の元へと召され、更に高位の存在として昇華されるという古き伝承があり、一部の魔族には現在もこれらを利用してみせることで強さを得ようとするものもいる・・・このように」


 それは前世のカトリックに伝わる七つの罪源と酷似したものであった。そしてヴィンセントは一度席をたち、両の掌を天井に向けると ──


「これは魔装と呼ばれる高位魔族が持つ一種の武器。エリシアが出したという不完全な闇の鎌を、完全に具現化したものだ」


 その手には、一つの大きく立派な装飾が施された鎌を手にしていた。


「他にも私は体の一部を霧に変えることも可能だ」


 そうして鎌を霧散させ仕舞うと、ヴィンセントは再び席に着く。

 

「一方で、高位の魔族ともなるとそれが誘因的に引き起こされる現象が起きる。・・・それが魔族の種族癖。ある一定の欲を満たし続けなければ、それらの罪源に思考が支配される」


 どうやら種族癖とは、一種の魔族的な性質であるらしい。


「話を聞いた限りでも、エリシアを襲った変化はそれだ。私たちの種族癖は血にまつわるもの。そして怠惰以外の罪源、特に高慢と色欲が引き起こされる特徴がある」


 僕はそれを聞いて昨日のエリシアの様子を思い出す。・・・色欲については今一状況から判断がつかなかったが、暴走前はゴブリンに対して執拗なプライドを翳し、暴走してからは他の罪源が一気に解放されたような印象を受けた。


「気絶した後に魔力を含んだポーションを飲んだことが良かった。魔力は生命エネルギーの根幹をなす一つだからね・・・。濃くなった邪の魔力がそれで薄まったのだろう」


 ヴィンセントは昨日の応急処置を引き合いに、憂いを見せながらも礼を述べる。


「それじゃあエリシアは、その・・・欲?というものを満たすことができずに暴走してしまったと・・・?」


 僕は恐る恐るヴィンセントに尋ねる。


「そうだ・・・。しかし我が種族の場合それもがまた厄介・・・でね」


 項垂れるように、再び目を瞑り感慨に耽るヴィンセント。そして──


「君にこのような話をするのは大変心苦しい。同情を誘うようでね・・・。しかし、これから君に話すことは君の協力が必要になってくる。是非覚悟して聞いて欲しい」


 三度、今度は覚悟をしてまでと付け加えて僕に拝聴の同意を促してくる。


 ここまで念入りに前置きするとなると、相当大事な話なのだろう。僕はその念入りさに少し怖くなってしまうが、逃げようにも目元をハンカチで押さえている執事さんがしれっと出口を抑えている。


「・・・わかりました」


 僕は覚悟する。友であり、傷つけてしまったエリシアとの関係を修復するため。受け止めるため。念の為、速攻で使える魔法も用意はするが・・・


「そうか・・・、では ──」


 僕の返事を聞いたヴィンセントは、軽くジャケットを正し身なりを整えると姿勢を正し ──


「君に・・・、ヴィンセント・ブラックフォードとリンシア・ブラッドフォードが娘 エリシア・ブラッドフォードとの婚約を結んでもらいたい」


 そんな、とても現実的とは思えないありえない提案を、僕に告げるのであった。


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