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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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79 勇者の遺産

 久しぶりに再会したその楽器は、どこか懐かしくも鮮明な記憶を呼び起こす。


「そしてこの楽器の名前が ──ッ!」

「── ピアノだ」


 僕はそれを自慢げに紹介するミリアよりも早く、その楽器の名を言ってしまう。


「へっ?なんで知って・・・」


 開いた口が塞がらないミリア。


「あっ・・・えっとその、なんとなーくそんな感じがしたというかインスピレーションで口からこぼれたといいますか・・・」


 ・・・痛い。


「・・・この大きな形のどこにピの要素が」


 するとミリアはなぜかピの考察に入ってしまった。・・・確かに、僕もこの他の楽器に比べてがっしりした大きさのグランドピアノに、よくよく考察してみると半濁点の要素を見出せない。

 

「実は公爵様から楽器のことを聞いていたというか〜・・・」


 遅い。その言い訳を使うなら最初だろ!


「えっと・・・僕には知の書っていうエクストラスキルがあって、そのおかげで知っていただけというか・・・」


 ミリアに痛いところを突かれた僕は、かなり苦しい言い訳をする・・・が ──


「知の書? ねえ、それって最初から持ってたの? それとも後から?」


 どうやらミリアは知の書スキルについて多少の知識があったのか、僕の言い訳に食いついてくる。・・・というか、ここで心の中で懺悔しておくと、僕はまだ一度もこのスキルだけは使ったことがない。それにはいたたまれぬこのスキルの特殊な事情があって──


「最初から・・・だけどこのことはみんなには内緒にしてね・・・」

「それじゃあもしかしてリアムはアリスの司書? すごい!初めてあった!!」


 僕からそれを聞いたミリアは興奮する。


 Exスキル《知の書》は曰く付きのスキルであった。あれは僕が魔石暴走をさせてステータスがケイトに知られてしまった時のこと。僕はケイトにその時知の書について指摘され、前世の知識チートを隠蔽することに成功したのだが、その後改めてスキルの相談に行くと、とんでもないことが判った。


「私も知の書スキルは持ってるけど、それは後から・・・王都でね!」


 そう、このスキルは誰でも、ある行為をある場所で行えば誰でも後天的に入手できるらしく・・・。


「そうらしいね。だから僕のにはまだレベルが付いてないんだ・・・」


 先天的にスキルを所有していた僕の知の書にはレベルがつけられていない。


 もっと言えば、そのある場所とは王都に四つあるオブジェクトダンジョンの一つであり、アリスとはそのダンジョンの中にある建物と地区の略称、ある行為とは単純にそのダンジョンの中に入ることである。そしてレベルというのは、その所有者の持つ知識量を指すようで、そのダンジョンに入ったことのない僕の知の書のレベルは未だ判明していない。後から、昔王立学院に通っていたらしい父さんと母さんにも話を聞くと、どうやら二人ともそのスキルを所有しており、そのレベルは ”Ⅰ”であった。


 しかし先天的にスキルを持っている場合に問題が生じる理由はこれだけではない。それはミリアの言葉の中にもあった ” アリスの司書 ” と呼ばれる存在に起因する。


 アリスの司書とは先天的にこのスキルを所有する者に付けられる言葉。なんでもそのオブジェクトダンジョンの中には数え切れないほどの蔵書があり、それを収めている魔法的な建物があるのだとかで、その蔵書の出所が先ほどのブラームスとの会話にも出てきた世界樹の中にある、世界の記憶と理を保存するアーカイブの図書館から次元の狭間を通って漏れ出た知識を善の神がまとめたものとかなんとかで・・・。


 とにかく、このスキルを先天的に生まれた時から所有しているものは世界に未知の知識を得ることを許されたもの、次元から漏れ出た知識を保有するものとして、この世で誰も知らないことを知っていても可笑しくない学院からすれば喉から手が出るほど欲しい存在だそう・・・。アリスにはこの知の書のレベルによって閲覧制限があるらしく、学者たちはそのレベルを上げるために日々努力しているのだとか。


 因みに、なぜケイトがあんなにも落ち着いた対応をしていたかというと、どうやら彼女は僕と同じ、アリスの司書なのだそうだ。平民の出でそのアリスの司書であったケイトは中等部に上がると同時に王立学院に入学。先天的にあった魔法陣の知識をベースにいくつかの新しいオリジナル魔法陣を作り出した残した後、公爵様の誘いでスクールの教師となったそうで・・・その後は言わずもがな、マッドスカラーに転職したようだ。


「〜〜〜♪」


 ミリアが順番に鍵盤を叩き、部屋に音階が響く。


『うっ・・・弾きたい』


 その突き抜けるような魔が響く音とともに僕の体を走り抜ける。


「昔王都で開かれた社交界の片隅で背景音楽バックミュージックを演奏していた奏者たちに魅せられて、それからは父様と母様にお願いしてできる限り多くの楽器を集めてもらった・・・」


 そして指先で鍵盤を撫でながら、語り始めるミリア。


「勉強の代わりに楽器を買ってもらってはまた勉強して。それまでは弾き方を教えてくれる先生もいたし、両立もしてたんだけど・・・」


 そりゃあ勉強するにも何かモチベーションが必要だろう・・・彼女の場合特に。


「この楽器はあまりにも他の楽器とは違ったから・・・」


 確かに、バイオリンなんかは綺麗に弾けても2音の和音、それ以上は難しいし独奏してもメロディーが主体。複数の音を同時に駆使してバラエティ豊かな曲を表現するのは難しいが。


「だってこの楽器は一人でも多くの曲を奏でられる! 同時に色んな音を出して、複数人でしか弾けなかった曲も再現できる可能性があるんだもん!」


 最初のミリアの印象は無邪気な子供。・・・こういうのは変だが、この世界の子供にしては子供っぽいなとはじめ思ったものの、どうやらその内では結構しっかりとした考えを持って行動しているようだ。そして──


「もしかして・・・」


 ミリアが目を輝かせて ──


「この楽器・・・引けちゃったりする? 」


 そんな眩しい視線で、かなり都合の良いことを言ってくれる。


「えっと、多分弾けるかな・・・?」


 もしかしたらこれはいい材料になるかもしれない。そう思った僕は、ミリアの疑問に応えることにした。・・・決して弾きたかったからではない。


「ほんと!? じゃあ触るの許してあげるから弾いて!!」


 それを聞いたミリアは嬉しそうに飛び跳ねてピアノを指差す。・・・やはりまだ無邪気さが残っているようだ。


「・・・じゃあ失礼して」


 ミリアに許可を得た僕は、閉じていた屋根を開く。屋根を開いたときに少し中を拝見したが、細いピアノ線も張ってあったし、ハンマーとダンパーにもフェルトが使われているようだった。しかし少し気になったのが、ところどころに魔法陣が描かれていたこと。そのほとんどが闇力子を発生させるもののようで、性質は浮くと重くだった。


 椅子に座ってこの白黒の鍵盤を眺めていると、久しぶりなせいか少し酔いそうだった。前世と同じような配置で並んでいる鍵盤。僕はその中から基本の音、C4のドの音を鳴らす。


「ポーン・・・」


 すると部屋中に響き渡る少し重さを感じさせるドの音。まさにそれはピアノの音で、音感的にも違いはなかった。


「同じだ・・・」


 鍵盤を押した時の感覚、響いた音の伸びに手を離した時のレスポンス。僕はこの久しぶりの感覚に打ち震える。しかし──


「指が・・・」


 唯一違ったのは自分の指の長さ。これじゃあオクターブを届かせることは難しいし、せいぜいいいところドからソが限界である。


「でも・・・」


 僕は別に絶望したりはしない。指はそのうち体が成長すれば伸びるもの。成長後の長さや太さといった懸念もあるが、今も後からも、そんなことを気にしていては何も弾けない。それに ──


「この曲は・・・弾ける」


 左手はト長調基本のⅤ度の和音、右手は薬指をD5のレの音におく。


 そして ──


「〜〜〜♪」


 右手で軽やかにメロディーを弾きあげては左手を合わせ伴奏を奏でていく。


 曲名はそう、あの日彼女と奏でた思い出の一曲・・・『メヌエット』である。


『おっと・・・』


 その演奏はやはり色々と勝手が違った。久々の演奏、長さの違う指、柔軟性の不足などその理由は様々であるが、前世と違う感覚に戸惑いながらもミスタッチに気をつけて弾いていく。


「タラタッタッタ〜♪」


 そして最後までミスタッチもなく、無事に弾き終えた。


── ・・・


「ほへ〜・・・」

「はわぁ〜・・・」


 ミリアとフラジールが感嘆の声を上げる。


「今のはバッハって人が作曲したメヌエットの三番。こんな感じでいくつかのピアノの曲が記憶にあって・・・」


 そのこそばゆさを隠しながら、僕は辻褄を合わせていく。1度経験はしているが、やはりこの雰囲気にはまだ慣れない。


「もしミリアが勉強を再開してブラームス様の許しが出たら、時々一緒に弾かせてくれると嬉しいかな」


 本来の目的であるミリアの勉強再開を匂わせつつ、一緒にピアノを弾こうと誘う。・・・というか僕が弾きたい。


「うっ・・・それは・・・」


 一瞬、戸惑いを見せるミリア・・・しかし ──


「・・・わかった」


 そう、真っ直ぐ僕の目を見据えると ──


「約束だからね!!」


 僕に小指を差し出し、約束を求める。


「・・・ッ!・・・うんッ!」


 そのどこか懐かしい光景に、僕は年甲斐もなく子供のように頷くと、その小指に指を絡めた。

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