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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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71 救出作戦とその後

 エリシアを人質に取ったオークが、僕たちに前に出てこいてこいと指を上に手招く。


「リアム・・・あいつは皮膚が分厚いせいで初級程度の魔法じゃビクともしない・・・かといって中級以上の魔法を使えばエリシアちゃんを巻き込む」


 どうやらオークは魔法防御自体はそこまで高くないようだが、皮膚による防御が固いせいで初級魔法程度じゃ動じないらしい。そもそもオークは通常、中級者以上にレベルが指定されているC地区から出現する魔物である。


「俺が前に出て気を引くから、お前は同時に後ろにいるラナたちと逃げろ・・・」


 緊迫する空気の中、万策尽きたウォルターがせめて僕を逃がそうと囮を買って出る。しかしそんな絶望の中、僕は僕にできること 


 1.オークを怯ませることができる

 2.エリシアをオークの手の内から掠め取る

 3.エリシアを誰も犠牲にせずに救出


  ・・・の三つの条件を満たし現状打破できる方法を考えていた。


『ダメだ・・・、二は賭け、そして三に抵触するかもだけどこれしか思いつかない』


 これはシンプルかつ危険な一手だ。しかし経験の足りない今の僕にはこれしか思いつかなかった。


「ウォルター・・・今から僕が魔法を使うから、当たったら直ぐにエリシアを回収して・・・」


 僕はウォルターがオークたちに突っ込んでいってしまう前に、すぐ様新しい案を提案する。


「賭けだけど・・・乗ってくれる?」


 そう、それは賭けなのだ。もし僕が少しでも失敗すればエリシアを僕の手で殺してしまう可能性もあるし、ウォルターを無闇に突撃させてしまうかもしれない。しかし ──


 ・・・コクリ。


 僕のその賭けだという作戦に、ウォルターは首肯して応えてくれた。碌に内容も伝えられてもいないのに、彼は僕を信じて首肯してくれたのだ。


『・・・失敗、できない』


 僕はウォルターの許可を確認し、ホルダーから短杖を取り出す。


「エリシア・・・ゴメン!」


 先に傷つけてしまう事に謝罪を入れる。

 杖に手をかけて構えるまで数秒、僕は先に謝罪を入れて魔力を込め ──


『どうかその分厚い皮膚の絶縁性が高くありませんように・・・!』


 心の中でお祈りしながら魔法を放つ。

 

「ショックボルト!」


 オークが一瞬の戸惑いを見せた瞬間、術を唱えた僕の杖の先から走る白光の線。


「ブォ!・・ヴォ・・オ・・・」


 そして白線はバチバチとエリシアを捕えるオークへと直撃、オークが一瞬のたじろぎと同時に叫びをあげると、その後は痺れ硬直する体を伴い、小さな呻き声を上げていた。


「イテッ・・・よっしゃ! エリシアちゃん回収・・・気絶してるっぽいが無事だ!」


 どうやら少しエリシアの体に電気が残っていたらしく、彼女を受け止めた瞬間少しウォルターが呻きをあげたが、彼はオークがたじろぐと同時に、握力がなくなった手から解放され地面に落ちかけたエリシアを見事に回収した。ゴブリンメイジもオークの後ろに隠れてはいたが、回収しに来たウォルターへの反応が遅れた程の早業だ。

 ── ショックボルト。それは雷魔法の基本魔法 ”ボルト” を発展させたもので、主に込める魔力によって階位が上下する雷属性の初歩である。僕の場合、込める魔力調節を少しでもミスすると、人をしびれさせたり気絶させるだけではなく、電流を伴い丸焦げにしてしまうためにあまり使いたくない属性の魔法だ。


『ありがとう・・・アラン先生!』


 僕は内心でこの雷属性担当であるアランに感謝を述べる。彼は魔力コントロールがうまくいかない僕の魔法練習に根気よく寄り添い、威力特化の雷のみならず、彼のもう一つの担当属性である同様の火属性練習にも遅くまで付き合ってくれたのだ。


「リアム以外は直ぐに下がれ!・・・リアム、一発ドカンとやってやれ!」


 心の安堵と感謝も束の間、気絶したエリシアを抱えてダッシュで退避してくるウォルターが、僕に魔法ぶっぱの許可をくれる。その表情は、「まだやれるんだろ?」とでも見透かすような、挑発的なものだった。

 

「今度の雷は手加減なし・・・常識内で」


 魔法行使の許可を得た僕は、再び硬直するオークの方を見やると、短杖を構えて魔力を集中させる・・・そして ──


「サンダーボールッ!」


 今度は杖先で圧縮した雷の球を形成、帯電させた雷球を撃ち放つ。何故今度はショックボルトではないのかというと、先ほどのショックボルトは指向性を持たせるだけで精一杯でコントロールも難しく、帯電させた雷球を作り放つ方がよっぽど精神穏やかなのだ。

 速く、先ほどのショックボルト程ではないが確実に敵を捉えるべく放たれた雷球が敵を穿つ。


「ブォ・・・ブォ・・・」

「ゲギャ!?・・・ギャ・・ギャ・・・」


 雷球がその体に当たった瞬間、未だ痺れままならないオークは激しい断末魔をあげることもなく、静かに崩れ去った。そしてそばにいたゴブリンメイジにも、間接的に地面を通りその魔力壁を貫通して電流が伝わったようだ。


「んッ?」


 僕の足元から弱い静電気が走ったような、そんな気にするほどではない刺激が伝わってきた。どうやら放電された電気が地面を伝い、ここまで届いたようである・・・と言うことは ──


「ッ!大丈夫!?ウォルター!!?」


 ウォルターの指示で少し下がったところに待機していた他の皆はいざ知らず、僕のすぐ後ろで待機していたエリシアを抱えたウォルターが心配である。


「だい・・じょう、ぶだ・・・リアム」


 僕の呼びかけに、髪の毛を逆立てながら不自由そうに開く口でなんとか状況を伝えるウォルター。


・・・また失敗した。


 僕はまた、魔法で意図した範囲以外にも影響を与えてしまったことに無念が残る。今度はヒットした敵の中だけで帯電と放電をするように魔法を調整しなければ・・・違うか。


「とりあえずエリシアちゃんは様子がおかしかったし、気絶してもらったままセーフポイントまで戻ろう」


 すると痺れも取れてきたのか、流暢になってきた口調でウォルターがセーフポイントに戻ろうとする・・・もう三度目の正直だ。


「だったら僕が運ぶよ・・・レビテーション・・・位置固定」


 僕はウォルターに抱えられたエリシアを闇魔法で浮かび上がらせると、空間魔法で背中と背中が向き合うように僕を起点に少し離した位置で固定する。


「お前・・・一体どんだけ魔力あるんだ?」


 そんな僕の一連の動作を見て、疲れたような声色で呆れるウォルター。こういう反応にももう慣れてしまった・・・いや、慣れたらダメか。


「帰ったら話すよ・・・」


 僕はとりあえず離脱が先だというウォルターの言葉を尊重し、安全を確保した上でエリシアを背負い後に続く・・・もちろん素材の回収も忘れずに。



「着いた〜・・・ッ!」


 大きく背伸びをし、伸び伸びと到着宣言をするラナ。僕たちはようやく森を抜け、入口近くにあるセーフポイントへとたどり着いた。

 戦闘中、少し魔力が回復したラナは再び僕たちがセーフポイントにたどり着くまで魔力感知を発動して神経を擦り減らしていたのだから、そう背伸びしたくなるのは当然だろう。


 僕は背負っていたエリシアを下ろし、一先ず看護もできるフラジールに後を任せてラナと共に一息つく。


「ラナ!・・・さっき渡しそびれたけど魔力ポーション・・・どうぞ」


 先ほど魔力をギリギリまで使い、座り込んでしまったフラジールには魔力ポーションを渡したが、今回1番の働きをしたと言っても過言ではないラナにはまだそれを渡してはいなかった。僕は労いとお礼の気持ちを込め、魔力ポーションを手渡す。


「ありがと〜リアム〜」


 すると感極まったようにそれを受け取ったラナは


「スリスリ〜」


 僕に抱きつくと、頬を合わせてスリスリしてくる・・・しかし──


「ハッ!カリナの気配ッ!?」


「エッ!姉さん!?」


 突然のラナの発言に、僕も思わずキョロキョロと姉さんを探してしまう。


「ハハハ〜・・・いるわけないかッ」


 カリナ姉さんが旅立ちもうすぐ4ヶ月・・・ラナが僕に甘えると姉さんが怒る!・・・という今までの習慣がまだ彼女にも僕にも染み付いているようだ。


「というわけで再びスリスリ・・・」


「手紙に書くよ?」


 別にラナのスリスリが嫌だと言うわけではないが、流石に今はそんな気力も元気もない。


「おっと〜それは無しで!」


 そして僕の忠告を聞いたラナはおどけ一瞬で飛び退くと、「あっちでポーション飲んで休んでる〜」と言って行ってしまった。


「リアムさん・・・回復魔法は・・・」


「ごめん・・・ポーション作りでレベルは上がってるんだけど、人に使ったことがなくて・・・」


「では、その不躾がましいのですが・・・中級より上の回復ポーションを持っていたりは・・・」


「それならあるよ」


 どうやら先ほど渡した中級の回復ポーションでは、エリシアの回復には足りなかったようだ。因みにこの上級ポーションはまだ練習中。自分で効果を均一にして作れた本数は10本あるかないかでその値段は・・・っと 。


「はいこれ」


 僕はマレーネにお墨付きをもらった上級ポーションでも一番出来の良かったものをフラジールに渡す。


「ありがとうございます」


 そしてそれを受け取ったフラジールは、エリシアの元へと向かっていく。


「僕もいくよ・・・」


 そんなエリシアの元へ向かうフラジールに、僕もエリシアが心配であったため付いていくことにする。


 ・

 ・

 ・


「ウォルターさん、エリシアさんの頭を少し上げて差し上げてください」


「こうか?」


 セーフポイントの簡易テント応急処置場のベンチに寝かされたエリシアの頭を下から支え、ウォルターが彼女の頭を少し上げる。

 それでも起きることもなく、スヤスヤと寝息を立てているエリシア。ここまで運んでくる時にエリシアはずっと僕の後ろにいたため度々確認できたが、彼女の呼吸は今も安定しているようだった・・・しかし──


『これって・・・』


 そんな穏やかとも言えるほど気持ちよさそうに寝息を立てるエリシアの露出した腕や脚、そこに僕はあるものを見てしまった。


「はい、それでは・・・」

 

 フラジールが先ほど僕の渡した上級ポーションの蓋を開け、エリシアの口元へビンの先を近づける。


「エリシアさん、飲んでください・・・」

 

 まるで専門の看護師のように丁寧に、少しずつポーションをエリシアの口の中へと注いでいく。


「・・ング・・・ゴク・・・」


 しっかりと、着実に自分でそれを飲み込んでいくエリシア。


「すごいな・・・」


 するとそれを見ていたウォルターが感嘆の声を漏らす。


「さすが上級のポーションですね」


 それに追随するフラジール。そう、ウォルターとフラジールが褒めたのははっきりと目に見てとれるポーションの効果だった。


『あれは・・・』


 僕はその光景をただ黙って見つめているだけだった。

 森の中で彼女を受け取った時、僕は急いでいたせいか、それとも戦闘後で興奮していたのか、彼女の様子をじっくりと見ることはしていなかった・・・故にその光景がただただショックであった。エリシアの腕や脚に刻まれたその紋が──


『・・・リヒテンベルクの・・・だよな』


 痛々しいその跡が、ポーションによって次々と引いていく光景が僕にそれがつい最近できたものだと実感させる。

 なぜならポーションで現在治っているということは彼女が以前最後にダンジョンに入った後についたものであるということ、そしてそもそも探索前、彼女の腕や脚にそのような紋は刻まれていなかった。よく見れば、エリシアの服のあちらこちらが焼け焦げたように穴を開けている。

 リヒテンベルク図形、それは雷が起こす樹上に枝分かれするような放電の図形で、確か前世では雷のような強い電撃に打たれた人に現れる特有の紋であったはず・・・。


 僕はその引いていくリヒテンベルクの傷跡をじっと見つめる。その紋が現れたということは、僕のショックボルトはかなりギリギリラインの威力であったはずだ。 



 人を傷つけた・・・?


 誰が・・ ・・自分が


 誰を・・ ・・エリシアを


 なんのために・・ ・・助けるために


 自問自答、今更になって彼女を傷つけてしまったという実感が込み上げてくる。


「ん・・・あれ?」


 すると僕の自責も他所に、ポーションが効いたのであろう・・・。何事もなかったかのように、眠っていたエリシアが目を覚ました。腕や脚に見えた傷跡も、すっかり綺麗になくなっている。


「良かった・・・ ・・・あッ! 早くこちらのポーションも飲んでください・・・」


 そしてエリシアの目覚めに気づいたフラジールは一先ず安心すると、思い出したかのように二つのポーションが入った瓶を彼女に促す。あれは僕が探索前にあげた解毒とデバフ解除のポーションだ。


「ング・・ング・・・・・・はぁ〜・・・これおいし〜」


 まるでジュースを飲み干すようにゴクゴクと美味しそうにそれを飲むエリシア。味はレイアと探求してお墨付き、あれは確かベリー味にオレンジ味だ。


「何があったか覚えてる?」


 健康状態を確認するかのように問診を始めるフラジール。


 ──ピクリッ。


 その問いに一瞬、エリシアの体が震えたような気がしたが・・・


「あはは〜・・・ゴブリン達を倒したところまでは覚えてるんだけどそれからは・・・」


 気のせいだったのか、苦笑いしながらも明らかに状態がおかしかった時の事は覚えていないと答えるエリシア。


「そうか、とりあえず回復して良かった」


 それを聞いたウォルターも、問題なさそうなエリシアを見て安堵しているようだった。

 それから、フラジールやウォルターも腰を落ち着けて彼女にそれまでの話を聞かせる。


「・・・というわけだ、自分の意識が乱れた理由について何か分かるか?」


 一通り話し終え、再びエリシアの問診を始めるウォルター。


「・・・わからない」


 自分の異常の原因について尋ねられたエリシアは俯き、心当たりがないと話す。


「ウォルターさん、とりあえず今回は早く戻ってダンジョンから出ませんか? またエリシアちゃんや私たちに何かある前にそうした方がいいんじゃないかと・・・」


 ここまではっきりと僕やアルフレッド、エリシア以外に自分の意思を伝えるフラジールは珍しい。おそらく今回一緒に探索をしたウォルターやラナのことを大分信頼したのだろう。


「おっ! 起きたんだねエリシアちゃん!」


 するとテントの出入り口付近から、休憩から戻ってきたラナの明るい声が聞こえてきた。


「ふん愚民が、ようやく目を覚ましたか!」  


 そしてその横には、ギルド駐在所へトレインの報告と抗議に行っていたアルフレッドもいた。いくら病み上がりであっても、アルフレッドのエリシアに対する態度は相変わらずだ。


「ギルドの駐在員に報告してきたぞ・・・とりあえずギルド側でも調査、判断したのちにもう一度話し合いをすることになった」


 そう言って皆に報告するアルフレッドはどこかイライラし、心ここにあらずのようだった。

 僕は後日その事を彼に尋ねてみたのだが、理由は単純、ギルドの煮え切らない対応に対し直ぐに決着をつけられるよう持っていけなかったことが悔しかったようだ。彼は「今度何かあった時には論破し倒してやる」と密かなリベンジに燃えていた。


「とりあえず、件のオークとゴブリンメイジは証拠品としてギルド本部に提出するように・・・だとさ」


 そして不満そうに今後の対応を告げる。やはり途中、僕たちの行動にも問題があったとはいえ、仲間が一人傷を負う結果になったことを内心腹立たしく思っているのだろうか。


「じゃあ回収したオークとゴブリンメイジは没収ってこと?」


 それを隣で聞いていたラナがアルフレッドの言葉に突っかかる。どうやら彼女もギルド側の対応に不満を募らせたようだ。


「まあそうなるが、後からそれに有り余る何らかの褒賞が出るだろう・・・そうでなければスプリングフィールド家の一員として、この僕が許さん」

 

 それからラナとアルフレッドは二人、ギルドにどのような見返りを求めるか話しを始めた。自由奔放でいたずらが好きなラナと権力があり策士向きのアルフレッド、この二人の組み合わせはどう考えても危険だ・・・すると ──

 

「折角私を助けてくれてまでリアムが倒してくれたのに、残念ね」


 まるで作った様な笑顔で、それを残念がるエリシア。


「もし私の状態が悪くなかったら情けないアルフレッドの代わりに抗議してあげてたのに」


 そしていつもの様に、最初に愚民と呼ばれたことに対する見返しかアルフレッドを煽る。そして一見して元気そうな彼女の言動に、皆ホッとする。しかし ──


「何だったらオークも私一人だけでも・・・」


 エリシアがそう口にした瞬間 ──。


「ふざけるなッ!」


 唐突に、大声で、僕の口からその一言が漏れる。


 騒然とする応急室。


 一体僕は、何を言っている?


「状態が悪くなかったら?そんなもしもで起きてしまった事実は変わらない!」


 何を口走っている?


「そもそもそんなことを言うのなら、初め逃げていた時にエリシアが止まらなければ避けられた事態だった」


  彼女に怒鳴っておきながら、それは矛盾している。


「一人でオークを? エリシアは覚えていなかったらしいけど、君は一人で突っ込んで行って簡単に捕まってしまったじゃないか!」


 これは今怒鳴って言わなければならないことなのか・・・?


 何故僕は彼女がいつもと違う様子に気づいていながら、中止してまで聞き出そうとしなかった。

 

── 関心がなかったから?


 ・・・いや違う、ただ触れて欲しくないことに触れて関係を壊すのが怖かったからだ。


「それに助けてくれてまでって・・・」


 しかし突然、僕はその先を口にすることを戸惑い。しかし ──


「リ・・・リアム?」 


 黙り込んでしまった僕の名をエリシアが口にする。そのエリシアの言葉に僕は歯を食いしばり ──


「・・・違う! 僕は君を助けたんじゃない!」


 タガが外れたように声を荒らげる。僕はエリシアが気絶した後も一番近くにいたはずなのに、それに気づかず別のことばかり考えていた。


「傷つけ・・・ッ!」


 傷つけて・・・そう口にしようとした途端、怒りは急に冷めていき、急に怖くなった。しかし ──


「傷つけて、殺しかけたんだ!」


 僕は恐怖から逃げるように言葉を振り絞り、自分の罪について自白する。


「おいリアム!」


 すると突然、今回先導者でありメンバー年長者でもあるウォルターが僕の名を叫ぶ。


「お前は悪くない! あれは必要な攻撃だったし、普通なら誰か一人以上殺されててもおかしくなかった!」


 そしてウォルターは僕の行動を肯定し ──


「俺たちは今お前のおかげで一人欠けることもなくここにいるんだ!」


── 慰める。

 

 少なくとも僕にはそれが気休めに聞こえてしまった。


 自責の心にウォルターの慰めが染み渡る。


「僕は・・・エリシアを・・・傷つけて・・・」


 僕はその如何しようも無い感情のジレンマに揺れ、歯噛みする。そしてふと静まり返る応急室で顔をあげ、皆の表情を見渡した。


 そこにあった表情は心配そうに僕を見つめるラナ、驚き怯えるフラジール、悔しそうに己の無力さに肩を震わしていたアルフレッドとウォルター、そして・・・


 ── 目に涙を浮かべ、今にも泣き出してしまいそうなエリシアだった。


「・・・ッ!」


 今まさに、僕は彼女を傷つけている。人を傷つけるのが怖いとのたまいながら、言葉で人を傷つけている。


「ゴメン・・・」


 僕は一言、そう呟いて走り出す。それはいきなり怒鳴ってしまったことへの羞恥か、場の雰囲気を悪くしてしまった事に対する責任からか、はたまた再びエリシアを傷つけてしまったことからの罪悪感からかははっきりしない。しかしそれら全て混ぜて濃縮したような感情に押しつぶされそうになりながら、僕は傷つけたメンバーを残してそこから逃げ出したのだった。

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