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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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68 到着、そして探索

「さて、ついたぞ諸君!」


 街道を歩いて約一時間と三十分、僕たちはようやくダンジョンモンスターポイントB地区、通称エリアBの前のセーフポイントへとたどり着いた。

 目の前に広がる薄く張られた魔力壁の向こう側では、冒険者たちが一つの画となって動いており、所々に滞在用のテントまで見える。


「やっとキングに挑戦か、腕が鳴るぜ!」

「やべッ!弁当忘れた!・・・誰か食べ物恵んでくれー!」


 そしてその魔力壁をすり抜けると、先ほどまで動いていただけの画に様々な音が追加される。


「さて、じゃあ休憩も兼ねてミーティングするか!」


 セーフポイントの中へ入り、自分たちのスペースをひとまず確保した僕たちは、これから挑戦するエリアBのお浚いも兼ねて最終ミーティングを始める。


「このエリアBの主なモンスターはゴブリン、そしてコボルトだ」


 備え付けのベンチに座り、テーブルの上に地図を広げるウォルター。


「生息域は東のB-1がゴブリン、西のB-2にコボルトと二分されていて、それぞれをキングが統括している」


 地図を指差し、それぞれの地域を確認する。


「だけどキングがいるのはさらに一定の狭い範囲でね、そこを避ければ遭遇しないから安心してね〜」


 情報に注解を入れるラナ。


 どうやらエリアBのモンスター分布はかなり研究されているようだ。因みにキングと名のつくここのモンスターはこの地区の2大エリアボスである。エリアボスとはその名の通り、ある一定の範囲を縄張りとする君主であり通常そこから出てくるようなことはない。またエリアボスは倒されても1日経つと新たな肉体とともに復活、再挑戦できるようになるらしく、その順番はギルドによって管理されている。


「ああ・・・そこで俺たちがまず気をつけないといけないのが、名前にファイアやアイスとつくコボルトとゴブリンメイジだ」


 解説を続けるウォルター。


「特に今回探索予定のB-1にいるゴブリンメイジはいくつかの魔法を使う他に、スキル《召喚術》を持っている」


 その《召喚術》の効果は行使者の素質によってランダムにモンスターを召喚、または召喚対象を贄によって確定することも可能で、《テイム》で契約しない限り一時的な使役の後に術を停止させることで召喚獣が返還されるものである。


 ゴブリンメイジの場合はその対象がラット種やラビット種からオーク種までと幅広く、今回の探索で一番の不確定要素・・・


「今回はロガリエだし、ゴブリンメイジには遭遇次第退くことにしよう」


 そして一番の懸念事項と共にその対策をウォルターが確認する・・・のだが──


「大丈夫よ!何が出てきたって私達ならへっちゃら!」


 ウォルターの懸念を「大丈夫だ」と一蹴するエリシア。


「僕たちならキングにも勝てるのではないか?」


 そして追随するように奮起するアルフレッド。


「ま、一応それは最悪の事態を想定したものだから・・・良くも悪くも今日はロガリエ、気楽に行こうか」

 

 結果、それを聞いたウォルターも変に気を張る必要はないと地図をしまう。


「それじゃあ、あと十分程休んだら行こうか」


 一息つくように、ベンチに手をつき座り直すウォルター。


「ねえねえ、折角だから少しキャンプの中をのぞいていきましょ」


 するとまだまだ元気なエリシアが、僕の腕を掴んで探検に誘う。


 僕はそんなエリシアの誘いに、更に先の罪滅ぼしも兼ねて少し付き合うことにする。今日はエリシアに何を提案されても、反対できる気がしない・・・。

 しかし一方で、体力もまだまだ充分に残っているし、10分も歩くと休憩が欲しくなった前世とは大違いだ。


「ほどほどにね」


 僕は今の自分の幸せを噛み締め、そしてエリシアに手を引かれる。

 自由に動き回れる体に魔法の力、新しい友人たち。

 しかし僕は彼らと後に、まさかあんなことになってしまうとは予想もしていなかった。



▽ ▽ ▽ ▽


「40メートル先、小さな魔力を感じる」


 昼間にしては少し薄暗く、木々が茂る森の中を進み僕たちをスキル《魔力感知》を持つラナが手で制止し、モンスターの気配を伝える。


『ダメだ・・・何も感じない』


 僕はラナの合図を受け、それと同時にそのモンスターの魔力を探知しようと試みるが上手くいかなかった。


『便利だな《魔力感知》・・・早く覚えたい』


 スキル《魔力感知》は習得が難しいものの、努力すれば誰でも獲得できるスキルである。

 その習得方法はなんでも感覚を鋭く研ぎ澄ますことで大気中の魔力から微細に流れている魔力のブレを拾うとか、モンスターとの戦いで修練する事で野生的な勘を磨く事が近道なのだとか。

 もちろんモンスターとの戦いのみならず、魔力の扱いに長けることで大気魔力との親和性を高め至ることも可能なのだが・・・しかし僕はその辺が受信型ではなく出力特化、自身の魔力があまりにも大きくなりすぎて微細な大気中の魔力を感じ取る事が苦手だ。

 それ故、最近ではスキルを分析させてもらってカスタマイズでなんとかならないかなというズルを考えてしまったり・・・ 


「多分ラビット種だし、お手本にもってこいかも・・・ウォル兄」


 感覚を研ぎ澄まし、モンスターの居場所をウォルターに指示するラナ。


「わかった・・・」


 ラナの指示と同時にウォルターは静かに背中に背負う弓を構え・・・そして──


「シュッ──!」


 矢をまるで弾丸のように放ち、ラナの指示した茂みの向こうへ見事に撃ち込んだ。


「ピュギーッ・・・」


 茂みの先から聞こえてくるモンスターの断末魔。


「さッすが〜ッ!」


 魔力感知で更にモンスターの変化を感じ取ったのか、ラナがウォルターに賞賛を送る。


「ま・・・これでもエルフの血を引いてるからな」


 その賞賛を甘んじて受けるウォルター。しかし聞くところによると彼の一番の得意武器は(アックス)らしく、そのポテンシャルはまだまだこんなものではないはずだ。ウォルター曰く「長男だったせいで母ちゃんに殆どの武器を仕込まれた」だそうだ。

 今回は僕たちの先導役ということもあり、ウォルターはサポート特化の弓と短剣、そして投げナイフの装備で探索に臨んでいる。


 ウォルターが獲物を射てから一分ほど、ラナの魔力感知で周りの変化を観察し、安全を確認した僕たちは獲物の元へと向かう。


「これはフォレストラビットだな。大体この大きさのラビットで手に入るダンジョンポイント は20ptぐらい、上位種のマッドや属性持ちは50ptぐらいだ」


 矢が刺さり、横たわる獲物を見てそんな解説を始めるウォルター。


『これで20ptって・・・僕は二年前に一体どれだけのモンスターを吹っ飛ばしたんだ・・・』


 フォレストラビットはモンスターの種類では小型種の中でも小さい部類に分類されるが、それでもその大きさは僕の頭より大きかった。


「ねえラナ・・・」


 そして僕はその事がどうしても頭から離れず、こっそりとラナを呼んで彼女に尋ねる。だってどう考えてもいくら規模が大きかったからといって、セーフエリアの隣の森でそれだけのポイントが稼げるとは思えない。


「ああ、それはね〜・・・あそこの森はスクールのモンスター討伐演習場兼モンスターを研究するためにラットからオークまでいろんなモンスターが人工的に集められている飼育場でもあるから種類も数も普通より多く生息してるんだよ」


 さらっと聞き逃せない内容をさらっと口にするラナ。


「ダンジョンポイント はラビット種ならさっき兄さんが説明したくらいのポイントが入手できるんだけど、ゴブリンなら一匹で大体100pt、オークなら500〜1000ptはゲットできるからきっとその所為じゃないかな? 特に上位種は研究対象としてよく搬入されてるし〜」


 二年越しのまさかの新情報。

 だって研究授業が始まるのはそもそも中等部からだし・・・まあ既に初等部から中等部にかけての基礎座学を終えてしまった僕に「何か好きなテーマで研究に参加してみない?」なんて勧誘話も最近学長先生からもらっているのだが。


 ん・・・? ということはもしかしてあの時、僕はスクールの資産を焼き尽くした挙句にポイントを得てしまったということ? 人力で連れてきたモンスターって移住先でちゃんと再出現するの?


 ふと冷静になって考えると、その損害はかなり大きなものだったのではないだろうか。


『ってことはポイントは全てスクールに返すべきだったんじゃ!・・・やべー』


 ここにきて更に深まる疑問と掘り起こされる罪悪感。しかし何が一番やばいってそれはあの腹黒学長ルキウスに知らぬところで弱みを作ってしまっていたということだ。


『ヤバイヤバイッ! 本当にヤバイッ!』


 ここ二年ダリウスとの食事などを通じてルキウスの性格も少しずつ把握してきた僕。もしあんな一にinterest、二にinteresting、三にinterested という矜持で生きているマッドに弱みを握られると後から何をさせられるかたまったものじゃない!


 僕は罪と絶望に板挟みになり、苦しみ悶える。しかしそんな苦悩の狭間で悶えていると・・・


「うっ・・・」


 ラビットの状態を確認しようとしゃがんでいたエリシアが突然、呻き声を上げた。


「エリシア?・・・大丈夫?」


 僕はそのエリシアの呻き声から現実へと引き戻され、彼女を心配する。


「大丈夫・・・なんでもないから」


 すると僕の問いかけに「大丈夫」と笑ってみせるエリシア。


「ならいいけど・・・」

 

 笑顔を見せるエリシアを見て僕はとりあえず一安心する・・・しかし──


『なんか気になる・・・』


 その笑顔からはどこか強がっているような、空元気のような違和感を感じ取れた。


『やっぱり女の子にこの光景は辛かったのか』


 いくらモンスター狩りに意欲を燃やしここまでやってきたとはいえ、まだ彼女は幼い。

 今も横たわり矢の刺さったラビットの死体からは赤い血が流れ、鉄の匂いが鼻腔を擽り野暮臭い。

 僕はとりあえずこの場の彼女の「大丈夫」という言葉を尊重することにする。なぜならまだロガリエは始まったばかり、それにこれは誰もが通る道なのだから。


 ちなみに僕はこういうと不謹慎かもしれないが、血や死には比較的慣れている。というのも前世で病院住まいの多かった僕・・・その時の経験で血はよく採血で自分のものを見ていたし、同じフロアに入院している人が突然亡くなったなんて話はたまにあった。例えそれが知らない面識のない人であっても、噂を聞けば初めの頃は子供ながらに胸を痛めていたものだ。おかげで食事のありがたみや生について強く考えさせられ、変にこじれてしまった時期もあった。もちろん今でもその感謝の気持ちを捨てているわけではないのだが・・・──


「おいおい、もしかして怖いのか?」


 揶揄うようにエリシアをいじるアルフレッド。


「うるさいわね!別に怖くはないわよ!」


 それにエリシアは噛みつくように反論し、立ち上がるとなんでもないように鼻をこすりそっぽを向く。

 正直怯える女の子を揶揄うのはNGであろうがそこはアルフレッドとエリシア、あれはあれでアルフレッドの優しさなのだろう。


「フラジールは大丈夫?」


 どうやら大丈夫そうなエリシアを再確認し安心した僕は今回のロガリエメンバーの一人、フラジールにも声をかけておく。


「はい、確かにこうして死んでしまうのを目の当たりにすると感じるものはありますけど、お肉はいつも捌いたり調理したりしてますから」


 すると意外や意外、いつもはオロオロが基本のフラジールが今回はしっかり受け答えをし、ロガリエメンバーの中で一番頼もしい姿を見せる。


「じゃ、そろそろ収納頼むぜ!」


 一通り落ち着いたところで、ウォルターが「血の匂いをあまり放置しておくのは良くない」と僕に獲物の収納を願う。


「はーい・・・《自動整理亜空間(ディメンションホール)》」


 ディメンションホール。この魔法は空間初級恒常魔法である《亜空間(サブスペース)》を僕がカスタマイズによって改良したもので、僕が亜空間にものを放り込んだだけでその品物にタグ付け、取り出すときにはその物を頭に思い浮かべながら手を突っ込めば大抵出てくる。因みにホールの中身は《カスタマイズ》で中のリスト閲覧も可能で実質的なアイテムボックスと変わりない。


「それじゃ、行こうか・・・次はお前たちの番だ」


 今回の先導役兼リーダーであるウォルターが指示をだす。


「次は僕が仕留めるぞ!」


 その指示に闘志を燃やすアルフレッド。


『これなら僕にもできそうだ』


 そんな彼の闘志に当てられてか、僕もいつもより少しだけ積極的に闘志を燃やすのだった。

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