67 道中
セーフエリアを出発して1時間が経った頃──。
「ここに来るまで全くモンスターに出会わないなんてねー・・・もう着いちゃうよ」
「先に向かった冒険者たちが全て狩ってしまったんじゃないか?」
前を歩くウォルターとラナが、これまでにモンスターと遭遇しなかった謎について話をしていた。
「それにしても、なんでB地区をロガリエに選ぶ冒険者が少ないのかしら」
その後ろを歩く復活したエリシアが、ふと疑問を口から零す。
「・・・みんなビビってA地区から挑戦してるんじゃないかな〜」
彼女に並んで歩いていた僕は、慌ててその疑問に答える。
因みにこのB地区をなぜロガリエに選ぶものが少ないのかというと、ダンジョンにはリヴァイブの門があるため、難易度をすっ飛ばしたい者はCやD、堅実でコツコツ行く者はA地区を選ぶためにB地区挑戦者が少ないというカラクリがあって・・・
「ふ〜ん・・・みんなビビリなのね! だったら私たちで無双して、買取所の人たちを驚かせましょ!!」
僕の咄嗟の嘘にやる気を見せるエリシア。まあ実際にはCやDへ挑戦した初心者のほとんどがリヴァイブ送りとなっているらしく、僕の判断は間違っていないはずだ。
「ということでリアム!倒した魔物の収納お願いね!」
「エリシア様の仰せのままに」
この中で空間魔法を使えるのは僕だけだ。先ほど彼女の機嫌を損ねてしまった僕は、お嬢様の要望に応えるべく、執事のように礼を尽くす。
「・・・!」
僕の言葉を聞いたエリシアが「リアムがエリシア様って・・・様ってことは・・・」と何やら一人呟き赤面し始めた。なんか変なスイッチを押してしまったようだ。
「あっそういえばこれ・・・」
エリシアが応答不能となってから数秒、僕は収納=空間という流れから忘れ物を思い出し、ゴソゴソと亜空間に手を突っ込んでそこからあるものを取り出す。
「・・・二人にも・・・はい」
そして亜空間からそれを取り出した僕は、エリシアの他に更に後ろを歩いていたアルフレッドとフラジールにも手渡す。
「これって」
それを受け取ったフラジールが不思議そうに首を傾ける。
「うん、中級のポーション。出発前に渡そうと思ってたんだけど忘れてて・・・。それぞれ回復、解毒、バフ解除で作ったのは僕だけど効果は大丈夫だと思う」
僕はその疑問に答えるべく、それぞれ手渡した瓶入り3つのポーションについて説明する。
「お前は万能だな」
僕の説明を聞いて呆れ気味に、しかしどこか満足そうにポーションをケースにしまうアルフレッド。
「私の分まで、ありがとうございます」
フラジールはいつも通りにハニカム笑顔を見せながら、丁寧に礼を述べる。
「これは・・・まさかプレゼント?」
そんな中、未だ妄想の世界から帰りきれていないエリシアは一人、幸せそうな表情を浮かべていた・・・間違ってはいないけれど。
「おっ! なになに?リアムが作ったポーション?」
すると前を歩いていたラナもそれに気づいたのか、振り返って話の輪に入る。
「いいな〜♪私も欲しい!」
彼女はフラジールたちの持つポーションを見ながら、物欲しそうにそれを強請る。
「確かにいいな・・・もし余っているのなら俺も貰えないか?」
するとラナと話していたウォルターもそれに気づいたのか、余っているのなら是非に貰いたいと話しに加わる。
「一応二人の分も持ってきたんだけど・・・二人はもっといいポーションを貰ってるかなと思って・・・」
そう、実はちゃんと先導役としてついてきてくれている二人の分も僕は用意していたのだが、そもそも薬屋の子である二人にポーションをあげるというのは余計なお世話、ただ荷物を増やすだけだと控えていたのだ。
「もし貰えていたらお前の試作品をいつも強請る必要はないさ・・・」
するとそれを聞いてどこか遠い目をするウォルター。
ポーションは中級にもなると、銀貨1枚(前世換算1万円)という中々に高価なものとなる。しかしその材料費は実は大銅貨1枚(前世換算千円)ほどであり、その9割方が調剤・精製の手間賃となっている。
確かに彼は僕が森の木陰の薬屋で教わり試作したポーションを度々使ってくれていたが・・・
「それにうちのお婆ちゃん現実主義者だから、そういうオマケには厳しくて・・・リアムも知ってるでしょ?」
そしてマレーネを例に出し肩をがっくり落とすラナには最早「あはは・・・」と愛想笑いを返すしかない。いつも二人が僕の試作品を持っていくのはてっきり、勿体ないばっかりに処理を手伝ってくれているのかと思っていた。
「まあ荷物にならないのなら是非・・・」
僕は再び亜空間に手を突っ込み、次々にポーションを出していく。
「ありがと!」
「ありがとよ!」
それを受け取った二人はにこやかに感謝の言葉を告げ、各々ポーチへと仕舞う。
「それじゃあB地区のセーフポイントまであと少し、頑張ろう〜!」
ポーションを仕舞い終えたラナは再び前を向き、そして残りの道のりを確認すると共に皆を鼓舞する。
「「おー!」」
そしてその掛け声に拳を上げ反応するエリシアとウォルター。
『なんか、楽しいな』
そんな彼らを見るとちょっとした遠足気分というか、前世では味わえなかった感情が込み上げてくる。
「おいリアム!置いてくぞ!」
その光景を眺め足が止まっていた僕を急かすアルフレッド。
「おー!」
そして僕は、その呼び声についつい片手を上げ、街道を駆け出すのであった。




