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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第2部 ~スクールと仲間~

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64 カスタマイズ

「なによ!」

「なんだよ!」


 いつも変わらない昼下がりのダンジョン、始まってしまったエリシアとアルフレッドの小競り合い。


「あのリアムさん。この前教えてもらった《清潔(クリーン)》の魔法なんですが・・・」


「ん?何か問題が?」


 するとそれを眺めていた僕に、フラジールは何も気にした様子なく僕に魔法について尋ねてくる。


「はい、その・・・私の魔力ではまだ連続して使用するのが難しくて・・・10回ほど使うと魔力切れが近くて・・・それで」


 どうやら彼女の相談とは、僕が先日教えた無属性の生活魔法《清潔》についてらしい。


『あー・・・フラジールが何回も魔法を使うことを考慮してなかった』


 フラジールは他領主貴族であるアルフレッドのお守兼使用人見習いである。

 先日便利だと思い、マレーネにポーション指導の片手間に教えてもらったこの魔法を彼女に教えたのだが、フラジールが立場上、その魔法を多用することを失念していた。


「わかった。それじゃあ検討してみるよ」


 突然の僕の発言に、フラジールは「へっ?」と不思議な顔をする。


「・・・《カスタマイズ》」


 カスタマイズ。それは僕のオリジナルスキルであり、この2年の内にある出来事をきっかけに発動した。形態はステータスボードのようなボードが出現するもので、そのUIからアクセスすることで様々なことができる。・・・まあ発動したといっても、僕自身がそれまで自らスキルを唱えることがなかっただけで・・・


 この世界には大きく分けて2種類の魔法が存在する。一つは魔法鍵(スペル)と呼ばれる名で登録され画一された恒常魔法。そしてもう一つがその場で魔力をいじって作り上げる即興魔法。前者は一般的に広く分布されたマクロでの普及が盛んであり、対象に後者では固有魔法や秘匿魔法といった個人オリジナルの魔法が多い。


「ええーっと・・・うん、対象が”単体”の部分を”指定した範囲”に変更してARサポートもつけて・・で制限体積は・・・というか《清潔》って魔力50も使うのか。生活魔法にしてはやっぱ高いな・・・さてと」


 僕は《カスタマイズ》を発動し、恒常魔法である無属性生活魔法《清潔》の改案検討に入る。


 カスタマイズはオリジナルスキルということもあり、通常のスキルの域を超えた・・・いや、突き破ったようなチートスキルだった。その主な効果は魔法の改造と創造。改造の対象はその魔法を使えることや原理を知っていることが前提条件であるのだが、僕には《分析》のスキルもあるし、元来の魔力が織りなす工程を視覚化しテキスト化、もしくはフローチャート化し表示、いじることができる。

 これにより僕は、例えば即興魔法やアイデア魔法を魔法鍵(スペル)化&恒常化、または恒常魔法をカスタムすることでオリジナルの魔法へと仕上げることができる。


「カスタマイズ完了、この魔法を《範囲清潔(クリーンレンジ)》で登録してコメントはいつも通りよろしく。続けて《範囲清潔》を陣化してこちらも陣一覧に登録した後に魔石への付与を実行」


 更にカスタマイズには設定が存在し、そこには成長学習型サポートAIのオンオフ機能まであった。初めはその効果を実感することがなかったものの、最近ではそのAIが言葉を認識し、頼むだけで細々としたことを手伝ってくれる。


 対象魔法の陣化プログラムをエクスキュート・・・成功

 対象魔法の陣化・・・完了

 対象魔石への陣の描画・・・成功

 カスタム魔法《範囲清潔》に自動コメントを付与し 魔法欄 魔法陣欄にそれぞれ登録完了しました

 

 まるで前世の地球の技術とこの世界の理が融合したような能力。作業工程がカスタマイズのボードへと書き出されていく。


「よし・・・あとは」


 用意した魔石に魔法陣が刻まれたことを確認すると、僕はいつも持ち歩いているサブの小魔石用の指輪を取り出すと──


「はいこれ」


 それに魔石を嵌めて、フラジールへのプレゼントとして手渡す。


「これって・・・もしかしてリアムさんが時々使ってる?」


 それを受け取った彼女は、なおさら不思議そうにその指輪を眺める。


「うーんとね、とりあえずそうだな・・・おーいエリシア!アルフレッド!」


 僕はとりあえず聞くより慣れろということで、今なお魔法合戦を続けるエリシアとアルフレッドを呼ぶ。


「ふん、リアムが呼んでいるから今日の勝負はまだまだ余裕だが!ここで終いにしてやろう・・・」


「あんたこそ、リアムに助けられたくせに強がっちゃって・・・」


 魔法の手を止め、何やら言葉を交わす二人。


「なんだリアム?」

「なぁ〜にリアム?」


 僕の呼びかけに気づいた二人が、息を整えながら僕らの元へとやってくる・・・・・・土煙と激しい魔法の打ち合いで、二人の容姿はボロボロだ。


「悪いけど二人とも、そこに立っててくれない?」


 僕は来てくれた二人に、その場に立っていてほしいとお願いする。


「フラジール、まずはそれを嵌めてブートって言ってみて」

 

 そして二人が位置についたことを確認すると、僕はフラジールに魔石の起動キーを伝える。


「はい・・・ブートぉ・・・」

 

 恐る恐る起動キーを唱えるフラジール。

 するとフラジールの前に、一つの立体に表示された板のようなものが出現した。


「ひゃッ!・・・な、なんですかこれリアムさん!」


 驚きの声を上げるフラジール。


「おいリアム!それって立体板の魔法か!?なんでフラジールが使っている!!」


 言われた場所で待機し、同じくその光景を見ていたアルフレッドが捲したてるように声を上げる。


「うんそうだけど?」


 アルフレッドの疑問に惚けてみせる僕。


「うんそうだけど?じゃない!大体今までお前に気を使って言わなかったが、そもそも立体板の魔法と陣の改良はギルドが独占している技術だぞ!?何故お前がホイホイ使っているのだ!!」


 しかしまあ、当然それは答えになっていないわけで。

 実を言うと立体板の魔法陣化については僕のスキルに大きく依存しており、自分自身でも完全には理解できていない。


 ステータスの魔石に使用されているこの立体板の技術はレガシーと呼ばれ、その起源はあるオブジェクトダンジョンで発見されたオリジナルのステータスの魔石をギルドが複製することによって生産・配布を可能としているらしい。


「大丈夫だと思うよ?ギルド長のダリウスさんに『ステータスの魔石のボードの仕組みがわかったんですけど特許とか大丈夫ですかね?』って聞いたら『特許?ステータス魔石のボードの仕組みぃ?・・・ああ、立体板の魔法のことか。俺にも仕組みはわからんし別にいいんじゃね?』って言ってたから」


 そう、言質はもう取っているのだ。


 レガシーは主にオブジェクトダンジョンで発掘・発見されることが多く、アースのテールにあるコンテスト用の大きな黒い浮遊体もそれで、『一つのレガシーを完全に解読できれば、我々の文明は少なくとも10年は進歩する』と言われているほどだ。

 因みに立体板の仕組みは結構簡単で、魔石が自動的に処理した魔力情報を大気中の魔力固定立体化、光属性による映像のスクリーンへの照射又は反映をするものだった。

 この解読には僕のEXスキルである《分析》と《自動翻訳》が大きく役に立ち、後はこれを陣化すればいいのだが・・・この部分は《カスタマイズ》がほとんど自動で仕上げてしまったために、自身の理解が追いついていない。

 また、魔石で処理をもたらす際に必要なのが魔法陣であるのだが、ステータスの魔石には陣がない代わりに、魔粒子と呼ばれる魔力粒の整列によってそれがプログラムされていた。陣の魔粒子デジタル化、これも高度すぎて僕にはまだできない。


「いや・・・そういう問題では・・・」


 僕の説明に納得いかないものの、どこか諦めたように肩を落とすアルフレッド。


 あとこれは僕の推察であるが、おそらくギルドはこの世界にまだ確立された映像技術がないために立体板が映写によって機能しているということ、それを映すにはスクリーンが必要であることに気づいていない。

 僕はこの世界に魔法・・・それも光魔法があるために、ギルドは立体板が完全に光と魔力のみで流動・完成された代物だと仮定していると推察している。そしてこれにもちょっとした根拠があり、実はカスタマイズが発動してから僕は、ステータスの魔石を《分析》そして《カスタマイズ》で研究してみたのだ。

 結果としてギルド式は、前世の言葉で代用するならば情報量が多すぎて現魔技術では処理できず、現代の文明レベルではとてもではないが再現不能と判断できた。もしこの読解にギルドが成功しているのならば、彼らがこの情報を秘匿していたとしてもきっとこの世界の文明レベルはもう少し引き上がった未来に達しているはずだ。そして仮に光魔法のみで独立した映像立体操作を魔法陣プログラムのみで再現することに成功すれば、その情報量はより膨大なものになるとも考えられる。


 ということで結論としては、ギルドは何らかの方法でオリジナルのステータスの魔石を丸ごと複製しており、その仕組みについては未だに解明できていないということで。

 もしこの魔法の利権関係で僕が巻き込まれることがあるようならば、すべてはギルド長に丸投げをすればいい・・・・・・まあ僕が言質を取った時、ギルド長お酒が入ってたんだけど。


「話が逸れたね・・・既存の《清潔》の消費魔力が大体50くらいだったのに対して、今回の《範囲清潔》は最大消費魔力が80ぐらいかな」


 それから僕は開き直り、そして魔法の説明へと戻る。


「使い方は簡単、その画面の中に立方体があるでしょ?」


 僕はフラジールの前に発現した立体板覗き込み、そこに枠で形取られた立方体があることを確認する。


「・・・はい」


 僕の確認によって、現れた立体板に映る立方体を見つめるフラジール。


「じゃあ、右手の親指と人差し指を画面に添えて開いたり閉じたりしてみて」


 僕は指輪から伸びる立体板に表示された立方体を、ピンチインとズームアウトによる調整で動かすことを教える。このARと調整機能はカスタマイズから付与できるオプションのようなもので、これもAIが自動で陣に織り込んでくれる。これがなければ現時点で立体板はただのディスプレイ、出力する映像情報の処理を僕だけでは魔石に付加不能なので、まさにカスタマイズ様様だ。


「うまいうまい!あとはその箱の中にアルフレッドとエリシアが入るようにしてこう唱えて・・・《範囲清潔》!」


 最後に僕は魔法発動のために唱える魔法鍵を彼女に教える。


「クリーンレンジぃ・・・!」


 そしてフラジールは、僕が教えた通りに《範囲清潔》の魔法鍵を唱える・・・すると──


「・・・!」

「すごーい!!」


 先ほどまで砂にまみれていたアルフレッドとエリシアの身なりが、綺麗にクリーンアップされていく。


「陣化と魔石併用でかなり消費魔力は抑えたけど、やっぱり今までの《清潔》に比べると魔力消費は大きいから、小さな汚れをサッと綺麗にしたいときは《清潔》、部屋なんかの広範囲や複数の汚れ物を綺麗にしたいときは《範囲清潔》を使うといいよ」


 きちんと魔法が発動したことを確認し、おまけのアドバイスで用途による使い分けを提案する。


「おい!この魔道具はいくらだ!!」


 すると突然、僕とフラジールの最初のやり取りを知らないアルフレッドが声を荒らげる。


「えっ?もちろんフラジールへのプレゼントだしタダだけど・・・」


 そして僕はそれまでのやり取りをアルフレッドに説明し、それがプレゼントであることを告げる・・・すると──


「はぁーッ!?タダだぁ!?」


 疑心と驚きの混ざったような声。


「いいか!?この魔道具は効果こそアレだが実用性は十分だし、何より埋め込まれている陣の構成が高度すぎる!!」


 そして今度は、アルフレッドが捲し立てる様に言葉を連ね始める。


「これは言い値だが、僕だったら少なくともその魔道具に金貨1枚は出す!!」


 唐突に告げられた大金の額。


「金貨一枚・・・」


 しかし僕は突然算出されたその魔道具の評価額にピンとこず、只々呆然とする。因みに先ほどから忘れられているもう一人の当事者であるエリシアは、「金貨?魔道具?何それおいしいの?」状態だ。こういう経済的な一般常識は、この中ではアルフレッドが一番詳しい。

 

「興味がない僕でもそれだけの価値を見出すということだ・・・・・・お前、もしこれを人前で一般人が使ったら直ぐに良からぬ輩に目をつけられるぞ?」


 先ほどは金貨1枚と言われるとピンとこなかったが、この国でいう金貨一枚とは前世の円に換算すると約百万円だ。

 確かに、立体板を使って魔法範囲を指定するというシステムは、この世界から見れば時代に不似合いな代物である。


「まあ、フラジールは貴族である僕のお付きであるからある程度は大丈夫だろうが・・・」


 一通り声を荒らげて段々と冷静になってきたのか、顎に手を当て何かを考えるアルフレッド。


『その辺諸々考慮して僕もフラジールにプレゼントしたんだけど・・・』


 アルフレッドの呟きに僕も内心で同調する。もちろん、それ以前の問題としてアルフレッドに信用を置いていることも忘れてはならないのだが。


「本当にもらっていいんだろうな?」


 数秒、怪しむような目で僕に確認をとる。


「なんか怖くなってきたけど・・・よろしければどうぞ・・・」

 

 そんな彼の説明に、僕は少し怖さを感じつつも畏まって承諾する。


「いいかフラジール。その魔道具は公衆の面前では使わぬよう注意しろ・・・然もなくば要らぬ諍いに巻き込まれることになる」


 警戒する様にフラジールに言い聞かせるアルフレッド・・・しかし──


「あっ・・・!」


 そんな中、僕の脳裏にはある心配事が浮かんでしまう。


「なんだッ!どうしたッ!」


 神経を張り巡らせていたのか、僕の呟きに過剰反応するアルフレッド。

 

「いや・・・あの・・・ケイト先生の前ではその指輪は隠すように・・・と」


 価値がわからない者はそれはそれで恐ろしいのだが、一番恐ろしいのは身近なマッドの研究者である。


「あっ・・・」

「あっ・・・」

「へっ・・・?」

 

 僕の忠告に何かを察し「あっ」と声を漏らすアルフレッドとフラジール。しかしエリシアだけは、その意味を最後まで理解していない様だった。

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