63 新たな日常
あれから、僕がダンジョンに入れるようになってから二年が経った頃・・・──
「こんにちはリアムさん。今日も練習頑張ってください」
「ありがとうシーナさん。いってきます」
スクールでの授業も順調に、僕は三年生となって今を楽しんでいる。
「あっ!そういえばもうすぐ夏休みなので、そろそろモンスターを倒しにいってみたりしようかな・・・なんて考えているんですが」
僕は受付のゲートを通った後、ふと思い出した事前報告を彼女に告げる。
「そうですか。それは私も楽しみです」
僕がスクールの魔法演習でダンジョンに出入りするようになって早二年、未だに僕はモンスターを狩ることはせず・・・というのも
「今日こそはお前の闇を晴らしてやる!」
「こっちこそ!私の魔法の方が優秀だということをまた教えてあげるわ!」
「あの・・・私は生活用の魔法をまた教えてもらいたくて・・・」
と、同級生であるアルフレッド、エリシア、そしてフラジールがダンジョンで魔法練習ができるようになるのを待っていたからである。
スクールでは入学時、ダンジョンに入るのに必要なギルドカードが発行されるのだが、基本、魔力も覚束なく魔法発動自体から練習する1年生はアース側の練習場で訓練することが主であり、学校側の許可が得られるまではダンジョンに入ることができない。そしてダンジョンに入れるようになるのは約三年生からであり、今年彼らもやっとダンジョンに入れるようになったというわけだ。
これについては、僕も後から知って心底、特別措置をとってもらってよかったと安堵したものだ。
ちなみに・・・
「なーんか面白いこと起きないかな〜」
「そーだなー・・・。何処かの誰かがAクラスの魔物をひょいと倒して素材を持ってきてくれたりしねぇかなー」
初めてギルド長であるダリウスと出会ってから時々、あれから僕は彼に飲みやご飯に付き合わされ、更にはしばしば学長であるルキウスがヒョンと合流し、最近では横で「つまらないなー」とか「新たな刺激が欲しいー」と愚痴をこぼされているのだ。
「だってー、お前ほどの実力があればそんくらい余裕だろー・・・」
「全くもってその通りだぁ〜!我々に娯楽を〜!!」
と、酒が入った彼らは手がつけられない。
そんな僕たちは周りの冒険者からどう見られているかというと「あの子、またギルド長たちに付き合わされてるわよ。可哀想に・・・」とか「酒もなしにあの人たちの愚痴は聞きたくないな・・・」と良くない醜聞が立っている。
「またこんなところに・・・!・・学長!あなたも教師なのですから、まだ幼いリアムくんを捕まえて愚痴るのはやめてください!」
そしてこういう時は大抵、ルキウスを探しにきたアランが彼を回収し、僕を泥沼から救ってくれる。
「リアムくんも、こんなダメな大人たちに構っていてはいけない!いくらスクールの座学を全て終えたからといって、君は前途有望な生徒なのだからしっかりと勉学に励みなさい!先に王立学院へ行ったお姉さんにも恥ずかしくないようにな!!」
いつも通り僕に忠告をくれるアランは、何気に僕がこの非日常に溺れるのを助けてくれて感謝している。
「はーい・・・頑張りまーしゅ!!」
「あなたは溜まった書類の整理を頑張ってください!」
最早これがテンプレートな日々から脱出したいと、そのモンスターへの挑戦の理由にはここ最近の出来事も起因していたりいなかったり・・・。
「それじゃあ、とりあえずいつも通り小火玉から・・・」
ダンジョン、つまりガイア側の魔法演習場に着いた僕たちはいつも通りに練習を始める。
「そいえばリアム〜?どの区に挑戦するか決めた〜?」
ウォーミングアップも兼ねて小火玉を出す僕に、こちらも手元で小火玉を出すエリシアが問いかけてくる。
「うーん。やっぱり一番簡単なA地区からが良いんじゃないかな」
僕は小火玉が大きくならないように意識しつつ、その問いに答える。ここ2年、マレーネの薬のおかげで抑えられた魔力感覚を覚え、僕は以前の様に馬鹿みたいな魔力を垂れ流すことも今ではほとんどなくなっている。
「でもやっぱり初心者レベルじゃデビューに華がないし・・・目立てないじゃない?」
簡単なレベルの地区デビューでは、大きな成果が得られないと嘆くエリシア。
「ははは・・・目立つことはなるべく避けたいし」
「私は・・・リアムさんと同じであまり目立ちたくない・・です」
そしてあまり目立ちたくない僕とフラジール。
「まあ、こいつに同調するわけではないが・・・僕も貴族、それも領地もちの貴族としてロガリエから大きな成果を上げて武勇伝を作っていきたいな」
しかし貴族としてのプライドもあるのか、できれば難しい方に挑戦したいというアルフレッド。 そしてロガリエとは、冒険者の初めてのダンジョン挑戦を指し、箔を付ける勇敢さ、はたまた失敗から学ぶ原点として界隈で逸しかそう呼ばれる様になった、いわば洗礼である。
「・・・わかった。だったらこっちも初心者用だけど、B地区に行こうか」
そこで僕は折衷案として、難易度でいえば初心者上級レベルであるB地区を提案する。
「まあ・・・初めからB地区に行く冒険者は少ないっていうけど」
その提案を吟味するように考え込むエリシア。
ダンジョンの中はいくつかのエリアに区分されている。セーフエリアと呼ばれる今僕たちも訓練をする安全区域を出ると、モンスターはどこにでも出現する。
因みに僕が2年前に吹っ飛ばした森はセーフエリアとの境界線に接しており、ギリギリその外側に存在する。しかし特にモンスターが集中しているエリアがいくつかあり、それらは初心者用や中級、上級者用とレベル分けがされてAやB、CやDと更には固有名称といった具合で、タグが付けられている。
現在話に上がっているA区とB区はそれぞれ初心者用とされるレベルモンスターがスポーンしやすい地区なのだが、その難易度もそれぞれで少し違っている。また、エリシアやアルフレッドが行きたいと言っているのは中級者用であるC区であり、どちらに挑戦するのかで揉めているのだ。
「まあ・・・リアムがそういうならしょうがないわね!」
結局、僕の案に乗るといってくれるエリシア。
「ありがと、エリシア」
僕はエリシアに礼を言う。
「はっ・・・!そのそれとはまた別なんだけど・・今度一緒に・・・」
すると突如、ゴニョゴニョと口ごもるエリシアであったが・・・
「僕もそれでいいと思うぞ!結局死んだらかっこ悪いしな!」
それを聞き取る事も叶わず、もう一人の反対者であったアルフレッドもその折衷案に賛同する。
「なっ・・・!あんたの意見なんて誰も聞いてないのよ!!」
何故かアルフレッドにキレるエリシア。
「なんだと!・・・お主こそ!!今こやつに何をさせようとしていたのやら」
するとそれを聞いたアルフレッドも、エリシアに怪しげな視線を向けて謎の返しをする。
「なによ!」
「なんだよ!」
そして始まってしまう二人の小競り合い・・・結局二年経っても本質は変わらない、そんないつもの日常であった。




