56 ダンジョンポイントとギルド長
ダンジョンポイント──。
それはダンジョンで討伐したモンスターや、ある一定の条件を満たすことで補充される不思議なポイントである。
ダンジョンポイントはダンジョン内にあるこれまた不思議な交換所で食物や資源、魔法道具などの物資と交換できる仮想通貨のようなもので、そのシステムはダンジョンの神秘の一つとして謎に包まれている。
そしてダンジョンポイントは物資と交換できるということもあり、この世界のレートで1pt=銭貨1枚、つまり100ptで銅貨1枚分の価値として換算することができる。
因みにこのダンジョンポイントをギルドがどう管理しているのかというと、そのタネは簡単、ダンジョン交換所にはダンジョンポイントを魔力を流すことで表記できるシステムがあり、また交換ラインナップにその機能を持つポイントカードが存在するらしい。
そのポイントカードをギルドは特別仕様の魔法道具として改良し、現在の高度なギルドカードを作り上げたと言われている。もちろんその技術はギルドが独占し、機密化されているわけのだが・・・
「わざわざご苦労、君たちはもう下がっていい」
一人の男が、僕以外の人間をこの場から退かせようとする。
「しかしギルド長・・・その子は悪いことをするような子では・・・」
するとその指令を、すんなりとは受けつけない人物がいた。
「君は・・・」
「はッ・・・!はい!・・・テール冒険者管理オペレーターのシーナです!」
それは僕と一緒にこのギルド長室まで付いてきた、僕のダンオペであるシーナだった。
「そうか・・・して君は・・・」
「クロカで〜す。以後お見知り置きを〜」
ギルド長と呼ばれた男に名を尋ねられ、無気力な返事をするもう一人の僕のダンオペ・・・クロカ。
「・・・ということだな。いやすまない・・・面会書には名前が載っていたのだが、何せギルド職員全員の顔と名前を覚えるには職員数が多すぎてな・・・」
ギルド長はそのわかりやすい態度に、おどけながらも頼りなく謝罪を入れて言い訳を述べる・・・しかし──
「とりあえず君達とはもう一度後で話すことになりそうだ。であるからして、君たちは一度外に出て別室で待機していてくれ・・・なあに、彼を煮て食ったり、ましてやハデス行きにするわけではないので安心しなさい」
彼がおどけて頼りなさげなのも一瞬、気付いた時には真面目でありながら優しさを感じさせる・・・・・・なんというか人の上に立つ人物ってこういうオーラを持っているんだと思わされるような威厳を見せつけられた。
「わ・・・わかりました!リアム君をお願いします!」
そのギルド長の諭すような声色に、緊張感を持って返事をするシーナ。
「さっ!クロカさん行きましょう!とりあえず休憩室でお茶でも・・・」
そしてシーナは視点を横にズラすと、隣にいたクロカに向けて声をかけた・・・。
「えっ!本当に待つの!?私後5分で終業時間なんだけど!!?」
しかし僕のことを心配してくれていたシーナとは反対に、どうやらクロカの心配事は別にあったようだ・・・・・・上司の前で、ある意味大物である。
「いいから行きますよ!!!」
しかしそんなことをブーブーと抗議するクロカは、プンプンとその背中を押すシーナによってあっという間に連行されて行った・・・。
▽ ▽ ▽ ▽
そしてクロカがシーナに連れられて部屋を後にした後・・・──
「さて、当人である君を放置してすまなかった。それにしても、本当にまだ幼いな・・・」
目の前の机に着いて語りかけてくるギルド長と呼ばれた男。
「・・・!」
僕はその、彼があらかじめ僕のことを知っていたような発言に、思わず緊張を高める。
「ああ・・・そう構えないでくれ・・・。君のことはルキウスから聞いている・・・というか・・・」
しかし僕の反応に反して、落ち着いて対応するギルド長。
「おいルキウス!お前いつまで傍観してるつもりだ!」
そして突然、誰かを呼びつけるように声を上げる。
「だってこれからがいいところそうだったし・・・」
するとギルド長室の扉から、僕たちが入ってきた入り口とは違う扉の方から、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「学長先生!?」
「やあリアム君・・・驚いた?」
その扉から出てきたのはそう、僕の通うスクールのトップにして、本日色々と裏工作が発覚した学長先生だった。
『学長先生の名前ってルキウスっていうのか・・・いや、驚いた・・・』
僕はそのルキウスと呼ばれ、初めて知る学長先生の名前に驚く・・・──
「ってそこじゃない!なんで学長先生がここに!?」
そしてつい上がってしまう心と現実に生じたノリツッコミ。
「そこじゃない?・・・まあいいや、実はね・・・」
それから学長先生が話してくれたのは、僕と別れた後にケイトを見失ったアランが学長室に今日の事件を報告しにきたこと、学長先生の長い友人であるギルド長に念の為話をつけにきたこと、そして話合いをしている最中に僕が連行されてきて隠れて面白がっていたこと・・・であった。
「つまり報告にあったその不自然なポイントについても、事前に把握していたというわけだ」
そのポイントはおそらく、演習場の森にいたモンスターを大量に討伐したために発生したポイントであろう・・・と説明を足してくれるギルド長。
「いや〜・・・まさかここまで連れてこられるとは・・・。隣の部屋の鍵穴から覗いてたけど、もう可笑しくて可笑しくて・・・プフッ!」
しかしそんな僕の一大事を面白そうに語るのは、我が校学長ことルキウス・エンゲルス。
「笑い事じゃありませんよ!来てたんならどうして最初から庇ってくれなかったんですか!!」
もちろん僕はそんな態度のルキウスに怒りを隠せない。
「だってそっちの方が面白そう・・・アハハ!ダメだ変なスイッチが入って笑いがとまらない!!」
しかしルキウスは僕の抗議も虚しく、遂には大声で笑い始めてしまった。
「ルキウス、お前は本当に昔から変わってないな・・・」
そんな笑い声が上がる中、生徒の一大事を只の笑いのタネとしか思っていないルキウスにギルド長が呆れた声で声をかける。
「あーあ!ダリウスこそ・・・その頭で相変わらず真面目そうだ・・・堅そう・・ブフッ!」
すると学長先生は、今度はギルド長の髪型と性格に焦点を当て、笑いのツボをシフトさせていく。
「うるせえ!これはスキンヘッドっていうアダルティな魅力と希望を秘めたステキヘッドだ!ギルド内でも結構評判いいんだからな!」
「まあまあいいじゃいか・・・こういうことでもなければ、お互い忙しすぎて中々会えないんだから」
そしてそんな冗談を言い合うギルド長と学長先生は、どうやら旧知の仲であることがうかがえる。
「まあな・・・。全く・・・働いてる場所はバカでかい建物を挟んで反対側だというのに、随分と疎遠になっちまったもんだ・・・」
するとその流れで、今度は旧知の仲特有のしんみりとした話をギルド長が始めてしまったのだが・・・
「というわけでリアム君、このギルドの頂点は僕の傀儡も同然だから、今日あった件も含めてある程度のことは揉み消すのでそのつもりで・・・」
唐突に、しんみりとした雰囲気の中表情を変えずにサラッと物騒なことを呟くルキウス。
『いやどういうわけだよ!なにそれ逆に怖い!!!』
僕はさも変わらぬ表情で、とても大事なことをサラッとぶちまけたルキウスに心のツッコミを入れ、精神を落ち着かせようと試みる。すると──
「リアムといったな・・・」
「・・・はい」
突如僕に話しかけてきたギルド長のダリウス。
「遅くなったが私の名はダリウス・ドッツ・・・・・・本日の件、そしてこれからもできるだけ君のサポートをしていくつもりであるが、決してこいつのように性根の曲がったことだけはしないでくれ・・・」
僕に軽く自己紹介をし、ルキウスのように面倒臭いことだけはしないでくれと懇願するダリウス。
「善処します・・・ギルド長も大変なようで・・・」
そして当然、僕はダリウスの願いに対して肯定で返した。
「その歳で分かるか?・・・いやはや思わぬところで良き理解者を得られるとは・・・是非今度飲みに行こう・・・」
すると僕が賛同するや否や、同情を返した僕に今度飲みに行こうと思わぬ反応を見せるダリウス。しかし──
「なにいってるのダリウス?彼はまだ初等部・・・それも適齢にもなっていない子だからね・・・・・・そんな非行の道を進めちゃダメだよ?」
こういう時だけマジレスを返すルキウス・・・。
「そんなことはわかっている!!しかしお前のような奴が友人にいると、相手はその位悩みを抱えるということだ!!」
「全く面白い冗談だね・・・!本当君たちは可笑しくて面白くて退屈しないよ!」
そんなルキウスにダリウスは怒りを露わにし、なんにも応えていないように明るく笑顔を見せるルキウス。
「とりあえず今日はこれにて終了、リアム君は後日にでもまた遊びに来るといい・・・」
しかしダリウスはルキウスを放置し、とりあえずお開きにしようと告げる。
「その時は、ギルド長である私自らこのギルド支部内を案内してあげよう」
そして社交辞令も兼ねてか、今度ギルド内を案内してくれると誘ってくれる。
「ありがとう。それじゃあ遠慮なく遊びに・・・」
しかしその提案に乗ろうとしたのは僕ではなくルキウス・・・
「お前じゃない!」
さも当然のようにツッコミを入れるダリウス。
「ハッハハ!それじゃあギルド長様もお忙しそうだし、行こうかリアム君!」
そしてダリウスのツッコミから逃げるように、そそくさと退散し始めるルキウス。
「あっありがとうございました。また今度お邪魔します」
そんなルキウスに急かされながらも、僕はダリウスとなんとか別れの挨拶を交わそうとする。
「おう!今度ギルド支部自慢の酒場に連れてってやるからな!」
しかしダリウスから返ってきたのは、ちょっと的の外れた内容だった。
『・・・それは本気だったのか』
その予想外な返しに、ダリウスの謎の本気度を感じた僕。
「・・・これからもどうぞよろしく」
そしてギルド長室の扉が閉められる頃、僕の口から漏れたその言葉はきっと、ダリウスには届いていなかった。




