48 ジェグドの追憶
「アースのテールとガイアの転送陣のあった建物って同じみたい・・・」
「そうだな、建物の作りや中身はほとんど同じだ!」
僕とジェグドは転送陣のあった建物からある程度離れ、今も行く街の道中をふと振り返ってその建物を眺める。
「ただし大きな違いもあるぞ!・・・例えばこっちのテールにはダンジョンポイントの交換所があってそこは、オブジェクトダンジョン内で得たポイントを使って様々な物品と交換、またはその逆ができるっていう冒険者や探索者にとってもう一つの生命線となる施設だ!」
そうして歩きながら、ここは教師らしく再びこちら側、つまりガイアのテールについて説明をしてくれるジェグド。
「それに輪廻の門、通称リヴァイブがある」
『輪廻の門・・・か・・・』
その名前は僕も何度か聞いたことがあった。
「リヴァイブは本当に凄い。なんせこちら側で死んでしまった場合、生き返ってその門へと一瞬で転送されるんだからな・・・・・・。ガイアに来る前に負った怪我や病気は治らないが、こっちで負った怪我や病気なら全て完全回復して生き返るし、それに関していえばガイアからアースに帰る時も、その効果は適用される」
先ほどとは少しばかり、ジェグドは声のトーンを落として真面目に語る。
「スクールの初等部中学年からオブジェクトダンジョン内で慣れない魔法を教えるのはこのためだが、だからと言ってわざと死んだり、怪我を負ったりしていいってことにはならねぇ・・・お前もいくら元通りに治って生き返るからって、簡単に自分の体を危険に晒したり、軽視するんじゃねえぞ!」
ジェグドの言葉は途中、だんだんとその明るさを取り戻したものの、とても重いものだった。
「もちろんしません!痛いのは嫌ですし!」
そのジェグドの忠告に、僕はもちろんYesで答える。だって痛いのは誰だって嫌だろうから。
「・・・!」
僕から発せられたその発言に、ジェグドは口をつむぎながらも驚きを見せる。そして──
「ハッハッハ!お前がいくら若すぎるからって、まさかそんなにはっきり『痛いのは嫌!』って明言するとは思わなかったぜ!」
ジェグドは豪快に笑い飛ばし始めた。
「痛いのが嫌だから、とかいう理由で全てを尽くさず撤退するのはなぜか、オブジェクトダンジョンの中では悪徳とされている・・・・・・それは冒険者共通の一般常識であり、作戦の一つだ」
そして暫く笑いに支配されていたジェグドの持ち前の明るさは再び鳴りを潜ませ、ひとときの平穏を見せた。
『げっ・・・そうなの?』
僕はその、バーサーカーのような冒険者オブジェクトダンジョン事情をジェグドから聞いた瞬間、襲ってくる面倒臭さとともにまた一つ、自分の価値観をぶち壊される・・・・・・しかし──
「しかし小さいのにお前はそんなつまらない圧力も簡単に跳ね除けちまうような気概を感じるよッ!」
一つの価値観がぶち壊されたのも束の間、意外にもジェグドはその価値観を肯定し、修復に入った。
「確かに、回復魔導師のいないパーティーでのダンジョン内装備ロスト以外を考えれば、その方法は回復薬のコストなんかを考えると有効的な手段であるし、時には興奮状態に陥りやすくなるのを利用して自身を活性化させる・・・なんて使い方もあるがそれは同時に、現実をより非現実的なものへと近づけ、そして現実に多大な影響を与えることもある・・・」
真剣に、一つ一つ確かめるように語り続けるジェグド。
「俺のダチも・・・」
そんな呟きを残すジェグドからは、過去に思いを馳せ、そこに愉しさと悲しさが介在するような矛盾を感じた。
「おっと、しんみりしちまったな! 悪りぃ悪りぃ!」
しかしそれも束の間、ジェグドは最初あった時のような明るさをみせ、片手を顔の前に持ってきながら謝る。
「なーんかお前と話してると、同じ年頃の奴と話してるような錯覚に陥るぜ!」
そうして笑い飛ばすジェグドに、僕は思わず苦笑いである。
「あの・・・つかぬ事をお聞きしますが、ジェグド先生は何歳で?」
「俺か?俺は今23だ!」
『あー・・・僕の精神年齢と同じ歳か・・・』
僕の精神年齢は、所々体に見合った退化と停滞が見られるものの、基本的には前世と今世の年齢を足し合わせたものとして計算している。
前世の日本では、一時の不完全な平成があった。そしてその世界では知識や学問、技術力や経済力といった、書類上での作業が金銭的価値を多く持つ世界であった。
『世界が違えば人生の密度はここまで異質なものなのか・・・』
それは決して、地球や次元といった話ではない。それはあくまでその人間を取り巻く環境であり、人生観そのものだ。
僕がこれまで培ってきた人生の経験量がジェグドに負ける・・・とは思っていない。しかしジェグドから感じたそのそれは、僕がこれまで培ってきた経験とは質の違いをより感じさせるものであり、ちょっぴり重く感じたのであった。




