43 いざ・・・・・・へ! Ⅰ
一年生の授業が午前で終わる日の午後、僕は今、五年生のSクラスのへとお邪魔している。
「ええーという事で、特別措置を取ることとなったリアムくんじゃ。皆、先輩としてしっかりと面倒を見てあげるのじゃぞ」
「はぁ〜い」
五年Sクラスの担任であるおじいちゃん先生・ダロンが僕を紹介すると、クラスからはいかにも普通の返事が返ってくる。
「まあ、儂は魔法担当ではないからついていくことはできんが、優秀なお主の姉もおることじゃし大丈夫じゃろう。気楽にな」
そうしておじいちゃん独特の、威厳がありつつも優しさにありふれた声で激励の言葉をかけてくれるダロン。
「はい!頑張ります」
その激励に僕はハキハキとした返事をする。
「うむ、いい返事じゃ。それじゃあまたの」
「これからもよろしくお願いします」
「ホッホッホ・・・」
それからダロンは一度教室を見回した後、教室を後にした。
▽ ▽ ▽ ▽
「ガヤガヤ・・・」
ダロンが教室を去った後、教室には様々な音が入り乱れ始める。
『とりあえず、荷物を置こう』
そして僕は一番前の机に荷物を置き、荷物を整理しようと椅子に腰をかける。因みに前の席に座ったのは、次は魔法練習による外での授業であるため、なるべく支度を早く済ませようと言う単純なものである。すると──
「かわいぃ〜!ねえ、是非私たちと一緒に行きましょう?」
「そうね・・・こんな可愛い子、ガサツな男子には任せておけないわ」
「なんだと!おい、もういっぺん言ってみろ!」
「なあ、男同士、こんな奴らほっといて俺たちと行こうぜ!」
席に座ると一呼吸おく間もまなく、教室にいた一部の生徒達が僕に話しかけてくる・・が・──
「ヒィッ・・・・・・」
突如、どこからともなくとても冷たい冷気が流れてきて、僕に声をかけてくれた先輩の内の一人が両腕をさすりながら情けない声をあげる。
「か・・・カリナ姉さん?」
僕もその寒さは感じ、ついその教室を包む冷気の流れてくる方へと視線をやると、そこには見慣れたカリナ姉さん・・・と、その頭上に浮かぶ大きな氷の塊があった。
「「「「姉さん・・・?」」」」
そしてその僕の発言に、ハモる先輩生徒たち。
「そういえば、今年からカリナさんと一緒に登校している一年生の子がいるって噂・・・」
「あ・・・あったなそんな噂・・・まさか・・・・・・」
「へ・・・へぇ〜、姉弟揃って優秀なんだ〜・・・・・・」
「マジか・・・・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ごめんなさい!カリナさん、別に私たちあなたの弟にちょっかい出そうとしたわけじゃないの!」
「そ・・・そう、ただちょっと仲良くできたらな〜って、だから・・・ね?その氷の塊をしまって!」
「そうだ!・・・今度家のシェフに作らせた砂糖を使ったお菓子を持ってくるから!」
「り・・・リアムくんも弁明して、是非我々の庇護を・・・」
そして先輩生徒たちは次第に怯え始め、しまいには庇護してくれと、なぜか先輩後輩の関係が逆転した瞬間である。
「問答・・・無用!」
そのカリナ姉さんの声を皮切りに、脱兎のごとく、見事にその場から離れていく先輩たち。
しかしその逃走も虚しく、カリナ姉さんのその頭上にあった氷が分裂し、彼らの頭上まで移動、それから更に分裂し礫となり、まるで氷のように降り注ぐ。
「ぎゃーーー!」
「つめた〜い!」
「ヒィーーー!」
「ヒヤッフ〜・・・ン〜、無理!」
そして先輩たちは、その礫の数々をあらゆる手を使って回避しようとする。
「ヤッホ〜、リアムくん」
そんな非日常的な光景の中、僕に話しかけてくる一人の少女がいた。
「ラナさん・・・こんにちは」
僕に話しかけてきた少女はラナ。初めて出会ったのは入試の時、スクール初登校の日から何気にほとんど毎日一緒に登校している見知った仲となっていた。
「こんにちは、リアムくん。そういえば、今日から一緒のクラスで魔法や勉強をすることになったんだから、私の呼び方はラナでいいよ〜?私もリアムって呼ぶから!」
「えっ・・・はい、あのラナ・・・さん」
しかしそう言われても、僕は一応先輩にあたるラナの名を直ぐに呼び捨てにすることはできなかった。
「ま、直ぐには無理、か。でもいつかはもっと親しい呼び方をしてほしいかな・・・あっ・・・じゃあ今はラナお姉ちゃん!でもいいよ!」
すると束の間、氷の礫が一つ、僕とラナの間をものすごい速さで突き抜ける。
「当たり前よラナ!リアムはあんたと違って礼儀正しいいい子なんだから!それにリアムのお姉ちゃんは私一人!これは絶対!」
「はいはい、どうせ私は軽くて礼儀が悪いですよーだ」
そしてカリナ姉さんの横槍に、ブーブーと不貞腐れるラナ。
「いや〜、それにしてもリアムの優秀さは身をもって知っていたけど、勉強の方じゃなくて、まさか魔法の方でご一緒することになるとは想定外だよ!」
「あの〜・・・あれ、止めなくていいんですか?」
しかしラナはそんな不満を直ぐに切り替え、何事もなかったかのように話を続ける。
「ああ〜、いいのいいの気にしないで!あれ、カリナなりのスキンシップだから」
「スキンシップ・・・」
僕はそれがカリナ姉さんなりのスキンシップと聞き、いつも僕にとってくるそのそれと、今起こっているそのこれとのギャップに少し驚愕する。
「それにクラスの連中も分かっていて付き合っているから大丈夫よ」
『えっ・・・あれってお互い了承済みの上で成り立ってるの・・・?』
さらにそんな驚愕の事実を述べるラナに、僕の頭の常識はどんどんと置き去りとなっていく。
「前にもちょっと話したと思うけど、カリナは良くも悪くも、皆と一線を画す存在だからね〜」
なるほど・・・初登校の日に聞いた話から、僕はカリナ姉さんが教室で孤立しているのではないかと考えていたけど、どうやらその心配は杞憂だったらしい。
「それにしても、今日はなんだか長めだね・・・」
しかしそんな僕の安心も他所に、逃げ回る四人にはあまり良くない報せを呟くラナ。
「ちょっとカリナさん?なぜかいつもより威力強くありません!?」
「そうだぞカリナ、さん!流石にもう許してくれよ〜!」
「よ、よし!・・・おすすめの巷で噂のベリーパイも追加で!」
「フハハ・・・なんのこれし・・グハッ!」
「「「マルコ!」」」
「へへッ・・・みんな、生きろよ・・・(バタッ」
するとそのマルコと呼ばれた男子生徒に少し大きめの礫が直撃、まるで歴戦の戦士がごとく見事な最後・・・ではないものの、被弾した彼のその顔は己の全てを出し切り雌雄を決する戦場に散っていった戦士のような、そんな満足げな表情をしていた。
「急所は外しておいたわ・・・しかしもう目覚めることは・・・ない」
「「「マルコ〜!!!」」」
「オウ・・・グッド・ラック・マルコ・・・・」
実は少し乗っているのではないかと思わせるカリナ姉さんのその発言に、一人の先輩は少し大きめの礫が直撃し既倒、周りの他の仲間たちは倒れいったマルコの勇姿を惜しむがごとく彼の名前を叫び、倒れた彼にエセ外国人のような激励を送るラナという配置。
『なんだこの寸劇・・・』
僕はそのまるで繰り広げられる寸劇のような光景を見て、カリナ姉さんの被害にあった先輩方には失礼ながらもついつい、そんなことを思ってしまった。




