40 体験授業 Ⅱ
「いやはや・・・・・・話には聞いていましたが、これは凄いですね」
ビッドは根茎と葉をつける軸、マンドラコラにそういった名称が存在するのかは知らないが、丁度、植物における胚軸あたりを僕に掴まれて人のようにさっきまで走り回っていた根茎を蒼白とさせながらも、しかしその葉の至る所に突如として実った鮮やかで立派な実をつけたマンドラコラを見て感心する。
「ゼェ・・・ゼェ・・・・・・ありがとう・・リアム」
そんなマンドラコラを掴む僕の横にはうつ伏せで、先ほどまでマンドラコラと追いかけっこを繰り広げていたエリシアが息を切らし倒れていた。
「ええっと・・・・・・うん、大丈夫?」
「だ・・・大丈夫よ・・ゼェ・・・このくらい」
僕の質問に、体をうつ伏せから仰向けにしてそう答えるエリシア。
「あの、ビッド先生、それでこのマンドラコラはどうすれば良いのでしょうか?」
どうやら特に問題のなさそうなエリシアを確認し、僕はその手に掴むマンドラコラのその後の処遇をビッドに質問する。
「そうですね・・・そのマンドラコラはリアムさんの魔力のおかげで実をつけるまでに一気に成長しましたので、解毒薬の材料としてこちらで貰い受けましょうか」
「いくらあっても困りはしませんので」と付け加えるビッドに、僕はその言葉に了承の意を示しながらも少し不可解な表情で、手に持つマンドラコラを引き渡す。
「どうかしましたか?リアムさん?」
そんな僕の表情から、ビッドも何かを疑問を抱く僕の思考を読み取ったのだろう。
「いえ・・・その、マンドラコラって叫び声に何かしら悪い効果があると聞いたことがあったので」
確か、前世ではよくファンタジー要素の定番として出てくるマンドラゴラやマンドレイクには強い幻覚や幻聴、時には人を死に至らせるようなものをその声に含んだものが描かれていたはずだ。
『名前がちょっと違うけど、それでなくとも実際に存在するマンドレイクは神経毒を持っていたはずだし・・・』
僕はそんな前世の知識の引用から、先ほどの「自然界に存在するマンドレイクの捕獲練習」と言う言葉も引っ掛かり、その疑問を、薬物学を担当するビッドに投げかける。
「そうですね、その通りです。リアムさんはよく勉強なさっているのですね」
そんな僕の疑問にビッドは賛称と肯定で答える。そして──
「この温室で育てられているマンドラコラには外敵がなく、一年中保たれた環境の中で育てられています。ですから、外敵や環境の変化がないここのマンドラコラ達は通常、外敵避けとして発達した叫び声にその効果を持ちません」
ビッドはその疑問に対する答えを教えてくれる。
「ですが自然界のマンドラコラ、つまりはマンドレイクには、その叫び声に非常に強力な幻覚・幻聴の呪いを含んでいるため無闇に触れると危険です」
それから、自然界に存在するマンドレイクについての適正な注意を付け足す・・・そして──
「薬物学は基本的には薬物の生成や特性について学んでいくものであり、それだけでも十分な報酬を得ることが可能ですが同時に、それは生物学・植物学といった他分野とは切っても切り離せない学問です。ですから、薬物の生成という用途以外にも幅広い知識を学び、そして様々な場面で役立つことは保証します」
マンドレイクの説明の後「是非、リアムさんや他の皆さんも、薬物学を履修することをお勧めしますよ」と、しっかりと薬物学の多様的な意義について触れて勧誘してくるビッドに、僕は思わず脱帽した。




