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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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89 M norm


「本当に、ウォーカー家の皆様にはご迷惑をおかけしました。お詫び申し上げます」


 ガスパー、テム、ゲイルの前でリアナは深々と頭を下げる。


「この女に私たちはどれだけッ!息子を巻き込んだ挙句に弄んだのだぞ!!!それを他国の王族の家系だからと見過ごされるとは何たる屈辱か!それをいけしゃーしゃーと私たちの前に面を見せおって!!!」

「弄んだことについて弁解のしようもありませんが、一部、私の愚行について訂正をさせてください。ゲイル君に飲ませたのは私のオリジナルの不味い魔力回復薬です。その後にファンタジアという私の持っていた魔法で幻覚を見せて空間魔法で彼共々をリヴァイブの門まで運びました」

「魔法で幻覚を見せましたって、そんな確認のしようもないことで言い訳しているではないか!」

「その件については、僕は彼女の言葉を信じようと考えています、ガスパーさん」

「なぜ君が口を挟む!」

「シルクはダンジョンの中で死んでしまえば自分は生き返れなかったのではないかという前提で動いていました。ですがこれではゲイル君だけ殺して自分だけ転移という方法をとっても同様の演出はできる。僕が彼女を信じる理由はその境遇に同情の余地があるからです。自分の命を常に握られる感覚をご想像ください」

「そんなもの想像できるはずもないだろう!」

「あくまでも、私は参考人として意見を述べているだけです。ということで、本日は僕も彼女の付き添いだけできたわけではないんですよね。今日はビジネスのご提案をさせて参りに来ました。考える時間が必要だと思いますので、解答はどちらも後日にいただきたい」

「こんな状況で──・・・テム、ゲイル、外しなさい」

「リアナ。君も外してね」

「はい」


 ここからは、ウォーカー商会のトップとの商談である。


「ウォーカー商会の運送事業部門の買収のご提案をさせていただきに来ました」


 ひずんだ声でガスパーは問う。


「私を謀ったのか」

「はい。ですが僕はちゃんと筋は通しました。銀行への申請があったとは聞いていますが、一切、その時に提供されたであろう資料には目を通しておりません」

「話にならん」

「でもウォーカー商会の運送部門は今や不採算部門なのではないでしょうか?」

「ウォーカーが展開しているのが運送業だけではないということを承知の上での提案ということか・・・」

「はい」

「提案を聞くだけは聞こう」

 

 いつも世話になっている銀行の所有者を無碍にもできないといったところだろう。


「まず、部門を切り離す上でそれぞれ株式会社で運送会社と倉庫会社に分けて、それら2つを保有する親会社の3つ会社を作って欲しいんです。エアデプールでその親会社を買収させていただきたい」

「子会社を増やすことでランニングコストが増えると思うのだが?」

「承知の上です」


 呆れた様子で、諭すようにガスパーは応じている。


「正直、最近は当事業部門が低迷してきていることは事実だ。そして倉庫会社に分けるという提案をしてきたということは、そちらの出資分の回収が進んでいないことに目星もつけていると」

「スターマップ貨物の売上が順調に伸びてきていますから」

「やらしいやつだ。一番の大口で安定した収入源であったギルドの物流を奪うような真似をしておきながら」

「エアデプール傘下の事業も順調に進んでいます」

「挙句に、ギルドから大量の空間属性魔石を取り上げたとそうだな。買収資金はそれか?」

「現物出資でもよければ多少の融通はきかせてもらいたい」


 ガスパーの僕に対する評価はこの1年で劇的に変わった。

 ただの息子の友人からビジネスパーソンへと昇格したのか、はたまた息子のゲイルに勉強の機会を与えたことの分の借りを返してくれているのか、僕に勉強させようと落ち着き払っている。

 だがその認識は、すぐにひっくり返ることになる。


「ですが、まぁ空間属性魔石の現物出資でもいいですけど、もっといいプランがあります。僕はあなたが9割方、今回の提案を呑むと思ってここに座っています」

「また大きく出たものだ・・・9割、私が再建できないと侮られているのか、経営について素人の君に」

「いいえ。あなたの手腕があれば時間を掛ければ再建もできるでしょう。ですがその1番の障害となるのが、皮肉にも素人と言った僕の所有する会社であることは事実でしょう?」

「・・・これだけの成功をおさめている君に素人呼ばわりはセンスのない発言だった」

「僕とあなたは顔をあわせれば常に殴り合ってる感じがします」

「思えばそうだな・・・」

「だからここらで僕が思いっきりぶん殴ってとりあえず真っ向から殴り合う関係に休符を打たせてもらうつもりです」

「メルクリウスで勇者の偽物と鯨を打ち倒した次は財界の巨人である私を倒そうというのか、小さな冒険者よ」

「僕はおたくの坊ちゃんを9回、自死に追いやった。でも僕もまたゲイルには殺されかけましたね。だからもう一回くらいなら、殺してもいいかなと思いまして」


 ガスパーに提案書を差し出す。

 ジョークにするつもりはない。僕は彼に殺されかけた。

 でも死ななかった。ゲイルは僕とアリアの仲間たちを最後まで繋ぎ止めていてくれた。

 僕がゲイルにどれだけ感謝しているか。

 だからただ謝意を示すのではなく、勝負したかった。


「スターマップのスキームにウォーカ商会の抱える顧客と販路が加わる。その時価評価額はどのくらいになると思います」

「スターマップ貨物の有価証券・・・本当か、これは。夢ではないのか」

「株式交換です。負債との相殺と事業の価値を鑑みてスターマップの発行済株式総数の1/3以下で収まるようきりよく30%分、かつ無議決権譲渡制限付きですが余剰金配当と残余財産の分配も付きます。組織再編成ということで特別決議となりますが僕が所有するエアデプールの完全子会社です。細かな調整は追々として足りない分は空間魔石でもいいですし、現金でもいいです。ついでに若い取締役がいると頼もしいんですが。場合によっては議決の代理人に無議決権ですが有価証券を持つ方を指名したい」


 ガスパーの手が震えている。こちらの意図をすべて察したのだろう。


「こんな現金化に難のある対価で・・・」

「名声も欲しいというのなら社名にも付け加えましょう。スターマップ・エアデプール&ウォーカー会社でどうでしょう」


 何とか跳ね除けようとする意志が見受けられる。正しい姿勢だ。


「なぜこんな。あなたにメリットがあるとは思えない。ジワジワと価値をもっと下げてから買収したほうが明らかに安い買い物になったはずだ」


 ガスパーが疑るのも道理だった。だからリアムは真摯に答える。


「もういっかい殺したら後々に残るのは、ああして彼の犠牲の上に成り立った勝利を摑まされた情けなさと彼への感謝と恩義だけです。僕がゲイルにどれだけ感謝しているのかは筆舌に尽くし難い。そんな頼もしい彼を僕は頼りにしたいし、頼りにされたら嬉しいと思います」

「・・・引き取って後日に回答をさせていただきたい」

「はい。お待ちしております」


 ガスパーはこの条件を呑むだろう。それくらいにウォーカーの運送市場はスターマップに呑まれつつある。


 夜、自宅。


「あの時のお嬢ちゃんがなぁ・・・」

「人生ってのはどう紡がれていくものか。面白い」

「楽しいか、最近どうだ」

「楽しいよ。でも寂しいこともあった・・・婚約の件、断ってきた」

「・・・どうしてだ」

「誠実でありたかった。それは父さんと母さんに対してもだけど、どうしても理由を話したくない。知ればきっと僕を産んでしまったことを後悔する」

「そんなことない」

「いいや。そんなことないと言ってくれる父さんたちだから、後悔することになる。僕は心の中でいつも家族に縋ってる」


 黄経の差がゼロとなる夜、リアムとウィルは庭から空を見上げる。


「・・・近日中に、ケレステールに入ることになりそうなんだ」

「そうか」

「もういっかい、今度は瞬殺する」

「泣くなよ・・・大丈夫だ」

「ごめんなさい、父さん」

「大丈夫だ」


 見えない月を見限るように下を向いて飲泣呑声いんきゅうどんせいと涙を流すリアムの肩をウィルは優しく寄せて頭を撫でる。


 4日後、ウォーカー商会本支店。


「すべては掌の上だった。なぜピーターメールの監査にゲイルを就かせたのか、ようやく理解できた。何も考えていない仲良しごっこだと思っていたがあなたはゲイルを自分好みに育てていた。上質な糸を出す蚕のように」

「蚕は今回の釣り向きのいい釣り餌だった」

「釣り上げられた私の価値はどうだった」

「大物も大物。水槽を特注して作って飼いたいくらいに立派でした。でも水槽に入らないほど巨大な鯨はもう僕の手の中だ」

「私は鯨に呑まれたのか。だがそれは友のすることか」

「僕は勝った。あなたのウォーカー商会に。ゲイルは友人のままです。だがスターマップの件についてはウォーカー商会とは上下関係をはっきりさせなくてはならない」

「天晴れだ」

「では、お話を詰めましょうか。蚕食鯨呑さんしょくげいどんと市場を支配するとしましょう」


 リアムとガスパーはそれからお互いの理想を語りながら白熱とした議論を進める。


「配当として召し上げる。だから切り離す事業部門の会社をわざわざ・・・これならランニングコストに見合うどころか実質タダで買うようなものではないか・・・」

「負債の分、あなた方が損をしているし、僕たちが引き継いでそれを払うことになる。目的はあくまでも管理のしやすさに重きを置いた結果です。だからとは言えませんが、企業価値の算定と差額の補完はきっちり詰めます」

「負債と言ってもその分安く買う予定だろう。となると合併後の比率についても視野に入れなければ」

「議決権等々、比率は変わらないよう調整しましょう」

「とんだ食わせ物だ。いいだろう」

「ところで、エアデプール傘下のブループリント社では新しいデザインの服をいくつか作る予定でしてね。よかったら共同でやりません?」

「それは私たちの領分だ。ぜひ、交渉の席について話を聞かせてもらいたい」

「だったら奥様とゲイルも誘ってリヴァプールあたりで食事しましょうか。鈴屋でどうでしょう」

「それはいい。スターマップの下見もさせてもらえるのだろう?」

「もちろん」


 この1ヶ月後、買収は完遂されスターマップ・エアデプール&ウォーカーと新会社を傘下に納めアウストラリアで比肩する会社のない物流網をエアデプール会社が握ることとなった。




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