88 L norm
「おはよるー。なにしてんの?」
「おはゆめ、ナオト」
「肉まんにはカラシだ!」
「いいやそのままがいい!」
「「どっちだナオト!」」
「気分は酢醤油」
「はぁ、そうやった。こいつ酢醤油派やったわ」
「解散解散」
「人の記憶を食い漁ってんなぁ」
「こちら、手隙の間にまとめたデータです」
「ありがと。じゃ、起きるから」
「はい」
おはよる、おはゆめ、とこれが僕たちの目覚めと眠りのあいさつである。
「おはボル!」
「おはようゼンライカ。早いね」
「リアムより早く起きて起こしにくるのは私にしかできない役目です」
「そんなことないよ。僕だって風を操ればできるもん」
朝から中々、周りが騒がしくなった。今日はリアナとノーフォークに行く予定だ。
3月、如月、朔日。
「やぁロバート。ご飯ちょーだい!」
「私もご相伴させてくださいな」
「ドラゴンが、増えた・・・そうだリアム君は!?ステディエムで大変な事があって王都から急いで帰ってきたのです!」
「リアムならいまリアナと一緒にノーフォークに行ってるよ」
「いつ帰られるかご存じですか!?」
「今朝出ていったから・・・わかんない」
「今朝でわからない!?」
「ゼンライカです。私もしばらくウーゴの側に滞在することにした。サイレンとここを行ったり来たりするからよろしく」
「ロバートです。ところでそちらの方は」
「どうもロバート。私はドミナティオス。空間属性の精霊たちの長をしております。この度はスターマップ貨物の従業員という形でしばらくベッセルロットに滞在させていただくことになりました。よろしく」
「・・・ドミナ、ティオス様」
「焼いた魚のような白い目をされていらっしゃる」
「えっ、魚じゃなくて肉がいいな、ぼく」
「よし、今日はパァーッといきましょう!海竜様!」
「肉!肉!」
「もちろん!ベッセルロット中の肉を集めさせましょう!」
ロバートは情報の整理と収集をやめて、一旦、目の前の課題からこなすことにした。
ノーフォーク。
「よくよく考えてみたら旧暦だと閏月というのを差し込むんだよ。現代では1月は睦月、2月は如月、3月は弥生という風に重ねられるけれどこの3ヶ月って春のくせに寒いのなんのって。だから新暦とは1ヶ月ほどズレるわけ。事実とズレた手紙、その辺も8. Stockのことを暗喩していたのかもしれない」
「なるほど」
「じゃ、リアナ。そろそろ離れてくれるかな」
「でも緊張して怖くて・・・」
「ちゃんと事情を話して。そしたらお母さんについて少しは聞かせてくれるかもしれない」
リアムとリアナは森の木陰の薬屋へと入る。
「おはようございます」
「リアムかい?」
「ええ・・・」
「やりすぎだ。色々とだ」
「ですが必要なことでした」
「はぁ・・・リム坊。で、そっちの子はエルフかい?」
「ハーフエルフです」
「ハーフ、そうかい」
「マルデルの娘のリアナです。少し前まではシルク・ハッターとして指名手配されていました」
「事情を聞かせてもらえるんだろうね」
「リアナ」
「もちろんです。はじめまして。リアナ・レッド・スピリッツです」
「マレーネ・ゲー・ホワイト。レイアは今スクールだ。ちゃんと時間は選んだようで関心した」
マレーネの気遣いで、店の奥に通してもらいリアナの事情を伝える。
「それで私に何を、求めるものは?」
「僕が求めているのはこのあいだ頼んだものだけです。マレーネさんとお話ししたいと申し出たのは彼女ですから」
「わかったよ。少し待っていてくれ」
マレーネから紙の束を受け取る。
「ここ100年のおおよその年齢別の死亡率及び原因をまとめてある。そんなもん何に使うのか私には全く検討がつかないが」
「ありがとうございます。お礼をお支払いします」
「いらないよ」
「では、せめてこちらを。僕が新しくはじめたブループリント社で作ったガラス製の器具類とリヴァプールで仕入れた水の魔石です。それからスターマップ貨物の割引券もおつけしておきます」
「人たらしだね。助かるよ。ありがたくもらっておこう」
「これでも足りないくらいです。うーん、出資が必要になったらいつでもケレステール銀行に相談してください。丁寧に対応してもらえるように話をしておきますから」
「私は私の手が届く範囲で手一杯だよ」
「お金に限らずこれからも何かあったらいつでも遠慮なく相談してください」
「・・・どこか遠くに行ってしまうような口ぶりだが、そうだね。リム坊はこうして目の前にいるから忘れがちだけど、ノーフォークから出てあちこちに行っていろんな経験を積んでいる最中だからね。くれぐれもこの子を裏切るような真似をするんじゃない。いいね」
「はい。心得ます。同郷の方の教えです。大切にします」
「そうかい」
「ではそろそろ失礼します。今日は色々と回るところがありまして」
「いつでも顔を出しな。それからリアナ。確執はあるがつまらない顔してないで、もう少し笑っていて年寄りの機嫌をとりな。その方が私も安心する」
「はい。ありがとう、おばあちゃま」
マレーネはとても長く生きたエルフで薬剤師でもあり医者でもある。この店には彼女のこれまでの経験が記してある膨大なカルテが保存されている。
また、マレーネの息子エドガーは命の属性を研究するにあたってここ100年の人の寿命を調査し研究していた。
ここには病気になった人の年齢等を含む身体的な情報と余命に関わる情報が詰まっている。
シックに挑む前に、一度マレーネを訪ねて相談していた。もしドミナティオスというアテが外れた時の予備手段としてだが、それ以外にもこの情報を提供してもらうことに狙いがあった。
「それで、何を頂いたのか気になりますねー」
「ドミナティオスのアテが外れた場合に少しでも助けになるように、シックに挑む前に頼んでおいた資料だ。だが、そうでなくともこれは非常に有用なデータだ。これで一個上のビジネスができるようになる」
「どんなものか教えてもらえるのでしょうか」
マレーネは友好的に資料を提供してくれた。この資料から僕が生み出すのは、公平な金の集約システムである。
「生命表だ。ライフテーブル、もしくはデステーブルとも言う」
ハレー彗星でも有名な天文学者ハレーは大数の法則が人の寿命にも当てはまると証明した。これが近代生命保険の誕生へとつながる。
「これを使って保険屋をはじめる」
保険会社は機関投資家としての面が非常に大きい。
なぜ生命からか、ギルドの各種部門やベッセルロッドの海上運送に関わる貿易組合のような、すでに組合による損害保険に似た制度はある。だが、これが合理的に運営されているのかと言われるとそうではない。
まずはブルーオーシャンの生命保険会社からはじめ、後々に損害保険会社へも手を出していく予定だ。
軌道に乗れば、僕はまた一歩、この国の経済の掌握、延いては他国の経済をも侵食して影響力を強めることができる。
「この世界には種族差がある。これがネックだったんだ。差別と指さされようが明確に種族による区別は必要になる。だが、特定の種族専門として商売するとそれでも醜聞が立つ。これで少しは多様な種族を対象にマシな商品を提案できる」
ゆくゆくは人には人、魔族には魔族、獣人には獣人、妖精には妖精のための商品を用意できるようにならないといけない。ホワイト家のカルテには、その足がかりとなる情報が詰まっている。
ブラッドフォード邸。
「というわけでして、ギルドに販売権を認めることになる事態も一応あると報せておこうかと」
「承知した」
「それで本題ですが2つあります。まずは僕のことからお話しさせてください。リンシアさんに同席して頂いたのもこのためです。順序としては、まずはノーフォーク家よりもこちらに話を通すのが筋だと思いました」
僕は改めて、姿勢を正してヴィンセントとリンシアのそれぞれと目を合わせて切り出す。
「私、リアムはエリシア・ブラッドフォードさんとの婚約の破棄を申し出ます」
・・・これは、ぜったいに必要なことだった。
「突然のこととは思います。ですが、どうしてもエリシアさんとも、そしてミリアさんとも婚姻関係となることはできない事情ができました」
「それは、なぜか。思い人でもできたのか、それとも・・・」
「いいえ。僕はその事情が片付かない限り、誰とももうそういった関係にはなれない」
「その事情というのは、お聞かせ願えるのかしら」
「はい。ですが一切の他言をしないと誓っていただきたい。これは僕の両親にも話していない秘密です。あなた方に話すのはヴィンセントさんのお父様も絡むお話しだからです。僕はエリシアさん、ミリアさん、そして僕の家族も巻き込みたくない」
記憶を辿った今でもやはり僕はベルのことは好ましく思う。だが、鈴華がこの世界で経験を積んだように、僕にも向こうの世界で、そしてこの世界で積んだ経験がある。
エリシアやミリアと過ごした時間は鈴華と過ごした時間よりもずっと長い。もちろん、ベルの正体が知れたからだとかという理由ではない。
問題は根深く、そして実にシンプルだ。
「家長を離れに追いやるとは、とんだ親不孝者に育ったものだ」
いつかリンシアが過ごしていた庭園の離れから、あくびをしながら呑気に出てきた黒い髪に赤い瞳で顔立ちだけ整っているが性格に絶対に、ゼェっタイに難のある男の魔力をリアムが感知する。
「死ねぇえええブラック!!!」
「よぉ、クローウ!!!」
血が湧き沸騰する間も惜しんで、兄弟の魔装が激突する。
「はっは!テメェよくも俺たちの前に面だせたな!」
「死に損ない!今度こそあの世に送ってやるから首出死に晒せ!」
再会に湧いた衝動が抑えられない兄弟が牙を剥き出しにダンスする。
剪定された薔薇の多くが散ることはないが、土が風に吹かれて園路へ舞い被る。
庭園が・・・めちゃくちゃだ。
「・・・というわけでして、ヴィンセントさんのおじさまが僕の中に宿ってる始末です」
「父上・・・」
「ここに屋敷を構えたのはローズの意向だ。私はこんな男さっさとくたばっちまえと思ってたからな」
まだ3月も上旬、石畳の上に正座はまあまあ堪える。
「エリシアさんには伝えないでください。僕のせいにしてください。それでも真実を伝えるのかどうかはご両親に一任したく、無責任ながらどうかエリシアさんのケアをお願いします」
「君がそれだけエリシアを思ってくれていることに私は感謝している。娘を愛する父親として君の申し出を受け入れる・・・娘にはとりあえず真実を伏せる。許してほしい」
「こちこそご迷惑をおかけします。・・・ありがとうございます」
深々と頭を下げてヴィンセントとリンシアにエリシアのことを頼む。これ以上、僕に関わらない方がみんな幸せだし、僕も・・・楽だ。
「おらもっと丁寧に土をかぶせろ!土は布団っていうだろうが!」
「種まきじゃねぇんだよ。後片付け手伝ってるだけありがたがれよ」
「リンシアの監視がなければ今すぐにでも鎌で首を刈り取ってやるものを・・・リアナは、どうしたいと言ってる」
「両親に会いたいだろう。父親の方は知らないが、母親の方が問題だ」
「やらかしたらしいな。マレーネに聞いた」
箒で園路の土を掃きながらブラックと今後についての話をする。口が自然と悪く距離が近いのは僕の中にいるクロウの記憶とベルの記憶があるからだろう。
「首を治してもらったんだろ」
「あの針は使い方次第で命を簡単にぐちゃぐちゃにできる。回収したんだろうな」
「すり抜けた。そっちこそ100年あったんだ。少しは情報を集められてるんだろう?」
「レッドはロマンスにいる。長年の捜索で憔悴しきって、せめて生きた証を残そうと画家をやっている」
「棺桶に片足突っ込んだ死にかけの父親が、なぜロマンスを選んだのか・・・」
「レテからの警告があった。近年、行方が掴めなくなった輩が増えているがその中に見覚えのある奴が混じっている。元ロマンスの女王 ヴィクトリア・ロマンス。世間では老衰で死亡したことになっているがレテには流れてきていない。ヴィクトリアが安置されたアンバーの遺骸を冒涜し、リアナを攫った黒幕の正体として一番の候補だと睨んでいる」
「・・・ロマンスの若き女王は、戦場でも種族を問わず慈愛に満ち溢れ多くの命を救った」
「ヴィクトリアの幽香すらも掴めない俺たちの目は節穴もいいところだろう・・・だが、お前が気になっているのは世界の安寧のことだとかよりもベルのことだろう」
「ケルビムとソーマの穴埋めにエデンを鈴華に預けるなんて君たちの結論には甚だ遺憾の意を抱くばかり。それをエバだなんて。彼女は元は人なんだ」
「どっかの誰かさんが管理人を代わってくれるのなら、今すぐにでも息を吹き返させる」
「断る」
「お前はベルのことを愛しているのだと思っていたよ」
「代わってやることが大切な人を救うことになるかどうか。それに僕だって心の底からそんな役目は望まない。輪廻の傀儡になることなんてどこの誰が望む」
「・・・身をつくし、心を尽くし。この詩がずっと堂々巡る。歩みを止めずに夢を見ましょう。千里の道も一歩から、始まることを信じましょう。腕を振って足を上げて休まないで歩いてさようなら、お元気で、大好きです、みんな・・・世界を救いさようならと最後の言葉を残して去った俺たちの大好きなベルが自らを牢獄へと閉じ込める姿を見送ることしかできなかった気持ちは、彼女の心の支えだったお前に伝えなければならない、いま、このときですら筆舌に尽くし難い・・・すまねぇ」
「リアナはどちらにしろこの国からしばらくは動けない。身元の保証がまだされていない」
「俺がレッドを迎えに行こう」
「送ろう」
「俺もレッドも、自分のケツくらい自分で拭ける」
妙なプライドを張っているようにも思われるが、僕が始末をつけることもない。
「懸念はこんなところだ」
「まず孫のことはほおっておけ。クォーターだ。いっかい血を取り込めばそれで大丈夫だろう」
「で、残った問題に何か心当たりはあるか?」
「チェルニーとジョシュとリアナは闕失のある状態を正常とエデンに更新することで輪廻へと戻したらしいが、そもそもエデンはもっと無常であって、単純な魂の闕失程度では輪廻から外れることはない」
「というと?」
「この世界には2つの輪がある。一つは命の樹を廻る輪、そしてもう一つがドラゴンの水晶を廻る輪。まったく別の輪が絡んでしまい引っ張られている状態であり、お前にわかるように言えば、繋縛だ」
「鏡像とはならない。不斉のような対掌の祈りをどう解く。竜人はどうなる」
「そこは上手く互いが解脱できるように作られている。ドラゴンの輪を作る話はシエルとの契約に含まれケルビムたちも参加している。そうして作られた魂の収容される輪堂水晶は婆羅門へと廻るドラゴンの水晶輪廻を世界に生み出した。ファウストの問題点は婆羅門を通していないという点だ。アンバーもドラゴン、故にアンバーに作り替えられた魂が2つの輪に雁字搦めにされ、もしくは引き裂かれるかもしれない。今は里で竜人になる時にオブジェクトダンジョンには入らないようにと教えている筈だ。それは死んでも他と同じように生き返れないからだ。だが、マルデルの孫は生き返れた。そうだろう?」
「前世では命は断滅するものだと思っていた。世界は短期的に見れば恒常だが、宇宙の始まりと終わりを論じれば無常だとだ。竜人の在り方を根幹とし我をあろうことか混ぜ合わせることで再生のない道を目指すVOXの思想は、破滅的だが定理としては美しい」
「再生のある道を歩く俺たちとは違い、お前には再生のない道を歩く機会が与えられた。その思想を萌芽させたのはVOXだけではない。竜人の中にもちらほらといる。アンバー王の伝説を崇める神竜教の中から奴等に近い思想へと至る者たちもいるらしい。便宜上、俺たちは世界と呼んでいる」
「ヒントを与えたのは聖戦でのアンバーの封じ方か。ただし今回は封じられるのはアンバーではなく神であり、呑み込むのは虚空ではなくドラゴンの力を宿した人だ」
「お前の中にいる彼女に頼りたくない、それでもヒントが欲しくばドラゴンの里を訪れるといい。誰もがニルヴァーナ・オブ・アンバーを捧げお前を崇拝するだろう。それは神竜教であろうと例外ではない。ただしロカに担ぎ上げられるな」
「断滅を語れない他界なんてクソだ・・・記憶や記録に残るだけで消えてしまう方が美しいとは思わないか。だからもっとうつくしい世界を眺めていたい、死にたくないと心の底から願望が湧く」
「ここは異界だ。・・・ベルの思いやりを噛み締めろ」
「僕は本願を誓わされた。五位百法から心法を敷く羽目になった・・・阿頼耶識」
リアムの瞳が黒く過去に染まる。
「おいで、ダルマ」
額の澪標の契約に従い顕現した子獅子をリアムは優しく抱き抱えて、ブラックへ向き直る。
「これがベルを含めお前たちが選択した末に神から与えられた答えだ」
リアムは堂々と宣言する。再生のある道だろうが、再生のない道だろうが我を貫き通す。
「・・・俺はお前がきらいだ」
心底反吐が出るような顔をしたブラックは全身を霧へと変えて、ロマンスの方角へと飛んでいった。
「あいつ、最後まで掃除しないで逃げやがった」
リアムはダルマを遊ばせながら、一人で庭掃除を続ける。
「ウィル、今の」
「リアム・・・帰ってきてるのか」
「大変。すぐに買い物にでないと!」
「そうだ!メルクリウスの攻略を祝ってやらないと!俺が買い出しに行ってくる!」
「あっ、何を買ってくるか・・・ケレステールに続いて2つ目の攻略よ。ホント、どこまで強くなるのかしらね、あなたのお兄ちゃんは」
「まーま!」
「やっば、なに買ってくればいいんだっけアイナ!?」
どんなに互いが変わっても、やぶれぬ絆がある。
「あんなに澄んだ魔力の波動をさせていた子が、こんなに禍々しい念を魔力に乗せるようになっちまって・・・神はなんと非情なことをなさるのか。どうか私の大切な人たちをお守りください」
マレーネは静かに目を瞑り、妖精族の里を出てきてからも続けてきた所作で聖霊に祈りを捧げる。
「Lux aeterna・・・どんな道だろうと、私はあなたを独りにはしない」
メルクリウスを見上げたあの日、私は一人で立ち尽くしていた。
”レッド・レイザー”
自分の父の顔を知らない。母の顔も知らない。
「でも一目だけです。それだけ贅沢な時間をくださるあなたに私はどれだけ感謝していることか」
この世界で父に会えずとも、あそこに行けば父には会える。
この世界で母に会えずとも、あそこに行けば母には会える。
あなたは私に両親の顔を見せてくれた。・・・例え3人で同じ時間を過ごせなくても、胸いっぱいに私の心は満たされた。
ノーフォーク城。
「ミリアとの婚約の件、白紙にさせていただく・・・すまない」
「奇しくもヒューズとブラックの血を引く方々とのご縁でしたが、僕は自分がとても勿体無いことをしているなと今でも思いますよ。それだけの魅力がある」
「すまない・・・ほんとうに申し訳もない」
真相をリアムの口から聞いたブラームスは、終始頭を下げ続けた。
マリアはあまりのことに話を全て聞いた後に一時退席した。
「でしたら、税金の免除を」
「それはダメだ・・・特別扱いはできない」
「ダメかぁー、ざんねん」
「パトリックを外した意味がなくなるだろう」
「あはは、たしかに」
「おまえは私を怒らせたいのか?」
「その方がらしいじゃないですか」
「そうであれば、我が友よ」
リアムはブラームスが差し出した手をとる。
「最後はウォーカー家だ」
「はい」
「君の償いは君の領分だ。シルク」
「はい・・・」
ブラームスがノーフォークに帰ってくる頃まで待ってから帰郷した。
おそらくはガスパーとゲイルも帰ってきているはずだ。




