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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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79 Offertorium


 メルクリウスの扇形空港にオービルが着陸する。


「どうぞ」

「ありがとう。引き続き案内をお願いします」

「御意」


 オービルから降り立った鎮圧の徒は、立ち止まることなく秘密の兎会に占領された領主館へと向かう。


「さて、騎士隊の制圧は失敗に終わり、膠着状態であると」 

「あなた様のお手を煩わせてしまい申し訳ない」

「王族の一員として、領主の方から頼っていただけることも然りです。ですが、国民を武力行使で鎮圧するということに抵抗がないわけではありません。それでも私は役目をまっとういたしましょう。ですからあなたは領主としての役目をまっとうしてください」

「痛み入ります」


 マンチェスター家の領主館前、本来の家主であるカストラは援軍を連れて到着。


「ネップ!なにも見つからない!」

「なぜ密約の証拠どころか税に関する書類の一枚もないんだ!なぜ!!!」

「やはりスカイパスのための密約なんてなかったんだ」

執事ヤッスル!おまえなにをした!!?」

「私はなにも。ただ、領主様が長期間留守にするというのに、 誰にでも目につくような場所に大切な書類含め保管しているとは思わないことですな。本当に無駄なことを。灰色を黒と断じて来たのだろうが、正義のために奮う暴力が正当化されるのであれば、あなたがたは自らの墓穴を掘っていることになぜ気づかない。投降しろ、ネップ・ガポン」

「自分の墓穴ならとうの昔に掘り終わってるんだよ!!!だったら俺は、俺は──富に埋もれ根腐ったマンチェスター家まで墓穴を広げて道連れにするしかないだろうが!!!」


 口が裂けても、キャシーやラディたちのためだとネップは言えなかった。

 屋敷の中では秘密の兎会による書類漁りがなされていたが、スカイパスの新設計画やマリノ協定に関する書類をはじめ等々、一切が見つからない。

 リアムが義務としてピーターメールで消費する空間属性魔石についての申告を出した際に、ヴァトアウトノウレッジに依頼して作られた魔道具がマンチェスター家にも納品されていた。

 留守を任された執事のヤッスルは、ピーターメールで使われた魔道具と同じ魔道具を使った。

 リアムはこの技術に関して特許を出してはいないし、起動魔法図式および魔道具自壊の技術保護の魔法式によって複雑に暗号化されている。

 鍵は常にカストラが携帯しているため、ネップたちが領運営に関する重要書類を見つけ出すことはほとんど不可能であり、八方塞がりである。


「Magnum opus」


 牢獄に、稲妻が放たれる。


「なにする気?」

「私の娘だ。占領されていたらしい領主館を実力で制圧することにしたらしい」

「名前は?」

「ソフィアだ」

「ねぇ、君とソフィアってどっちが強い?」

「パトス抜きでか?」

「そう」

「若い世代は総じて私よりも優秀だ。ソフィアは王女としての礼節を最も弁えた才女だ。様々な事業を手掛け成功に導いている。ミネルヴァで最も多くの蔵書を抱えている末の娘のエレアにもよく慕われ尊敬されている。頭脳は、多様な時を縮め速度と変わる。一方で、武力という面で論うなら、君の敬うリアムの姉と研鑽するライカか、あるいは期待を集めているのは仲間の力を借りて帰還雷撃へと至り、ノーフォークのラストボスの一つを貫いた姪のミリアだ。そろそろハワードと手を組んで菜園ユピテルのラストボスに挑むらしい。であるからして、マンチェスター家を占領している輩も然り脅威はリアムだけではない。・・・強さにも色々とあるのだ」

「そんな子でも結局は武力に頼るんだね」

「君たちの中ではそれが絶対的な正義なのではないかね」

「力とは相互的に交換されるものという認識が底に根強い。だからもし王がすべての力を失ったとしても、ドラゴンはみんな敬意を忘れない。僕たちには強さによって結ばれた絆がある」

「それこそ強さには色々というわけか・・・制圧が終わった。次はどこへ向かうか」

「悪の巣窟だろうね」

「そろそろ重い腰を上げたいのだが手を貸してもらえるか」

「オッケー」

「ゆっくりたのむ」


 ウーゴとバルトは空へ飛び立つ。


 ──ガポンの屋敷。


「泡沫のごとく、しかし、たゆたえども沈まず。なんて贅沢な命の弄び方でしょう・・・」

「そういうことかよ」


 シドは自分の右胸に手を添えて、膚に爪を立てるように指に力を入れた。


「精霊王を相手にした後に俺と戦ってもまだ・・・化け物め」

「お陰様で。一時的にだが体感5万くらい魔力が移ってきたせいだろ。一番大きな魔力の元はそのままだけれどね」

「ペテン野郎」

「生憎と、長い間ペテンにかけられていた。ディアセーケーはお前も知ってるんだろ」

「ああ」

「神が契約を濫用しやがったんだ。偶然の産物を拡大的に解釈した。世の中、杜撰な奴が多すぎて苛立つよ」

「そこは同意だ・・・どうやって叩き潰す」

「お前が選べるのは、ママから与えられた玩具(ギグリ・ソー)か、家族の幸せかだ」

「母親じゃねぇよ。おそらく100年以上生きてるクソババアだ。弟と妹まで化け物にする気か」

「血よりも朱いものもある」

「・・・さよならだ。ギグリ・ソー」

「意思表示を」

「俺は受益者としての権利を受け入れる」


 徒花の憂いは消えた。結実がもたらされた。


「ところで、私を一度手にかけた件に関する賠償についてですが」

「それを持ち出すのなら過去の君の行いによる僕への被害も数えさせてもらうことになる」

「なんのお話でしたっけ?」

「それでいい」

「おい諾約者。お前は具体的にはどう自分を救う」

「・・・シルクに質問がある」

「ご随意に」

「ノーフォークでの件もすべてコナーに話したのかどうかだ」

「すべて話しました」


 自分に関わることだ。当時の調書にはすべて目を通してある。


「時間は残されてない・・・」

「だが別の時間はある。どこに敵がいるかをまだ聞いていない」

「俺は知らない。なぜってお前の正体すら対峙するまで知らなかった。神の好き勝手の件も含めて知らなかった」 

「だからあなたは教本です。見本ではなく。ベルの失敗の教えの象徴。訓戒、戒めの教本。私もノーフォークであなたの姿が変わってから事の異常性に気づいた。組織はベルへの仕打ちを悲しみ、あわよくば諾約者を糾弾する受益者になってくれればいいと考えていた。利害関係にあればそれでいいと思っていた」

「ぼくには正式に糾弾する権利がある」

「あなたが自らの権利を侵害されたと怒ってくださったため、我々与えられた悲劇の真実を知るファウストの悲願が叶った。尤も、大半のファウストはそれが悲劇であることを知らない」

「だがシドは僕のことを見本とも言った」

「わかるだろ・・・そこに救いはなかった」 

「・・・ファンタジアは奏でるものではなく賜ったものだと君は言った」

「First Childとして育てられたのが私です。特例もありますが、基本的に私が知らないことを他のファウスト達が知っていることはない。シドもコナーも特例にはあてはまらない」


 彼らは自らをファウストだと名乗ったが、我々だろうが私だろうが、そのまま自らの立場を示していたのか。・・・大まかにだが、彼らの組織での位置付けはわかった。

  

「ウィスパーというのは?」

「それは組織の命令で私が王都で種を蒔くために流した噂が転じて一人歩きした結果です。ベルの齎した今の平和の世に反感を持っているもの達がいるという噂を流した。噂は噂としてまことしやかに人々の間で囁かれたのでいつしかウィスパーと呼ばれ始めた。誰が言ったのかもわかりません」

「なんだそりゃ、それじゃあ君たち全体を指す組織の名前はなんなの」

「タイムリミットだ。簡潔に、答えろ」

「・・・シルクはケレステールの中に入っていたじゃないか」

「シルク。オブジェクトダンジョンへの入場は禁忌事項だった筈だ」

「そんなものはとうの昔に破ってました。それでも禁忌とされたのは、死んでしまうとリヴァイブに招かれてしまうためだった」

「そんなルールがあったのは知らなかった。しかしならば、なぜマルデルはあのタイミングで現れた?」

「その点については私に仮説があります。コンテストの有無です。コンテストのあるダンジョンに侵入したのは、ゲイルとあなたを・・・」

「僕はその件についてゲイルをもう許している。さて、異世界から渡った僕は輪廻の中に組み込まれている」

「それがディアセーケーの益だった」

「だが僕は思わぬ負担を伴った。ハイド」

「なぜベルの条件は直人だったのに、俺たちが一緒についているのか。神は拡大的にナオトを解釈した。そうしてリアムとした」

「図々しいんだよ。だから僕も考えというよりヒントを持ってるって方が正しい。ずっと着の身着の儘だ」

「そうしてまずはリアナとジョシュとチェルニーを救ったのか・・・」

「・・・少し落ち着いたら2人が面会できるように頼んでみる」


 屋敷の玄関が破られる音がする。


「捜索しろ!!!」


 多くの足音が廊下の床を鉄の音に紛れるように小さく鳴らす。


「シド・クリミナル!!!」


 大広間に突入編成された治安部隊の声が鳴り響く。 


「リアム。俺の大事な人たちを助けてくれて、ありがとう」


 多くの雑音があったが、シドの言葉はしっかりと僕に届いた。

 

「並びに、コナー!!!」


「君の声が聞こえなくなるくらいに、しばらく騒がしくなる」

「声を取り戻してくれてありがとう。ずっと一緒にいる」

「ああ」


 後に踏み込んできた治安部隊の調書、およびリヴァプール領に送られた報告書にはこう綴られる。拘束すべく動いた治安部隊は、天井の崩れ去った建物の広間にてコナーと戯れていた幽霊を見た。 


「同じくシルク・ハッターら指名手配犯を扇動容疑にて拘束する!!!また、この場にいるすべての者を拘束する!!!」

「烏丸閻魔」

霆剣ていけん


 治安部隊の中から一人、こちらの魔装に対するように飛び出してきたのは、この国の第一王女だった。

 互いの顔の正面に剣先を向けて、口だけが動いていく。


雨廷いかずちの姫」

いかよ。冴ゆるあなたがなぜここにいるのでしょう」

「彼の罪状に誘拐罪を付してください。現行犯です。私は友を助けにきました。今は安全なところで保護されているでしょう。なお、彼らはシドの生き別れた弟妹らしい。事情は複雑です。どうか寛大な対応をお願いします」

「それでも武器を下げないあなたのご主張は?」

「全員動くな!!!こちらは状況の整理を望む!!!そして彼女に触れるな!!!風体からして疑われるだろうがその人はシルクではない!!!彼女はリアナ。リアナ・レッド・スピリッツ!ファウストのシルク・ハッターとは別人だ!!!」


 ブラームスも知っていた。表沙汰になっていない誘拐事件もソフィアくらいの立場になると知らされていてもおかしくはなかった。彼女は声を顰めて次のように警告する。


「・・・長年行方が知れなかった聖戦の英雄レッド・レイザーとマルデル・フレイヤ・スピリッツの娘の名を名乗り時間を稼ぐおつもりですか?こう着状態を保ったところで証を立てなければ好転しませんよ。リアム様」


 ・・・バレてる?


「松の梢を揺らして冷たく吹き荒ぶ木枯らしの吹く季節はもう去った。霜枯れた草花たちも、寒明けに備えているものです」  

冴返さえかえ風籟ふうらい神籟しんらいであることをお約束します。あなた様のお父上も一緒にもうすぐ到着される」

「・・・王を人質に?」

「いえ。話は通してあります。王よりマンチェスターでの騒乱鎮圧について裁量を賜られているでしょうソフィア様にあらせられましては、その名にふさわしい賢明なご判断を仰ぎたく場をささやかに鎮め、お父上のご意向に沿っていただくことを提言させていただきます」

「・・・こんなところで一戦交えれば街が崩壊する。どのみち海の竜に我々は勝てない。こちらの身の安全の保障をお願いします」

「互いに」


 ソフィアの武装解除によって、そしてこちらの武装解除によって休戦の合意を周知する。 


「ソフィア様、指示を仰ぎたく」

「父がもうじきご到着なされます。出迎えの準備をします」

「承知いたしました」


 玄関まで出迎えと事実確認をするため戻ったソフィア。

 そして彼女を追おうとしていたカストラを、リアムは大声で呼び止める。


「カストラ様!!!」

「この後に及んで、なにか?」

「私の尊敬するカストラ様の治めるマンチェスターに攻撃が加えられたと勘違いして仲間を街の外へ飛ばしてしまいました!実際にエスナの台所が襲撃されてキュリーとジョシュとチェルニーが誘拐されたのでこうして助けに来た次第です。街中での移動を伴う空間属性魔法の使用について、緊急時の措置として恩赦を賜りたい!」

「・・・事実確認が先だが、検討することを約束します」

「よかった。専守防衛の一環で王様を蹴り飛ばしてしまってどう弁明しようかと。マンチェスター万歳!」

「・・・それはあんまりではないですか、リアムくん」


 僕は誘拐犯に対抗するためにこの場に降り立った。

 専守防衛が認められないのであれば、王も誘拐に加担していたのではと非難してやるつもりだった。


「お父様!そのお怪我は!?」

「ソフィア。ああ、見た目以上に重傷だが、治すアテはあ──・・・」

「どこかお加減が!?」

「少し寒気がな。この時期の風は痛みに染みる。中に入ろう」


 お互い不幸な行き違いだったということでバルトとは話が通りそうだが、この一件に絡んでしまったのは彼だけではない。ハワードをやり込めるシナリオとそれを話す話者スピーカーがいる。 


 ソフィアに支えられて、重傷のバルトが広間に辿り着く。


 本日2度目の対面だ。


「・・・」

「光が走る時間の沈黙すら耐えられない愚か者ゆえ、先に口を開く無礼をお許しください。言葉を交わすのはパトリック様の結婚式のとき以来のことでしょうか」

「・・・わかれ」

「悲しい行き違いがあった」

「そうだ」

「不問に付すと約束してください」

「行きすぎた要求だ。それはあまりにも私の立場を蔑ろにし、侮蔑している」

「よく動く口だ。私はあなたのその口が2度と開かなくなろうと何も感じない」


 治安部隊に参加していた騎士、さらにはカストラまでもが剣や杖、各々の武器を構えた。


「ソフィア。下ろさせろ」

「武器を下ろして!それからリアムさんも、闇に怒れる火色の瞳をどうかお鎮めになって」


 ソフィアのあまりの不躾な嫌味に噛みつきそうになったが、頬を引き攣らせ鼻を鳴らしながら力を抑える。

 交渉が頓挫するのもよくない。


「そこに横たわっている男。それで手を打とう」

「わかりました」


 シドを庇う謂れはない。彼もこうなるとわかっていた。


「まずは引き渡しを」

「いいや、回復が先です。治療の間にあなたに訴えたいことがあります」

「ならば私の肌に触れる前に訴えろ」

「彼です。彼はコナー。我々がファウストと呼んだ組織のメンバーでしたが、彼は正義に寝返る。ですから保護を。本人の希望です」

 

 バルトはこちらの申し出に、人差し指と中指を合わせてちょいちょいと指を折伸ばし、コナーに口を開くことを求めた。


「私はコナー。本当のところ自分の名前も家名も本当のめいかすらわからない。幼い時からそう育てられてきた。これまで誰を信用して助けを求めればよいのかわからなかったが、私の友のシドをここまで追い詰め試練と救いを与えたリアムは信頼に値すると評した。延いては、リアムの勧めで私の知る限りを自供と共に提供しアウストラリアへ保護を願い出たい。なお、そこにいるジョシュとチェルニーにも保護の手を広げてもらいたい。彼らはシドの弟と妹だが何も知らない被害者だ。丁重に扱ってほしい。以上だ」

「よし。治せ」

「生の暴力」


 訴えの答えは後で聞くとして、まずは取引の分の精算を済ませる。


「この怪我を整復もせず秒で治すか。やはり」

「喧嘩売ってんですか?」

「いや。では、訴えに対して王として応えよう。まずはジョシュとチェルニー。これから君たちに聴取を行い事情を汲むことで正当な扱いをとることを約束する。次にコナー。お前の願いを聞き届けたい。だが、お前の首のそれは非常に厄介だ。証人保護の一環として警護するにしてもそれなりの監視をつけなければならず手に余る。牢獄に繋いでおくだけならできようが、重要参考人はすでに手の内にある。であるからファウストであるという立場は君への聴取と監察官をつけることで差し引く」

「お父様。目眩ましが強すぎるかと」

「遮るなソフィア」

「出過ぎた真似を」

「ソフィアの憂いもわかる。であるからして監察官をつけるのだ。我が弟からの信頼も厚いそこにいるリアムに役目を願いたい。引き受けてくれるか」

「はい」

「ファウストという立場を差し引かれ、君に残るのはリヴァプールでの火柱騒ぎに関する疑いのみだ。訴えの認容はロバート・リヴァプールに委ねられる。幸運にも、外にベッセルロットの守り神であらせられる海竜ウーゴが私の身を案じて訪ねてきてくださっている。彼に私からベッセルロットまでの移送を引き受けてくださるよう便宜を図ろう。それまではシドと共に拘束させてもらおう」

「承知した」

「埃まみれのこんなところではなんですから、アウストラリア屈指のロドリーホテルでお茶でもどうでしょう。領主館を借りたいところですが、このとおりマンチェスター領主は匡救に勤しんでいるところです。あなたのこれまでの背景、そしてこの場にいま居合わせている事情をお聞かせください」

「ティータイムですか。今日はまだお茶をしておりませんでした。是非、彼もお誘い合わせいただけると嬉しいのですが」

「わかりました。リアム、リアナ様のエスコートを」

「はい。ですが移動する前に少しパトスと話したいことがあります」

「どういった立場で」


 こちらは特にバルトに応えることはない。


「そうであれば私は口を挟むことはない。パトス」

「・・・マジかよ」

「ウーゴ、頼む」


 ウーゴに呼びかけて、外に声が漏れないように部屋を作ってもらう。


「それで、どういった話だ」

「コナーに取引をさせてベルの行方の大なり小なり情報を聞くことになっている。先に裏を取りたい」

「それは私でないとダメか」

「別に構わない。他にもアテはある。そっちがダメになった時にお願いする。で、そのアテというのが本題だ」


 本題を切り出すと、パトスの電圧が徐々に徐々に下がっていったのがわかる。


「ソフィア。お前はどうする」

「私はもう少しカストラ様のお手伝いをさせていただいた後で合流いたします。エスコート相手をお探しでしたら・・・ジョシュさんとチェルニーさんでしたね。どうでしょう。お父様の威厳を保つお手伝いをしてくださいませんか?」

「わたしは・・・最後までそばにいたい」

「俺もチェルニーと同じ気持ちだ」

「今日はとことんうまくいかない日ですね」

「では、パトスの用が済んだら私は外で海竜と話をしておこう。後から合流しようか」

「「はい」」


 ──ウーゴ、もういいよ。


「パトスからパワーズへ、パワーズからハワードに伝言を。次に僕の身内に銃口を向けたら容赦無く叩き潰す」


 これだけ牽制しておけば、僕への対応も、もう少し慎重になってくれるだろう。


「物騒な。何を言われた」

「パワーズに会う用事ができた。本題は後だ・・・本当にあいつもお茶会に参加させる気か?」

「お姫様のご要望だ。カストラ」

「はい」

「引き続きリアムには私が応じ、お前の手伝いはソフィアに任せてある。いいか。リアナ様とジョシュとチェルニーには手を出すな。丁重にもてなせども、拘束などもっての他だ。外交問題になる」

「承知いたしました」

「それではシドとコナーを拘束しろ」

「はっ」

 

 シドとコナーにマンチェスター家の騎士隊が拘束を施す。


「僕は後日、必要なものを取りに行く。あの日のことを思い出すと、胸がざわつく」

「ですが、その日は私が活路を見出した日でもある」


 シドとコナーから微動だに視線を外さないリアナは、こぼれないように涙を堪えていた。

 僕は気を紛らわせるようにリアナの中のシルクに問いかけた。


「彼女の力はぼくの力だ。だが彼女のこころは彼女のものだ。ぼくの心と彼女のこころが重なる時にぼくは染汚意に深く染み入る。・・・そのための救済でもある。彼らをあんな目に合わせた奴らの名は?」

「ヴォックス<VOX>。エテルナム・モータレス<aeternum mor.tales>、永遠に滅ぶべきお話たちを安息させる音そのものであり声です」

「洒落てる」

「そもそも組織の名などあるのかどうかすらわからない。私がまだキュリーちゃんくらいだった頃はDomine VOXだとかも言ってた気がしますがよくよく考えたら縁起が悪いとかで教えられなくなったような、そっちが正式だったような・・・幼い頃の記憶は曖昧でして。思想の階梯からして、兎角、VOXです」

「たいていそんなもん。僕は例外」

「レクエイム・エテルナムのお話はベルのお話。聖戦の真実を知らない、人に枷をはめる職務をまっとうするそこな彼も、彼女も、みんな聖戦はベルの勝利だと口を揃えるでしょう。しかし真実を知るものは言う、ベルの勝利であり敗北である。聖戦の勝者は第三者。守られた者たちだった。はじめからファウストもメフィストも神の手のひらの上で踊っていた。だから完遂する次の語り手が必要となる。そんな万感エテルナムの思いをニルヴァーナ・オブ・アンバーへと込めたのでしょう。原義は聖戦アンバーロマンス、ドラゴンの王の戦いのお話。賽を投げるもの。VOXは世界、あるいは神が被造物格の手によって守られたことで神を直に破る力が人の身に既に宿っていると信じている。しかし前任者が敗北した戒めを込めてこう綴る。エテルナム・メフィストフェレス。悪の哲学者、親愛なるかな、修練を終えた者」


 だからメフィストフェレスの種子というわけか・・・。


「アンバーロマンス・・・ッアンバーロマンス?ハハハハっ!!!」


 アンバーロマンスだって、これが笑わずにいられるか。


『おい』

「ァーははははっ!」

『特大の悲劇を受け入れた度胸に一目置いていたが、ただイカれてただけかっ』

『だってこんなの、僕の中にいる者たちからしたらこんなの爆笑ネタだろう。いいから笑われてこい。ええっと』

『・・・ディアレクティケー』

『それはまた。はかどるだろ。さぁホラホラ』

『後で覚えておけ』


 僕がイカれてる、うん、今はそう思ってもらってもいいかな。


「なぜ君はイカれた真似をしてた?」

「悪だと思ってもらわないと、あなたはその手を引っ込めていたでしょう?」

「はじめの印象というのは非常に大事だ」

「だからこれから挽回します。私はあなたのことが大好きですから」

「・・・それはそれで怖いな」

「世界を救ったベル。それを助けにくる王子様。私のロマンスはそこにあった。約束は守られるものだと信じていた」

「真実は違う。僕は生きたいと意志を表示しただけだ」

「私が憧れたのはベルの有り方です」

「僕もだ」

「そして、彼女とあなたの信頼関係です」

「光栄だ」   


 組織の名前は”VOX”。

 組織こえ理念おとはニルヴァーナ・オブ・アンバーロマンス=メフィストフェレス。


「コナーとお話しする前に私からも少しだけネタバレを。ベルの記憶は読まれた記憶です。いわば日記。ベルの日記と世界の原理をたたき台にファウストは造られた」

「なぜわざわざ?」

「・・・昨日、真っ黒な霧を金盞花色の煙に巻きまして。骨肉に刺さりそうな牙をしていたので、ついこちらの刺しもので首を貫いてしまいました。霧の鬱陶しさはあなたもよくご存じでしょう?」

「君、よく曲者って言われない?」

「食わせものと。さっきまでは私もファウストでしたから」

「一杯食わされた」


 タイミング悪すぎだ。


「どうしたものでしょう」

「一段落ついたら息子さんに相談しに行こう。申し出なければならないこともある」

「お手数おかけします」

「君もくるんだよ」

「ありがとう。私の勇者さん」


 確かにそう言われてもいいかなってくらいには疲れた。

 だが問題が山積みだ。

 ところで監察官の僕がお茶会に参加ということは、ウーゴもロドリーホテルでお茶するってことか?

 この国、VOXに攻められる前に財政破綻で滅びるんじゃない?





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