表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

357/371

77-2 Confutatis


 瓦礫となった屋根が埃を撒き散らし、抜け落ちた天井の穴から差し込む光がしずかにゆっくりと宙を舞わせている。


「スコルのメガフラッシュに焼かれても死ねなかったのは、エリシアではない吸血鬼だれかの差金──

毒がはじけてしまうのは、安らかな泡の棺桶の中の花矩はながね──

蝶が3回上下に羽ばたく拍子の沈黙、僕は思い出した」


 その場へゆっくりと降り立った。

 ゴツゴツと整地されていない瓦礫を砂にして床の上にしずかに足を着けた。


「こんにちわファウスト。お前たちは何を考えている?」


 こちらの着陸をジッと待った。

 そうして僕にゆったりと時間を使ってシドは己に巻きつけたチェルニーの目隠し布を見せつけた。

 その傍らには、誘拐されたジョシュとチェルニーが肩を寄せ合っていた。


「リアムさん?」


 ・・・まさか。


「チェルニー、ベートンは?」

「ここにいます」


 チェルニーが上着を捲ると、その内側で暖をとって転寝していたベートンがいた。

 

「ジョシュ」

「リアム・・・色々と聞きたいことがあるだろうが、まずは俺からひとつ訊かせてくれ!この天井を撃ち抜いたのはお前なのか!?」

「だったらその前にひとつ僕にも誘拐犯に聞かせてくれ。なぜジョシュとチェルニーが狙われた」

「というとなんだ?」

「誘拐するだけならキュリーだけでよかったはずだ」

「キュリーを拐う提案をしたのは俺ではなくシルクだ。俺はあそこへ家族を迎えに行ったんだ。弟と妹との再会を果たした」


 悪びれる気もないことはわかってはいた。だがその解答は予想の範疇を超えている。


「ジョシュ、チェルニー。どういうこと?」

「知らなかったんだ・・・」

「嘘は?」

「ない」

「ならば真実は?」

「たとえば、お前の弟のエリオットは姉のカリナの顔を知っているか?」

「血のつながりの話?」

「違う。もしエリオットが成長して言葉を解するようになった時、家族がカリナの存在を知らせなければエリオットはどう育つ。そのエリオットが、今朝までの俺とチェルニーだ」

「先読みしたことは謝る」

「いいんだ」

「だがそいつは人殺しだ。どうしてそうすんなりと話を信じられる」

「・・・わかるだろ」


 ジョシュはその先を察してくれと瞼を窄めた。


「どう治した。イデアでも治せなかった代物だ」

「手技の差さ」

かせ」

「これくらい誇ってもいいだろ。おそらく今の状態にしてやることならお前の中の化け物でもできたことだ。要は代償を払うか、どうかだ」

「それはどうかな・・・」

「いや。君はアマティヴィオラを使えば治せたと考えているのかもしれないが、おそらくはそれでも治せなかっただろう」

「コナー。殺し合った時でも挨拶はした仲じゃないか」

「失礼。こんにちわ。興味深い話をしていたので口を挟ませてもらった」

「それで?」

称号楽曲スラータトゥーの原料についての目星は?」

「・・・アンバーの骸」

「その原料の話が真実ならば、我々はアンバーの骸からこうして移植されて肉体から魂へと竜人と成った。魂から肉体へと成る竜人とは異なる理だ。私もシドも、そしてジョシュとチェルニーも、聖餐とされる何かの肉を食した経験がある。おそらく人の食事という摂理の中で処理されるよう加工された、確定はしかねるが、やはりアンバーの骸から採取された肉だったのだろう」

「僕は君たちの立場をどう察すればいい」

「私が仮定するに、聖餐とは称号楽曲、あるいはメフィストの種子と呼ばれるモノと奏者の相性を検査するために組み替え改良されたものではないかと考えている。そうでなければ、伝え聞いたアメリアのような末路を我々も辿っていたはずだ。もしくは、そういう末路を辿ったら殺処分されていたのかもしれない」

「俺たちは家族に聖餐というモノを食わされた。そうして気を失い、次に目覚めると俺は歯を全て抜き取られ、チェルニーは視力を失った。そこで違和感を感じた俺はチェルニーを連れて家を飛び出したんだ。助けてくれそうな人のところへと向かい、偽名で出国した。お前の知る限りだと帰国という体でだ。俺たちを助けてくれた人には俺の歯が生え揃うまでくらいの間、色々と世話になった。たとえばポケットに入るくらいのモノをしまえる臼歯型の魔道具だ」

「出身地も、名前も嘘だった?」 

「名前だけは本当だった。だが家名は違う。俺はジョシュ・ヴァニティ。そしてチェルニー・ヴァニティ」

「そして俺がシド・ヴァニティだ」

「お前はクリミナルだろ」

「クリミナルはBCことベンジャミン・クリミナルの家名らしい名だ」

「殺した相手の家名を名乗るなんて最悪の嗜好性だ」

「それだけ俺が自分を取り繕うのに必死だったということだろう。だが今は違う。家族がいる」


 なんの当てつけだ、そりゃあさ。言葉にはしまい。そいつを家族として受け入れるのか、否か、八つ当たりの現実とは向き合いたくない。僕は父にも母にも妹にも──・・・もう会えない。


「主題へ戻ろう。ジョシュは歯を抜かれ、チェルニーは眼球を抉られた」

「抉られた?チェルニーの眼球はあった」

「ギグリ・ソー」

「世界図会」

「・・・よくわかった」


 彼らは抉った元の眼球の代わりになる視覚機能だけが失われた精巧な義眼を用意した。

 

「歯を抜き、眼球を抉って取り込んだのはメフィスト。メフィストによって肉体の一部を取り込まれると」

「その魂部分まで取り込まれる。アメリアだ。オブジェクトダンジョン。あれはよくできている。肉体が書き換えられた程度ではアメリアはリヴァイブヘと送還されたと考える。そうでなくては、首を噛み切られたり、命に関わるような重大な損傷を負った者がリヴァイブヘと送られることの条件はどう満たされる」

「その話は僕も聞いた。一言一句、シルクに嘘はない──」


 コナーがシルクの名を口にした。


「こんにちわ」

「シルク・ハッター」


 呼ばれたように正面に開かれたゲートから、シルクはこちらに笑顔で手を振りながら現れた。


「私のことはお気になさらず、お話を続けてください」

「この場から消えてくれないか」

「それだけは承服しかねます」

「・・・いいかな。称号楽曲を埋め込まれた僕たちは、すでに輪廻から外れている可能性がある」

「だとするならば、称号楽曲を埋め込まれていないジョシュとチェルニーの魂の状態は、歯一本分、そして、目の部分にあたる闕失がある状態・・・お前たち、魂を切り貼りしたな」

「俺のギグリ・ソーで分離し」

「私の針で繋ぎ合わせました。これでチェルニーは自らの目の再移植をせずとも視力を取り戻した」


 こいつら、やりやがった。


「こんな奇怪な魂をしている僕が輪廻の中にいて、ジョシュとチェルニーは輪廻から外れてるってのか」

「だからこそ、僕は、知り得る限りの全てを持参して君の元へと降りたい」

「・・・待ってくれ。コナー。お前は仲間達の前でファウストを裏切ることを僕に提案しているのか?」

「頼む・・・僕の中にはリレがいる。彼女をなんとしてでも元あるべき流れに戻したい」

「お前たちが迷い込んだのは終着のある一方通行の歩道だ。輪廻の存在、転生の可能性もはっきりしない世界で僕は、そこにぶつかって消えるんだと狂おしく死を妬んだ。それを人殺しのお前たちが助かりたいからと助ける義理があるのか?」

「人を殺そうと、ましてや傷つけようとしたことでさえ後にも先にも君だけだ」


 ・・・話をすり替えよう。このまま話し込んでも信じる根拠は出てこないだろう。水掛論をしている暇さえ惜しい。


「シルク、シド。なぜコナーの裏切りを静観する」

「私はあなたの回答を待ちます。約束の人よ」

「・・・ベルの約束の男。俺はどっちでお前を呼べばいい」

「どちらとも名乗りたい。だがそれ以外は許さない」

「そうか。であればベルはベルだしリアムでいいか。リアム。俺もお前に降ろうと思う」

「名前呼びの考え方は気に入ったが、おねだりの方は却下だ」

「だろうな。ところで、そろそろ俺の弟の質問に答えてやってはくれないか」

「矢を放ち天井を撃ち抜いたのは僕だ」

「・・・なんの迷いもなく言い放つのな。ああ、かわいそうなジョシュとチェルニー。お前たちは切り捨てられたんだ」

「それこそ今更だ。僕は一度、ジョシュの願いを拒んだ。いまの結果を招いたのは僕だけの啓蒙ではないことは明白だった。キュリーは災難に巻き込まれた。君は望んで僕の元へ来た」

「だったらキュリーはどうした・・・」

「ジョシュ、見てわかるだろ。キュリーはここにはいない。ちゃんと送り届けた」

「消し飛ばされたのではなく?」

「そうだ」


 ジョシュは事の顛末を聞くと、肩の力を抜かしてわずかによろけた・・・やはりジョシュはジョシュ、ファウストの一員と断じて応じるのは焦燥かもしれない。


「矢に込めたのは空間属性の魔力か?」

「アガナ・べレアは現世の理で貫く矢。エデンと繋がるこの世界では魔法も理の一つ」

「よくわからないな。コナー、有用性をアピールするチャンスだぞ。知ってるか?」

「霊弓アマティヴィオラ。エデン、マルクトと並び数えられるその霊弓が現世に持ち出された記録はこちらの知る限りだと聖戦以前にはない。精霊王たちの超弦、これを超弦と呼ぶ習わしも偉大なこの弓に倣ってのこと。後にも先にも、ベルが使用することで聖戦に決着をもたらした命の精霊王ケルビムの超弦であり、ケルビムが己ごとを矢として竜王アンバーに放ったことでその弓は消失した筈、だった。創世の折、かつて常世の生命の樹とこの現世を含むエデンとを繋ぐ輪廻の河はケルビムが此岸と彼岸から矢を放ったことで生まれ橋渡ししたとも言われている。来世へ向かう死した魂の洗われるその河を忘却レテと呼ぶ。だが実際は、この世界の命はケルビムの生み出したソーマ、セーマ、そしてレテという三大精霊によって管理されていた。だから便宜上、此岸から彼岸への河の流れをレテと呼び、彼岸から此岸への流れをソーマと呼び、これら2つの河の始点と終着点をエデンと生命の樹と繋ぐ橋渡し役をセーマと呼ぶ」

「ご高説を垂れているが、俺の疑問に答えていない」

「ここからは主張だ。僕はアガナ・ベレアこそはソーマの河の性質を持ち、ゼノンこそはレテの河の性質を持つ矢なのではないかと思っている。そして必中の力はこの二つとエデンと生命の木を繋ぐセーマそのものというのが自説だ」 

「そうか。どうなんだ、現所有者」

「似たり寄ったりだ。弓弭と弦輪。弦輪が繋ぎ、末弭が本弭に、本弭が末弭になる。アマティヴィオラは世界とエデンとの輪廻を架けた弓、らしいが使った感覚ではアガナ・べレアはエデンの全てを貫く矢。エデンへとつながり一矢当たってしまえば設計図そのものを壊すこともできる。そのため設計図を書き直すことでしか肉体の損傷は治らない。一方で、ゼノンは魂そのものに作用する。感覚的には、アガナ・ベレアは設計図のための鉛筆と消しゴムであり、ゼノンは用紙を破ったり作ったり繋げたり跡形もなく燃やし尽くす」

「遮って失礼。あなたはアマティヴィオラの弦の音を聞いた。そこで消された筆跡を黒く塗りつぶして浮かばせるように、全てを思い出されたのでは?」

「僕がアマティヴィオラに願ったのは、人の捜索と救いだ」

「合点がいきました。つまりは人外の記憶までは捜索されなかったのですね」

「なんなら今、使ってやろうか。お前らも人外みたいな標的だろう」

「ああ、恐ろしい」


 シルクの態度には、どうにも苛立ちが募る。


「想起説を知る僕からすれば、ソーマはソーマ、セーマはセーマ、レテはレテだ。そして僕は僕だ・・・特別扱いはするな」

「それはできかねます。弦を紡ぐ者、偉大な弓の射手たるあなたは世界の隔たりを破るほどの強力な愛を守って透き通った約束をこのアナザーワールドまで貫いたッ!」

「幻想を抱いている。僕と鈴華は他界したんだ。僕たちにとってここは異界ではなく、他界なんだよ」

「・・・ですが、ベルが葬りさるしかなかった命たちを拾い救った。これは偉業ですよ」

「所謂、三途の川。その手前の賽の河原、死出の山路をも呑み込む大水害が起こった。地蔵菩薩が現れたかと思ったら、三途の川のそのまた向こうの法廷からわざわざやってきた閻魔で大人も子供も関係なく浮き上がると鬼に矢で射抜かれ、沈むと大蛇が待ち受ける。その全てを強深瀬とした」

「三途の川という名は知っている。だが名前だけで詳しくは知らない。察するに、大水害というのは聖戦のことかな」

「・・・ベルは鬼だ。そしてアンバーは大蛇だった。だが彼らの罰を裁定したのは閻魔だ。矢を射る鬼でも、待ち受ける大蛇でもなく、審判を誤ったのは彼女だ」 

「では、そんな閻魔も鬼も大蛇も虐げられた者たちでさえも拾い上げたお前は何者だというんだ!」

「地蔵は言わぬが、我言うな」

「ここまで話しただろうが。何が知りたい」


 探り合った。交渉するつもりがあるのなら、互いに対価を用意する準備がある。


「ベルの行方だ」


 どんな罰を背負った。どんな最後を辿った。それとも彼女はまだ、どこかでひそやかに息を殺して生きているのか。もしくは、ここまで異界の知識を蓄えるファウストとは──。


「僕は、誰かが傷つくことを望んだりはしない・・・だがこれも、友の頼みだ。だから誤解しないでほしい」

「自ら提案をし、自ら交渉の機会を辞すると?」

「そんなに威圧的になるなって。コナーは俺に交渉の機会を譲ったのさ」

「シド。お前と交渉することなど永劫にない」

「だがベルの行方を知りたいんだろ?」

「どちらにしろ、僕は閻魔帳のベルの罪を帳消しにするつもりでこれから動く」

「わかった。絶対だと決めつけはしないでおいてやる。では対価を求める。2つだ。俺を裁け。俺が勝てば俺が真理、お前が勝てばお前が真理だ。俺からの対価はコナーから受け取れ。もう1つはコナーとジョシュとチェルニーをお前の元で保護しろ」

「ディアセーケーのつもりか?」

「再会の約束を守る手助けにはならないかもしれないが、行方を知るという情報の対価としてならば十分なはずだ」

「それを聞いて受ける気になった。知っているのか、知らないのかさえどうでもよくなるほどに正に、明らかに、確かに、すみやかに」

「赤面したか?」

「ああ」 

「献呈の辞を表そう・・・読者オレもだよ!!!」


 ここからは、互いが作者にして読者となる。


「「ファウスト!!!」」


 リアムとシド、両者の瞳に円環が結ばれる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ