表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

351/371

72 H norm


「しあわせは・・・歩いてこない」


──2月。ステディエム、郊外。


「年が明けた。例年通り、ノーフォーク公爵は王都へと向かい報告をする。そうすると勇者論争は熾烈を極めるのか、それとも冷戦へと陥るのか。そろそろ貴族院も閉会するのでブラームスは結論を出さなければならない。私ができるのはせめて世間から勇者としてリアムが目をつけられないように種をまくことだった。賽は次の振り手へと引き継がれる」


 ステータスの魔石なんてものはベルの時代にはなかった。

 勇者の認定は降臨によって確実となる。 

 しかし、彼は呼ばれたにも関わらず抵抗を受けた。

 何かが抵抗をしたのだ。

 すなわち、介入を嫌った。

 すなわち、神の告知通りに勇者を呼び出したが何者も現れなかった。

 すなわち、勇者を作り出す手は人へと委ねられたのである。


「パトリックは平凡で、ウィリアムは趨勢が暗くカリナを引き取ったが彼女は女で、同じくミリアとブラッドフォードのエリシアも然り、民主主義の社会で育った男の子が生まれるのだとしたら思想に反感を抱きにくいところへと転生させるだろうと踏んでいたので慎重に注視し続けた。あれだけ恵まれた社会の中で生きていたのだから」


 ここで私のはじめの歯車が狂った。


「それゆえに、ノーフォーク最大の資産家の家に生まれたゲイル・ウォーカーが第一候補となった」


 次の歯車との噛み合いが取れなくなった。


「私はゲイルの生まれた年に王都の商人としてウォーカー商会に取り入ってゲイルとの接触を試み成功させた。一方で、2年後にウィリアムの息子リアムが生まれた。だがリアムは洗礼式にて精霊と契約ができなかった。これで暗雲が立ち込み始めたと緊張感に支配されていた私の心は晴れてリアムという選択肢が消えた。精霊王のパワーズが彼をいじめるはずがないと思いこんでいたから。しかし平民で、勢いのある領内随一の資産家の息子であるゲイルは条件には当てはまっていたが私の期待通りの人物ではなかった。注意深く課題を与えて取り組み方を観察したが子供っぽすぎた。そして件の洗礼式から1年が経った頃、私の求め探していた人こそがリアムだったと判明した」


 リアムはぐんぐん成長していく。

 飛び級でスクールに入学して、異彩な魔法の才能に恵まれていた。

 

「私が欲したのは彼の知恵と発言力だった。ベルの形見とも言えるリアムの発言は精霊王といえども無視はできない」


 私は最初の選別をミスした。だが幸運だったのはリアムがゲイルと同年度の学年に組み込まれたことだった。完全に繋がりは絶たれていない。そこでゲイルに学校の様子を聞きながら、度々噂と称してリアムのことを尋ねた。そのせいでゲイルはリアムを意識し次第に敵視し始めてしまった。

 一方のリアムは新しいレシピを考案したり魔法箱を開発したりと片鱗を見せつつも至って平穏に学生生活を謳歌していた。

 ゲイルの妬みは意図したものではなかったが、これをチャンスと捉えて私は確証を得るためにリアムを小突いてみることにした。

 するとどうだろう。事態は私の思わない方向へと転がり始めてしまった。


「信じがたいものを見た。突如現れた仮面を前にリアムが変身した・・・あの姿を見て、私の心は急激にしめつけられた。そして私は決意した。異質なノーフォークに念のために組織が撒いていた種であるアメリアを利用し、しかけることにした。リアムの正体を確かめるために・・・そして私は求めていたもの以上の当たりを引き当てた」


 オブジェクトダンジョン”ユノ”。

 王都に現れた四つのはじまりのダンジョンの一つ。

 ヘスペリデスで死んでしまうと肉体と魂の双方が囚われ生還することができないとされていた。

 脱落者は園のザクロの果樹の実に囚われ、夜になると果樹から空へと生気が立ち上り、壮大な天の川へと流れ込む。

 悍ましくも美しいユノのラストボスを倒し、囚われし者を救い出した英雄こそが、ウィリアム・ハワードとカミラ・ド・ヴィアーだった。

 ユノの鎖は、ユノのザクロの果樹から削り出した素材で錬成されている。

 

「だけど私は無力だった。今もそうだ・・・何度も彼の前で帽子を被りながら、私は頭を隠した。偏に恥じたからか、それともこんな私が本当の自分だと思われたくなかったのか。帽子が変われば気分も変わる」


 すなわち、ユノの鎖にはダンジョン体を保管する力が備わっている。

 寿命以外の要因によって死なないように人間の肉体と魂のズレによって解放される死の魔力を縛りつけてしまう。

 私のことを覚えていたアメリアは、自らを犠牲にしてメフィストフェレスの種子へと臨むことを承諾した。

 私は泣いて謝り倒した後に、アメリアの記憶を糸と針を使って縛りつけた。

 レテほどの完璧な忘却ではないにしろ、私たちと彼女の繋がりの記憶を封印した。

 そうしてユノの縛りから解き放たれメフィストフェレスの種子がまっさらなアメリアを侵食するに至る。想定外にも縛り糸まで壊して記憶を掘り起こしてしまったが、ダンジョンを出て仕舞えば肉体は元へと戻る。

 せめてもの慰めはかつての命の王ですら意識しなければ気づけないほどの繊細で洗練された手技だったということ・・・救い上げるためには犠牲も厭わない力不足で我儘な私は、私を自賛をした。


「あろうことか、彼は失われた霊宝を使った。ソーマとエデン、セーマとマルクト、そしてレテとアマティヴィオラ。命の3大精霊と厳密なつながりはありません、が、命の精霊の役割を象徴する魔道具である。例えばシドの持つギグリ・ソー、コナーの持つ世界図会、そして私の持つ針もエデンの副産物にすぎない。私はそんな手術道具の一つであるこの針を紡ぐだけのただの糸、幻想を夢見るシルク・ハッター・・・」


 シルクが右耳を撫でると、ファンタジアのスラータトゥーが現れる。耳に沿うように、音に溶けるように。


「そうすると見えてくるものがある。ノーフォークならぬアウストラリス、ブラッドフォードならぬブラッドレイク、ウィリアム・ハワードは実はただ単に集められただけではないのだろうか。ノーフォークが最適解だったからそこに腰を据えた。ノーフォークにはホワイト家があった。マレーネ・ゲー・ホワイト。さらにはその息子エドガー・ゲー・ホワイトがいた。私ね、耳だけはすごくいいんですよ」


 この耳をあえて強調してはいけないと教わった。

 耳はね、その奥で鼻の奥と繋がっている。

 だから光の魔法で幻想を見せるんだ。

 私の人生は幽香の中にだけある。

 記憶とはとても特別で、そして、甘いものであってほしい。


「息子はケレステールが現れる少し前に、とある吸血鬼に会っている。そして驚くことに聖戦以降から特例を除く命の精霊は漏れなく回復属性を司るものと変質したにも関わらず、彼は体内に命の精霊を宿している。似ていると思いませんか。リアムに」


 この耳故に、母は全てを隠さず私に教えたのではないかと思うほどに、聞き分けのいいスラータトゥーである。


 彼と親しいブラッドフォード家のエリシア・ブラッドフォードを、叙爵式の後に私の手技奏者バディはブラックゴールドと呼んだ。

 聖戦の英雄の金の粒種、そしてドラクロワ・ローズ。

 彼女はまぎれもなく後継者なのだろう。

 だったら、だとするならば──・・・なぜこんなにも揺らぐのだろう。

 私は覚悟を決めたはずだ。


 ここまでゆったりと語った。

 コナーがシドに合流した。

 そろそろ次へ動き出す。


「私はこのことを報告すべきか否か・・・私の悪魔が聴覚のチーズケーキにしてしまえと囁く。酸いも甘いも噛み分けましょう」


 アダムとエヴァは禁断の果実を口にして己のありように羞恥した。悪魔メフィストフェレスはさながらサタンのようにファウスト(あなた)を狙っている。

 ベルは禁断の果実を齧り進める度に、溢れ出てくる甘酸っぱい思い出の切なさを滅多に涙として忘れ流すことなく心の中に閉じ込めた。

 それが彼女の始原の契約にして、原動力だった。

 ベルが心の拠り所とした人・・・私のもう一つの心の拠り所。


『上巻”雨の天使”と下巻”傘の天使”。これほど悔しいことはない──・・・拙い出生アレを書いた頃から私の花矩はながねは何ひとつだって変わっていない』 


 Angel of Rain, Angel of Umbrella──寂しがりの雨の天使とほがらかな傘の天使。

 思いを晴らすことができない、しかしどちらもなければならない存在。 

 傘を閉じる、暴雨が傘を壊す・・・ならばいっそと遣る瀬ない、いつも二人の間には弾く布が一枚ある。

 

 ・・・帽子を被ろう。


「素晴らしい、亡き王女のためのパヴァーヌだった」

「さぁ、まだ何用か・・・本日のショーはお終い。オーディエンスの方にはすみやかにステージからご退場いただきたい」

木菟キズのような娘よ。くとめどなく溢れる奔放ズクさは父親にそっくりだ。耳には母の血の影が見えるな。レッドとマルデルの娘」

「・・・世界からの楽曲の響きが良いわけです。角っぽく、丸っぽく、平たくも聞こえる」

「自分が何者なのか知って、なお、ウィスパーに阿るのか」

「私はファウストの一員。そして、タブラ・ラサへと阿るものです」

「神かぶれか」


 木の葉のようにひらりひらりと、裏と表を揺蕩わせる。


「ホットリーディングですか?」

「それができればお前の両親たちも苦労しなかった。ダンジョンの役割は消えた英霊たちの穴を塞ぐ応急措置に留まらない」

「聖戦で失ったものを補うにはベルの力を持ってしても不全だった。しかし名目第一位のシエルはテスタメンタムで縛られている。彼女の手足のドミナティオスをはじめとする王たちですら操ることができない。自らが放った矢が敵を射抜いた後、白羽の矢となって返ってきたわけですか。エデンの機能不全で魂を切った張ったする力が漏らさず回収ができない。減り続ける一方だ。だったら生産するしかないだろう。至極、単純な理屈です・・・で、卑怯者のドグサレ英雄気取り共は、また、頼るつもりなんですね。あわよくば、記憶の物語の中だけの彼に自分達の知るベルの代償を負って欲しいと願っているんですね・・・腹立たしい」 

「そうか。今の言葉で少しお前たちの思想が掴めたぞ」

「彼への想いは、私、個人の心です」

「だとしても、大きく筋道は外れてはいないのではないかと手がかりを掴んだと俺は強く疑っている。最近まで我々はある魔法にかけられていた。そうして未だにタネが解けず仕舞いだ。とはいえ、裏切り者に目星はついている。彼女は還らなかった。そして、彼女は帰ってきた。消えるはずの記憶が消えず、消えたはずの記憶が甦ったのだ。我々が、リアムに忍び寄ろうとするお前たちに容赦すると思わないことだ」

「二重の意味を重ねて、なんとまぁ骨肉に刺さりそうなお口でしょうね・・・アンバーが対立しているとは思わないのですね」

「聖戦で勝負は決した」

「遺恨の残る形でね。たとえばあのメルクリウスも遺恨が生んだそのひとつと言えるでしょう」

「ハッ、あの塔はただの墓標さ」

「ケレステールとネイドンもそうでしょう」

「・・・なぜそう思う」

「ユピテル、ユノ、ミネルヴァ、ウルカヌス。当初はこの四つで失われた力の補充を画策していた。何度も何度も疑似的に人を殺す悍ましい装置でね。だが、あなたのいう想定外のことが起こった。アウストラリアのオブジェクトダンジョンが現れた歴史を辿れば、いつ頃に彼がこちらに辿り着いたのかがわかる。──ケレステール」

「ネイドンは何のためだと?」

「ベッセルロットは、ベルが愛した街だったから。それに彼女が名付けた縁のある者たちの故郷でもある」

「・・・ではメルクリウスは何だと?」

「あの塔は彼女からのメッセージを届けるためのものでしょう。地理的な理由が有力ではないか。ノーフォークに隣接し、かつ、勇者にゆかりあるユーロにも近い。Herma.この言葉の意味がわかりますか。メルクリウスには隠された何かがある」


 ギリシャ語という言語では、塔や柱を表すという。


「そこまで知っているのか。メルクリウスでは一階をeinsで呼ぶ。しかしこの言語を扱う国のルールとは数え方が異なる。だがあえて1階をeinsとした。この方法だと2階からの高さを計算するにはnから1を引いて高さを乗数しなければならない。しかしルールを知っている者にとってはこの数え方に疑問を覚えるはずだ」

「HermaはHermaであってHermaでないと。なぜStoaではなくあえてこちらにしたのか」

「繋がりの良さ、知れたことさ。彼らの住んでいた国ではnの数え方が馴染みがいいことだろう。そしてメルクリウスは両性具有のダンジョン。nであってnではない。ヒントはnの一つ前のアルファベットだ。文字数が変わらないように、Hermaにnを足してみなさい」

「文字数を変えずに足すとはどんな・・・rにnを足すと・・・mになる」

「Hemma.スウェーデンという国の言語で、我が家を意味する。ベルはダンジョンのある空間のことをHolmiaと呼んだ」

「あの塔は様々な言語が積み上がってできている。・・・やはり手紙ではないですか。それよりも英語の1、oneを足してみてはどうでしょう。”Herma one”、 これを並び替えて”A hero men”。 多少強引ですが、こっちの方が良くないですか?」

「・・・我々のメッセージの方が美しい」

「どちらも出来の悪い翻訳機のような文だ」

「合一に至るための一歩ですよ」

「3歩進んで」

「2歩下がる」


 ニッと歯を見せ合った両者の路に緊張が走る。

 ファーストチャイルドの私はアダムの書の閲覧制限がかけられる前からあの人たちの下で育てられて、真実に没していた。


「宛先はこうして明らかとなった。件名は?」

「メルクリウス・パルテール」

「本文ならぬ本分は・・・ニルヴァーナ・オブ・アンバー」

「正解だ」

「皮肉にも、あの大地は祭壇石に見えるということ。星の海底にあるというチムニー。地球のように豊富な水を讃えるこの星が宇宙の海だとするならば、メルクリウスが大気を貫く大地の塔は宇宙のチムニーといったところでしょうか?」

「・・・」

「そんなメルクリウス・パルテールのラストボスは、一説にはシックという名前の巨大な星鯨だとか」


 リアムがあなたたちが敷いたレールの上で走ってくれれば楽だったでしょう?


「このダンジョンはベルにとってとりわけ特別なもののようですね」

「メルテールだとケレステールと被る。彼女の思い出が眠る場所から変な議論に展開させたくなかった」

「いいえ違うでしょう。メール。それがその名前を避けた本当の理由でしょう。彼にしか伝わらないようなヒントを散在させている。なぜなら彼女は恐れている。再会だけを希望に死を厭わず立ち向かった彼女が自ら口を開くことを恐れている!!!・・・なんて、贅沢な命の弄び方でしょう」

「・・・そろそろいいか。私は君を引きずってでも連れ去る」

「なぜこのロジックをメルクリウスへと託したのか。彼との会話で授かった知識ばかりだからだ。あなたは面白くないでしょうね」

「魔装」

「私の心の拠り所・・・直人」

「相当に寂しい幼少期を過ごしたようだ。今すぐに親の元へ連れて」

「ご存じですか!!!?スコルの首を刎ねたのはリアムの魔装であった!その形はかつての大戦の残虐者にして聖戦の英雄が使っていたかき爪のようなハルパーだった!」

「──っ」

「卵を割らなければオムレツは作れない。だが、オムレツを卵に戻すことはできない。同じように割った卵も元には戻らない」

「ヒヨコか、それともカモノハシか何かの例えか?」

「私はアンバーの肉片を移植されたまごうことなき竜ですよ・・・ドラゴンエック」


 円環が結ばれる。


「私とこのスラータトゥーはもう切り離せない。同体なんです」


 シルクの背中には竜の羽が生える。


「infant……toddler。そうかお前は竜人か」

「いいえ、私はファウスト。悪魔と契約した人の子」

「・・・ベルは、ダンジョンのあるあの世界を総じてHolmiaと呼んだ。故郷とのつながりを思ってのことだ。シエルでは代わりは果たせなかった。唯一の繋がりがあの男なんだ。せめてもの心の支えとなることすら叶わないと知った時の自らへの失望と怒り、それでもリアムを拒絶することはできない。それほど強い思いが血と故郷にはあるのだ。思うところはないか、リアナ・レッド・スピリッツ」

「家族がいるところが、私の故郷だ!!!だから私は幸せのために歩いて行くんだよ!!!ブラック!!!」

「レッド!!!」


 赤と黒が、入り混じり、血を滲ませる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ