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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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350/371

71 G norm


──夕食会の後。


「どうだった」

「商業部門には入会しないそうです」

「理由は」

「利益相反」

「なぜだ。具体的にはなにを指しての論拠だった」

「ギルドは銀行業にも手をかけている」

「そんなものはこじつけだろう」

「ですが真実です。なにごとにも害されない真実には、なにものにも疑われない嘘でしか対抗できない。そしてそんな嘘は経済界には存在しません」

「いいか、我々は価格競争から脱する必要がある。協調的にあらねば安定した物資の供給という大義のある使命が果たせなくなる。未来のアウストラリア経済は大混乱に陥るぞ」

「我々商業部門の役割は調停者です。そして、時には友好的な仲介者も演じるでしょう。そして、そのためには交渉を行う当事者同士が友好的であらねばならない。それに、かの御仁方々は競争を黙認なさっている。政治からの規制がない限りは、価格を決定する権利は努力をする企業にあります」

「綺麗事だ」

「それにあなたがたの事業は国内全体に行き渡っている。競合する他社が生まれたことは社会全体の消費者にとっては好ましいことなのだと私は考えます。これまでマンチェスターのためにご尽力いただいたあなたのお力になれず申し訳ない」

「・・・いいか、忠告しよう。私は口を出すから金も出した。ギルドの権益にあぐらをかいていると金を出さないあの小僧に足元を掬われるぞ」

「ギルドのトップが貴族様でなくなった時にでも考えるとしましょう」

「いいゴミ分だ」


 ガスパーは怒る。

 最近は業績がふるわない。

 東側では未だ利益を保ってはいるが、最も物資の流れが盛んな西側のルートの需要をどんどん蝕まれている。

 これまでのアウストラリア経済を支え尽くしてきたにも関わらず、苦しい時にも関わらず再建の光が一向に見えない。

 我が社は奴の経営する銀行からも融資を受けているというのが、最も屈辱的だ。

 事業縮小しマンチェスタールートから撤退をすべきなのか、その判断を下すのは早いほど傷は浅くなるが、一方で、まだ判断を下すには早いこともまた然りだ。損切りに踏み切るには投資した額が大きすぎる。



 ──翌年、1月の中旬。


「待たせてごめん」

「いいんだ。書類を眺める時間はいくらでも必要だ」


 無事に年も明けて、僕たちはこの半年間で幾度となく議論を交わしてきたテーブルにて顔をつきあわせた。


「話があるって?」

「そうなんだ」

「なにか問題が?」

「いや、いまのところ大丈夫だ」

「ならよかった」

「個人的な話だって言ってたんだが、伝わってなかったか?」

「ついでだよ」

「そうか・・・まぁ、俺の話も仕事に絡みはしているんだけどさ」


 ゲイルは一息つくと、テーブルに広げていた資料を重ね底を叩いてから鞄へ、その鞄を亜空間へと仕舞い込んだ。


「仕事に不満がある?」

「お願いだから、俺から話させてくれよ」

「わかった」

「仕事は引き受けたからにはちゃんとこなす。だが、まぁなんだ・・・どうして俺だったのか、改めて聞きたいんだ。お前は俺が同じ質問を前にしたとき”根拠が欲しいから”と言った」

「そうだったかな」

「そうだ。俺が返事をしに行った日のことだ」

「そうだったかもしれないね」


 彼にはピーターメールの監査に取り掛かってもらっている。書類の量は半年も営業していない新米企業なのでさほど多くはない。とはいえ、電子機器もなければ何気に外部との取引が少ないわけでもない。僕はイデアの力も借りてささっとピーターメール、ブループリント、エアデプール系列、ケレステール銀行系列以外の企業の財務諸表をまとめたけれど、会計に関わる仕事はナレッジワーカーとして知的労働に従事するだけにとどまらず膨大な作業量を抱える肉体労働の様相を呈する。

 それでいうと、ケレステール銀行系列のエヴァンスたちはよくやってくれている。

 いまだにノーフォークの人々が新しい金融機関に対して慎重ではあるが、グループ会社のメルギーからブルーコイン事業を同じ時期に始めたおかげで想定より評判は悪くない。

 現在はブラームスの王都での報告出席出張に合わせて彼も王都へ出張している。

 金利調整のための駐在員をワンルーム一つ借りて置かせているだけの店構えだが、ついでに中央銀行の仲間に声をかけて何人か人材を引っ張ってきて、近いうちに営業を開始できるように準備を進めるとエヴァンは息巻いている。

 そうそう上手くいくかどうかは彼の手腕次第だ。


「遊び程度に思ってるのか?こんなに資金を投下している事業を。とてもそうは思えないが、いまの批判はこんな子供な俺を皮肉ってのことだ。俺は自分を優秀だと心の底から信じているが、一方で、過ちを犯したことがないわけでもない」

「国内で運送業に携わっていて、かつ、継続企業の心得を得ているものは少ない」

「・・・なぁ俺さ最近な、前と同じ事態に陥っていないかが不安なんだ」

「僕が君を操っていると言いたいんだね」


 事実、そうなのだから。

 僕はあえて核心へと触れることにした。

 ゲイルを押し潰してしまっては元も子もない。

 

「違う。父と母を裏切るという話だ」


 驚嘆に値する。上から評価を下そうと突き刺していた僕の目を、ゲイルは真っ直ぐに捉え返し否定したのだ。


「シルクはウォーカー商会に出入りしていた商人の一人に過ぎなかった。だから巧妙な語り口で擦り寄ってきたあの女の唆しを防げなかったと、あの事件が起きたのは自分達の監督責任の欠如が招いた事態だと俺を慰めた。それもまた一理ある真実だろう。わかるか。それでも俺がどれだけ惨めな思いをしたのか。自分の尊大な欲を満たすためにお前に毒をもったクソ野郎なのは俺なのに、まるで自分たちの罪のように頭を下げ続けた親父の背と金の影に隠れて処分を免れた気持ちが。どれだけ自分を恥じて、消え入りそうになっていたか」


 欲を満たす行為と目的を達するための行為は、崇高さが違うように思えるが実際は同じ縦の線上にある。

 同じ雲を下から見るか、上から見るかくらいの違いしかない。

 だが確実に見え方に違いが生じる。

 光と影が生まれ本質は同じなのに面によって明るかったり暗かったり、でも上と下の概念が逆転することはない。


 さて、どうフォローしよう。

 春分は必ずやってくる・・・いや、違うな。


「では真実を幾許か話そうか。たしかあの時ゲイルは自分をアドバイザーとして雇う道もあったと置いてから僕に尋ねなかったかな。それがあの言葉へ成った。根拠についてはゲイルのお父さんも巻き込んでのこと然りだが、それでもなぜ君なのかという点だ。それは偏に、ピーターメールが継続企業であることを前提として起業されたからだった」

「・・・それは。問いへの答えとしては徹底して、条件だけを見て俺を見てはいなかったというつもりか」

「会計は一般的に正規の形式で方針には明瞭性を掲げつつ相反する概観性にも気を配る。姿勢は収益と費用に対する保守的なバランスを重視するわけだ。そしてこれらに一貫する、継続性において形式、方針、姿勢、会計期間は一定に保たれ、正当な理由が見つかる場合は適宜、修正を必要とする。会計とは相対的な真実を追求していくものだ」

「公準と原則だとお前は言っていた」

「そうだ。僕はそうあるべきだと学んだ。そして君のお父さんは当座と継続のどちらにも造詣が深い。息子の君は継承者だ。君が失敗すれば君の親の名前にも傷がつく。君はそれを身にしみて学んだ。故に、仕事として引き受ければ半端な仕事は矜持が許さない。これが根拠。ウォーカーの真実とでもしておこう」

「それでもなぜ俺だ」

「若ければ若いほど、矯正がしやすい。立派なお父さんの下で学んできた。基礎から応用までさまざまとだ。業界と業界が重なり合う世界というのはとめどない。それはまるで、この世界とまったく異なる別の世界が混じりあってしまうくらいにインパクトのあることだ。そこから多くを学んで得られるものは多いだろう。継続性のある思考ができる人材を求める一方で、とある界隈で継続的な思考に長らく支配された者がピーターメールのあり方について来られるとは思えない」


 この世界で、という枕詞がつくのだがね。


「若さならお前の方が若いだろう。なぜ自分で評価しない?」

「企業実体ゆえに。出資者から企業は独立したものと捉えることが望ましい。僕が見ればどうしても主観が入る。例えば、僕の食費を交際費と計上させたらどうなるだろう。だから僕はエスナの台所に宿泊費を払いそこに寝泊まりし、ピーターメールの会計に計上してはいない。だからクッキーベルはピーターメールの支援を受けていると世間一般から見られる。だから僕は取締役を湊花さんと代わった前も後もクッキーベルから分前を受け取ったことはない。すべてはピーターメールの企業活動の中で処理されている」

「ここまでの話のすべてが業務内容の前提に当たる部分だということは理解している」

「僕は君が相対的であることを望む」

「俺は俺だ」

 

 ああ、そうだな・・・。


「表現をマズった。正しくは君の仕事が相対的な真実を追求するよう望む。こう修正しよう」

「俺はお前のそうやって周りくどいところにたまにイラッとくるよ」

「利益操作のごとくね。早速実践してるようで」

「俺は小回りが効くんだ」

「それじゃあ今すぐにメルクリウスの完全攻略でもしてみるかな」

「あっ、テメ!ずるいぞ!周りくどいままだし!」

「僕は僕だ。そしてこれが僕の強みだ」


 この返しに対して、ゲイルは「・・・そうだな」と、懐かしむように微笑んだ。

 僕は少なからず君を苦しめることになるだろう。

 君の大事なものを傷つけることを許してくれ。


「俺を信じているとは言わないのな」

「信じているとも。僕の責任が故にだ。自己責任とはそういうものだ。・・・G線上で手ずから奏でられる名曲があるように、赤にしろ、黄にしろ、銀にしろ、経緯はどうあれ天球には地平線と天頂と天底を結ぶ観測者が欠かせない」

「・・・どういうこと?」

「・・・今の口に出てた!!?」

「明瞭性はなく概観しか掴めなかったがどことなく詩的だな」

「君の問答のせいだ!質問に疑問をぶつけて、これではまるで──」


 ソクラテス式問答でも受けてるみたいだった。でもこれはゲイルには伝わらない。


「・・・省察しているのが僕かのような気分だ。とめどなく溢れる疑問に質問を重ねたところで真実に辿り着くことはない。深く理解するだけだ。理非曲直。人生そんなもんって言いたかったんだよ」

「よく回る舌だ」


 そこから僕は舌を出して唇で噛み締め、しばらく沈黙を貫いたところでゲイルが「子供っぽい」のうんたらかんたら僕の態度を批判した末に折れて謝ったところでそれを受けて話を業務上の相談へと移した。

 ま、人生そんなもんだ。




 アウストラリア王都、カウス・バルト。

 ベルの時代にはカウス・ヒューズと呼ばれた都である。


「ご無沙汰しております、バルト王」

「ノーフォーク公爵」


 王の執務室にて、ブラームスはノーフォーク領営報告を始める。

 

「以上、ノーフォークの1年間の地政と財政報告です」

「わかった。引き続き領主として雑務に専念してくれ」

「・・・補佐官方々には少々外していただきたい」

「いいだろう。下がってくれ」


 バルトはブラームスの要望に応える。


「くつろいでいい」

「ノーフォークは国内でも重要な食糧庫だ。それを雑務などと一括りにされるとは」

「しかし、こちらから方針を示したところでお前はすんなりとは受け入れないだろう」

「正当な職務ならば喜んで従う。私が望むのは平穏だ」

「では、従わないのはお前の隠し玉か」

「厄介者扱いはよしてくれ。リアムは弁が立つだけの子供ではない」

「そうだな。白く輝く特別な星の下に生まれてきたようだ」

「だけでもない」

「・・・お前はあの火種がどれだけの熱さで燻っていると考えているのか。過熱しすぎだ」

「リアムを爆弾だと他の誰でもない兄上が仰るのですか?」

「他の誰でもない、我は王だ」

「・・・当時は、重要なオブジェクトダンジョンの存在とノーフォーク領主の世襲問題が重なったことで私に任されたと思っていたが、今となるとこの采配はどこか仕組まれたものを感じる。陰謀の影が王政に落ちている。高部の影か低部の陰か。継承せし天雷の王よ。私は雷雲あなたの陰として育てられた。陰の中で大地に根ざしている。雲の上にしろ下にしろ、陰が影をどう見下ろせというのだ」 

「大地に射す雲の形を私は明瞭とすることができるが、私が雲の形を変えられるわけではない。ただ、私の下にある異物の影ならば照らし出すことはできよう。観測は地上の者の役目だ」


 この国の王として生まれた時から育てられてきた兄が、謙った。なぜ権威を傷つけるような形振りをとる。


 パトスの存在と対立しないという魔法契約によって、簡易にこの国の王位は継承される。王位継承の闘争は無意味なのだから、私が逆らうこともなかった。だが、そんなバルトに意見を投げかけることができるものがいる。ハワードだ。


「私の娘は逆雷となり、頭上に鎮座する敵を撃ち落とした。もう一度問いましょう。雲にあたる光を私は見ることはできない。稲光いなびかる王よ、あなただけが見ている景色がある。一方で、私たちは人でもある。言葉を用いれば、空で何が起こっているのかを報せることはできるでしょう」

「くどいぞブラームス」

「・・・それだけですか?いったい王都はどうなってしまっているのか。それにハワードの嫡男が勇者などと」

「今度、ミリアはユピテルに臨むのだろう。お前の娘も傾倒し始めているのではないか」

「騎士隊とであってハワードとではない。お互いの利害が一致したためだと娘からは聞いている。それにハワードの一存ではないでしょう。なぜ黙認しているのか。娘が絡んでいるというのなら」

「遮るようだが、2年前、正光教会によって勇者降誕の儀式が行われた」

「2年前・・・まさか。そこにルイスが?」

「原則を忘れるな。降臨はなかった。すなわち現世に既に勇者はいる。その場合はセラフの告知によって遣わされる巫女によって勇者が選定される」

「正光教。巫女も所詮は人に過ぎないのでしょう。間違えることだってある」

「人のお前がどうして勇者の身分を語れるというのか」

「勇者にはふさわしい力が求められる。ミリアにも負けたハワードの跡取りよりも、ミリアを主導して偉業達成へと導いた者がいる。現時点ではどちらがふさわしいかは論ずるまでもない。さらにリアムはルイスと同じ──」

「弟よ!・・・せめてもの勧告だ。リアムに関わるのはやめておきなさい」


 バルトはこのときノーフォークを末枯れる。

 ベルの真実と願いを子孫である我々は最大限に尊重するが、相反する神の酔狂によって世界を呪って当たり散らされてはたまったものではない。

 精霊王の中でもリアムの本当の正体を知るのはシエルの側に仕えているドミナティオスとソロネくらいだ。

 正光教のセラフですら中間の伝令役にすぎないのだから、パトスやパワーズ、他の精霊王たちが知るはずもない。

 ノーフォークに意図的な謀を隠したのはかつてのベルの近くにいた英雄たちだけではなかった。 


 剪定して摘み取るべきかどうか。


 私たちが敷いたレールの上で走ってくれていれば楽だった。


「何をもって彼を勇者とする」

「リアムのステータスには勇者の称号があります」

「前任者のベルの時代にはなかった代物だ。我々は型式を重んじ、伝統を守らなければならない」

「それではリアムはなるべくしてなったというわけではなかったのですか!!?」

「ベルの一件以降、もう異世界から知識を引っ張ってくるのはやめようという話に至った。我々が責任を放棄しているだけなのだとね。彼女のおかげで世界は3つ成熟し、2つ失ったはずだった」

「だから残った一つがッ!それだというのにッ・・・2つ、はずだった?」

「因果はあったとドミナティオスは言っていた。聖戦の終幕にドミナティオスの力を宿した聖剣マルクトの斬撃で空を裂いたのが誰だったのか」

「それはベル・・・不思議な精霊と竜、イデアとハイド、彼らは!!?」

「神の仕業だというものもいるが真実はわからない。なにせ、リアム、奴を呼び寄せたのは・・・よそう。彼は生きたいと願った。だから彼は選ばれた。故に半ば強制的になるしかなかったのだ。勇者に──」

「パトスを出せ・・・」

「出せ?」

「プリンキパトゥス、兄の影に隠れずいますぐに出て──」


 ブラームスのはちきれんばかりに硬直する喉元に、痺れが走る。


「私をその名前で呼ぶとは、愚かだなブラームス」

「お前こそ愚かだ。いますぐにお前は一条直人に頭を垂れて許しを乞うべきだ」

「なぜ私が如何にすべきか」

「一国の象徴ともあろうものが理非を見失ったとでもいうのか」

「ブラームス、それはあまりにも不敬だ」

「兄さんは黙っていてくれ!!!お得意の公平、善性こそがこの国を豊かにするための標なのだと信じる国民にどう顔向けをするつもりだ!」

「お前もわかっているだろう。そんなものは魔力で魔力を縛るための掟の建前にすぎないということを」

「国民に平和と調和を敷く雷の精霊王ともあろうものが力を語り論駁するとは・・・プリンスに逆戻ったか」


 ブラームスが蔑称を口から零した喉に再び弱い電流が走る。


「パトス。どうか矛を納めてくれくれ」

「どけバルト」

「彼にエンペラーを避けられてトラウマでも甦ったか!?」

「・・・もう一度、言ってみろ」 

「ブラームス!祖先にすら敬意を失するのか!!!」

「・・・いや、すまない。かつての英雄たちの命を賭けた高潔さを侮辱する意図はなかった。今の失言はなかったことにしてくれ。私も動揺しているのだ」

「いいだろう。voltage、ヒューズ・ギガ・アウストラリスの血脈に免じて許そう」


 間に入ってパトスを止めたバルトは、服の乱れを整えて席に戻る間、ブラームスとパトスの両者は熱くなった感情を鎮める。

 それでも、ブラームスの怒りは治らない。


「パトス。なぜ兄上の名前がバルトとなったのか、今一度、聞かせてはくれないか」

「voltage──これを並び替えて、valt・geo。バルトの治める国を表す。ここから私に倣いgeoを削ぎ落としバルトを名乗る。これは先代の王、お前たちの父親が祖父とともに戦った憧れのベルの世界に倣った名付けでもあった。お前同様にだ。ブラームス。ベルの記憶に準ずる名前を得ているのはお前もだ。だからよせ、早まるな」

「前王、我らが父がアリスに篭ってじっくりと名前を付けた。私の名前が既存の人の名を借りてきただけで、考え抜かれた名前でなくて助かったよ。順序を違えれば、また違った意味となるだろう」


 王のegoによって国が押しつぶされないことを祈ろう。


「今日はもう帰らせてもらう。どうにも冷静に話ができるような気分ではない」

「ああ、それがいいだろう。ブラームス、今回ばかりはだ。次はない」

「くどいぞ!!!」


 飲み込んだ怒りの句が吐き出されないうちに、それでも怒りを漏らしてブラームスは応接の間を後にした。


「気を落とすなバルト。兄の前となるとブラームスは短慮になる」

「私がそう仕向けたからだ。私は罪悪を感じるべきなのだろうが、なにせ我は王、だ。私が真実を知ったのはパトリックの結婚式の後だった。明かす機会は昨年にもあったのだ。私は真実を隠していた。そして、隠した。イデアとハイドか・・・彼らだけならどんなにマシだったか」

「まさかリアムが学院にも通わず国内漫遊を始めるとは。娘をやるほどリアムに愛着が湧いているとも思わなかった。それにお前が彼に会った時はまだただのリアムだった。攻略者のリアムではなくだ」

「問題はそれだけではない。リアムが対立するハワードだ。彼らがどれだけの真実を知って今の風潮を作り出しているのかがわからないことには、正面から衝突することは避けなければならない。特に、ウィリアムの件はとても敏感な問題だ」


 ・・・こればっかりは、ヒューズとギルマンをはじめとする英雄たちの結論に私は賛同することはできない。

 ブラームス、リアムの件に関しては私も甚だ遺憾だよ。・・・ホント、厄介な種を撒かれてしまった。

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