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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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338/371

59 Rocky


──リヴァプール、職人街。


「こんばんわ」

「こんばんわ」

「暗くなるのも早くなってきましたね」

「こちらの都合に合わせてもらいまして」

「質のいいガラスや鉄製品を売ってくださる皆さんには感謝しております。それでどうでしょう、板硝子の方は?」

「こちらです・・・どうでしょう?」

「いいですね。では先方の了解が取れ次第、エアデプールの方で仕入れて仲卸します」


 ヴァトアウトノウレッジからショーケースタイプの魔法箱に使う板ガラスと枠の製造を依頼した。

 ブラド商会がエアデプール社に直接発注せずにヴァトアウトノウレッジを通したのは、枠には緩衝材としてゴムが使われているためである。

 ショーケース扉は試作品をヴィンセントに見せて了解が取れ次第、エアデプールを通してブラド商会へ卸す。

 クッションゴムの製法は知的財産として発明者をリアムとし、ヴァトアウトノウレッジ会社が仲介することとなる。 


「それであの・・・ブラド商会というのは魔法箱を販売していた会社ですよね?」

「ええ」

「もしよろしければ、魔法箱の特許者との仲介をお願いしたいのですが」

「それはまたどうしてです?」

「炉を使う仕事柄、安定した水温を用意できる魔法箱の技術はとても魅力的なんです。水の品質を管理することで、より安定した製品を供給できるようになると」

「それでコストが上がるということは?」

「それは・・・ないと思います。技術を借り入れることで大きく費用が跳ね上がるのなら契約は致しません。ご心配されているコストの上昇が起こるとしたら、原料の高騰か氷屋が氷の値段を上げた時です。多少の品質管理コストの増加はこちらの都合ですから、ブラド商会さんとの契約では価格を勉強させてもらいます」

「そうですか」


 設備投資が必要とのことなのでガラスの冷却用の錫型やゴム製造のための設備はこちらで用意して十分な量を貸出した。

 ならばここは鍛治を専門としている工房だから、焼き入れで使う冷却水の話をしているのか・・・鉄の変態におけるマルテンサイトとパーラサイトの関係については僕も知ってる。


「鍛治で焼刃土は使わないのですか?」

「そ、それは・・・使っています」

「そうですか、それでは」


 熱せられた金属が水に触れる場合、水蒸気による膜沸騰により冷却効率は大きく下がるため、急激な冷却によって生じるマルテンサイトを作り出すために焼刃土で膜沸騰を起こさないようにして急冷効率を高める。

 一方で、安定した水の温度をということだが、水の魔石を使えば解決できる問題に思える。扱う人と魔石によっては水温にムラが生じるものの、これまで営業してきた実績はどう評価すべきか、そして魔法箱にも稼働コストがかかるという話なわけで。


「待ってください!用途を偽って大変申し訳ありません!」

「次に偽ることがあれば取引を切るか考えさせてもらいます」 

「はい」


 魔法箱を本当に品質管理に使うために欲していたのだとしても、工房の技術力向上に貢献するつもりは端からない。

 とはいえ舐められたものだ。使途を偽った業者を紹介したとなれば仲介役の僕の信用を平気で傷つける。

 やはり専属契約を結ばずに正解だった。

 尤も、良い信頼関係を築けられれば下請先として契約を継続するつもりだったが咎めるものはもう何もない。ガラスとゴムの製造のための設備投資に伴って、知的財産の保護云々、技術流出を防ぐためとこじつけして工房の職人との雇用契約書を見せてもらっていた。確認したところ職人たちを引き抜いても何の問題もないことがわかった。

 我がグループはどの会社も深刻な人手不足にある。ブループリント社然りだ。

 というわけで、初めに大量にショーケース用の扉を発注して工房の仕事をこれで逼迫させる。ゴムのライセンス契約はランニング式で結んでいるので、実施料ロイヤリティーは販売するごとに発生する。また、契約期間は3ヶ月間と非常に短期である。理由は試用期間や仮契約のためと話しているが、次回の契約更新時にも契約期間隔を変えるつもりはないし、実施料を上げる。一方で、エアデプール社では価格の転嫁は認めないものとする。これとリスク回避の2柱が専属契約を結ばなかった理由だ。

 そうして契約更新の順番をライセンス、設備貸出と徹底し、必要な分のショーケース扉だけエアデプール社で発注する。


『本当にいいんですか?』

「次回の契約更新で設備貸出の料金をとることは金額と一緒に通達してるし、そう契約した。ライセンス契約はランプサム式にしなかったし、辞めようと思えば設備借入の費用分だけで辞められる道を残してる。設備の借入代金を払いたくないのなら自社で設備投資すればいいだけの話だよ」

 

 ・・・違う、これはテストケース作りだ。


『ですが設備投資をすれば財務が悪化し後に引けなくなります』

「んー、いつになく良心的じゃない。僕を騙そうとしたくらいだからそこまで馬鹿じゃないと思うよ。馬鹿だと引き抜きにしろ買収にしろ釣りで終わって楽なんだけどさ。漁に出なくて済む」


 海咲に紹介してもらった工房だったから設備投資までしたが、ガラス専門の工房なら他にもあるのだ。この工房を選んだのは、硫黄を仕入れる伝手があったのと窓枠の制作と今後マテリアルをグレードアップした遮熱性の高い魔法箱開発を見越して縁を持っていた方がいいと思ったから。


 ──工房を後にし、ベッセルロットの中心街に一番近い職人街の通りの建物に入る。


「それにほら・・・あの吊り下げられた魔法箱を見て何も思わない?」

『・・・』

「ラディたちがネイドンにスクール演習に行く前に寄った武器屋が涼しかったって言ってただろ。アレは魔石内に魔法陣を組み込んだ最新モデルだね。これまでにブラド商会を通して売っていた分だ。ロバートがこの組合に新しい用途を生み出すために下賜したらしい。しかし違法に作成した陣を用意しない限り魔石が消耗して魔道具の寿命も尽きる。工房が何を作ろうとしていたかは一目瞭然だ」

『あまり虐めないでください』

「今日はしおらしいね」

『私はいつもお淑やかな清楚で通ってますから』

「でもまぁ・・・本当に嫌だったら、考慮するよ。この技術は君を使って開発したものだ。それに他のことでもいつも世話になってるから」

『いいえ、大丈夫です・・・私がリアムの行動を諌めるにしろ、制限するのは違いますから』

「助かるよ。既にエアコンの製造にも着手した。ここまで早く進められているのは君のサポートがあってこそだから」

『魔法箱技術を応用した空調はノーフォークにいた時からもう土台は作っていたではありませんか。そんなおべんちゃランチャー撃っても私の清楚さは崩れません』

「ツンデレを期待したんだけど・・・寂しいからこれからは君のままで、そのままでいてよ」

『お望みならば、リアム』

「頼んだ、イデア・・・帰る前に港に寄りたい。君だけでも傍にいてくれ」

「はい」


 匂わせたような会話がしっかりと伝わるって楽でいい。最近は君すらも僕の一部だと思いたくなるくらい自分が弱ってるのがわかる。


「こんな港を僕は片手間で作れる。イデアがいればもっと楽に作ってしまえた」


 こんな時に傍にいてほしいのは誰だろう・・・。


「あちらへ戻ったら君はいない。鈴華・・・隣にいて欲しいのが君ではないことは確かなようだ。だけど会えるなら会いたい」

 

 この世界はなんだ。

 死後の世界なのか。

 それとも実は僕はまだ死にかけているだけで夢を見ているだけなのか。だとしたら何とも融通の効かない夢だ。


「僕が死んだのなら死んだと誰か教えてくれ・・・この世界が夢ならすぐさま捨て去れる。覚めるなら覚めてしまえ!生きているのに覚めることがないのならいっそ殺してくれ!」

「私はあなたの夢ではありません・・・リアム」

「それでもこんなにも!こんなにも・・・健康なのに生きるのが辛いと思ったのは初めてだ。しんどい・・・すべてが無機質に思える。無意味だ。塵だ芥だ」

「私たちはあなたの夢ではありません!!!! わたしたちを否定しないで!!!」

「お父さん・・・お母さん・・・別れ際に握ってくれたあなたたちの手の温もりが恋しい」

「___あなたはずるい。私にそのままでいて欲しいと、ずっとリアムと呼んで欲しいと言ったのに・・・その名前を簡単に捨ててしまえるなんて」

「・・・誰でもよかったんだ。誰でもだ・・・聞いてくれるのなら誰でもよかった」

「わかっています」

「こんなにも自分の弱いところを曝け出した」

 

 服の袖で顔に残った水の跡を拭う。

 

「でも私は全部見ましたよ」

「・・・全部?」

「はい、全部です」

「そっか・・・そういやそうだった。イデア、ハイド。君たちはなんとも都合のいい存在だな。妬ましいよ。いつか君たちを僕の中から追い出せるのならそうしたいな・・・そうしてイデアとハイドを知る機会がほしい」


 大丈夫と声をかけあいたい。

 嫌いなら嫌いだと言ってくれていい。

 2人の言葉にぬくもりを持たせてあげたい。



──翌日、ベッセルロット、ロッキー結晶屋。


「あなたがこの結晶屋の経営者様ですね。個人経営ですか?素敵なお店ですね」

「はぁ・・・ロッキー結晶屋を経営しておりますオレ・ロッキーです、よろしくお願いします」

「突然ですが、この店に所属している魔道士の数は何人です?」

「6人です」

「そうですか・・・社員数は?」

「あの、先に御用件をお聞きしてもよろしいでしょうか。失礼ですが魔道士の派遣等をご所望でしたなら社員数は特に関係はないかと思うのですが」

「申し訳ございません。自己紹介いたします。私、リアムと申します」

「リアム・・・というとまさか、ノーフォークの完全攻略者の」

「ご存じいただけているとは光栄です」

「最近リヴァプールにも出入りされていると噂には聞いていました。本日はどういう御用件で?」

「簡潔に申し上げますと、御社を買収し私の所有する会社へ吸収合併したいのです」

「・・・なんですって?・・・あ、いやその、条件は・・・しどろもどろして申し訳ありません。少々驚きまして・・・もう大丈夫です」


 買収に応じる隙があることを漏らしたのを自覚して、ならばと買い叩かれないようにタイを締め直したといったところか。少々自信なさげなのはこのところの業績悪化のせいだろうか。にしても、買収提案後の初動は良くなかったがロッキーの評価は今の所悪くない。


「条件をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「はい。まず具体的な買収額についてはこれから査定を進めるとして、適正な評価額を算出したいと思っています。つきましてはそちらの実態を知るために帳簿を見せていただけると非常にありがたいのですがいかがでしょう」

「まずは目安となる額を提示していただいてから、ということで」

「わかりました。本来なら事前提案書を持参すべきですがそちらの会社を知った昨日の今日でして。こちらの準備不足をお詫びします。では財務諸表のご用意をお願いできませんか」

「わかりました」

 

 席を立ったロッキーは書類棚から紙束を手に取り、僕に手渡してくれた。


「ここ数年分のモノです」

「魔法で写しを作ってもよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ・・・」


 了承が得られたので、光属性の魔石で1ページずつ撮影する。


「すごいですね。それで写せているんですか?」

「書類は後で紙におこさせます。作業をしながらで恐縮ですが、買収にあたり事前提案書に記載する予定の内容の一部から、こちらが課す条件についていくつか注意事項を述べさせてください。まず、買収にあたっては競業避止義務契約を結晶屋の皆様方には結んでいただきます。こちらは買収成立後に契約を結んだ方が競合他社への転職や競合会社の設立をすることを制限する契約です」

「それは・・・ウチの魔道士たちには致命的ではないかと」


 致命的、を専門属性職と変換すると魔法箱に限らず魔道具そのものが重宝される理由につながる。希少な属性でも魔力量さえクリアできれば万人が再現可能となる。一方で、魔道士依存の場合1日に行使できる魔法回数に制限があるから需要があって希少な魔法属性ほど貴重な人材となる。

 だが、致命的というのは過大表現だと思う。

 一般成人の平均魔力量を参考とすると、職務時間中ずっと魔力を使って魔法を行使し続ける人間などほとんどいない。要は、一般的な仕事の多くは非魔法労働前提の労働が基本であり、魔法能力は雇用競争において優遇される要因の一つでしかない。


「先ほど6人の魔道士が在籍していると、各魔道士が専門としている主属性の内訳はどうです?」

「6人のうち4人が氷属性専門です。また、残り2人が土及び土の派生属性を生業としてます」

「そうなんですね。一応、ロッキーさんには競業避止義務契約を拒む労働者を解雇するか、もしくは買収を断っていただくかの二択をとっていただくことになります。また、各労働者の能力如何によってはこちらの判断で雇用を打ち切る場合があることも呑んでいただきます」


 バラバラに切り売りしてもいい。こっちに権利があるし、まぁするつもりないけど。


「次にお越しいただいた時までに従業員に相談します。その上で、判断しお返事させてください」

「お待ちしております。では、最後に一番大事なことを聞かせてください」


 本来は、初めに言質を得ておかなければならなかったが、突然の訪問だったことだし拒絶もされなかったので、せめてもの誠意を見せるために先に説明できるところだけざっと説明を済ませた。


「仮に適正評価額の事前提案書を持参し次回以降価格交渉等を詰めるとして、現在のところ買収の受け入れをご検討いただけるということでよろしいですね?」

「はい」

「よかった。それでは取り急ぎ準備を進めます。良いお返事をいただけるようこちらも努力して参りますのでよろしくお願いします。本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました」

「こちらこそ、我が社に興味を持っていただき貴重なご意見を賜りましてどうもありがとうございます」


 その気がないのに資料だけ見てみたいと物珍しさでテーブルに座られては無駄骨すぎる。

 それにしてもまた一人、原鉱を見つけたような気分だ。




 ──ステディエム、ピーターメール本社。


「みなさんおはようございます。カレンダーです。取締役会での先日の報告を受けてまずは私から魔法箱部門についてレビューしたいと思います。ピーターメール、初月の魔法箱貸出し業の売り上げが1020万Gです。1週間プラン3件6庫90万G、1ヶ月プラン4件6庫120万G、半年プラン8件27庫810万Gです。なお半年プラン8件の内、1週間プラン3件が新規契約したリピート分を含みます。また月売上に換算すると345万Gでした」


業務用向けレンタルプランは次のとおり。


1庫基本料10万Gとし──


1週間プラン=15万G

1ヶ月プラン=20万G

半年プラン=30万G


──となる。

 また、契約上は設置限定で申請を受けた建物からの持ち出しは禁止している。違反時には1庫につき100万Gを支払う。


「また、ブラド商会への魔法箱製造委託料金として業務用魔法箱1庫20万G×100で2000万Gでした」


 これまでブラド商会で提供していた魔法箱は小型個人用50Lで店頭小売価格が50万Gだった。

 一方で、業務用の500Lの業務用魔法箱を1庫20万Gなのでヴィンセントの手腕がどれほどのモノだったのかわかる。

 初めてロイヤリティーを受け取った後、実は魔法箱の販売についてヴィンセントに僕から取引数を制限してほしいと注文を出していた。 

 これにはヴィンセントも難色を示すことなく応じてくれた。というのも、魔法箱自体は消耗品の位置付けになるからである。大体の耐用期間が決まっているため、自己判断で故障するまで使えた電気冷蔵庫とは訳が違う。そうして市場で需要が増えるも、設備の許容する製造数を超える出荷はできなかった。

 しかしながら、ヴィンセントには”商会の増加した利益を設備投資に回してサプライチェーンを整えて利益を増やして”のサイクルを繰り返す道もあった。子供で特許を握る僕の機嫌をちょっぴり忖度されていそうだが・・・。

 また、これまでは魔法箱を買うともれなく箱までついてきていた。

 ピーターメールでは1庫につき10万Gの加工魔石も購入する予定なので、箱の耐用年数分の箱代を浮かせられる。

 徹底的な価格維持を貫き、利益を出していたヴィンセントには感謝している。

 これからは、ピーターメールにも利益が分配されることになるがブラド商会にも少しずつ身入りを増やしてもらえればと思う。それでヴァトアウトノウレッジ株式会社を通して僕の身入りも増える。


「したがって魔法箱部門は赤字です。ブラド商会へ支払った分を除けば費用を差し引くとえー・・・52万G程でトントンに近いです。雇用を進めているので人件費が増加することも見越すと成績が来月も同じようならブラド商会への支払いを除いても赤字になる予て・・・でしょう」


 先立つものがあると投資効率が段違いだなぁ。

 さてさて、先月の人件費にノーマ達アグーチの人件費は含まれない。

 理由は、ノーマ達アグーチのみんながピーターメール社でなくスターマップ社で働くことを了承してくれたためである。ピーターメールとエアデプールの共同出資であったスターマップ貨物株式会社はエアデプールの完全子会社となった。しばらくは共同出資の体を取るつもりだったのだが、1ヶ月と少し経ちアグーチのみんな、特にロボロフ族のノーマを筆頭とし彼らは子会社経営を任せるに足るほどとても優秀だったと評した。そのためピーターメール所属の湊花たちに経営について面倒を見てもらう必要がなくなったので、人材が充足したためエアデプール傘下の完全子会社化に踏み切ったわけである。

 それにしてもアグーチは空間属性使いとしても優秀で、自己申告だが一人一人が一辺1km並みの大型貨物船を優に超える亜空間を支配していた。そのため業務用魔法箱100庫を難なく一人で運ぶ。初仕事はリスク分散のため3人体制で運ばせたが、亜空間はスッカスカだった。

 最近の経営上の課題といえばスターマップ社以外の会社の人材不足とスターマップ社で優秀すぎる人材を10人も雇ってしまったことだ。アグーチの諸君を腐らせてしまわないようにしたいが、会社の方針をノーマに示す僕の資質が問われる。


「一先ずの目標月売上額は2000万Gですが1000万Gを達成次第、個人用魔法箱の貸し出しサービスも展開していく予定です」

「わかった。次、他社との業務提携についてお願いします」

「他社との業務提携についてスローからお話しします。業務提携先はブラド商会とスターマップ貨物とエアデプール商事の3社です。ブラド商会には魔法箱製造とノーフォークでの魔法箱の貸出部門の委託をしています。先ほどカレンダー代表取締役から報告があった先月の魔法箱部門収支報告にはこちらの貸出権のロイヤリティは含まれていません。次にスターマップ貨物にはエアデプール商事との縁でノーフォークからステディエムまでの移送をお願いしています。また、新しい魔法箱を輸送する場合はそちらにエアデプール商事系列の会社の商品を詰めることで費用を抑える予定です。エアデプール商事とは移送する魔法箱にノーフォークの品物を詰めることで送料の負担を半分ずつにし、手数料を受け取る契約をしています。その他にエアデプール商事の取引先のブルーテーゼ食品店へ従来の半年プランで魔法箱計15庫を貸出し、また、8庫の設置義務を緩和した開発中の半年特殊プランを結ぶ予定となっています」


 魔法箱を貸出のみに制限した理由の一つは製造元がノーフォークである利点を最大限に活かすためだった。使用済みの魔法箱を新品として売るわけにはいかない。当初は負担を半分に減らすことで空いた空間で他の貨物移送も引き受けようと思っていたのだが、今は専属の委託先として設立したスターマップ貨物が大きな問題を抱えている。


「・・・です」


 さぁ、エアデプール商事の責任者として現在のピーターメール社は信用に足るだろうか。

 エアデプールの取引先はエクレールと神楽とブルーテーゼと馴染みばかりだ。なお、神楽とエクレールにはメルギー食品株式会社から提供されるレシピに沿った調理済み冷凍向け食品を製造してもらい、テーゼ商会には肉や野菜等食品の冷凍加工を受注を担ってもらいメーカーからエアデプール商事がブルーテーゼ食品店へ卸している体を取る予定だ。


「あっ・・・手間取ってしまってすみません。それからメルギー社の展開するブルーテーゼ食品店とはプロモーションイベントを開催する予定です。今週末に先方の責任者が来訪されるのでその時に詳細を詰めます。企画としては冷凍食品を調理した料理を提供するイベントです。街の役所にもイベントの開催が可能かの確認は済んでいて、是非にと応援までしていただきました」

「それは失敗できないですね。企画の今の所の予定内容は?」

「現在、家庭に個人用魔法箱が普及していないことを鑑みて買ったその日に加工しやすいスープを作って販売したり、肉や野菜を炒めた料理を販売したり、調理加工済みの商品を加熱したりして販売します」


 よくできました。ピッグからの手紙を届けた時にこっそり湊花と原稿の内容を詰めた甲斐があった。


『あらら・・・』


 テーブルに着いている湊花の方をチラッと見ると目が合った。僕も湊花も表情を大きく変えることはしなかったが、株主の手前に愛想よく平静を保っている彼女の目元に心なしか不満が滲んでいるようだった・・・ちょっといじめるかな。

 

「冷凍食品とは、保管法を持たなければ下手すると市場で売っている生鮮食品よりもっと可食期間が短くなるような加工品だと承知しています。冷凍食品を冷凍保管する方法なく、また、保存方法を持たない個人は数段質の落ちた食べ物をバックをびしょびしょにして持ち帰ることになる。店頭で調理するのではなく、お客様に調理を任せる方針を打ち出すのでしょうか。こちらの意向が通達済みであるのならば、先方は不満を抱えているのではないでしょうか?」

「ブルーテーゼ食品店に企画を提案したところ肯定的な回答をもらっています。また、ブルーテーゼ食品店はテーゼ商会とその他提携会社の商品とケレステール産の交換品の卸しと小売、及び、魔法箱加工食品を展開するために創業されたそうですからあちら側の希望に沿っていると思います。それから我が社がブルーテーゼ食品店と手を組み得るメリットについてですが、商品の供給が追いつかない場合、我が社の業務用魔法箱の供給先の魔法箱のゆ・・・ユーザー様のみに卸先を絞る優先販売契約を締結する予定です。需要が大きく更に商品が不足する場合には、仮に市場需要に事業規模が伴わなくとも我が社が他の契約先との契約に優先販売の旨を明記することはないので違約金を訴えられることもありません。そうして業務提携としてブルーテーゼ食品店の活動に伴う設置制限緩和をすることで、少しでも不満の解消につながればと考えています」

「市場規模が未知数なのは私も把握していますが、希望的な観測寄りですね。では、商品を買ってから家に持って帰るまでどうするんです?一般消費者向けの小売もやるのでしょう?」

「そ、それは・・・例えば・・・魔法箱で配ったらどうでしょうか!」

「というと?」

「商品を魔法箱に入れて家を訪ねて売るんです。そうすることで──」

「訪問販売は効率が悪い。あなたの希望的な観測と重なる部分はありますが、ステディエムでのブルーテーゼが販売する商品需要の高さを考えても然り、店舗型が最も効率的に販売できます。しかし、不便です。それから

解消する必要があるとは思いませんか?」

「えっと・・・あの・・・」

「先方はいくつか問題点を抱えているようですね。ブルーテーゼ食品店と大きく手を組むのは悪手ではないですか?」


 ・・・黙っちゃったか。


「スロー。少しだけ君の先生として話すね。会話を重ねる内にヒントを貰ったのだろうが、この案の責任者は君だろう。そして、あろうことか君は株主である僕にその場での思いつきを話そうとしたね。なぜ僕が遮って止めたかはわかるかな?」

「準備をしていなかったから・・・」

「それで?」

「どうできていなかったか・・・どう準備をしていなかったか・・・これは会議ではないから準備しても準備できていなかったらその時の・・・その場所の・・・えっと」

「その場凌ぎ」

「その場凌ぎじゃなくて次に準備をする」

「以上かな?」

「はい」

「思いつきで取引先にあれやってもらおうこれやってもらおうはダメだ。この回以降、僕も一々、教鞭をとる場以外で利害関係にある君の言動をあげつらうことはないだろう。今回は身内としてみんなに無理を言って総会を練習の場にしてもらってるけれど、気をつけようね」

「ありがとうリアム」

「どういたしまして。湊花さんたちも同席してるし、業務委託先のピッグさんに君たちのサポートをしてもいいと許可を得ているのでブルーテーゼの意向を伝えます。優先販売契約の提案を受けて、だったら注文を手数料込みの先払いで受注してそれを届けに行くことにしたいとのことでした。それから優先販売契約を結ぶのなら供給先の魔法箱の契約数を参考にして取引数に制限をかけたいそうです。そのためにピーターメールには魔法箱の供給先の顧客の名前と契約数の情報を提供してほしいそうで、これに応じるには第三者へ顧客情報を提供する場合があることを了承すると規約内容を更新しなければならない。欠品が生じる場合もあると想定して返金に応じられるように体制も整えたいそうだよ。だからリスクはあるけれど、契約と規約を詰めて最小限にこれを収めるよう動いてほしい。週末に向こうから詳しい提案があると思うから、心するように」

「わかった」

「早い段階で利用規約にこのことを明記しておくことで成熟期に想定される賢くめざとくなっていく顧客の体験や価値に対し、たとえば魔法箱の大口顧客には提携先の商品に割引が適用されるようにし、差別価格でちょっぴりだけど心象がよくなるサービスとかも展開しやすくなる。そして、生じるサービス費用の負担を、どうこちらへの価格転嫁を防ぐかは君の力にかかっている」

「財務の湊花さんたちと連携して慎重に検討と準備をします」

「よろしい。店舗型という基を違えはしたが、スローの思いつきは先方の思惑をかすめていた。素晴らしいよ。それからこちらこそ、ありがとう。この話はここまでにしよう。それじゃあ僕は株主に戻るね」


 スローの推察力を誉めると注意されたこと全て吐き出してしまわないように口を結びながら、彼はすごく嬉しそうに鼻を鳴らして微笑んだ。

 バリっばりに個人的な利益と縁故で特殊プランを用意してもらっていて、偉そうに教鞭をとる僕はヤなやつだ。だけどカレンダーとスローの成長ぶりを目の当たりにすると抑えなくてはいけない期待が膨らんでしまう。悩んでいる姿を見ないと心配になる一方で、2人が褒められて嬉しそうだと僕は誇らしい。


『二番目に手を挙げた君だったけれど・・・返事の簡潔さがどこか心地いい』


 最初に僕に商談を持ちかけてきたカレンダーは海咲にも期待をかけられ同じ流派を組むというか、そのため湊花に任せられることもあってか、ならば特に、これからも僕の無茶振りを一番受ける役割へ配したスローへかける僕の期待は大きい。彼が大人になったら説教されているのは僕の方かもしれないと思うくらいに、スローは努力家な上にしっかり自分の判断で動いていることが伝わってくる。


「業務提携の特別な特殊プランとして設置義務を緩和するとのことでしたが、将来的にはステディエムに一定の魔法箱が供給されること然り、先方の供給力の限界然りを想定すると、テーゼ商会との送料負担が頭打ちになる一方で、ロイヤリティの回収も頭打ちになりますがその点は想定していますか?」

「はい!株主の期待に応える利益の追求が私たちの使命ですから。ご質問に応えるためにまず特殊プランの設置義務緩和の概要について説明してもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「特殊プランでの移動は我が社の本店と支店がある都市へ限らせてもらいます。業務委託先も含みますので現状はステディエムとノーフォークに限り、その都市内での運用も認めるものです。移動先を制限しているのは都市外に持ち出す場合の定期申請を義務付けるためです。都市間利用者にはルート基本料×移動庫数で算出した額の定期を購入してもらい、基本有効期間を1ヶ月とします。有効期間内であれば何回でも往復は可能です。また、現状半年プランのみのサービスなので5ヶ月目分までは定期をまとめ買いできますが、6ヶ月目に限ってはプランの更新をしていただける場合にのみ購入を認めるようにしようと思います。このようにこまめにルール作りをしている理由は魔法箱のメンテナンスと料金設定の変更をしっかりと適用できるようにするためです」

「一つ失礼。更新可能期間は通常プラン同様に設けてありますよね?」 

「プランの更新可能期間は2ヶ月前からにします」

「ありがとう。続けてください」

「念の為にご心配のあった期間について補足をしておくと契約の更新がなく返還、定期の有効期限が切れた場合には運用都市の届け出の提出を義務付けています。届け出がない場合は契約更新及び返還の違約金発生までの猶予期間と同じく猶予期間は1ヶ月とします。また、特殊プランでは貸出庫数分に応じて保証金も預かることとなっています。さらに、故障以外の盗難と紛失の保証が効きません」

「なるほど。いずれは特殊プランの基本料金の方が通常プランの基本料金より安くなることもあるかもしれませんね」


 ちょっと的を外した意見だが、どうだ。


「いずれは特殊プランの在り方がサービスのスタンダードになるかもしれません」


 お見事。


「そして、導入期の現在は人材不足と周知不足のため控えていますが、成長率に行き詰まりを感じたときには成熟か衰退かを綿密に見極めて、成熟と判断する場合には料金設定調整および、案内できる新しいプランと箱型の開発による改良方針を立てる予定です。業績悪化を伴う場合についてはこれから試験運用を始める現状では分析できていません」

「投資を急ぎすぎにも思えます。相応の管理能力が求められることになりますが」

「時期尚早であることは懸念しております。ですが、ブルーテーゼ食品店の財は冷凍か否かの差も含めてもステディエムで売られている同じ財の価格より安く魅力的なんです」

「へぇ・・・そうなんですか」


 知っているとも。ステディエムの食糧自給率は2%を切る。ステディエムを含まないマンチェスター領内の食糧自給率が約100%(各地域85%〜120%)で唯でさえギリギリのところステディエムの食糧事情をカバーできるはずもなく、よってステディエムの食糧移入は95%を超える。そしてその85%強をノーフォークからの移入に頼っていると知った。そりゃあウォーカー商会が急激にデカくなる筈だ。


「コストの高騰もなしにあまり料金を頻繁に変えるというのは推奨されたものではありませんが、確かに、適正な価格設定を柔軟に調整できる余地は必要かもしれません」


 追い討ちをかけるように、ノーフォークとステディエム間の移動を想定しておきながら定期の有効期間が1ヶ月という闇が僕の心を躍らせる。


「不便さは鎖だ。こちらの提供する魔法箱の形態によってブルーテーゼは業務向けに比重が置かれる制限を受けているわけです。先ほどカレンダー取締役代表が個人用魔法箱を売り出すタイミングについて触れましたが、鎖を緩める見極めにはこれからも引き続き力を入れるようにしてください。ブルーテーゼ食品店の一部商品の持ち帰り方についてはまだ課題が残りますが、その点は妥協が必要でしょうし幾許か欠落を補うための案を示してくれたのでブルーテーゼ食品店との業務提携に伴う設置義務の緩和方針を容認し取引を取締役会に一任します」


 楽しい飯事だった。


 僕の監督はこの辺まででいいだろう。


 にしても喝采ものだよこの子たち、僕が育てたの。

 超優秀。

 こんな短期間によくぞここまで仕上げた!──と、君たちを抱きしめたくなる。


「ライヘンさん、顧客の魔法箱の保証サービスへの心象はどうでしょう」

「顧客情報登録・更新料が1万G、1庫につき1ヶ月1万Gの強制加入サービスですが、反応は悪くありませんでした。高価な魔道具でありますし、設置管理義務さえ怠らなければ故障の場合の修理料金は大体がカバーできる点で心象は良いです。一方で、当初想定した通りに故障した場合の魔法箱内の保管品に対する補償はないのかと問う声が一定数ありました。こちらには保管品の管理義務は当社が負うものではないと説明し納得していただくよう努めています」

「わかりました」

「ところで、長期プランにすれば顧客情報登録・更新料が安くなるということを明確にして案内すれば顧客の興味を引きやすくなると思われます。当たり前のことですが、言葉にするのとしないのとでは大きく心象が異なります」

「前にも積極的に案内しないようにと指示を出しましたね。実際の営業を受けての提言でしょうが、それはしないでください。その程度の計算もできない経営者に譲歩することはありません。短期プランの継続に対する救済として一定期間利用した顧客に対して新しく中長期プランへ更新を望む場合、多少の割引を認める制度を導入できる準備を整えるように言ったはずです。営業成績が鈍化するようでしたら長期プランに関してのみ月ごとの分割払い制度の整備を検討した後に提言するようにも伝えた筈です。絞れるところから絞れるだけ絞ってください。利潤の最大化があなたたちの仕事です。少々軟弱な発言ではないですか?」

「取り急ぎ、従業員の教育を進めてまいります」


 ライヘンとジェームスは非常に優秀だが、偶にこうして甘く噛みついてくる。ここは会社所有者という優位な立場から、多少の絡め手には真面目に応えておく。


「お二人とも、ライヘンさんの提言が通らなかったことについて一連の構図を解説できますか?」

「今のピーターメールは一括での支払いしか認めていないので、財政状況を理由に長期プランが申し込めなかった人たちへの救済のみ認めると言いました。絞れるところからって目先のお金を最優先してるように聞こえるけれど、救済を設けるよう言った理由は中長期プランに移行できるほどまで会社を育てた手腕か、あるいは余力を持つ取引先との付き合いを蔑ろにしたくないからです」

「カレンダーさんは?」

「スローの言ったことも正しいです。そこに付け加えるなら、リアムさんは株主で私たちは会社員です。会社に雇われている私たちは利潤の最大化もそうですが、楽に仕事をできればもっといい。一括払いにせざるを得ない理由がたしか、人材不足のため窓口での業務を減らすことが目的だった筈なので・・・ライヘンさんは従業員が満足に揃っていない窓口の業務負担を減らしたいけれど、一方で、リアムさんは中長期を見越した利潤の最大化を望んでいます。財政も赤字の状況ですが、それが魔法箱の利用実績数がまだ足りていないということなので、まだ従業員の研修も終わっていない段階では時期尚早ということだと思います。なので私たちが解決するべき課題は人材の育成が少し遅れていることだと思います」

「あ、初めの頃にリアムは最初の損失は多少目を瞑ると言っていたから、現状維持で被った損失は許容するってこと?」

「そうじゃないかな」

「二人で百点。よろしい」


 海咲や湊花、ライヘン、ジェームス、ピッグやその他の人たちとも関わっていくことでカレンダーとスローはもっと成長し、そして磨かれていくのだろう。


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