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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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54 medusa


§ やさしく殺されるメデューサ§


 聖戦と呼ばれる戦いがありました。

 聖なる所以は、戦場の玉がそれぞれ神の使徒であったからです。

 特に、世界史最大の戦場を走り抜け、唯一、原初の勇者と同じ恩恵を受けたベルは勇者を知っているかと訊けば知っていると口を揃えて誰しもの答えたる筆頭の存在です。

 しかし邪神の使徒がこれまでに何度となく世界に生み出されたように、善神の使徒として戦った勇者はベルだけではなく、その他にもたくさん、たくさんいました。


 これは聖戦が起こる何百年と昔のことです。

 現在のアウストラリアの東の大密林の更に東に恐ろしい怪物が巣食いました。

 生来は、竜人と妖精族の女子です。 

 成長した容姿は秀逸でありながら、しかし彼女は生まれながらに恐るべき魔力を持っていました。 

 生まれて間もなく両親によって女児がメデューサと名付けられた時のことです。

 彼女の周囲にいた者、物、全てが石へと姿を変えました。

 メデューサは名前を得るとともに大いなる世界の円環へと繋がりました。

 父親の竜人はかつては竜のヒエラルキーでも土の竜の直下に属していた竜の魂と力を宿しています。しかし妖精の血を持つメデューサは父親以上に、この世界の魔力に対しての親和性を見せました。

 皮肉にも、竜の力で両親や周囲の魔力を吸い続けてメデューサは子供になりました。

 まだ力が幼く大量に魔力を取り込めない彼女は1日の大半を眠って過ごします。

 そんなある日のこと、メデューサは本能を刺激されて目を覚ましました。

 とても大きくて、美味しそうな魔力が近づいてきます。


「既に全てが石になっている」


 突如として差し込んだ陽の光。

 メデューサがこれほど多くの陽の光を浴びたのは生まれて初めてのことでした。


「この子が元凶か・・・」

 

 石の玄関を砂に変えて、家の中に入ってきたのは1人の老人でした。

 そして老人が目にしたのは、母親の腕に抱えられて体が干からびながらもかすかに息をしている小さなメデューサの姿です。


「かわいそうに・・・」


 老人はメデューサの側の石像を見て全てを悟りました。

 腕に抱えた我が子の顔を覗き込む両親が、仲睦まじく、唐突にして穏やかな最後を迎えた。


「メデューサ。今日から私があなたの親代わりとなりましょう」


 机の上には両親が名前を考えていたのであろういくつかの名前が掘り込まれ、また、メデューサと書かれた文字の名前を大きく囲う丸い傷のついた石の板がありました。


「空と私とあなただけは、色がある」

「急かないことです。さぁ、食べるといい」

「ありがとう」

「あなたもこうして分け与えることができる可能性を秘めているのですから、噛み締めてお食事なさい」


 老人が手を石の地面に翳すと、彼を中心に僅かに緑と茶色の色が広がりました。

 老人の正体は、メデューサの母親の古い友達の大地の精霊だったのです。

 しかし老人が大地に元の姿を取り戻させた魔力も、メデューサに取り込まれて再び石の模型オブジェクトへと姿を変えます。


「この時が来てしまいました」

「・・・いかないでくれ」

「私はどこにもいきません。ずっと記憶のここにいます」


 そうして、大人になったメデューサと老人の元に来るべき時が訪れてしまいました。

 メデューサに言葉を与え、知識を与えてくれた老人は長い間彼女に魔力を与え続けたことで、石像へと姿を変えました。


「いってくる、お父さん、お母さん、おじいちゃん」


 老人が消えてしまって1ヶ月が経った頃、メデューサは孤独に耐えられなくなったのです。

 足を踏み出すたびに、草木も大地も、灰色に染まっていく。

 彼女は老人以外に知る唯一の声で、恐怖の目を向けられました。

 村は無声の阿鼻と叫喚の地獄へと変わりました。


「『こんにちは。メデューサ。いいお天気ですね。お友達に会えて嬉しい』・・・なぜ・・・私は女王ではない。ただの村娘。どうして私が望んだ言葉しかあなたは話してくれないの」


 村ごと石へと変わってしまった。


 玄関で片足サンダルの男。

 井戸の桶をぶら下げる綱を引く女。

 走り回っていたであろう童とその指先の直下に辛うじて原型を留める割れた蝶。


 一つの村が息を引き取りました。


 音信が途絶えた。

 村に調査団が派遣される事になるのですが、斥候にはとある青年が志願しました。


「近づくな!」

「私は勇者。土の精霊王より使命を帯びてここにいる」

「土の精霊・・・」

「どうか私を恨まないでほしい。君はこの世界の禍根だ。したがって・・・やさしい君の望む通りに、穏やかな世界との別れを」

「死に用心せよ、やさしい勇者。泣くな、どうかやさしく眠らせてくれ」

「ならばここに寝殿を作ろう・・・これは地の精霊王から預かったユノの涙という魔道具だ。我が聖剣と共に、揺るがぬ安らかな夢を」


 勇者は涙を一粒だけ流した。そして、泣くなと言われて涙を拭った。

 勇者の涙の代わりにメデューサが拭ったのはユノの涙。竜の力を閉じ込める力を持つ大水晶から削り出された結晶。

 近くの村の民に寝殿の番人としての役目を与えて、勇者は妖精族の里へと帰りました。

 古の小さな代理戦争はこれにて幕を閉じます。


──メデューサが水晶の像となり果て、寝殿に安置されてから1400年の時が流れる。


「あの中の怪物が世界を滅ぼすと言われた。畏怖すべき彼女が安眠できるよう、防人の役目と聖剣の番人の役割を果たせ」


 いつもと変わらない、荒涼とした景色。


「なんと美しいのだろう」


 灰色の大地を讃える神殿。


「なんと悲しげなのだろう」


 神として祀られるほどの伝統。


「私はあなたに会えたことに感謝すべきなのでしょうか」


 彼女の残した言葉が埋もれた大地。


「それともあなたが苦しみを抱えていることに胸を痛めるべきなのでしょうか」

 

 わからない。


 番人の男は、水晶に封印されたメデューサを見て呟きました。

 決して安眠する彼女に触れたくならないように、ソロネの水晶にはメデューサの姿が醜く見えるように細工されていました。

 時には頭が複眼で支配され蜘蛛のような手足をしていたり、口が裂けて目だけがない顔に所々で骨が顕になっている腐肉の体をしていたり、見る者によって姿が変わります。

 実際、番人の男にも、彼女の姿は歪曲して見えていました。

 頭には49匹の竜が49もの表情を水晶の中で形作った。

 目に力が入り、苦しむ表情もいた。

 しかし不思議だったのは、メデューサの表情です。

 番人の男の目には、メデゥーサの顔は実に穏やかに見えたのです。


「そうだ。あなたは竜の血を讃える方だと伝わっています。私は見たことはありませんが、せめてあなたが寂しくないように後世にも残るものを」


 防人は暇を見ては、石を削って蛇のように細い竜を彫った。 


「ヘッタクソだな。もしこれを見て笑う人がいたら、メデューサ、どうか助けてください。『それは彫刻家シュタットの初めての作品だ!みろ、他の作品は彫刻家が歴史に名を残すだろうと否応なく理解させられる。これなど生きているみたいだろう!』なんて・・・あなたのような像を彫れたら、あなたも私に惚れてくれますか、なんて」


 それから男は49の竜を彫りましたが、どれもやり直しのしすぎで予備のように細い竜が出来上がっただけでした。


「構図があっても、これを実現する力はない。だけど僕にはまだ言葉という力がある。この石像たちの作者への訴えは私とあなたとで違うのでしょう。そして彼らと私たちは決して交わることのない。だからもし伝わってくれたら嬉しいです」


 あなたは石像ですか、それとも人ですか。


「メデューサさんメデューサさん」


 あなたほど誠実な顔をしている人がこれまでにいただろうか。


「もし真実なら答えて欲しい。私は自分が過ぎゆく時の流れの中、忘却すら許されることなく永遠に閉じ込められているとなると我慢ならない」


 男の願いに応えるように、水晶に皸が入ったのです。そして──。


「あなたが私を石にして、この時を永遠としてくれたら・・・これからもずっと一緒にいられるのに・・・」


 彼の言葉で、彼女は愛する者を束縛する呪われた力を、事もあろうに愛してしまった。

 古の時代から伝わる怪物の復活である。

 突然の事態に、防人の彼の最後は悲痛なものとして切り取られた。


「______」


 メデューサは何百年にもわたって封印されている間に、言葉の出し方を忘れてしまっていた。

 しかし、徐々に記憶は整理され、甦る。


「今度は私がお前に問おう。最後の時を美しく飾れなかったお前は何を私に言いたい。どうだ、ほら、言ってみろ──頼む、シュタット」


 メデューサは毎日、石になった彼を抱きしめて問い、最後には懇願します。

 自分と同じ価値観を持った男。

 すれ違ってしまう。


「私が木の股から生まれた赤子なら、愛なんて知らずに済んだだろう」


 石の木のうろを背に、彼女は寝殿の見えない空を眺めていた。


「泣いてる・・・」

「なんだ、お前は。その格好、大方、私を討伐しにでもきたか」

「そう。この鎧はあらゆる害悪を跳ね除け、そこな剣には古の邪悪な力を切り裂く力がある」

「そうか・・・私は邪悪かどうか、どうかその剣で刺してくれ。なんとも都合がいい剣だ・・・なぁ、勇者よ。頼みがある」

「私は勇者ではない。妖精だ」

「そう身構えるな。頼みとは、ほら、そこに一体の石像があるだろう。私はこれから彼を抱きしめるから、どうか──」

「折れては困る」

「折れないよ、その剣は。ほらみろ、周りは全て石になっているのにその剣だけは私と同じ時間を刻んでいる。それと石像と私の目をお前の布で覆ってくれ。私と彼の思いが他の誰にもわからないように」


 妖精は言われるままに石像とメデューサの目を黒い布で覆って結んだ。

 黒い布はすぐに石となり、一方は石像と同化し、一方は視力を奪う石の枷となった。


「水晶から出ても、この石の布で目を覆っていては空は見えないな。しかし、この子らのおかげで彼の表情だけは見える」

「その石の蛇が見ているものが見えるのか」

「こいつらは私が生まれた時からいるわけではないのでのう」

「ジジむさい感傷の浸り方をする。ウチの里の老人みたいだ」

「・・・ジジむさいか。そうかそうか」


 こちらを伺う蛇の頭の数から、百の目はありそうだ。だが、そいつらが見ているものは彼女には共有されていないらしい。


「しかし結末を見届けるまでは死ぬことはできない。約束がある」


 この剣は邪悪な力を裂き祓うことができる。


「我が名はマルデル!そしてお前たちを祓うのは土の精霊王の超弦”ジュピター”!」


 ならお願いだ。

 あの人にかけられた私の邪悪さごと切り裂いてくれ。


「ごめんなさい。私のせいであなたは最後に笑えなかった」


 目隠しの間から涙が溢れる。

 一縷の川を伝って一滴、二滴、すぐに雨のように石像を濡らした。

 抱きしめて泣いた。


 剣は石像の背中からメデューサの心臓を突き刺した。

 その感触は、肉を切り裂いたようだった。

 即死だった。

 断末魔もなく、メデューサは涙を流しながら懺悔が真理に聞き届けられるよう願うように逝った。


「どうか、レテにて洗い流して、次の生では──」


 妖精は邪悪を祓い、メデューサを殺した聖剣を抜こうと──。


「抜けない・・・?」


 剣の先は、固い石像を貫き返ることなく、鼓動で震える胸先で止まった。


「なぜこの人を刺してしまったんだ・・・」


 悲痛な面持ちで、剣の先を静止の狭間から戻ってきた男が引っ張っていた。


「あんなに、叫んでいたのに。どうしてこの人ばかりが、こんな目に会わないといけないんだ。・・・教えてくれ、やさしい勇者よ」


 わからない。

 勇者ではない妖精には答えることができなかった。


「あの世で一緒になろう・・・」


 石から戻った男は、自らメデューサを貫いていた剣に胸を差し出して、彼女を抱擁するように息絶えた。

 ──これが物語の綺麗な終わり方だろう。

 この結末を受け入れることができず、やさしい易しい妖精は叫ぶ。


「困難なことになった・・・どうしてこんなことに・・・なぜだ! 真理よ!」


 未来を予見できた気になる愚か者は足を掬われる。




 本当の結末はこんなじゃなかった。

 チェルニーの作った物語の題名は”悲しき乙女の栄える愛”、主人公の名前はクッキーベルをモデルにした”ベッキー”。

 竜人への解釈も間違っている。

 魔法で人体を石で包むことはできるかもしれないが、魔法で人体を石に変える魔法なんて知らない。

 善と悪の追求などもない。

 段々と、この話の整理ができ始める。




「無間の畢竟・・・」


 日が登ってきた頃か・・・頭が痛い。

 だが、すぐ治るだろう。

 こんな夢は序の口だ。

 大切な人に銃口を向ける究極の選択を迫られたり、逆に自分が銃弾を撃ち込まれたり、針やナイフで串刺しや抉られて拷問にかけられる夢だったり、しかし一番ありふれていてキツいのは超常の力なんてものを得て、空を飛び、すると突如表れた恐ろしい何かに襲われそうになり、逃げようとすると飛べなくなっていて、嫌だと混乱して走って逃げながらもジャンプを辞めず、心臓の音が煩くなって思考が暗闇に落ちていくところまでをセットで見る、こんな「なんでこんな夢を見たんだ、馬鹿だな」と蝋燭の火を吹き消すようにフッと頭の片隅に掃除した夢はたくさんあった。


 早めに起きて時間もあることだし、今日は少しだけ丁寧に掃除しようか。

 話の本当の結末は、一縷の涙が石像を濡らすと、石像の表面が砂のように崩れ落ちていき、その中からメデューサの愛した人が甦る。

 更に、はるか昔にメデューサに石にされた人も同様に、時を超えた。 

 みんな、甦った時に疑問を感じることもなく、止まった時の続きを生きる。

 いや、もっとシンプルでいい。

 やさしい勇者の起点で聖剣の剣柄をメデューサが握ると美しい女性に戻り、残りの時を2人で幸せに暮らした。

 ──めでたし。

 とってつけたような竜人と妖精の子で、とかメデューサの正体を言及するようなバックグラウンドはなかった。

 メデューサの美貌に嫉妬した悪者の邪な力に支配されて醜悪な姿に変えられた。見る者全てを石にする力に呪われた彼女は古の勇者に救われて1400年の時を経て伝承となりつつあった。病める時も、その真実を確かめるための 試練と愛が重なった、そんな都合のいいプリンセスストーリーでいい。

 これはフィクションだ。

 童話だ。

 そして、夢だ。


 昔はよく、その日にあったことに影響された夢を見た。次の日起きて、ああ、そういえば昨日こんなことをしたなと、思い出した。

 しかし、まぁ、なんで態々自分から不幸な方へと足先を向けるのだろうと、自分のどうしようもない癖に度々苦悩と愉悦を繰り返した。

 辛い夢を見ることが多かった。

 だけど、夢を見ることは嫌いではなかった。

 眠りによって得られる幸せの方を噛みしめた。


「だが、幸せかどうかの基準は人によって違う。人を評価している暇があったら、自分のために想いを走らせたい。僕はそうありたい」

 

 ・・・なんでもない。最後のだけは忘れてくれ。


「なんでこんな夢見たんだ、馬鹿だな・・・もう一回寝よ」


 こうして、時間まで二度寝することもよくあった。


「リアムちゃん、朝だよ!!!」

「おはよう」

「おはよう!」


 もう一度目を閉じて、1時間くらいは寝られただろうか。

 二度寝したおかげで、憂鬱な気分もすっかり無に帰した。

 二度寝すると、しばしば前の夢の続きを見てしまうこともあるのだが、大抵、訳のわからないまま覚醒を迎えた夢の続きを見るのは話が終わったのか、繋げるのが難しいのか、『数日後──』とか、一回死んだはずなのに訳のわからない繋がり方をしない限り見ることはない。


「キュリーちゃん、起こしてくれてありがとう」

「どういたしましー・・・て!!! ジョッシューちゃんとチェルニーちゃん起こしてくる!」

「いってらっしゃーい」


 晴れやかな太陽のようなキュリーの顔がドア枠から出ていく。

 張り切って隣の扉を叩いて、堂々と客室に入ると窓を開けて──。


──ピーターメール本社、今日はまた遠出するため準備を進める。


「ジョシュ、ネクタイ何回結び直すの」

「だってさ、今日会うのは貴族様だしそれに俺たちの恩人だし!」

「チェルニーは一発できめたよ」

「ベートンとの連携は俺にはない力だからさ」

「言い訳は鏡と面と向かってもう20分かかっている現実を受け入れてからしてもらおうか」

「言い訳じゃない!それぞれ得意不得意があるってこと!あと1分後には──」

「あと10分はかかりそうだ」

「俺だって10分後の未来を予想できる能力がある!まぁ、発動するまでに10分かかるがな!なぁチェルニー!」

「すごい・・・」

「何か面白い記事があった?」

「ねぇお兄ちゃんリアムさん!すごいよ!これ!」


──『ユピテルはラストボスの喉元を掠める』週刊ノクチュア新聞、星室新聞。

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