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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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330/371

51 Worker

──リヴァプール、ベッセルロット。


「海竜を発着させるための空港を整備してください」

「・・・どういうことでしょう」


 卓上についているのはリヴァプール領主ロバート、ベッセルロットの貿易組合から代表代理の海咲、サイレンからジブリマーレと護衛のベルーガ、ピーターメールからリアムと湊花、見学にカレンダーとスロー。 


「空港を作りサイレンと貿易をするための拠点を設けていただきたいのです」

「女王よ。ベッセルロットは我がリヴァプール領なれば、急激にして過度な革新を求められても対応しかねます」

「ですがこの難題を共に乗り越えれば、古くから続くリヴァプールとサイレンの友好はこれまでにないほど深まるでしょう」


 すっごいしらじらしい。

 なんか久しぶりに為政者らしからぬ政治家を見た気がする。

 乗り越えればと言ってるが、その実、深く深く沈めと言っている。

 しかし、相手の話に耳を傾けず自分の言いたいことだけ通す噛み合わなさは政治家らしいか。


 驚くことに、サイレンの発言力は想定の斜め上をいっていた。

 ジブリマーレが陸に上がりベッセルロットを訪ねると知ったロバートは戦々恐々と顔を青ざめさせ、会談の場をセッティングし話が上ってわずか30分でサイレンへ報せを送った。 


「場所はそうですね・・・ネイドンの近辺なんてどうでしょう」

「恐れながら申し上げます。オブジェクトダンジョンの資源は今や我が領の経済の柱。どうか、ご再考ください」


 話を整理するに、ベッセルロットにある水を讃えるオブジェクトダンジョンはかつて水竜を祀っていた場所だったらしい。

 その昔、ベッセルロットに人が住み着くよりも昔から水竜は海域を支配し棲んでいた。

 要は先住民の水竜が移住民のリヴァプール民を受け入れたことで新しい歴史が生まれた経緯があるらしい。


「であれば海岸をください」

「で、ですからご再考を・・・いえ、ご再考をお願いいたします」


 恫喝って怖い。


「あのロバート様、横から失礼します」

「なんでしょう、リアムさん」

「これは私が独自に手に入れた情報で決して他意はありません。最近、海竜が降り立っている相当に広い空き地があるとか。それに併せてもう一つ、リヴァプール-マンチェスター間スカイパスを開通し就航するという情報を手に入れました。航空機には着陸場所が必要ですがその施設はいったいどこに建設するのでしょう」


 我ながら嫌らしい。


「・・・五月雨式に改案を求め申し訳ない。ご想像の通りその空き地は航空機発着場と倉庫ドックを設けるために確保した物。将来を見越してかなり広く土地を確保した。そこならば海竜様の発着にも適するでしょう。ですが、大要たるスカイパスの合意自体が成立しているわけではない。まだまだ着工できる現状にはないのです。サイレン側の要求に耐え得る設備を作るためには、資本も労働力も割けないというのが現状だ」

「土地があるなら話は簡単ですね」

「あ、あのですから──」

「土地があるのなら・・・国内ターミナルと国際ターミナルに分けたらどうですか?」

「わける?というと」

「はい。もし国内向けと国際向けに土地を分けてくださったら国際ターミナルの方についてはピーターメールで土地の整備を請け負いますよ。発着場の範囲を平らに均す程度ですが」

「平らに、均す・・・工程期間は?」

「木を引っこ抜いて更地にして土を均すだけですから長めに見積もって・・・30分ください」

「30分!?」


 魔法での土木作業は丁寧に見積もって10秒くらいだろう。

 そのほか治水検査や完成後の点検作業に時間を割いてそのくらい。


「ベッセルロットの新しいランドマークですから建物の意匠及び建設の仕事は奪えないでしょう?それからこの仕事を引き受けるためにリヴァプールで新しい会社を設立させてもらいたいですね。そうしたらピーターメールから発注します。その代わり報酬としてピーターメール専用の倉庫をいただきたい。国際と国内にそれぞれ」

「埠頭の煉瓦倉庫は?」

「存じています」

「あれと同じ規格の国際貨物用を3棟と国内貨物用5棟の倉庫を5年、無償で貸し出そう」

「その後の対象倉庫の優先契約権もつけてください。それから建設計画や建物の割り振りは私どもでは知り得ないので契約書の作成はそちらでお願いします」

「それではそちらが不利な契約になるのでは?」

「お任せします。地元のための公共事業計画に余所者が口出しするのは気が引けます。それに、倉庫の賃貸料はどうせ5年は無料ですから」

「・・・いいでしょう。それではお願いしたい」

「お引き受けします」


 丸投げ完了。あとはロバートの忖度に任せた。地ならしした後に正確な測量等をするとして、架空の倉庫区画をでっち上げられたら撤退すればいい。


「──それでは、今日の会議はここまでとする」


 おわったー。初回ということもあって朝から夕方までみっちり。


「リアムさん」


 と、緊張から解放されて各々が一息つく中、ロバートが話しかけてきた。


「実は父から贈り物があるそうで、玄関の方まで同行を願う。もうすぐ到着するだろう」

「失礼ですが何かの間違いでは?」

「ノーフォークまで送っていただいたお礼だと」

「ですがあの方は私を裁くためについてこられたのでは?」

「無罪を勝ち取られたのだから白紙でしょう。あなたに疑わしさこそあったが、罪はなかった」

「はぁ・・・わかりました」


 チャールズから贈り物、うーん、覚えがないが確認のためについていくことにしよう。

 

「ただいま到着いたしましたロバート様」

「ああ、ありがとうモリス」


 領主邸の玄関先で待機していると、一台の馬車が停まった。

 御者のモリスという男はロバートと親しげである。 

 ロバートと軽く会釈を交わすしたモリスが馬車の壁を軽くノックすると、中から若い男が2人降りてきた。


「ここまでありがとうモリス。楽しかったよ」

「少し惜しいよ。ありがとうモリス」

「ライヘン、ジェームス、よい夜を」


 親しく握手を交わしているモリスとの会話から、乗客の名はライヘンとジェームズとわかった。


「挨拶は済んだかな。モリス、リアムさん、この御者をしている男はモリスという。私の部下で今後あなたとの連絡に重用したいと考えているので是非、顔合わせを」

「それはご丁寧に。では──横から失敬します。はじめましてリアムと申します」


 ロバートの紹介でライヘンとジェームズの間を縫って、御者台のモリスと顔を合わせる。

 

「リアム様、高いところから失礼致します。お会いできて光栄です。モリスと申します。ロバート様のお側に仕えさせていただいております。以後お見知りおきください」

「どうぞよろしく」

「それでは私は馬車を停めて参りますので御免ください」


 僕は乗客2人より背も低かったし円滑な空気を遮るほどそんなに親しくもなかったのでこの場での握手はお互いに控えたところで、モリスは馬を操りこの場を去った。


「ライヘン・バッハです。ライヘンと呼んでください」

「リアムです、よろしく」

「ジェームスです、リアムさん、お会いできて光栄です」

「よろしく」


 さて、もしやモリスがとも思ったが彼はロバートの部下らしいし、ということでチャールズからの贈り物とは乗客のライヘンとジェームスのことだった。


「2人とも王立学院で院生として研究をしていたためとても優秀だ。その経歴を活かして、リヴァプール銀行に勤めていた」

「学院では確率や自然哲学を通して研究していました。その知識を活かして銀行では市場リスクの分析を主に担当していました」

「私は学院では統計を専攻していました。銀行では融資課に所属し審査検討において数理的なサポートをする業務についていました」

 

 これまた経理向きな人材がいたものだ。

 2人とも経歴の数学的素養が高い。

 それに、金融に強い。


「ベッセルロットをはじめリヴァプールは貿易の中心地ですし、市場リスクというとライヘンさんは例えば為替相場についてのご見識もおありでしょうか?」

「ご慧眼に感服いたします。私が勤めていた仕事についてご理解されていらっしゃるようだ」

「ジェームスさんは数理的な視点からリスク管理をなされていたんですね。同じく想像するに、とても大変な業務だと推察するのですが」

「前の職場にはお世話になって感謝しているので、私がいかに勤勉であったかについて口述することは控えさせてもらいたい」

「いずれにしてもお二人ともおわ、重要な役割を果たされてきたのでしょうね」

 

 あっぶね、お若いって言っちゃうところだった。

 二人とも20代後半といったところだ。

 若いは若いが僕が言うことでは、ね。


「領が管轄する企業に募集をかけたところこの二人がピーターメールへの転職を希望したので、是非、雇っていただければとのこと」

「よろしいんですか?これだけの経歴をお持ちなら、中枢で働いてもらうことになるでしょうから秘密保持契約を結んでもらう場合も考えられます」

「贈り物ですから」


 いやその言葉はずるい。

 すなわちこれから僕が行おうとしていることは、例えば、善意でいただいた贈り物の価値を調べるようなちょっぴり卑しい行為だ。

 紹介については、お礼の語気を強めて言ってくれないだろうか。


「お気遣いに感謝いたします。ありがとうございます」

「はて・・・」

「と、チャールズ様にお伝えくださいますようお願い申し上げます」

「父も喜ぶでしょう」


 気遣いだけ受け取ってもいいわけね。

 じゃ、勝手にやらせてもらおうか。


「では、ライヘンさんジェームスさん。ピーターメール社に入社したいということでしたら入社試験を受けていただきます。申し訳ありませんが例外は認めておりません。また、ご希望の職務によっては試験内容が変わるためご承知の上でご参加ください」


 こちらからのオファーならその限りではないが、一応転職希望という形だし採用基準がまだ定まっていないピーターメールだからこそ、できるだけこちらの条件に合致する事前情報が欲しい。


 ──翌日。


「お二人とも学術試験は合格です。あとは現役員を交えた面接試験がありますので頑張ってください」


 ノーフォークを出てから、まぁ、ぼやけていて明確には思い出せないが、とある一人の煽り性能抜群女に出会った頃くらいからひしひしと感じるが、教育機関における中等部と高等部を境とする学力格差がえぐい。

 加えさせてもらえば、ノーフォークスクールの教師陣よりも纏う知識のベールが分厚く感じる。

 これは後の面接でわかったことだが、2人とも魔法はあまり得意ではないらしい。

 この2人はとんでもない貰い物だ。


 従業員といえば、この会議が始まる前日のことだった。


「あのリアムさん」

「はい」

「私の方で出していた求人にピーターメールで働きたいという方々がいらっしゃってます。お会いになられますか?」

「ぜひ」


 海咲に仲介を頼み、就職希望者と面会した。

 

「この方達は──」


 求職者たちの風体にカレンダーが目を丸くするのも無理はなかった。


「こんばんわ」

「こんばんわ。ピーターメール株式会社の取締役のカレンダーです。こちらは私と同じく取締役を務めているスロー。それから私たちの会社の株主のリアムさんです」

「ドワーフ系妖精アグーチのロボロフ一族とジャリアン一族を代表してノーマが挨拶させていただきます!私と同じくらいの背丈のみんなが同じロボロフ一族の仲間で、少し背の高い仲間がジャリアン一族のみんなです」


 白に茶と黒の色が混じった地面に届きそうな髪の毛が特徴的なノーマ。


「右からルーブ、ホワイス、シブール、モナです。そして、ディング、イリアル、ルイト、ルーサ、アビです」


 ロボロフ5、ジャリアン5の全部で10人。

 それぞれの一族でみんな背丈身包み同じ感じなのに、髪の色がそれぞれ違うのが印象的だった。


「ご出身は?」

「妖精族の里です」

「みなさんは成人なされているのでしょうか?」

「はい。みんな妖精の成人年齢は超えてます」

「みなさんは妖精なんですか?獣人ではなく?」

「はい!私たちはドワーフの中でも獣人と縁のあるグループなんです!」


 面接前に軽く自己紹介をしてもらったところ、結構おもしろい情報が得られた。


「これでもみんなアグーチできるんですよ!」

「アグーチ?」

「こっちで獣化と呼ばれてる力でち!本場では野生化アグーチと呼ぶのが伝統的なんでちよ!」

「でも私たちは魔法も使える妖精族でし!したがってアグーチすると動物アグーチの精霊に近くなるでしな!だから便宜上、獣人が獣に因んだ獣化ワイルド、妖精の私たちが使う精霊化のような獣化けものか野生化アグーチと呼んでいるでし!」

「特に、私ノーマは破獣化ビースト暴戻化ぼうれいかはブルートとよく比較される精物化ソバージュまでできます!」

「そっかそっか、それじゃあおとこのことおんなのこに別れてくれるかな?」

「はーい!」


 性差を知ることは大事だ。それから全員同じ服だとどっちがどっちだかわからない。


『な、なんと可愛らしい。ぜひ温かな交流を』

『僕はね。言語を用いた双方向の意思疎通が図れる相手を小さいから軟弱に態度を変えるとかそんなことするつもりはない。対等に扱うのが鉄則だと思う』

『そうですか。真面目ですね』

『表面で見られることがきついことって結構多いから』


 身なりならいざ知らず、身体的特徴を捉えて・・・でち口調がロボロフ、でし口調がジャリアンの訛りっぽい。

 ノーマが代表を務めていたのはこのためだったのかな。


『だとすると勇者物語で少し触れられていた獣人族はゴールデンキンクのあの訛りは忠実だったのでは?』

『だーかーらぁー・・・』

『言い返してくださいよ、ほらほら』


 ぐうの音も出ないのでしゅ。


「みなさんのご趣味は?」

「敬愛するゴールデンに敬礼することです!」


「「ゴールデンキンクに!!!」」

 

 面接に入り2個目の質問に対してノーマが敬礼のポーズをとると、後ろの仲間たちみんなが揃って手を額の傍に添えた。

 なんとも純真で潤った目をしているではないか。


「では、ご自分の長所をみなさんそれぞれに教えてください」

「私は空間魔法が得意です!そして故郷では交通家業を手伝っていました!家の玄関と目的地を繋いだり、正確な大きさのゲートを開いて荷物を送ったりする仕事です!それから私たちロボロフ一族は賃料の集計なども任されていました!だから私は計算も得意です!」


 おお、スローの成長が見てとれる。

 前の質問をノーマが統一して答えてしまったからちゃんと一人一人が答えられるように振った。

 しかし、スローの成長以上に驚いたのは今回集まった全員が空間属性に精通していたことだ。

 長所も一族それぞれで大まかな特徴が薫る。

 ロボロフ一族は計算が得意で、ジャリアン一族はロボロフ一族ほど計算等に自信はないがそれを補うように筋力があるらしい。 

 こんなに適任な人材が都合よく集まってくる幸運の調律などもちろんないと直視し難い現実に蓋をできる信条こそ胸を張れる僕の誇りであるが・・・それで、だ。


「それとほっぺが柔らかいことです!」


「「でち!」」 「「でし!」」


 それから誰一人漏れることなく、最後に付け加えるように「ほっぺが柔らかいこと!」と答えた。

 なんとも忠誠心に厚そうだった。

 常識の逸脱も種族特徴の範囲に収まっていると思う。

 基礎学力及び魔法試験と空間魔法試験を受けてもらうけれど採用だろう。

 



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