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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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49 Rien

 翌日、鈴屋にて件の湊花みなかと面接する。 

 別室では海咲とジブリマーレが面会し、まずは貿易組合に提出する提案書を練っている。


「リアムです」

「梨園 湊花です。よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします。海咲さんから話を聞いてるので多少個人的な質問も確認の意味で混ぜていきます。ではいくつか質問をさせてください」

「はい」

「まず、ピーターメール社の事業について簡潔に説明なさってください」

「御社は──」


 黒い髪に端正な顔立ちにして淡い緑色の着物に袖を通し、海咲から感じる気品に通じる淑やかな立ち振る舞い、機微を感じさせない洗練された所作。

 事前情報とはイメージが違う、ビジネスへの姿勢が見てとれる。


「次に、ピーターメールが抱える問題について湊花さんの意見をお聞かせください。例えば、ピーターメールは現在人材不足の問題を抱えています。そこで湊花さんは経営者としてどのように人材不足を解決しますか?」

「では奴隷を使ってはどうでしょう」

「奴隷は使いません」

「なぜか問わせてください」

「健全ではないからです」


 さて、僕が試される番。

 奴隷は一応、国にも認められ法に守られる存在である。

 

「奴隷制度に一石を投じるつもりはありません。私は奴隷制度の社への導入が給与体系を乱しかねないこと、それから教育の手間が増えることを問題視しています」

「そうでしたか。一旦、給与体系のお話を棚上げさせていただいて教育の手間が増えることについてですが、教育の手間が増えないような人材を探すよう一般採用と同様に採用努力を怠らなければ解消できる問題ではございませんか?」

「資産になる。これが一般人と奴隷を労働力として起用する場合の一番明確な違いでしょう。ですがね、奴隷を資産と計上しようがそれを売るような勘定をしてしまっては我が社は潰れるんですよ」

「御社はサービスに付加価値を与えられる技術を柱とする会社。その者が社にとって負債となった時に切れないのが問題ですね・・・」


 知的財産を用いた商いを心得る者に降りかかる奴隷法の現実。

 例えば、一般人には雇用時に秘密保持契約と職務上の発明を基とした契約を結ばせれば済む。

 そうすることで解雇後にも拘束力を持つ法的な訴えの根拠とする訳だが、仮に奴隷にも同じ契約を結ばせたとしてその奴隷を売った場合、雇用時契約と奴隷契約の前提となる奴隷紋の拘束力が異同する。


「従業員を第一に考えるからこその理不尽だと理解してください」

「いいえ、わかりますよ。姉の手伝いをしていた時に私も財務責任者として経営陣に加わり従業員の解雇を言い渡したことがあります。現実あっての心痛、組織あっての信頼、個人あっての努力であると私は心得ております」


 そのあと結局、湊花は棚上げした給与体系の問題について追求はしなかった。

 かつて鈴屋の財務責任者をしていたということだから、従業員が歩調を崩さないよう職の階級と成果以外の報酬に与える影響を排除しフラットに制度を整備しておきたいこちらの思惑を察知したのだとしておく。 


「それでは業務の仕分けを行なってはいかがでしょう。従業員が携わらなければならない業務とそれ以外とで仕分けを行い、既に就労している方やさまざまな理由で正規雇用を受けられない方などが従事できる副業の枠を設けてはいかがでしょう。例えば対象は学生とし、後々正規雇用も考え評価制度を整えれば青田買いにも繋がります」


 問題を解消するに至らない採用する価値のある案ではないが、この案を検討する価値があるかは考えさせられる。

 問題を一塊として見ず、今手元にある情報だけで経験から課題を設定し一つずつ解決していこうという姿勢が見てとれる。

 ステディエムを取り巻く社会問題についても理解があることをアピールしている。

 堅実──。


「最後の質問です。今日の面接を経た私に対しての印象を教えてもらってもよろしいですか?」


 従業員の面接では絶対にナンセンスな、こちらの資質が疑われるレベルの質問。

 しかしこれは取締役、兼、最高財務責任者を雇用するための面接である。

 我々は怖がっているだけでは何もできないベンチャーなのだ。


「まずは驚きました。そんなにもお若いのに確かな自分の芯を持ち、それがブレないよう注意を払っている。しかし偶にはそれをブレさせて遊ぶ一強の心も持っておられそうです。伝聞ではなく目の当たりにすると、傲慢か、豪胆なのか計りかねます。ですが、気配りをする努力をなされる。一見では沈着豪胆ではありますが大胆不敵ではない。味方が敵に敵が味方に、そうして敵は敵、味方は味方、その線引きがはっきりとされている方だと思います」


 いい指摘だと思う。


 途中で上がった奴隷問題の話、僕が奴隷を採用しないもっと残酷とした理由がある。

 奴隷を使わない理由──


 質が悪いから。

 与えられる給与が決まっている。

 かつて教えてもらった特別報酬制度を用いて帳尻を合わせるか、しかし借金額で時間を縛る奴隷を採用しておきながら必要のない報酬を与える行為は非常に合理的ではない。

 奴隷制度最大の強みを潰す。

 どんなに頑張っても昇進はしない、能力あるものを特別扱いしたくてもできない。


──奴隷という資産は人という人権の絡む生き物である限り労働力、ペットの域を超えられず道具たり得ない、合理的ではない。


「これからよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 翌日、カレンダーとスローとの顔合わせを済ませ彼らの意見を聞いた上で、取締役 兼 最高財務責任者として湊花を採用した。


「ゲイル、ガスパーさん、その荷物は・・・」

「せっかくの旅行だからお土産をたくさん買い込んだだけさ。な、親父」

「リヴァプールのお土産は方々に喜ばれるからなぁ。誘ってくれて感謝する」

「さいですか。それではまた1週間後にお返事を聞きに来ますね。それと例の件もよろしくお願いします」

「はい。お待ちしております。湊花ちゃん、くれぐれもご迷惑をおかけしないように。カレンダーさん、スローさん、妹をよろしくお願いします」

「は、はい!がんばります!」

「がんばります」

「海咲ちゃんは大袈裟なんですよ。ちゃっかりお土産リスト私に渡しといて、もう」

「あはは・・・いってらっしゃい」

「いってきまーす」


 次は1週間後、やらなければならないことが山積みだ。




 

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