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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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327/371

48 Seabird

「こんにちは、海咲さん」

「こんにちは、リアムさん」


 涼やかなる秋晴れの港街ベッセルロットは心落ち着く。


「まず初めに、無事ピーターメール株式会社を起業いたしました。その節はどうもお世話になりました。それからこちらは、前回お話をしていた業務委託書です。ご確認をお願いします」

「それはおめでとうございます。お預かりいたします」

「お返事は、後ほどで結構ですので」


 海咲との会談は、前回の打ち合わせの確認から始まる。

 

「それからですね、こちらは僕から新しいご提案です。企画書を用意しましたので、合わせて目を通していただけないでしょうか」

「わかりました。海鳥サービスですか。拝見しておきます」

「それで、畳みかけてしまいますが、オファーのお返事をいただけないでしょうか?」

「はい。この度のリアムさんからのお誘い大変心苦しいですが、私は私の領分を管理するだけで手一杯です。提携という形でなら、お力になれることもあるでしょうが、過分ながら辞退申し上げます」

「とんでもない。前回、意思を表明していただいたにも関わらず私のわがままを聞いていただいたわけです。ご検討いただきありがとうございます」

「つきましては代案といたしまして、鈴屋家に縁のある者に一人心当たりがあります。是非、推挙させていただきたい」

「お話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」

「はい。名を梨園りえん湊花みなかと申します。率直に申し上げますと私の妹です」


 カレンダーに株式会社の件を打診した後、ダメ元で海咲に役員にならないかと打診していた。

 急務として、カレンダーとスローを教育しているとはいえ、二人はゲイルみたいな特別な教育も受けていないただの子供だし、これから手がけていく案件もでかくなる。


「経歴といたしましては、修行時代の私の妹弟子でして経営の心得は一通り学んでいます。今は梨園家に嫁ぎ第一線から退いてはいますが、これが形だけと言いますか、集客、集客、集客と家業にまで口を出し、最近は子供も独り立ちしまして更に口出しが苛烈になったらしく義弟に助けてほしいと泣きつかれる始末でして・・・昔、鈴屋で働いていた過去も忘れられないようで、本人からも家にも度々復帰させてほしいと。齢もまだ33なので無理もありませんが、正直、私も持て余しております」

「なぜ雇い直さないのかお聞きしてもよろしいですか?」

「はい。まず、湊花は鈴屋家から梨園家へ籍をうつした身であるということ。しかし一番の理由は私としては今の経営体制をもうしばらくは維持したいと考えているためです・・・妹は、合理主義の塊でして」


 家の籍、もうしばらく、合理主義、とくると葵の帰る場所を残しつつ挑戦を続けさせるため。


「とはいえ、新しいアイデアや技術を取り込むことに積極的で視野は未来に限らず鑑みることも伴った合理性といいますか、鈴屋にいた頃は跡継ぎの私の影に徹していましたのでカレンダーさんとスローさんのサポートも十分にこなすかと。総合的には剛柔であると評価しています。それとなく本人に話を振ったところ、ぜひ引き受けたいと言っておりました」 

「それでしたらうってつけの人材かもしれませんね。ピーターメールの本拠地はステディエムですが、将来的にはベッセルロットへ支社を置くことも考えていますからこちらへの出張も頻繁になると思います。つまり、単身赴任という形になります。そのことを承知の上でしたら、一度会ってからお返事させていただきたい」

「わかりました。面談前に本人に今一度確かめます。それで面会はいかがいたしましょう。本人は今日にでも会って話がしたいと息巻いておりましてですね」

「そうですね。僕はこれからサイレンに向かいますので、カレンダーとスローを残していきますからまずはそちらを引き合わせていただければと。それから、先ほど渡した海鳥の企画書を湊花さんにも目を通してもらいたい。夜、遅くとも明日の午前中には帰ってきますので」

「お二人と企画書は謹んでお預かりいたします・・・あの、まさかお一人でサイレンへ?」

「ええ。海鳥の件とその他にも少々相談したいことがあるものですから」

「そうですか。てっきり領主様を通して赴かれるものかと」

「領主様に目通り願うのは、海咲さんとサイレンの賛同を得てからになりますかね」


 ・

 ・

 ・


 ベッセルロットの海岸線、陽は白く漣と踊る。


「Blood plazma sprite──」


 よし、潜水準備完りょ──。


「リ・ア・ムー!!!」

「あ、ウーゴ!・・・あれ?」

 

 ん?この竜、どうして海に面と向かう僕の視線の外から飛んできた?


「どうして街の方から飛んできたの?」

「ふっふっふー、それはねー、偏に僕が崇められるべき気高い海竜様だからさ!」

「だからさぁ・・・どうして街の方から飛んできたの」

「うっ・・・べ、別に、街の広場で肉をご馳走になってなんてないからね。だからリアム、僕をハンバーガーでもてなして!」

「断る」

「えっ・・・ええぇええええ!!!?」


 なんだそのドップリとした腹は。

 なんとなく、羽ばたいた風が重かったし。

 

「どうして!?」

「自分の腹に訊くんだ」

「うーんと・・・ハンバーガー食べたい」 


 僕は黙って拳を握る。


「だ、大丈ーぶ!僕は竜だよ!経口摂食で得たエネルギーなんてすぐ消費できるから!」

「それじゃあ、僕と競争しよう。ゴールはサイレンの雨の宮、僕が負けたらハンバーガーを作ってあげよう。そして僕が勝ったらこちらのお願いを一つ聞いてもらおう」

「わかった!いいよ!それじゃあよーいどん!」


 小癪な海竜は、競争の申し出を即行受諾すると一丁前に不意打ちをかましスタートを切った。


「・・・あの、リアム、どうして尻尾を掴んで・・・」

「妨害の禁止諸々、ルール決める前に君がスタートしたんだろ?」

「それじゃあやり直して、ちゃんとルール決め」

「決めるわけないでしょ」

「だよねーぇぇぇええええええ!!!?」

「ドりゃっせぇええええええ!!!」


 尻尾を引き寄せ、左足の裏を支えるように重心を掴み思いっきり空へ投げた。


「ぎゃああああああ!?!?」


 おお、飛んだ飛んだ。

 片足の裏という不安定な重心から投げたからクルクルと、そりゃあもう砲弾のように空へ吸い込まれていった。


『音速など軽く超えましたね』

「音速を超えたか──」


 されど音速、彼は風を司る竜。


「海竜ウーゴ・ファノ!」

「よくもやったね!くらえ、竜星りゅうせいイいいいいい!!!」

「ゲート」

「えっ?」

「それじゃあ先にサイレン行ってるから」

「あっ、ずるい!?ゲート使うならどうして最初から、というかというかというか、この加速だと止まれな──」


 見える。海竜が砂浜へ頭から突っ込むアホ丸出しの未来が。


「こんにちは、ベルーガさん」

「これはこれはリアムさん!どうされたのですか?」

「ジブリマーレ様に商いのお話がございまして参上しました」

「それなら、お纏いの力を辿ってすぐにでもいらっしゃると思いますよ」


 雨の宮、梅雨に変わらず年を通して咲き誇る海紫陽花が美しい。


「ところで、どうして竜力を降ろしていらっしゃるのでしょう?」

「運動をしたかった。なかなかこの力を解放できる場所はありません。すると海竜にちょっかい出されてひと勝負ときました。レースで破産させられたら困るので、ゲートで来たんです」

「ああ、そういう事情でしたか」


 いつかの雷竜に習い、不用心に解放するには躊躇われる力だ。

 ベッセルロットは海竜のテリトリーだからこそできる修練。


「やっぱり!」

「女王様。突然の訪問をお詫びいたします」

「そんな滅相もないことです!」

「そうですか。ですが今回はサイレンを治めるジブリマーレ女王陛下に、ご提案があって参りました。どうか、お許しをいただけないでしょうか」

「・・・はい」


 ジブリマーレと呼び、女王としての応対に彼女は少し不満げだった。

 だが、ジブリマーレはすぐに女王としての顔を見せ、雨の宮の応接間へと通してくれた。


「運送、海鳥、面白いですね。名前も気に入りました」

「お喜びいただけて何よりです。それで、どうでしょう?」

「・・・こちらとしては、あまり前向きなお返事をすることはできません。海底は資源が豊富です。自給自足もさることながら、たまに地上と交易するだけで必要なものは充足できている。とはいえ、人材に多少の余剰があるくらいの現状で私たちの生活の質を上げる期待の少ない地上に割くリスクをとることは合理的とはいえません」


 海底資源、豊富な食糧資源、そして、海中で使えるものは少ない地上の物資。

 そりゃあそうだ。


「そうですか。ならば、その貨幣を消費できる施設を作ってはいかがでしょう?」

「施設を作る?どういうことでしょう」

「はい。皆様は水中に生活の基盤を持つ水人族。そこで、サイレンの海上に施設を作るんです。例えば・・・」

「こちらは・・・」

「アイスクリームです。どうぞ、一口お食べになってみてください」

「冷たい!そして、おいしい・・・」

「こちらは雨の宮のような空気のあるところ、もしくは、地上でなければ食べられない。水中で原型を保つのは難しい食べ物です」

「この間ご馳走になったハンバーガーもそうでしたが、地上でなければ食べられない料理は多い・・・それを海上で、ということでしょうか」

「はい。水人族の料理人に地上の料理を学ばせ、それを海上で提供する。あるいは、もっと規模を大きくしリゾート地として開発するのもよろしいかと思います。兎にも角にも、地上の物資を安定して輸入するための貨幣を稼ぐ手段の一つとしてお考えいただけないでしょうか。どうでしょう、地上の物資が魅力的に見えて来ませんか?」


 プレゼンとしてはまだまだ。

 具体的な規模も定まらない。


「いずれは、サイレン、ベッセルロット貿易組合、そして、リヴァプール領を交えた席にて、皆さんの仲介者ミドルマンとして我がピーターメール社は報酬をいただければと考えています」

「わかりました。正式な返事は後日、その席にていたします」

「承知いたしました。さて、一つ目のご提案は以上です。続いて、2つ目のご提案をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ま、まだあるんですか?」

「はい。こちらは資源売買のご提案です。我がピーターメール社にサイレンの水産資源を売ってもらいたい」

「ですが、私たちがベッセルロットの市場に水産資源を多く流せば、漁師の仕事を奪い軋轢を生みます」

「ええ。ですがそれはベッセルロットの市場の話です。ひいては他国水域にて収穫された水産資源について、ベッセルロットの漁業組合はサイレンの水域で採れた水産資源にケチをつける権利は持ち合わせていませんよ。ですから、こちらは漁業組合ではなく貿易組合を通します。他国との輸出入ですから」


 もしベッセルロット-ステディエム間のスカイパスが繋がれば、ベッセルロットにも空港ができる。

 そこを利用できるよう取計い、海鳥サービスを楯に関税の優遇を打診する。


「ですがやはり、漁業組合の方々には良い顔をされないでしょう」

「だから、我々ピーターメールの仲介が生きてくるんです。サイレンの資源に加えて、ベッセルロット産の資源の領外輸送に尽力する。これで漁業組合だけが割を食うシナリオにはならない。それからサイレンの資源の一部を海竜に運ばせます。この辺一帯の海域を支配する竜がシンボルになれば交渉がしやすくなるでしょう。面倒ごとはウーゴに放り投げます」

「ウーゴが協力するのですか?」

「こちらは約束しかねますが賭けには僕が勝ちましたから。賭けの報酬としては誓約が厳しいというのなら、当初の予定通り女王陛下に持ちかけたような理由づけをしてみます」

「ああ、ウーゴなら飛びつきそうですね」

「でしょう?」

「わかりました。それではこちらは目録を作っていただけますか?」

「はい。実は、本格的な取引の試験ということで、既に用意してきていたんです。こちらを」

「羽の蝋印が押された封書。素敵なマークですね」

「ピーターメールの企業ロゴです。友人が考えてくれたんです」

「あ、もし貿易を新しく始めるなら私たちも会社を起こさないといけませんね。となるとロゴも。あの・・・竜のロゴなんてどうでしょうか」

「女王陛下とサイレンらしくて素敵ではないでしょうか」

「そうですか!ありがとうございます!」


 そういえば、サイレンの国旗を竜の意匠に変えようと活動をしていたことがあったとベルーガに修行中に聞いた覚えたあったっけ。




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