46 There's nothing more and nothing less
「どうしてエリートの私が・・・ウォーカーって、ウォーカー商会の・・・というか、あの時のクソガキ2号。よっしゃぁああああ!いきなり領を代表する企業の窓口に選ばれるなんて!さっすがわたし!」
朝食の席、綿々と忙しない。
「いってきまーす」
「いってらっしゃいリアムちゃん!」
そんなセナを後目に、キュリーに見送られピーターメールへ向かう。
「おはようございます、リアムさん・・・?」
「おはようリアム、何してるの」
「しっ、襲撃に備えているのさ。カレンダーとスローはドアから離れて。それとチェルニーは?先に出たはずだけど」
「チェルニーはベートンのご飯を買いに行ったよ」
「そっかー」
扉を閉めて早々、その扉に張り付いて背中を押しつけている様はさぞ挙動不審に見えただろう。
そうこう扉に張り付いているとチェルニーのノックが僕の背中を冷やしたのでこのところの日課を始める。
「それでは、最初の課題を始めます」
ひとしきり警戒を終えて席につき今日の課題を始める。
「いつも通り、復習問題を5個、僕に出題する自由問題を1個考えてください。制限時間は1時間。今日は、チェルニーはスローに、スローはカレンダーに、カレンダーはチェルニーに問題を出してもらいます。では、はじめ」
日課は作問である。
前日に勉強した内容に沿った修学問題を5問、200字以上のシチュエーションを設定する。
なお、内、3問までは同じシュチュエーションを派生させた問題を設問することを許し一般科目から1問、専門科目から一問の計2問以上の作問を課題としている。
これらの修学問題は各自、自分で解くことは必須とせず他の生徒に解かせることで相手に状況を伝える文章力、相手に適した課題を創出する努力をする設定力を育むことを目的としている。
そのため採点することはせず問題難易度の5段階評価とコメント欄を付した回答者シートを提出させている。
最初はラディたちも含めたグループで1日1人で交互に宿題として問題を作らせて次の日に他の全員に解かせてフィードバックを書かせていたのだが、今の時間は3人、これだけ少人数だと統計的な評価は望めないし数日待つのも効率悪いしで現在の型へシフトさせた。
科目は自分の得意なモノでも苦手なモノでもよしと伝えてある。
──昼休み。
「進捗はどう?」
「もう少しです」
「そう」
ランチを終えて午後の授業までの休み時間、チェルニーは再び机に向かってペンを走らせていた。
カレンダーとスローは羽を伸ばしに出かけた。
もうずっと朝から晩までの窮屈な学習を投げ出さない本気な2人も大したものだが、こうして空き時間を夢に費やしているチェルニーもすごいと思う。
さて、この時間になってくると例の襲撃はないと見ていいかな。
早ければ今日中、数日中にはコンタクトを取ってくるだろう。
よし、自分の仕事をしよう。
「火の魔石、風の魔石、水の魔石・・・結局魔力依存だし魔法陣を収める手間もかかる。一方で手間はかかるが材料さえ調達できれば量産しやすい炭や重曹・・・はぁ、塩酸とか扱える研究者どっかに落ちてないかなぁー。学院までリクルートしに行くわけにもいかないけどカストラに生命線を握られたくない・・・やっぱリヴァプールか」
地理的にノーフォークから遠いリヴァプールに生産拠点を増やすのは気が引けるが生産コストを考えるとリヴァプールの方が安いからそこのところで妥協しよう。
──放課後。
「カレンダー、スロー。数日中にリヴァプールに出張することになりそう。で、ピーターメールに関する事だからいずれはリヴァプールに2人を連れて行くけど、今回はどうする?」
「リヴァプール・・・わ、わたし行きたいです!海咲さんにお会いしてまた色々と聞きたいです!」
「ぼくは・・・うん、いきたい」
「了解。今回はリヴァプール家や鈴屋と交渉したいことがあるから海咲さんとも会えると思う。いい息抜きになるよ」
チェルニーはジョシュと離せないのでお留守番。
そうそう。
ラディたち冒険者組はパーティー名を”サンライズゲイズウェザークラッシュマジッククッキーベル"とした。
普段は尻取りで”クッキーベル"呼んでいる。
この長ったらしいピカソかよってツッコみたくなる名前が選ばれた経緯が──。
「第17回、パーティー名会議をはじめまーす」
これまで16回開催されたにも関わらず未だに決まらない会議17回目が開催されたとある日の晩、シャワーを浴びた冒険者組が寝室に直行することなくテーブルを囲っていた。
僕は、テーブルの端で課題の採点を進めながら適当に聞き流していた。
「あのさ、俺、クッキーなんてどうかなって思うんだけど」
直近の会議では案を出すのさえ億劫になっていたのに、珍しい。
「クッキー?なんで?」
ぶっちゃけその日も決まらないと思っていた。
「そうなんだ。いい話だな」
「ウィルバーとオービルにそんな裏話があったとは知らなかったな」
「王都とステディエムを繋ぐスカイパスの象徴かー。そう思うとカッコいいかも」
「でもなぁ、なんかさー、爆発力がないっていうかさー」
「ま、俺もその辺気にしててさ。支え合ってるって感じは好きだけど、甘ったるいってーかさ」
「エェー!かわいいじゃん!」
キャシーだけは乗り気だがクッキーは可愛すぎるのかな。
まぁ、彼らの決めた名前だったら尊重するけど。
『アリア。父さんと母さんがいたパーティーから名前をもらった。元々は、この国の王妃様から貰った名前だった。けれど僕は王妃様のことなんてどうでもよかった』
みんながいた、だからこうして思い入れができる。
この会議も気の済むまでやったらいい。
なんて感慨に耽っていたら話がこちらに投げられる。
「リアム、なんかないかな?クッキーに関係ある言葉とか」
クッキーに関連することねぇ。
クッキー、cookie、そういや、cookieとcookie・・・。
「そういや、マジッククッキーなんて言葉があったっけ」
「えっ!?マジッククッキー!?」
これに激しく食いついたのが勇者物語大好きのコーンだった。
「でもちょっと長いなー」
「エアフロみたいに略称があればいいんじゃない!?マッキーとか!」
・・・マッキー?マジックだけに?
「でも掛け声はどうするんだ?これは大事だ」
「ハイボールとマッキーでハマキ!」
「うッ」
ハイボールに葉巻き。
やべ、ちょっとクスッとした。
「なんかそれじゃあ威力が足りない。もっと弾けた感じがいいな、俺」
「略しすぎってこと?じゃ、ハイマッキー?」
「ゴホっ!」
ポップよ、僕にはクリーンヒットしたよ。
「そりゃあハマキより弾けてるけど」
「それじゃあ略を変えてマックは?掛け声は」
『今日の夜ご飯は?』
「ハイマーック!」
・・・吹いた。
盛大に吹き出した。
コーンの「掛け声は」に、被せてきたイデアの合いの手もあってそりゃあもう盛大に吹いた。
全然面白いこともなければ他の誰にもわからないのに。
「わ、笑うなんてひどいなー」
「いやいや、嘲けたんじゃなくてなんてーか・・・コーン、今日のテスト98点だったよ。頑張ってるね」
「ごまかした!」
「な、なんか夜食食べたくなった。フライドポテト作るけど、食べたい人ー」
「「「「ハイ!!!」」」」
よし、誤魔化せた。
「で、どうするよ」
「もうフライドポテトでいいんじゃね?」
「ブルックそれは・・・そうだ、ジョシュはどう?」
「さっきの線でいいと思うなー。だとしたらマジックの方じゃなくてベルの方を使うとか」
「ベルクッキー?」
「あるいは、クッキーベル」
指先でかき混ぜるように風で土の香りをそぎ落とし闇の刃で縦に切り裂く。
霜を下ろした6面の直方体をこんがり小麦色に染め上げて塩の結晶を瞬かせ飾り付ける。
「略すとクール、な、クールだろ?」
「クールだけじゃない!私たち流にいえば"支え合う勇者"って感じじゃん!」
「支え合う勇者・・・うん、いいよそれ!ねぇリアムもいいと思うよね!」
「クラッシュベル」
「は?」
「睡魔の呼び鈴が鳴ってるから帰るわ。おやすみ」
我、お邪魔虫は睡眠の勇者となりて友の結束を願い、いざ空空漠々としたz’s。
『ちぇ、最後までいてくれたっていいのに空々しい。逃げたんだきっ・・・と・・・そういえばクッキーの話の時、親父は"頭の中だけで話を完結させることは空々しい”この言葉を忘れるなって言ってたっけ・・・』
俺たちが勇者のような話を完結するってことで、実現する。
「空を統べる。俺たちはいつか空を統べる・・・それが親父に憧れた俺の次の夢」
全員の視線がラディに集まる。
当初の目的は食いっぱぐれないよう知識を身につけることだった。だが、それはもうリアムに与えられた。
「親父はハイボールを掲げ空に道を作った。ピーターメールはそれに負けないくらい大きなことを成そうとしてる。同じハイボール団として俺たちは雲や星じゃだめだ。サンゲイズ・・・太陽くらい見つめないと。いやもっと、天気そのものになるんだ」
──翌日。
「というわけでリアム!俺たちのパーティー名は"サンゲイズウェザークラッシュマジッククッキーベル"に決めた!俺たちは全部欲しい!」
「えっと・・・」
まさかそうくるとは思わなかった。
彼らがまだ幼──もとい、若さを侮っていた。
「せめてサンゲイズじゃなくて夜明けを意味するサンライズにするとか」
「それじゃあサンライズゲイズウェザークラッシュマジッククッキーベルだ!」
「・・・」
余計なことを言ったと気づいた時には、全てが動き出していた。




