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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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40 ink splotch

「リアムちゃん朝だよ! 起きて!」


 小鳥のさえずる清々しい朝。エスナの台所の看板娘、キュリーの声が響き渡る。


「・・・おはようございます」

「おはようー!」


 最近、色々とあったからじっくり目覚めを味わいたい。・・・かわいいなチクチョウ。


「おはようございます、ナゴラスさん」

「おはよう、はい、朝食だ」


 亭主のナゴラスが朝食を運んできてくれる。


「セナさんも、おはようございます」

「おはようさーん」


 そうして朝食を口に運びながら、隣のテーブルでだるそうに朝食を摂ってるこの人に一番最後に朝の挨拶をするのがステディエムでの朝の日課になってた。そんな朝のルーティーンに、今日から変化が訪れる。


「朝の陽射しをこれほど眩しいと感じたのは久しぶりだ」

「私はスッキリしてる・・・おはようございます」

「おはようリアム」

「おはよー」


 キュリーの洗礼を受けたジョシュとチェルニーが、一階へ降りてやはり隣のテーブルに腰を降ろした。 

 

『目の届く範囲、どうして僕が友人を監視する羽目になったんだろう・・・』

『不誠実さを感じるのは美徳だと思いますが、巡り合わせからしばしば思い通りにならない人生においては、最善の気遣いが誠実であると言えないこともあるのでは?』

『・・・君にも、わからないか』

『まぁ、私は元は人間ではありませんから、疎さは否めません』


 どうして彼は、僕に近づいてくる。

 居心地がよかったらしいエアーフロウガーディアンズも、互いに利用する関係のよう留めていた言種だった。

 彼は、僕と同じような、容易に他者と深い関係を築けない理由でも抱えているのだろうか。


『僕も彼も、昔とは違う・・・イデア、彼らって前からあんな感じ?』

『同じことです。当時の私は、今ほど精通していたわけではないので』

『それもそうか。でも、ハイドならどうだろう』

『ハイドなら接していた時間も長いですし、何か感じるものがあったかもしれません』


 自分だって秘密の一つや二つじゃきかない問題を抱えている。擦り合わせといかないのは諸々のプライバシーをある程度、保ちたいという欲求が互いにあるからだろう。


「就職先どうでした?」

「この惨状を見ればわかるでしょ」

「やりがいにあふれてますね」

「そうなのよー。いやー、もうね、さいっこうよ。領主様直轄の運営戦略部に配属になったんだからさ。でもねー、なんかねー、ちょっとねー・・・お子ちゃまにはわからない大人の事情ってのが色々とあるわけ」


 そうそう、恐ろしいことに、セナの内定が決まった。現在は、マンチェスター領主直轄の部署で教育研修を受けており、直属の上司はステディエムを担当する超エリートコースだ。単位も既に充足し、卒業まではG4所属のためインターンのような扱いになっているが配属は確定らしい。


「あなたもリヴァプールと一枚噛んでるらしいじゃない」

「何に?」

「リヴァプールにノーフォークのお偉いさんを連れてったとか」

「?」

「カストラ様に他領から問い合わせが、ノーフォーク領主に個人的に魔道具を貸し出してはいないかって、数件。おかげで私はカストラ様と直接面会することになって、ウチに泊まってるあなたとお話しできないか頼んでみてくれと言われたの。ブラームス様のご子息パトリック様がリヴァプールに赴いた時期、ちょうどあなたがリヴァプールに行ったという時期とマンチェスターからノーフォークへ、ノーフォークからマンチェスターに出入りした時期があっちゃったものね。参っちゃうわよ、いきなり出世しちゃったらどうしよ。超エリートの、わたし」

「嬉しいんですか、面倒なんですか」

「で、どうなの?」

「会ったら、こちらのお話も聞いてもらえたりしますかね」

「あなたがどれだけの情報を相手方に提供できるかに寄るでしょう」 

「交渉の場として取り持っていただけるのなら、機会を設けていただいても」

「オッケー、それで聞いてみる。お給料、上がるかしら」


 そっか、僕がリヴァプールとマンチェスターの交渉を手助けすることになったのは、まだ伝わってないのか。リヴァプールが僕との交渉を引き出した体を貫くため、あえて知らせてはいないのかもしれない。面倒だから、これには触れないでいこう。 


「それじゃあ、またなチェルニー」

「うん、また後で」

「いこうか」

「はい」


 朝食を終えると、ジョシュはクロカや冒険者組が待つメルクリウスへ、僕はチェルニーと商業組であるスローとカレンダーとの合流を目指す。


「今日の用事が早く終わったら、こっそり連れてってあげる」

「ほんとうに?」

「他のみんなには内緒だよ」


 ジョシュと別れて少し沈んでいたチェルニーに、そっと、現在攻略を控える35階ガーデナー戦の直前、最高到達階へと連れていくことを約束する。パッと行って、サッと帰ってくればラディ達にはバレないだろう。


「決まった〜。今日からここが私たちの住居です」

「ほこり掃除は任せて」

「スローがいてくれて助かります」


 売り上げの報告のためウォーカー商会の支社に赴いた時、いい物件がないか教えてもらい、冒険者向けの物件を借りることにした。キッチン風呂なし40平米の戸建てで柱剥き出しの部屋が1、広い屋根裏が1、別途トイレが1、1階は事務所で屋根裏が寝泊まり場所となっている。


「あと決まってないのは名前ですが・・・」

「カレンダーはやめた方がいいってリアムが言ってた」

「どうしてですか?」

「うん、まぁ、本名は成人してからの方がいいかな・・・ほら、ユーロでも色々あったからさ、慎重なんだ、僕」


 まぁ、ユーロ云々はチェルニーがわかりやすいよう耳打ちしただけ。商人は冒険者と違って武闘派ばかりではないから、危ないやつが寄ってきやすいかもしれない。新企業の所有権は僕にあるけど、主体性を持って仕事をしてもらうために、代表となるカレンダーを中心に名付けを考えることになった。


「あと、賃貸契約者もカレンダーになるから、ハイボール団の名前もリーダーがラディ、代表がカレンダーとかなるとちょっと面倒かなってのが僕からの意見」

「ピーターさんは? ラディのお父さん、すごい人だった」

「ラディのお父さんとしてではなくて、偉人としてならいいね。有名な人の名前を借りるのはいい。聞き慣れていれば、通りも良くなる」

「ラディも喜ぶかもしれない・・・でも、それだと、ちょっと・・・」

「自分と繋がりの強い意味が欲しい?」

「はい。ラディのお父さんとは、私、会った事がないので」

「それじゃあ、なんだろう」

「カスラキャポコマブ・・・これは違う」

 

 カレンダーはハイボール団全員の名前からとって並べるが、イマイチしっくりとこず、僕とスローも黙り込んでしまう。


「ピーターメールはどうですか?」

「メール?」


 僅かな沈黙を簡単に破ってみせたのは、初めて会に出席したチェルニー。


「チェルニー、それはちょっと・・・」

「ダメなんですか?」

「メールって、アレでしょ?」

「はい」

「あの、メールってどうしてですか?」

「メールは郵便って意味で、リアムって意味だから」

「それって・・・カレンダー」

「いい。とてもいいと思います!」

「いやちょーっと待って! いいの!? 僕だよ!? コレだよ!?」 

「だってリアムは有名人じゃないですか」

「いいと思う」

「スローも賛成なの・・・?」 


 自分の名前が何かにつくのはむずがゆい。この世界にはない、英語の倒語に由来するとしてもだ。


『イデアがいいと思います』

『君はブレないな』


 そうこうしていて、自己主張が強い奴も混じってくるし。


「私たちにはとても強い繋がりがある・・・ピーターリアム」

「リアムピーターもいい」

「どうか勘弁してください・・・」

「じゃあピーターメールで」

「決まった」

「おめでとうございます」

「ありがとう、チェルニー」

「ありがとう」


 以上の顛末により、新企業の名前はピーターメールとなった。


「・・・ごめんなさい、リアムさん」

「カレンダーとスローにはしっくりきたんだろう。僕も本当は嬉しかも」


 メルクリウスの34階。今日は掃除に徹するらしいカレンダーとスローと別れて、チェルニーと浮庭の端へと立つ。 


「余地を残しただけだよ、誰も謝ることはない。・・・寒くない? 怖かったら言ってね」

「こんなに風が体から浮いてるように感じるのは初めて。冷たいのに、嫌じゃない・・・」


 チェルニーの言う通り、この高さから見る景色と風は自分の持つ熱を浮き彫りにする。


「そ・・・不思議な力だ。ベートンが景色を見ている感情も感じるの? それとも景色だけ?」

「少しだけ・・・ベートンと私はいつも一緒にいたから。お母さんも、この力は特別だから怖がらずに使っていいんだよって言ってくれました」

「寂しくはない?」

「ベートンとお兄ちゃんが一緒にいるから」

「2人を大好きなことを知ってたのにしょうもないことをした。お詫びに、何か僕に聞きたいこととか、お願いがあったら言って欲しいな。できるだけ応えるから」

「・・・リアムさんはお兄ちゃん達とは一緒に攻略しないんですよね?」

「基本は教えたから。今は、ピーターメールに力を入れていこうと思ってる。お金を投資したこともあるし、僕が知ってることをカレンダーとスローに教えてなるべく企業価値を高めてもらおうと思って」

「楽しみですか?」

「もちろん。ただ、ジョシュはラディたちと一緒に冒険してるわけで、チェルニーも冒険したいならそっちに参加してもいい」

「私は、お勉強の方がいいな」

「チェルニーがよければ仲間として受け入れるってカレンダーたちも言ってた。でも嫌になったら言ってね。チェルニーが好きな事をしてくれるのが、ジョシュも、ベートンも、僕も嬉しい」

「頑張ります。それで・・・お願いしてもいいですか?」

「どうぞ、言ってみて」

「リアムさん、魔法で線が書けるペンってありませんか?」

「魔法で線、を・・・」


 背筋は一気に凍り、全身が冷たい風に吹きさらしとなる。


「魔法でインクを作れたら見えやすいと思ったんです」

「・・・それは魔力をインクに替えて補うようなペンのこと?」

「はい。目が見えなくても、魔力は感じる事ができるので、少しでも魔力を感じられたら自分で書いたものを探したり、ベートンの感覚と私の感覚を合わせたら読むのにも助かります」

「あぁー・・・どうだろう。できなくもないけど、インク生成は魔力消費が激しそうだ。イデア」

「はい。インクを魔法で再現することはできます。問題は用途です。持続してインクを生成しなければならないことを考えると、日常的にベートンとの視覚共有も行使するチェルニーの魔力では10行ほど書き上げるのがやっとかもしれません」

「フラン先生は粘度の高いインクを水魔法で操って一瞬で文書を仕上げてたね。あの人の頭脳とアウトプットの力があってのことか・・・魔法でインクを作るんじゃなくて、インクに魔力を混ぜられるようにしてペンを作ったらどう?」

「魔法陣を描くときにケイトがそんな風なペンを使ってました。ペン先と親指が当たるところに無属性の魔石を加工したものを使って、ペン先のインクに魔力が籠るような工夫がしてあったかと」

「あの人は、杖の先をインクに浸してそのまま魔法陣を描くような人だったよ」


 チェルニーの欲しいものの実態を聞けば、恐ろしさは身を引いて、彼女の役に立ちたい気持ちと知的好奇心に刺激されていた。やはり話は最後まで聞くべきだ。


「インクに魔力を込めるように改良したペンでどうだろう? インク代を魔力で代替したいのなら、魔法でインクを再現するペンを作るけど」

「たくさん描きたいので、インクに魔力を込める方を・・・たぶん、前使っていたのもそんな感じのペンだったかな・・・」

「よっし。ところで、チェルニーは前に僕が作るようなペンを使ってたの?」

「お母さんが用意してくれたもので、本当は魔法陣を描くのに使うペンだって」

「やっぱり」


 それなら話は綺麗にまとまる。


「文字はお母さんに習ったの?」

「家族が教えてくれました」

「今、そのペンは・・・?」

「トロイでお金にするのに売ってしまって・・・」

「そっか。よかったら、チェルニーが好きなペンを選ぶといい。なるべく形を変えないよう頑張るから」


 僕は悪いやつだ。

 彼女の過去の話に託けて、読みづらい友人の素性を暴こうとしている。

 インクの染みを黒鉛の粒のように指で擦って、卑しく。


「今日も夜にみんなで勉強する。チェルニーとジョシュもどうかな?」

「やってみたい」


 幸いだったのは、インクが乾いていたこと。汚れは広がらない。 

 最悪なのは、インクが乾いていたこと。お母さんからもらったという黒く染められた目隠しの下に、どんな過去を隠しているのか知るには、直接、彼女の口から聞くしかなく、周りの情報から絞っていくことだ。


 

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