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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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315/371

36 Price

「ベッセルロッド楽しかったね」

「楽しかった」

「いい経験がたくさんできた」


 ──ノーフォーク、ダンジョン広場。故郷へと戻ったノーフォーク組のレイア、ティナ、ゲイルは別れの時に備えて、今回の旅の何気ない感想を締め括った。 


「ゲイルぅうううッ!!!」


 野太い呼び声が階下から響いてくる。しかし俺は反応しない。叱られるのが目に見えているのだから、精々、向こうからこっちまで出向かせればいいのだ。


「ゲイル!」

「なんだ」

「お前に商会のトップとして話がある! 私の部屋まで来い!」


 扉の向こうから、部屋に来い。父ではなくトップとして話があるのだとすれば、商会の一員として従わないわけにはいかない。  


「ゲイル・ウォーカーです」

「入れ」

「失礼します・・・ガスパー会頭、私をお呼びとのことで。いかがいたしましょう」

「そのままそこに立っていろ。お前が先日結んだ契約の件で話がある」


 ゲイルはガスパーに言われるがままに、机の前で姿勢を正す。


「まずはリヴァプールでの仕入れご苦労。限定品という点は考慮しなければならないが、今後の市場の動向を決めるため必要な情報を収集できた」

「はい。労いの言葉ありがとうございます」


 リヴァプールからのルートは東の運河を遡上する必要があるので、ノーフォークからリヴァプールへの輸出に対して輸入には魔法箱があるとはいえその間の管理費を考えると、とても一般供給できるような状態になかった。今回仕入れたリヴァプールの特産品は一般向けに販売した。予告なくゲリラ的に棚に並ぶも、飛ぶように売れた。いわば独占状態での商いとなった。 

 

「しかし、だ。お前は仕入れの一部を外部に委託したな」

「はい。仕入れの一部を流して外部に販売を委託し、その儲けから報酬を受け取るよう交渉しました。輸送のために貸し出した魔法箱もマンチェスター支店へ返却される予定です」

「把握している。・・・そして、この内容はなんだ。交渉なら十分な対価を要求しろ」

「私は満足のいく交渉をしたつもりです」

「いいや問題だらけだ。お前はせっかくの機会を他社に流した挙句に、低コスト輸送を用いたリヴァプールの特産品についてマンチェスターでの市場価格を決める権利をその他社に与えたのだ!」

「そのこと、いいや、その怒りようだとマンチェスターでの市場価格云々の話だけではないですね」

「敵にわざわざ塩を送るような真似をして馬鹿者と叱りつけるために呼びつけたがその通りだッ! 私の腹の中に怒りの種が複数あることを見抜けるなら、なぜカレンダーとかいう一人の少女に商会の貴重な資産を貸し出した! 」


 ガスパーの怒りに対して、ゲイルは冷静だった。自分の行動が引き起こす結果について、全く予想ができていなかったというわけではなかったからだ。


「そもそもカレンダーとは何者だ!」

「ストリートチルドレンです。貧民街スロープにいる子供のことはマンチェスターに精通している会頭もご存知でしょう」

貧民街スロープのかッ!?」

「はい。貧民街スロープに住む子供の一人、それがカレンダーです。しかしただの子供ではありません。今回リアムが絡んだのは」

「いいやもういい、皆まで言うな頭が痛い。あの物好きはまた・・・ッ。お前が今回独断でした取引について、どのような利益があるのかは先に褒めた通りだ。だが問題は、将来膨らむであろうパイチャートの一部を掌握する機会を得ておきながらそれに飛び付かなかったこと、それと信頼に見合わない相手方と取引するリスクの大きさ。金が友情を壊すことはよくある。お前がリアムとの絆を大切にするのなら、なぜ負けっぱなしでいる」


 我々がマンチェスター経由で得た情報によれば、マンチェスターはリヴァプールとの間に空路を近々設けるらしい。ウォーカー商会にも交易分野について、助言とともに協力して欲しいとカストラ様から内々の協力の申し出あった。そしてこの情報があるかないかで、カレンダーへの俺の譲歩が意味するところは全く異なってくる。今回俺が潰した投機は、市場価格が〜、とか、大きな利益をあげるチャンスが〜、とかの話に留まらない。話の核心はさっき親父の話にもあった通りで、俺は、商会が試験的な市場調査を行う機会を潰したのだ。それも本来発生するはずの輸送費がほぼゼロというこの上ない好条件でのことだった。・・・輸送費の件はひっくり返されたが。


「わからん・・・ここからはお前の親父としてもお前の言い分を聞こうか。だが贔屓目には見ない、用心しろ」

「わかった」

「よし、なら話せ。どんな考えで、ゲイル・ウォーカーが今回の選択に至ったか答えてみろ」


 最初はトップとして呼び付けたが、実のところこっちが本命なのだろう。親父が知りたいのは、リアムの今後の動向だ。先程の親父の言葉から借りれば、金は友情を壊すこともあれば、家族の仲を引き裂くこともある、そういうことだ。

 

「だが腹を割って話すのはまずは親父からだ。俺を商会の一員として呼び出しておきながらこの対応は軟弱に見られるぞ。いつもの親父なら、どちらかの立場を貫いて俺を叱りつけるはずだろう」


 叱りつけるのなら、父親ではなく、上司として叱りつける方が都合がいいこともあるしな。


「俺がリヴァプールにいる間に何かあったな」

「・・・そこまで鼻が効くのなら、こうして呼び出した事も無駄ではなかったと信じたいところだ。お前も決して無関係というわけではないので、この際だから話しておこう」

「俺も話に加わる必要があることか」

「そうだ。お前がリヴァプールに赴いている間に、マンチェスター対応のため更なる仲介をノーフォークから頼まれた」

「マンチェスターからノーフォークに持ちかけられていた輸入交渉の仲介に加えて、更に、それも今度はノーフォーク側から・・・それで、内容は?」

「来期より公爵様が新たな政策を打ち出し新制度を設ける。その新制度の対象としてマンチェスター側の意向を汲み取るべき事項を盛り込むか外すかを審議なされたいらしい。加えて、交易交渉の返事もしたいとのことだ。ここだけの話だが、ノーフォークはマンチェスターとの間に設けている関税の緩和を持ちかけるらしいぞ」

「はっ!? んなことしたら折角溜め込んでるマンチェスターの金がノーフォークに雪崩れこむ! リヴァプールとの空路設置交渉を前に、カストラ様はそれを許すのか!?」

「正に、カストラ様の意を汲んだ上での素晴らしい選択だ。マンチェスターの狙いは街に物を溢れさせて、今も衰えを見せず上がり続ける物価の上昇を緩やかにすることだからな」


 マンチェスターの現状は、人が集まり、金が集まり、物が集まり、しかし人と金の集まりに対して、物の集まりが悪すぎるために低所得者層の生活は上流のソレと比べて格差が余りにも激しすぎる特徴を持つ。ステディエムの西側に広がる貧民街も、その象徴たる例の一つだ。物資の奪い合いに淘汰され、厳しい暮らしのために金を借り、奴隷落ちした民衆の人身売買が横行している。あの街で一般人に金を貸す奴が腕力にモノを言わせる連中ばかりしかいないってのが更に碌でもない実態に拍車をかけているしな。他の町では中間層くらいの位置付けなのにステディエムには貧しい奴らは大勢いる。 

 

「そっか・・・現金を吸い上げるチャンスに商人は飛びつく。その商人の利己的な行動を利用して、深刻な供給不足を補うつもりなのか・・・そうか・・・なら親父が気にしてるのは、マンチェスター領主の胸の内か」

「ようやく話が進みそうだ。私がどこから吹く風を気にしてお前に喝を入れようとしているかはわかっただろう」


 もしカレンダーが金欲しさにぼったくれば、今後進むリヴァプールとの交渉に少なからず影響を及ぼす。輸送コストの関係からリヴァプール特産品は初め上流階級向けとなるだろうが、経済水準の差と高速化した交易路の関係で供給量が増えていけば徐々に高騰は解消される。市場価格云々はまだ安定した交易路くうろが開通していない時期の事だからこの際、目をつぶろう、そんな甘い考えが俺にはあった。


『やっばぁ・・・』


 市場調査の機会を捨てたり、カレンダーが設定するかもしれないぼったくり価格だったりよりもまずいのが、空路設置交渉を控えている状況で上がる利益の方だ。

 不自然に大量の海の産品が売り捌かれてみろ。運送業で操業しているウォーカー商会ならギリアウトくらいで不自然さを隠せるところ、貧民街の少女が商会を立ち上げてその最初の商いでリヴァプールの海産物が販促されるとなると、火のない所に煙が立つ。外への一般の持ち出しを禁止している魔道具を抵抗のできない少女に貸し与え、利益をあげたというシナリオが完成しなくもない。そんな領主家の噂が流されればステディエムの企業からこぞって不興を買うことになる。そしてウォーカーはマンチェスター領内の政情を悪化させる原因になった取引に手を貸したことになる。そこまで気が回らなかった・・・とはいえ・・・。


「これがベストだった。俺が魔法箱を貸し出さなければ、カレンダーはリアムに魔法箱を借りていたかもしれない。魔法箱アレの開発者が誰かはよく知ってるはずだ」

「もちろんだ」

「そこに俺は、商談をねじ込んで取引に参加した。これで、もしリアムの入れ知恵でカレンダーが成功し、その優位性を生かして空路の輸送企業として領との契約をとりに行くのなら、俺たちウォーカーがこれまでの実績と個人的な信頼を武器に新商会と提携する伝手もまだ手中にある。過去に一度取引をしたことがある実績は新しい契約をとるために、少なからず相手に一考の余地を与える」

「だが詰めが甘い。リアムがそうしたように、お前も債権を出資金に変えておくべきだった。リアムの出資で当座企業ではなくなった。相手は新規継続企業ベンチャー、しかしお前に与えている商会カネの裁量でギリギリ許されている範囲内に収まる出資取引になったはずだ。握るかもわからない命綱を垂らすのではなく、首輪をつけておくべきだった」


 親父の話を要約すると、当座企業だったら色々根回しして空路開発のための軍資金としてマンチェスターに寄付する形でのリカバーもできたし、継続企業として存続するのならその経営権の一部を握っておくことでカレンダーの商会を通してやはり寄付をする形でリカバーができた。全ては領が豊かになるためのキャンペーンの一環だったとゴリ押しできたっぽい。


「国内一の運送企業としてノーフォークとマンチェスターの陸路の販促路を維持するという大役が控えているのにお前はなんてことをしでかしてくれたんだ!」

「親父はアイツを知らないッ。アイツの行く道が正しいと俺は信じている!」

「リアムの何がお前にそこまで言わせる! 昔、手を差し伸べてもらったからか!? 過去のたたずまいに気圧されるような器では、ウォーカーは任せられない!!!」

「利益だ。リアムを信じれば自ずと親父が最も欲しいものが手に入る・・・リアムを信じれば世間の信頼が手に入るんだ!!」

「ケレステールを攻略したリアムへの羨望は今なお熱い! だがそれは冒険者としての羨望であって、商人としての畏怖が籠ったものではない!」


 ・・・親父の言う通りだ。俺だってわかっているさ、そんなことくらい。リアムは既に商品開発で一財産気付いた資産家だが、本人はそれを世間に隠して生きているし、我が友の集める羨望が商人のソレではなく、広告塔のソレであることくらいわかっている。世間の評価は力と金と名誉を持っているが、持て余す力を振るう以外の使い方を知らないガキンチョ、実際そんなところではないだろうか。


「助かる道がないわけでもない。カレンダーという少女が良心的な価格で海産物を捌けば、悪評は立つこともなし、提供した魔法箱と商品の目録もあるからウチの商会に分配される利益の額から目処をつけた市場評価はできなくもない。しかし、他企業が暴利を上げるビジネスチャンスを潰してトチることを願うしかないという状況は・・・胃がいたい」

「俺もだ・・・だが謝らない。俺の選択は利益を追求する者として正しかった。まだ挽回できるッ・・・!」

「挽回できるのならそれでいい。その意気で失敗を取り戻してこい、ゲイル」

「必要なものは揃ってる・・・行ってくるな親父!」

「待て待て! 私もマンチェスターに行く予定があるからお前を呼んだ! 急なことだが私の方も準備はできている」

 

 俺は意を決して部屋を出る。そしてその足でマンチェスターへと発つ。リアムなら大丈夫だ。きっと・・・きっと、大丈夫だ。あいつには良識がある。きっと、カレンダーが分不相応な金を簡単に手に入れるのは良くないとか変な気を利かせてぼったくり商売を・・・止めるッ。




 ──マンチェスター領、ギルド前広場より。


「さぁて皆様お立ち合い! わたくしたちの商会が本日皆様にお目通しますは、リヴァプールから仕入れた珍しい海産物の数々! 海の生産品が一部流通している王都でも滅多に手に入らない品々です!」


 辿々しく初々しい話術だが、カレンダーは言葉に詰まることはなく、初めての商品紹介を進めていく。


「アレってもしかして!?」

「本物か!? 良く似せた偽物ではないのか!?」

「アッチの方凄い賑わってる。行ってみよう!」


 この辺りにはギルドの銀行もあることから、目の肥えたお客が一定数潜在していることはこの街に初めて来た次の日に確認済みである。


「不定期販売、今後いつ仕入れられるかは未定です! 数に限りがございますので先着順ではなく、競売とさせていただきます!」

「競売形式をとるのか?」 

「小娘が何を一丁前に仕切っている、競売というのは競売者にとって優良な品がだな・・・」

「こちらは東の運河口の湾近くで獲られ、ベッセルロッドに水揚げされたばかりのところをキンキンに冷やして運んだスズキさん! 王都でも時折仕入れのあるこの魚の始まり値はかなり低めの15万Gから!」

「15万G!!?」

 

 小言にも負けず、カレンダーは笑顔で価格をぼったくる。

 ベッセルロッドで買えば3000Gの比較的高級魚のスズキでこの値段だ。

 しかし、本来の輸送費や珍しさを考えるとこの値段で競りが始まるのは良心的な方だ。しかも王都に並ぶ魚より断然新鮮ときた。もちろん、こちらも始まり値で売れるなんて想定は一ミリもしていない。


「16万!」

「16万5千!」


 ほぉーらみんなこぞって、声を張り値段を吊り上げていく。


「王都で見る海魚の値段はもう少し割安だがソレでも高い。それが水揚げされたばかりの状態をかなり保っているとなると、納得の高さか。しかし一体どうやって輸送したのか・・・」

「足が早い、早い品々です! 今回はウォーカー商会から借り受けた魔法箱を輸送に用いております! 落札された方には商品の大きさに応じてサービスでコップ一杯分からバケツ一杯分の氷をおつけしますよ!」


 すかさずカレンダーが指示棒で机を叩きながら魚の価値をアピールしていく。その隣では、スローが空いた魔法箱に水を足して、凍らせては砕いてをせっせと繰り返している。


「何より、マンチェスターでは滅多にお目にかかれない品々です。それをこんな鮮かな質の良い状態の物をこのステディエムで食べたのだと自慢できる!」


 ウォーカー商会に遠慮する、なんてことはなかった。契約書があることをいいことに、カレンダーはリアムの入れ知恵でウォーカー商会の信用を間借りして、ぼったくりもぼったくりの値段で 商業ギルドに出入りする高所得者層にリヴァプール産の海産物を売りつけていた。


「今日は一段と活気があるな・・・」


 そんな人だかりを、遠目に伺う。


「大丈夫? ものすごく疲れてるみたい・・・」

「ようやく念願のダンジョンに来た。それもトップクラスの冒険者パーティーに付いて攻略を学べる。滅多にないチャンスだ。折角、拾ってもらったんだから荷物持ちでもなんでもどんとこいって」

「そうだよね」


 なんてったって、今、ノリに乗っているパーティーに参加させてもらっているんだ。明日に備えて、早めに休もう。



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