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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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34 Arbitrage

 早朝の港の賑わいが、潮騒に染み入るように止んでいく。


「海竜様だ・・・!」


 凍りついた喉から驚嘆を絞り出した漁師の一人が、棚に並べられた魚のようにひっくり返った。


「リアムの知り合いの家は東の方だったね」

「はい」


 頭上を超えて行く。いつもは飛行しない街の方まで入ってきた海竜を見上げた人々の驚きの声が街中から聞こえてくる。


「ここまでありがとう。また会いましょう」

「またね〜!」


 鈴屋一家の母屋の空中でリアムは海竜の背から飛び降りた。


「またな、海竜・・・リアムも」


 海へと帰っていく海竜に手を振りながら魔法でゆっくりと降下する。


「ラディ?」

「コーン、なんか外が騒がしいんだよ」

「そうなんだ・・・もう少し寝る・・・」

「こんな朝早くになんだ?」


 一番入り口に近いところで寝ていたラディが、外の騒がしさに気付き隣の布団でまだ眠そうに布団を被ったコーンを起こすことを諦めて縁側に出る。

 すると、戸を開けた先に広がる庭にはティナが独りで立っていた。騒がしさの元凶は庭に立つティナ、それから廊下に続々と出てきていた彼女と同室のレイア、キャシー、カレンダーの女子組だったようだ。 


「ティナ?」

「おはようラディ」

「おはようございますラディ」

「キャシー、カレンダーおはよう。ティナはどうしたんだ?」

「リアムが帰ってくるって・・・」

「・・・夢?」

「いやそれがよくわからなくて」

「私たちの当初の予定ではそろそろ帰り支度をしなければならない頃ですし、リアムさんが帰ってくるならありえない話ではないです、けど・・・」

「何の兆候もないじゃないか・・・」

「そうなんです」


 外は既に日が顔を出したのか明るくなっていた。しかし、庭園の植え木や塀の影が短くなっていく、目立った周囲の変化といえばそのくらいだった。


「ティナ、ほんとに帰ってくるの?」

「帰ってくる」


 庭に独り出たティナを追って、レイアがその隣に立つ。


「ラディ、ドア閉めて・・・眩しいよ・・・」

「おいみんな!!! なんか知らんがリアムが帰ってくるってさ!!!」

「リアムが帰ってくる・・・?」


 ラディは同室の男子たちを起こすよう事情を大声で叫ぶと、慌てて起きてきた仲間達と一緒に庭へと走り出す。


「で、ティナ、リアムはどこだ!?」

「ン、あっち」


 ティナは慌てて起きてきたゲイルの問いかけに南東の方を指すが、そこにあるのは庭園の植木と家を囲む塀だった。


「ねぇラディ、帰りを待つなら玄関じゃない? なんで庭なの?」

「確かに・・・」


 ティナとゲイルのやり取りを隣で見ていたコーンが何気なく当たり前の事に気付いた、その時だ──。 


「──っっっ!!!」


 植木は煽られ、建物は吹き抜けていった突風で軋みを上げる。突如として頭上から襲ってきた風と大きな影に、一同は吹き飛ばされないように咄嗟に低姿勢をとる。


「大丈夫かみんな!?」

「ビックリした〜」

「なんだ今のは!!?」

「リヴァプールにも飛行艇があるの!?」

「そんなはずはない・・・」


 一難去れば偶にあるか程度の風だったが、風が通り過ぎた跡には強烈な潮の香りが漂う。


「頭の上を何か通ってった! 行こう!!!」


 上を通っていった何かの正体を確かめるべく、ラディたちは視界の開けた門前の通りへと駆けていく。


「アレってもしかして、なぁブルック・・・」

「もしかして竜じゃないか、マッテオ・・・」

「りゅううだだダああ!」


 門前へ出て道路から遠く海の方面へ視線をやるとソレはいた。


「スローがこんなに大きな声出すとは、2重で驚いた」

「すごいよ!!! 本物の竜だよ!!!」

「イエーイって、き、気持ちはわかるから体揺らさないでくれ・・・寝起きなんだ」 

「ふぁぁぁぁ!!! すごい! これ話したら絶対ネップ驚く!!!」

「本当ですか、本当ですよね本当なんですよね!!? 竜をこの目で見ることができる日がくるなんて、未定の夢が一つ叶いました!!!」


 近所迷惑など顧みず、各々の思いの丈を空を行く竜にぶつける。ハイボール団一同、初めて見た竜に大興奮であった。


「私たちは一度見たことはあるけど・・・アレはちょっと」

「ちょっとどころじゃなくて、サイズもかなり違うんじゃないか? なぁティナ・・・ティナ?」


 ゲイルがティナの名前を呼ぶが、表に出た仲間達の中に彼女の姿はない。


「レイアッ! リアムは竜と一緒にいると聞いたな!」

「戻ろう!」


 ティナがリアムが帰ってくると言い、頭上を竜が通り過ぎるシュチュエーションは偶然重なったと思えない。

 門前から再び庭に戻ると、寸刻前に居た場所から一歩も動かず空をじっと見つめるティナの姿がそこにあった。


「・・・帰ってきた」

「家の真上で飛び降りてしまった。庭か、道の方に降りないと・・・人様の家の屋根を勝手に土足で踏みつけられない」

「あの庭に出ているのはティナではありせんか?」

「ホントだ・・・おはよう」

「おはようございます。今朝は開眼一番に太陽を見ることができて清々しいですね。今日も一日、頑張りましょう」


 約5日ぶりの目覚めとはいえ、水槽の中からよくもまぁこんなにツラツラと何もなかったかのように挨拶できるものだ。しかしこちらとしては、その対応が今回はありがたい。・・・起きてしまったか。


「空からリアムが降ってきたぞーーーっっっ!!!」


 ラディが叫ぶ。今度は誰にも先を越されず一番にだ。竜に夢中だったハイボール団一同だが、騒がしく庭へ戻ったゲイルとレイアの後を追い、ティナの視線の先にいる人物に気がついた。


「みんな、ただいま!!!」

「おかえりなさい──ッ!」


 リアムは仲間達に見守られながら鈴屋家の庭へと降り立ち、着地後、開口一番に溌剌と挨拶を交わした。すると、リアムの帰りに気づいてからというもの一番首を長くして待っていたティナが、ここ数日の不安の鎖が千切れたようでリアムの胸の中へと飛び込む。


「おかえり・・・」


 竜がいて、上を飛んで、海に帰っていったと思ったら空から帰ってきたリアムにその他の仲間達は完全に面食らっていた。


「お前この5日間どこで何してた・・・」


 ゲイルが訊ねる。


「端的に言うと、深海の街でもてなしと身の上の護りを施してもらってました」

「・・・は?」

「端的に言うと・・・」

「情報が足りないが、意味は曖昧ではないから言ってることはわかる」

「だよねー。ところでみんなは、帰る準備はできてる?」

「荷物はいつでも移動できるように整理していたけど、できればもう少しだけ待ってほしい・・・かな」

「オッケー」


 レイアがおずおずと申し出る。この数日間、心配が頭の片隅にへばりついていたであろう彼らにこの態度は礼儀に欠けるが、帰郷の期日は延期しないと何よりも先に釘を刺しておきたかった。 


「リアムはついに竜と契約を結んだの!?」

「いやいや、ウーゴは善意で僕を守ってここまで送ってくれた。契約とかは結んでない」

「リアムと海竜様は友達なのか!?」

「友達だと思う・・・ハンバーガーめっちゃ作ってあげたし。代わりにウーゴはたくさん魚を採ってきてくれた」

「おぉお、すっげぇ・・・」


 話題はもちろん、海竜と僕の関係に始まった。こうも深く感じいられると、さっきまで海竜の背中に乗っていた僕もちょっと自慢げな気持ちになる。そんな興奮気味の子供たちの質疑に押されていた時だった。玄関の扉が開き、誰かが家の中に入ってくる。


「海竜様が街の上空までこられたのを見てもしやと思いまして様子を見に戻ってまいりました。ご無事でまずは何よりです、リアムさん」


 この家屋の主人の海咲である。店を出て態々様子見に来てくれた海咲さんにも、彼らと一緒にそれから数日のご無沙汰の理由を弁解した。


「みなさんは先をお急ぎなのでしょうか・・・でしたら、アオイは今、パトリック様とフラン様のお側におります。何かが起きたときの連絡係をさせています。フヨウは主人あるじ様をお守りする役目もありますし、不測の事態に備えた形です」

「それはまた・・・当初の予定に沿って今日中にリヴァプールを離れようかと考えています。突然のことですが、重ね重ねご心配をおかけしたことも含めまして申し訳ないです」

「いいえ、本当に無事でよかった・・・」 

「突然押しかけた上に騒ぎに巻き込んでしまいご迷惑をかけてばかりで恐縮ですが、アオイさんたちへの連絡お願いできますか?」

「よろしいのですか?」

「・・・お手数をおかけしますが、どうかお願いします」

「わかりました。おまかせください」


 一度確認を取ったのは、自分で行かなくていいのか、そういうことだろう。

 わかっている。

 けれど、僕は今回の件に関してリヴァプール家に前壁を立てず詳しくは説明しないことにした。

 海咲がアオイ、それからパトリックとフランへの連絡を頼まれて家を出る。すると、機会を見計らっていたように──。


「リアムさん!!!」

「カレンダー・・・?」

「リアムさん、私と商売の話をしませんか!?」

「・・・場所、変えようか」

「はい!」


 海咲との話が終わると、玄関で見送った僕の背後からカレンダーがハキハキとした、しかしどこか幼さを感じる声で商売の話とやらを持ちかけてきた。


「それで、商売の話って何?」


 僕たちは場所を居間へと変えた。対面に座る少し緊張気味のカレンダーが、何かを決意したように面を僕の目線へと据える。


「はい。まずは、お忙しい中私のために時間を作っていただいてありがとうございます」

「いいえ、友人が何か話したい事があるなら聞く」

「ありがとうございます。では、お話をさせていただきたいと思います。私が今回リアムさんにお話する内容は、先ほど申し上げた通り商売のお話です」


 商談、という事でいいのかな。


「私はこの旅で海咲さんに巡り合い、ベッセルロッド滞在の間お傍で商いを体験させていただいています」

「そうだったの・・・」

「はい。私はお金を稼ぎたくて、将来は商人になりたく思っています」


 最低限の礼儀は弁えているように思う。この短期間でここまで仕込んだんだ。海咲さんが絡んでいるのなら、対価を用意してもいないのに商売の話と持ちかける筈がない。しかし前振り通り、一先ずは友人として話を続けよう。


「なら、何かを教えて欲しいとかって話ではない。僕にやって欲しいことがあるのか」

「まさにおっしゃる通りです。しかし私のお願いしたいことをリアムさんに説明するためには、まずゲイルさんと私の取引についてお話ししなければなりません」

「ゲイル・・・ウォーカー商会との取引?」

「ウォーカー商会からゲイルさんが与えられている裁量による契約ですので、一部そのように思ってもらって構わないということです」

「一部というのは?」

「今回の取引で損害が生じた場合、商会がその一切を負うものではないと言うことらしいです。万が一、損害が生じた場合は此方が責任を持つということになっています・・・担保がない私にとっては、とてもありがたいお話しです」


 カレンダーはありがたいと取引に応じてくれる予定のゲイルに感謝を示している。しかしどうなっている。返済能力のないカレンダーに、損害の補填を保証させるというならば、それは契約の不履行・返済をそもそも期待しない旨を飲んだ上での取引。それでもカレンダーの話に乗ったのは、話に乗るだけの何か別の利をカレンダーが彼に示したのだろうが・・・。


「本題です。ゲイルさんには、リヴァプールで仕入れた商品の一部を委託してもらうことになっています。私はそれをマンチェスターで販売します」

「そういうこと・・・」


 ストン、と落ちた。

 

「ゲイル!」

「呼んだか?」

「少しいいかな」

「ああ、いいがなるべく短めにしてくれ。長くなるなら後にしてくれ、荷物が多くて、亜空間を整理しながら片付けているところだ」

「なら伸びた分、出発の時間を遅らせる」

「それなら・・・まぁ・・・」


 ゲイルを呼びつけ、第三者としてテーブルに着いてもらう。


「で、何だ?」

「よくも僕を軽んじてくれた」 

「何のことかな」

「カレンダーを通せば、ウォーカー商会が一切リスクを負わなくて済むと本気で思ってるのか?」

「・・・悪いか?」

「ああ。君は僕を蔑ろにしたんだ。覚悟はできてるのか?」


 部屋の空気が一気に冷める。

 

「カレンダー。商人デビューする君への僕からの贈り物だ。仕入れにしても販売にしても商売においては情報が大事だと習ったと思う。習ってなかったのなら、それはそれで覚えておくといい。だから僕にちゃんと話を通してくれたカレンダーに返礼として、ゲイルが君にひた隠しにしていることを教えよう。彼はカレンダーにウォーカーがノーフォークで販売する品の運送交渉までまとめてやらせるつもりだ。そうならなくても、てっきりとか都合の良い言葉を使ってお茶を濁すつもりだったのか。友好関係を利用して後の祭り事に仕立て上げるすっとぼけを堂々と本人の前でやるとは、僕の友達は中々狡いだろ?」

「はい・・・」

「何よりも覚えておくといい。友人同士でも金勘定をする。ビジネス上のパートナーでも、それ以外のパートナーや友人でも、金を数えれば頭の片隅には人の欲に敏感であろうとする自分を置いて殺すことなく、理性を優先する嫌な面がある。富を追求するのが商人の欲求なのに、金を生むリソースが信用なんて変な面も持った変わった職業らしい」


 社会人に成る前に死んでしまった過去を持つ僕が言えたことではない。それでも注意するのは、人間関係を金が歪める相応の経験があってのことだ。

 いつの頃だったか、赤ん坊の頃の思い出のように遠くに感じる何度目かの入院をした時、我儘を言っても優しい顔をするこの人たちはお金を払っているから、僕に優しくするんだという思いが濃く滲み出す時期があった。そのことに人に飢えていた子供ながらに強烈な不満を感じていて、それでも前面には出さなかった寂しい少年から青年に揺れる時代の数ある一つのビターだ。 


「それでも、商人になりきれるか?」

「・・・そうありたいと、思っています。私は商人になると覚悟しました」


 理論で自分を装える青年になれば、より人としての正しさを追求する反面で、大人には厳しいことを言ったり、困った顔で慰めたりするあの人たちの仕事に酷なことを求めていたと気づく。助けてと言ったら助けてもらえる環境がどれだけありがたいことなのか、一方で、それを可能とする金の力の凄まじい事。


『商売の話をしませんか。いいなぁ・・・羨ましいなぁ』


 あの頃の僕は、一般的と言われる道を辿れないことに苦悩していた。

 好きなことが仕事になれば、この上なく幸せだろう。必要に迫られていたとしても、仕事いそがしさがアレば幸せだろうな。

 まだまだ自分を守れない子供だった。色んな人を見た。逃げ道の一切を塞がれて同情されることの辛さを目撃みれば、自然とそんな甘さは引っ込んだ。あの人たちはプロフェッショナルだったんだと思う。・・・なんだろうな、この気持ちは・・・僕の好きなことってなんだろうか。たくさんある。でも、仕事にしたい好きなこととなると、わからない・・・。今は金も力も名声もあるにはある。


「それじゃあ、俺は荷造りの続きをする。また後でな」


 しばし黙り込んでしまったリアムの隙をついてゲイルは立ち上がり、まだ当て付けにされているうちに戻ろうとする。


「ゲイル」


 しかし僕は最近の出来事もあってか周りの動きに敏感なわけで、ゲイルをちゃんと引き留めた。彼はあの後ろ姿の向こうでマズイという顔をしただろうか、気まずそうに足を止める。


「リアム、友達なんだから、見逃してくれてもいいだろ」

「友達だからこそ必要なマナーだ。欲張るのはいいが、商いの世界で友情以上に必要とされるものがある。それは──」

「信用、だろ」


 リアムの答えを先に言い当てたゲイルは、それが自然な流れだと徐に居間の扉へとつま先を近づける。


「だから、ゲイルは僕の期待にも答えてくれるよね」


 ゲイルがリアムの視界から消える寸前のこと。


「お前が俺に期待してる? なにを・・・」 

「君は根っからのテイカー、てことだ。君は、商人としての自分も含めた自分を僕に友人として見て欲しいんだろ?」


 そこまで言われると、ゲイルも背中を向けたままではいられない。


「俺が言いたかったことがわかってるなら、妙な言い回しをするのは止めろよ。俺が拗ねてるみたいで恥ずかしい・・・」

「カレンダーは、僕に輸送のためにかかる手数料を払うらしい」

「ッ・・・わぁった! カレンダーは収益から4割、ならノーフォークまでの俺は2割でどうだ!」

「3」

「2.5ッ!」

「ノッた」

「交渉成立! で、悪巧みは俺の負け!」


 ここに交渉は成立した。カレンダーから貰って、ゲイルから貰わないというのは不公平だ。


「契約書まで作ってもらって」

「商い初心者に作らせて後でミスを理由に反故にされてたまるか」

「それより初心者であることを利用して、自分たちに有利な契約書を作ったわけだ」

「だからちゃんとお前との契約欄も付け加えただろ! こんチクショウ!!!」 

 

 僕がカレンダーの提案をすんなり受け入れると踏んでいたゲイルはあらかじめカレンダーとの契約書を作っていた。それを一部書き換えて書式コピーし、両者と契約を交わす。悪巧みを丸裸にされて悔しそうなゲイルは、入ってきた時より重くなった頭を支える首を撫でながら部屋を後に荷造りへ戻った。


「なんか悪いことをしてしまったようで・・・」

「これは商談です。そこは3人の中ではゲイルが一番わかってる。尻込みせず、そこから学びなよ、きっとそれがいい」

「はい・・・でも、それならリアムさんは・・・」

「勝ったよ」

「・・・それでも、一番に規範としないといけないのはゲイルさんなんですね・・・」

「僕のやり方は弱味に付け込むやり方で、前提に金で埋められない力の差というやつがある。真似はおすすめしない・・・と、真っ当な商人ではない僕から真っ当な商人を目指すカレンダーに一言、よく、僕が話を受け入れるまで契約しなかったね」

「それは、仕事を成功させるために予定を立てることは当たり前のことではないかと・・・」

「当たり前でも誉めさせて欲しい。僕はベッセルロッドまで来てここ最近では一番と言っていいほど濃い時間を過ごした。良くも悪くも、人の成す善悪の両面を体験した。そしてそれらはどれも想定していなかったものばかり、とはいえ実は君たちと旅をして得られたものは少ない。楽しい時間をもっと一緒に過ごせる筈だった。けれど僕はその間、別の人たちと一緒にいた・・・だから・・・話づらくて他のみんなには言わないけど、この際にカレンダーに聞いて欲しい・・・僕はこの数日、楽しかった。非日常的な体験にワクワクしていた。あのとき強敵と対峙して、傷つけられて怖かったけれど、忌々しい記憶の裏面にある挽回の兆しを自ら見出すなんて自分でも意外だ。そして残念だった。僕は人より自分が大事だ。そのことは十分わかってる、だから旅に出たし今も時折しそうにはなるけど後悔していない。問題は、そのことを君たちに知られたなら、こんな僕に期待をかけていたのに最後には僕を軽蔑する君たちが可哀想だと思ってしまった・・・僕は君たちを見下したんだ・・・僕は君たちに軽蔑されることが怖くない・・・」


 こんな風に、家族以外の人に弱味を話すことは滅多にしない。


「そんな・・・リアムさんはただ、頑張っていただけです! 私だってここ数日は海咲さんの元にいたんです! 予定になかったことをした! だから、一緒です!」


 本当にすごい。若さ故か、彼女は僕と君たちとの間にある壁を平気で超えてくる。 


「君たちは僕の本質を知らない。教えてない。だから、僕の秘密を一つ言うよ・・・魔法箱ってあるだろ。アレの特許権利者は、僕だ。・・・ふぅ、危険を冒してみるのは勇気がいるね。だから、カレンダーがしてくれたことがリヴァプールに来て誰かにしてもらったことの中では、一番嬉しいことだ。君はゲイルがしたように僕に隠すこともできた」

「・・・私はただ、リアムさんに正直でいたかっただけです」

「あれが僕と彼なりの友情なんだ。でもゲイルとなら、そんな友情の在り方も気に入ってるからそこは勘違いしないよう頼む・・・ありがとうカレンダー。君が友人で僕は誇りに思います」

「私こそありがとうございますっ・・・私、そんな風に心から声をかけてもらったのは初めてで・・・嬉しいですっ!」


 もう彼女に嫌われてもいいなんて思わないかもしれない。涙を流しながら笑ってくれた友達に、こちらもグッと来るものがあるが、まだ話は残っているから勢いに流さないよう瞼に理性で蓋をする。


「で、だ」

「?」

「カレンダーさん。あなたへ債権を持つことになった私から、新契約のオファーがあります」

「オファー、ですか?」

「はい。今回の取引を機に会社を作りませんか? 会社設立に必要な出資金を僕が出します。そしてその出資金は、当会社が発行する証券を買うための前払い金という扱いにして欲しい」

「どういうことでしょう・・・すみません、まだ初心者なもので」

「カレンダーさんにして欲しい事は、新しく作る会社を株式会社として設立することです。詳しいことは追って説明しますが、端的に掻い摘めば持続的に保有可能でその代わり定期的にお金を配当するという付加価値がある株という証券を発行し、それを私に売って欲しいんです」

「そんなことができるんですか?」

「合資会社として無限責任を負うことも可能ですが、投資者の私としてはリスクが大きいし一々融資するのも面倒臭い。その点株式会社なら私のリスクは間接責任に依るもので済みます」

「あの、その辺のことも後から教えてもらうことは・・・」

「もちろん。それで共益権のことなんかも後から説明しますけど、株を持つということは会社の所有権を持つということです。ですが所有権があるというだけで、基本的重要事項の決定以外は経営に口出しはしません。経営は取締役という人を置いて、その取締役の決議権は株主が持ちます。その取締役をカレンダーさんにお願いしたいと思っています」 

「本当ですか!?」

「はい。ただし、忠告しておきます。後々会社の価値が認められていくごとに株の価値も上がります。また、株のやり取りは所有者の任意で可能なわけです。株を買った時よりその株に価値があると見出した、例えばゲイルと僕が売買することで僕は差分から利益を得ることができ、この取引成立を約定と言います。それから株は必要に応じて新規に発行することもできます。会社が新しい株を発行して、他の人がどんどん株を持てば、僕の会社の所有率が下がります。もし、議決権を持つ株が半数を下回れば商会を乗っ取られるリスクがグンと増す。なので新会社からは新株引受権を認めるよう定款を作成して欲しい」

「それが出資の条件ということですか?」

「その一つです。ですが、カレンダーさんが望むのであれば新会社を非公開会社とする選択肢も用意できます。その場合は取締役のカレンダーさんに会社の所有権の49%を、残りの51%を僕が持つようなケースも十分に想定できます。定款で株式の譲渡制限を設けることになりますが、私としてはこっちの方がオススメです」 

「あの、もしかして・・・いえなんでもありません」


 ゲイルにやられて怒ってるかって? 怒ってはいない。むしろ利益を追求する姿勢に感心した。だけどコケにされたらやり返さないと、同じ土俵で。出し抜こうとした奴を出し抜かないと。


「ゲイル、どうだった!」

「カレンダーの話は上手くいったの!?」

「・・・上手くいったさ。予定していた以上に。その代わり俺が損した」

「なら問題ないな」

「そうだね」

「おいっ! お前らなぁ!」


 ゲイルは損をした。しかし彼はその結果を重くは受け止めていなかった。総合的な利益は十分に見込めるわけで、彼にとってこの結果は想定内だった。もしかしたら、今あの部屋で自分の知り得ない新しい何らかの取引が行われているかもしれない。だとしたら望む所だ。俺はテイカーだからさ、損して得をとる。

 

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