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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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302/371

23 Highball Excursion

「昨夜の抗争騒ぎにはじまり、検出された空間属性の魔力。何かが起きている・・・ルフィとルドーを呼び出して経緯を伝え調査させなさい」

「恐れながら申し上げますと、ルフィとルドーは、ヴォルフガングの見張りのため街の外へと出ています」

「そうか・・・ならば別地区の担当でもいい! 新しい調査員をいますぐ用意して仕事をさせろ!」


 当時ハワードの派閥にあったマンチェスターはメルクリウスの出現を期に一念発起した。


「・・・が、ケレステールが攻略されてしまった今・・・」


 隣の小領の多くがユーロの国境に触れる地理、それにもかかわらず、中央軍部を事実上仕切っているハワードの反感を買うというのは、あまりにも無謀だと当時の魔道具占有をマンチェスターに認めるか否かが議題に上がった議会に参加していた貴族、かくいう若かりし頃の私も同じく、何よりそういう風潮であった。だが、前代マンチェスター領主には天運があった。そして、武力を用いないその革命は見事に成功した。


「今度は我々が風潮を呼び寄せるしかない。何分、天運はある」


 マンチェスターの革新的な成長が叶い、それからは王都を中央として、山岳と農耕酪農の北を纏める我がノーフォーク、最新の魔道具が発見される西のマンチェスター、一部ガルムが占領しているがそのほとんどが手付かずの密林との境で国境でもある東の運河の1/3以上の流域に接しながら、火の叡智を象徴に多くの研究機関及び兵力を持つハワード、そして、海洋を讃える貿易の南リヴァプールは4大貴族と呼ばれるようになった。


『やはりハワードは強いな・・・他の三大派閥のどれかでも現状より更なる経済的な迎合を見せようと、幾星霜、もしくは国という一つの主体が滅ぶまで無くなることがないであろう軍事という経済・文化と並び立つ巨大な国の心臓の一つをがっちりと握って放さないハワードが同盟に対立し得ると考えてしまう』


 すなわち、人を主体とするような産業がそうである。


「フランです。ただいま戻りました」


 そんなことを考えていると──。


「フラン、ケイト女史は何用であったか?」


 会議の途中で、城を訪ねてきたケイトの応対に当たっていたフランが戻ってきた。


「そ、それが! ケイト女史の用事というのが、あの、リアム君がノーフォークに帰ってきてるそうです!」

「本当か!」

「そ、それで、近日中にリヴァプールに、私の故郷に旅行にいくそうで!」

「・・・本当か(に)!!?」

「本当に・・・」


 ・

 ・

 ・


 翌日、昨晩降っていた雨も見事に上がった。いつもの壁門にて。昨日の相談事の結果を伝えるとともに見送りに来てくれていたケイトとそこで僕は話し込んでいた。


「というわけでして、ハイボール団のみなさんにリアムさんが伝授する分には問題ないそうです」

「そうでしたか。わざわざありがとうございます」

「いえ、私もこの夏に精魂込めて打ち込むことができる研究資料が手に入って、こちらの方こそお礼を申したいくらいです。それに当の学長は・・・お兄様へのお見舞いのお返しを考えるのに忙しいそうで」

「そ、そうですか・・・」


 ”国内のギルドを取り纏める兄”+”家当主”から、「よろしく」というお見舞いの言葉だけで相当気を使って返事を考えないといけないんだな〜・・・大変だな〜・・・さて、時間は遡って今朝のことだ。


「リム坊かね、こんな朝早くにどうした?」

「おはようございます。実は、折り入ってマレーネさんにお話が」


 この時間からマレーネは起きて店の支度をしていることを知っていた僕は、ちょっとだけその時間をもらってレイアもリヴァプールに一緒にどうかな〜と、誘う相談をしていた。その結果──。


「楽しみだね」

「ン、楽しみ」


 集団の中、レイアとティナが初めての領外への旅行を心待ちにしている。最近元気がないというマレーネ・・・父さんが薬草を卸しているし、お店にお客さんもくるし、一人になることはないのだが、やはり心配だったのだ。


「はぁ・・・」

「辛気臭いぞ・・・お前」


 それと、旅団のメンバーにとある問題を抱えているヤツが一人いた。


「あぁぁぁ・・・俺はどうしてあんなことを・・・」


 それは今朝のことである。レイアを迎えにいった時、そのまま僕はウォーカー家を訪ねゲイルも一緒にどうかと、やっとここまで連れ出してきたのだが・・・こんな時にため息をついている彼に何があったのか、その、なんというか・・・夏休み前に感情が高まった青少年がしそうなことと言えば目星もつき易いのではないだろうか。

 

「家族との約束があるからって言われたんだろ?」

「でも、アイツの家は主に親父の商会と取引してるから、俺が予定を先に探っておけば先送りできたんだ。迂闊だった・・・あぁ、次に誘う時どうすれば!」


 彼の部屋で20分ほど聞いた話では、ゲイルは若いなりに大人な誘い方をしたようだし、気持ちを素直に吐き出して、結果、フラれたってわけではないし・・・それでも厄介な奴だとは思われたくない思春期真っ盛り。


「誘ってくれなかったらどうすんの!?」

「・・・俺に責任は持てないが」

「だろう!?・・・だからほっといてくれ」


 ・・・もうお気づきのことだろう。一憂に一憂を重ねているゲイルの肩を持っているのは、同じ空間属性使いで、父親が知り合い同士だった意外な繋がりがある初対面のラディである。今はリーダー肌のラディに頼って、僕は旅の前の最終確認をしていた。本当はじっくり話を聞いてやりがいが、状況から察するにそこまで事態は深刻ではないと考えているあたり恋愛に関して僕は楽観的なのかもしれない。あんまりしつこいと相手にも迷惑となるだろうが、なぁに、機会は何も一度きりというわけではない。手持ち花火にチョコっと火がついてしまったくらいで火薬庫が盛大に誤爆したわけでもないし、せっかくの大人数での旅だ。周りがエンジョイしていれば、彼も次第と明るい気持ちになっていくだろうと、ゲイルへの対応は状態に合わせて臨機応変にあとは野となれ山となれ作戦で行くことにした。・・・目的地は海だけど。


「リアムさん、それで、あのですね・・・」

「どうしたんですケイト先生?」


 なんて、ルキウスやゲイルの受難から思考を逸らして苦々しい方より、これから待っている楽しい方の現実を見つめていると──。


「待ってくださ〜い!」


 集合していた門の近くで空間属性魔力の反応が・・・あれ? ステディエムみたいに制限されていないとはいえ、突然目の前にゲートが開いてその向こうから待ってとは・・・一体・・・。


「アオイちゃ〜ん!」

「フヨウちゃん!?」

「リアムくんもお久しぶりです」

「お久しぶりですフヨウさん・・・あの、もしかしてこの旅のことをどこかで聴かれたとか」

「はい。なんでもリヴァプールにみなさんで行かれるとか、もしよろしければ、私も同行させていただきたいと思いまして・・・」

「えっ!? でもフヨウチャン、パトリックサマノゴエイハ?」

「それがブラームス様からの計らいで、主人がしばらくお暇を頂きましてこの期にゆっくりとお休みになられるとか、その間、私もしばらくお休みをいただけることになりまして・・・リアムくんのご迷惑でなければ、是非にと」

「い、いいですけど」


 僕は、い、いいですけど・・・。


「おはよう、みなさん」

「おはようございます」


 フヨウさんって空間属性の魔法使えたっけ〜・・・という疑問が残るわけでして。


「ご無沙汰しておりますパトリック様とフラン様、雨の忘れ物が土や人々の渇きを癒すようにそこらに残り、空中にも漂っておりますが、みずみずしさとともに鼻の中を優しく突き抜ける芳醇な緑の香りが身に沁みる夏の朝ですね・・・お二人は・・・フヨウさんのお見送りですか?」

「いやですねリアムさん。私はフラン先生、リアムさんたちの受講した授業なども受け持っていたノーフォークスクールに勤めるごく普通の教師です」

「僕はその夫ということで」

「無理ありすぎです!」

「まぁそう言わないで。それとリアム君、リヴァプールから帰ってきてからでいいので、君に登城してほしいと父からの要請だ」


 ・・・な、なぜに? なしてこうなり申した。あまりに突然の厄介ごとを感知したくないがあまり、この饒舌ぶりである。しょうもない平民を装う小芝居に面倒ごとの香りがぷんぷん匂ってくる。それに要請、彼らを一緒に領外へ連れて行って欲しい・・・無理無理無理。


「お断りできますか」

「どうしてかな?」

「ノーフォークの次期領主であらせられるパトリック様とそのご婦人を目的地まで、あまつさえ他領地を経由する旅に同行させるなんて──」

「あっ、そっち・・・そっちの心配ならあまりしないでくれたまえ! フヨウをはじめ、先に城を出発させた今回の旅のために編成されし特別な護衛隊がそろそろ到着すると思われるので」

「お待たせいたしましたパトリック様、フラン様、リアム様! 当主ブラームス様の命をうけ、旅路の護衛を我らがいたします!」

「ほらね」


 ほらねって・・・あなたそんなハジケぶっちゃけぶち当たったら曲がる、そんなキャラじゃなかったでしょ!


「・・・と、ふざけるのはこのくらいにして、真面目な話、君たちの旅に僕らも同行させてもらえると非常に助かる」

「は、はぁ・・・」


 ──っ、そうだよね、今までのはおふざけだよね・・・一人芝居で緩急つけてきた・・・一応話だけ聞いてみるか。


「実は近々領地の経営状況を鑑みてフランの実家であるリヴァプール家と提携を結ぶべく、相手方のところへ赴く計画があったのだよ。昨晩、父がリヴァプール家に国防用の通信魔道具を使って今日そちらへ赴く旨を伝え了承をもらっている。なのであちらでの滞在先の心配は不要だ。リヴァプール家が安全な宿泊地を用意してくれる」


 そ、そういう問題ではないんだけどなぁ・・・。


「あの、そ、それで、先輩も行くんですか?」

「馬鹿言わないでください。私は残ります」

「そ、そうですよね。・・・そうですよね、ふぅー・・・」

「・・・フラン、あなた中々いい度胸してますわね」

「いえ! 別に先輩がいるとどうこき使われるかわからないから安心したとかそういう話ではなくてですね!」

「ほんと、いい度胸してますね・・・!」

「イタイ! イタイです! 鼻が取れる!」

「とるのではなく、折るんですよ!」

「あの、こっちの話は・・・」


 旅の安全についての話そっちのけでケイト先生の同行を確認する、というのはこの二人が一緒に行くのはもう決まりってことですか? まったく、ふざけた話だ。


「そのですね、気心の知れているノーフォーク家のご招待とあらばいざ知らず、フラン先生には失礼のことと承知で申し上げますと、せっかくの旅行なのに他領の領主の管轄に置かれるのはもう懲り懲りでして」

「というと、マンチェスターで何かあったのかな?」

「・・・いえ、別にそんなことは・・・なかったかな〜」

「本当は?」

「・・・ステディエムに到着したその日にマンチェスター家当主で荒らせられるカストラ様と面会させていただきました」

「なるほどね」


 いかにも、いかにも初耳だという顔をしておられますが、もともとあなたたちの差金だってことは、案内人のゲイルから・・・。


「ゲイル、いい加減にしゃんとして」

「・・・無理」

「ほら、リヴァプールに着いたらなんかリアムが美味しいモノ食べさせてくれるらしいし!」

「美味しいモノって海鮮だろ? そんなの王都に行った時たらふく食って──おい、ちょ・・・ぎゃあああ!」


 ティナの一瞥、子狼トトの突進。


『・・・今のはゲイルが悪い』


 ゲイルの腹部に一蹴で山をも飛び越える程の脚力を持つ成体の血を継ぎながら容赦無く甘える子狼の無邪気な衝撃ダメージ・・・は、接触寸前で躱されたが──。


「止めてくれ〜!」

「ワン!」

「・・・空気読も?」

「異性から慰められるより、同性の人と話した方が気が楽になるかなって見守ってたけど・・・ラディさんごめんなさい、あとは任せてください」

「い、いや、いいんだよ・・・どういたしまして」


 主人から沈黙の司令を受けたトトがおしおきのため追い回している形である。事情が事情だけに、あえて間をとって見守るも、あまりのいじけぶりを見兼ねたティナとレイアがラディの手助けに入ったのだが、優しくされているからと図に乗って余計なことを言ったゲイルにおしおきが下った。


「訓練の成果が出てる・・・」


 そして、そんな一連の茶番を遠巻きに見ていたフヨウが零した何気ない一言。訓練というと・・・狩りをさせるとか? トトが本気で突進してくれば仔象にのしかかられるくらいの衝撃はありそうだ。


「コホン」

「・・・失礼しました。お話中によそ見してしまって」

「次からは気をつけるように・・・と、念押しでもしておこうか。では、改めて。リアム殿。貴殿に我々夫婦とその護衛団とともにリヴァプールまで同行するよう、要請します」


 うっわ〜・・・次から気をつけるようにとか然るべき人から言われた後に頼み事されると断りづらいわ〜。


『お断りします』

『なぜ?』

『やはりパトリック様とフラン様の旅にお供するその責は、子供の僕にはとてもではありませんが手に余ります(子供に頼って、世間体とか、次期領主ともなる人がそれで恥ずかしくないの?)』

『そんなことはない。君はそこら辺の子供とは格が違うだろう。これまで開発してきた発明品の秀逸さはここにいる何人もが知るところ、また、君の戦闘実技においては大人でも容易に太刀打ちできないだろう。この見解は世間に周知されている君のこれまでの実績による(既にそこらの大人よりよっぽど実力があると社会に認められているのならば、子供であろうと、寧ろ箔が着くと割り切ってしまえ)』

『ですが、お二人には既にこんなにも立派な護衛団があります(実績があれば、あなたは辛酸を舐めるような仕事でも子供に強制する乱暴者?)』

『お供する責、手に余ると私たちに畏まった体のリアム君の自らに対する過少評価と世間からの本来の評価との差を是正するべく議論したが、会話を少し巻き戻し我らの安全に対する責任の在処を問うのであれば、そもそもそんなものを君が感じる必要はない。私たちは供に同じ目的地を目指す旅の仲間であり、その旅路は微笑ましいものになるでしょう(大局を見なさい。この度の君への要請は強制されるものではなく、同じ目的を持つもの同士手を取り合おうといういわば協力の申し出だ)』


 ・・・でも、移動手段とか、結局旅の途中のケアは僕がすることになるんダァあああ──あちら方の申し出を断るとして、マスターの使える理由も、そしてそれに対してなされる反論もこんなところでしょうね。


「・・・先ほども申し上げた通り、失礼とは存じますがフラン様のご実家にご厄介になるのは、僕としては避けたいことでして」

「構いません。到着後にリアム君や、また、その他の方々を私たちの立場を有利に持っていくよう利用する意図はありませんが、私たちが身を置く世界は、ある程度の敬意と尊厳を以てして行動していようとも、何事も自分たちに有利になるよう政治利用しようだとか、何かしら勘繰られてしまう世界です。そういう訳で、リアムさんが私や私の実家の庇護を受けることを断る理由ははっきりしていますし、移動の手助けまでしていただいて、更に自分たちの立場を強めるべくリアム君を取引やその駆け引きに巻き込むようなことはしません」


 会話が途切れない程度の合間、イデアとのシュミレーションの結果、半ば押し切られるような形ではあったが交渉はここに成立した。


「ゲート」


 かくして、レイア、ティナ、ゲイル、ハイボール団、アオイ、フヨウ、パトリック・フラン夫妻、そして10人の護衛団を擁する旅の一行は、南で一番の権力を持つ4大貴族リヴァプール家の治める領地へと出発する。




 ──2時間後。旅の一行は、リヴァプールと隣領が二分して管轄する関所をようやく通過した。


「おい」

「・・・?」

「俺の膝の上でくつろいでいるトトをどうにかしてくれ」

「・・・」

「・・・おい」

「・・・?」

「返事くらいしたらどうなんだ」

「ティナちゃん、ゲイル君が何か言ってるよ」

「私、暑いのが苦手・・・」

「私も〜・・・でも木陰で感じる風は最高だね〜」

「ン〜」

「なんでキャシーには反応するんだ! お前よくそれでこのコークスの飼い主が務まるな!?」


 骸炭コークスは石炭を乾留させ硫黄などを取り除いた炭素部分。燃焼時には石炭よりも高い発熱量を有する。2度目のスコル&マーナ戦の前に行った冷気を纏うマーナ対策会議の際、「それなら、コークスとかを使って火力のある礫を・・・いや、この時代には・・・」リアムの独り言よりゲイルが”何か熱いものだろう”というにわか知識で引用。比喩表現としては意外と的を射ている。


「南の方に来ると日差しと一緒に気温も上がった気がするわ」

「そうですねクロカさん・・・にしても、大口開いて空を仰ぐのはだらしないぞブルック、ポップ」

「つってもマッテオ、あつぃーものはあつィーんよ、なぁ?」

「ダァああ、水が欲しい! スロー、魔法で水出してくれ!」

「でも海に着くまでラディが水浴びは我慢しろって」

「浴びるんじゃなくて、飲みたいんだ!」

「あっ、わかった」


 火や雷といった熱を持つ魔法属性を操る二人からしても、別種の暑さ。ヒリヒリと皮膚を焼く紫外線は確実に強くなってきている。


「へぇー、それじゃあリアムって昔からそうだったんだ」

「んーと、とにかくみんなに優しかったっていうか、仲間をまとめるリーダーシップがあったかな」

「い、今更だけど、リアムってそんなに凄かったんだ・・・なんか物語の登場人物みたいで羨ましいな・・・」

「・・・そっか、リアムって戦闘や勉強だけじゃなくて、色々すごいんだ」

「なぁ、れ・・・レイアちゃんは」

「呼びにくそうだし、レイアでいいよ」

「そ、そう! それじゃあ俺のこともラディって呼んでく──!」

「ねぇレイアさん! リアムは商売とかそっちの話にも詳しいのかな?」

「・・・詳しいとは思うよ、カレンダーさん。あそこでお姉さんとお話ししてるアオイさんと共同でお店開いてるし、それに、他の商会とも・・・そう! それにね! ゲイルの実家も大商会を経営してるんだよ! その商会を継ぐためにものすごく頑張ってるから、だからゲイルも商いの話には詳しいと思う!」

「そういえば、ラディのお父さんとゲイル君のお父さんが知り合いかもって図書室で見つけた本を見たリアムが言ってたね。確かガスパー・ウォーカー・・・ウォーカー商会?」

「そう、ウォーカー商会」

「エェー! 聞いたことあるぞその名前!」

「あんなのが・・・」

「ん?・・・俺の商人としての販促センサーがなんかざわめくように反応してる気がする」

「ゲイル!」

「な、なんだよ、気がするってだけなのにそんな真に迫るような声だして・・・それともトトが膝の上で寝てるから俺は口も動かしたらいけないとでも言うつもりかよ」

「・・・んーん、すぐに膝の上からどかしたほうがいい。トトのトイレセンサーもゲイルの膝の上で反応し・・・た」

「?・・・この湿り、ズボンの裾と皮膚の間を足に巻きつきながら流れる筋のようなものがある感覚は・・・あぁ!? 」

「アチャー・・・トトちゃんやっちゃった・・・」

「事後勧告かよ! なんで警告の勢い緩めたんだ!」

「・・・尿漏れだけに?」

「あっ、うまい・・・」

「上手くない! ったく、ティナ、切り返し方の絶妙な腹立たしさが年々リアムに似てきてるぞ・・・トォトォー・・よくも俺の膝の上でやりやがったな!?」

「き、きっとトトちゃんはトイレの時も側を離れたくないくらいゲイルさんのことが好きなんだ・・・よ」

「そんな言葉に詰まられて、いや詰まらなくてもフォローになってないってキャシーさん!」

「ワン!」


 恋恋と〜 紙一重燃ゆ〜 夏地獄。


『我ながら、愛惜の念が鬱陶しいひどい一句だ』


 ゲートで移動時間は一瞬とはいえ、なんか気怠い感じで疲れたなぁ〜。どんな気怠さかというと、神の1日に相当する1劫のはじまりからおわりまでが過ぎ去る様を圧縮して俯瞰したつもりになって実はこれっぽっちもその間に過ぎ去った世界の一切を理解してない、こんな感じの気怠さです。


「賑やかでいいですね、リアムさん」

「そうですね・・・あっ、リヴァプールでおすすめの観光スポットとかありますかね?」

「おすすめというと、私やフヨウさんたちの実家があるのは貿易港の街ですから、やはり活気のある市場とか、それと、港から少し歩いていけば見晴らしのいい灯台や東西に広がる海岸線もありますし、しかし何より、オブジェクトダンジョンが・・・」

「だ、ダンジョンはちょっと・・・」

「そうですか?」

「でも、美味しい海の幸だとか、砂浜だとか、灯台のある岬だとか潮の香りだとか本当に色々と楽しみです」


 現在は何待ちかと問われれば、ノーフォークよりゲートを通して連れてきた馬車の点検(関所側)が完了し、護衛団が更にその点検を繰り返すという沼に嵌っている。ええい、馬車なんてなくても徒歩でええやない、とも思わないでもない今日この頃、なんでも他領地を治める人間が行軍して北から南にわたり国を縦断して来たとなると体裁が悪いとかなんとか。わからんでもない、だけど始点を出発してまだ2時間しか経ってないのに、この今更感がまた、絶妙に面倒臭い。


「えっ? フヨウちゃんウチには泊まらないの?」

「うん。私はパトリック様とフラン様の護衛ですから」


 な〜んて、数年ぶりに故郷に帰る姉妹が、向こうで馬車の点検をしながら仲良くおしゃべりしている。


「アオイさんもグルでしたか」

「グルなんて言わないであげてください。彼女には、私たちも同行するかもしれないとフヨウを通して事前に伝えていただけで、特に助力などは求めていませんでした。あくまで自分は奸計を講じようとしていたのではないと、中立な立場であるべく知らなかったフリをしようとしたんですよ。私たち夫婦の手前商いをする土地の領主からの印象もあるでしょう。それを天秤にかけて、リアムさんをそれだけ大切になさってのことであのような挙動をとらざるをえなかったのではないかと思います」


 店の帳簿を常客に見せるなど、なにかと具徳なアオイさんの性格もわざわいして、転じて先程のわかりやすすぎた芝居は僕からの信用を失いたくなかったのだとでもしておこう。


「ところで、リアムさん」


 ・・・なんでしょう?


「なんでも、ケイト先生にとある魔道具の鑑定を依頼するついでに、ハイボール団の皆さんの学習についてご相談なされたとか」

「いや、ついでというかそちらの方がメインでして」


 ・・・全く、あの先生は・・・。


「はぁ・・・手助けしていただいてなんですけど、報酬も用意したこちらがケイト先生に一方的に振り回されてる気になるのは、きっと気のせいではないんでしょうね・・・」

「まぁまぁ・・・それでですね? こうして旅にかかる時間を大幅に短縮していただいたお礼ではありませんが、個人的に私もそのお手伝いできないかと思いまして・・・私たちが滞在している間ですが、リヴァプールのスクールにハイボール団の皆さんを私からの使節団として出入りする許可を与えてもらうよう取り計らう、というのはいかがでしょう?」

「それは短期留学とか、もしかしてそんな話ですか?」

「そうですね。他領に趣き現地の学生と交流する、という点では留学の意味合いが強いですが、あくまでも旅の主体となる計画を立てるのは皆さんですし、旅の意味合いが強かった当初の目的を考慮すれば修学旅行というのが妥当でしょうか? ハイボール団の皆さんをわざわざマンチェスターから連れてこられたのも、皆さんの見聞を広める狙いがあってのことだと思いますし」

 

 ごめんなさい。この旅を思い立った筋道を辿れば、僕が海鮮料理が恋しくなっただけです。ハイボール団の手助けをしようと一度決断した分、その点は真面目ですが、今回の旅に関して言えば彼らの同行理由を後でとってつけたことを考えると、ちょっと胸がざわつく。


「フラン先生のおっしゃる通り、修学旅行の類とでも思ってもらえればいいと思います」

「よかった。では、あとは本人たちの同意をいただくだけですね・・・」

「・・・あの、どうかなさいましたか?」

「・・・母校を離れてなお、教え子に頼られたことでとても嬉しそうでした。そんなケイト先生が羨ましいです」


 ・・・なるほど。葉の影が麗かに地面に模様を作るそんな初夏の青空の下、何に焦がれているのかと思えば、人生の一部を捧げてきたことの結果が未だ彼女の中では集成せず実感として湧いてきていないのか・・・それは煩わしいだろう。


「まぁ、今回はなんだかんだありましたが、僕はフラン()()()、頼りにしてますよ」

「そうですか・・・!」


 フランは名誉フェローとして未だスクールに籍を置いているとはいえ、実際、政務に追われる日々で研究者としての務めは滞積、肩書きは形骸化してしまっている。加えて、彼女の立場が教え子たちの安易なお願い事やもたれかけをよしとはしないのだから、教師職に身を置いて慕われていたあの時、優しく、時に口酸っぱく生徒を育ててきた彼女の舌や頭脳が時折あの時の味を思い出して口寂しく思うのだろう。


「でもやっぱり、ケイト先生も連れてきた方がよかったんですかね。本人は遠慮していましたが、一緒に学長先生にお願いに行ってみるくらいしてみても、いつもお世話になってるわけですし、その程度の直談判なら甘くはならないと思うんですよね」 

「ケイト先生はフィールドワークはあまり好まないタイプの研究者ですから、それに・・・」

「それに?」

「い、いやその!・・・なんと言いますか・・・別に口止めされてないので言いますけど、その昔、学院時代に私の兄とケイト先生は恋仲にあったんですよ。ですからリヴァプールに訪れるとなるとアラン先生が気がきではないかと、最悪、一緒についてくることになったりでもすれば、ルキウス学長の素行をビッド先生やジェグド先生では咎められるかどうか」

「は・・・?」

「いるんですよ。平民の出で、魔力もそこそこあれば頭脳もよし、先輩との出会いのきっかけは兄からの紹介でして、若輩ながら憧れていました。逆に、私は4大貴族ともなる家の出にしては貴族として平均的な魔力量で苦労しましたが、ほら、先輩はやっぱり面倒見のいいところがありますし、後輩として助けてもらいながら、教師として、研究者としてのあの人のことも自然と尊敬するようになって・・・それでも私の方が魔力量は多かったので、それでリアムさんがスクールに在籍していたあの頃に至ります」


 ・・・ですって。いやいやいやいや、ね? あの先生と恋仲にあった人って、そりゃあ人の色恋沙汰を批評するなんざ野暮だろうが・・・フラン先生のお兄さんってどんな人だ・・・想像がつかない。


「異常なし・・・みなさん、馬車の点検が終わりました!」

「よっしゃぁ!」

「ついに海だー!」


 どうやら3台ある馬車の点検が全て終わったようだ。


「点検も終わったようだね・・・」

「パトリック様、執務の方お疲れ様です。いかがでしたか?」

「もろもろの確認が取れた。都に着く頃には君の家の人たちが出迎えてくれる手筈になってる。さぁ、フラン、リアム君、休息はとれたかな?」 

「ええ、十分に休ませていただきましたわ・・・馬車の用意もできたようですし、リアムさんもこちらの馬車へどうぞ! 私たちと同乗なさってメルクリウスのことなどでも教えていただけると嬉しく思います!」

「いえ、僕はゲートも開かないといけないし、真ん中ではなくて先頭の馬車に」

「馬車に乗り込むのはゲートを潜った後でもよろしいのでは、ねぇ、パトリック様?」

「そうだね。私もぜひ旅の話を聴かせてもらいたい」


 ・・・もしかして上手く話に引き摺り込まれた?



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