19 Fable
「そうして、勇者は魔王と魔皇アンのいる城を目指して再び立ち上がったのでした」
・・・今日はここまで。
「コーン読み聞かせ上手!」
「あ、ありがとう・・・」
「はいここで問題です!」
「ゲェ!」
「ゲェ言わない! 一般に知られている精霊王の名前はいくつ?」
「8! わからないのは命の精霊王と無の精霊王!」
「よろしい! ではその通称と名前は?」
「えっと・・・炎熱卿パワーズ、雷帝王パトス! それと魔皇アン! あとはわからないな!」
「ポップ、それこの国の人間なら誰でも知ってる有名な精霊王と今物語に出てきた名前だろ・・・」
「そういうブルックはわかるのか?」
「わっかんね」
ポップは雷属性を得意とし、ブルックは火属性だから・・・って、パトスとパワーズはこの国に住んでる人間なら大抵が知ってる。
「騎士の王〜、エナリオストリアイナの一振りで溺れ谷を作るほど強くて〜、心は花序のように美しい花の国ロマンスの琳琅冠アーク〜」
「エナリオス・・・ああ三叉尾鰭のいるか(ドルフィン)のことな」
「自由気ままな風、気相放乱の不羈来坊ヴァーチェです!」
「春嶺の地母ソロネは妖精族の長と代々契約を結んでいます」
「聖戦の最後には竜王を葬った大穴を勇者ベルと協力して開いた花鳥風月の鐘款識、空間の精霊王ドミナティオス!」
「えぇっと、アーク、ヴァーチェ、ソロネ、そしてドミナティオス・・・あと残ってるのは・・・なんだっけ?」
「正光教の総本山、そこのトップの教皇様と代々契約を結び、その宗教の名の由来となった異名を持つ善神の日向守、正天理のセラフだ」
「さっすがマッテオ! よくできました!」
「ブルックも正光教徒でしょう・・・」
「そ、そうだけど・・・信じる心に学は必ずしも必要ないのさ!」
みんな、自分の扱う第一属性を司る精霊の王の名前と勇者物語に出てくるその口上は覚えていた。
「でもそろそろ勇者物語以外のお話も聴きたくなってきたなぁ」
「えぇ!? ラディ〜・・・」
「べ、別につまらないって言いたいわけじゃなくてな、流石に1冊の本だけで全部学ぼうってのもさ」
「それもそうだけど・・・リアム、何か他の話あるのかな?」
「簡単なのがいいです!」
「簡単なのと言うと・・・童話とか?」
「童話ですか!? はぁう・・・わたし童話を誰かに読み聞かせしてもらうのが夢だったんです!」
今すぐ予定を延長しますとカレンダーがせっせといつもの手帳に書き込み始める。童話ね・・・というと、前世の幼少の頃に読んだ絵本から選ぶことになるかな。思い返せば、幼少の頃の僕の価値観を形作ったのはあの絵本棚にあったかもしれない。例えば、ぐりとぐらに出てくる卵料理の話とか、あのカステラはおいしそうだったぁ。今でも腹が鳴る。それに100万回生きたねこなんかは強烈だった。あれこそ、僕の幼少期を形作ったもののひとつだろう。病院に行くたびに手にとって読んでいた。他の子が手にとっても、待合室のソファに座って我慢強く待っていた。けれど・・・こんな昔のこと、中々新しい物語に出会う機会がまだ少ない時代の子供たちに尋ねられて久しぶりに思い出した。1回も死んで、2回生きている僕は・・・。
「そうだな・・・よし・・・広い森の中に、しろいうさぎとくろいうさぎがすんでいました」
童話くらいならさしてこの世界の包括的な発展に影響は与えないだろうと考えたそんな僕が異世界の子供たちに読み聞かせるのに選んだのは、しろいうさぎとくろいうさぎのものがたりであった。目を閉じて本の表紙を思い浮かべると、不思議とあの頃読んだ文章が甦ってくる。
「なんか子供っぽいな・・・」
「だって童話だもん。これはそういう話なの」
「予定にはありませんでしたが、素敵な話でした・・・でも・・・」
カレンダーが気まずそうにチラチラ気になっている方には、午前中に狩って捌いた庭うさぎの枝肉が・・・チョイス、ミスった。
「子供は灰色か? それともしましまなのか?」
「ぼく黒と白のしましまの馬がいるって聞いたことがあります! それに熊もです!」
「獣人にはしましまの人はいないの? キャシー?」
「私が国にいたのはもっと小さな時だったから・・・あ、でもしましまの虎がらの人がいた! 口癖が強烈だったから覚えるよ!」
「どんな口癖なの〜?」
「俺は1週間に1回も口から毛玉を吐き出すんだぜ──だったかな」
「そ、それって病気じゃ・・・」
「そうなの? 白くて綺麗な毛並みのお嫁さんがいて、いつも自慢ばかりしてたの。その時に言ってたことなんだけど」
吐き出す毛玉は虎色じゃなくて白かよ・・・それもどうかと思うがね。
「どうした?」
「いやいや、こっちのことだから・・・」
「ぼくの望みについて考えていたんだ」
「あなたの望み?」
「きみといつもいつまでも一緒にいたいんだベイベ」
「まぁ」
2羽のうさぎの幸せな物語はさっそく年頃の子供たちの遊びのタネになったようだ。
「ユーモアがあってよろしい」
「やった褒められた!」
・・・と、少し話はそれてしまったが、その後も、初めに何をしても悲しげだったくろいうさぎの気持ちを考察して、しかしやはり、しろいうさぎとくろいうさぎの子供が何色かという討論で会は終わった。なんか合ってるような、違うような。
「リアム・・・アンタ何しでかしたの・・・」
「しでかしたって・・・何を?」
「これ、読んでみなさい」
季節で毛色が変わることで有名な野うさぎの毛のように、風の通りの良い草原から初夏特有のジメジメとした熱気の篭る建物内で受付のクロカに引き止められて手渡された葉書大の紙に目を通す。
『今宵、晩餐の席にお招きします。つきましては、ロドリーホテル ステディエム支店まで来店お願い申し上げます ──アウストラリア本部ギルド長シリウス』・・・手紙には宛先がない。
「・・・なんでしょうね。これ・・・」
「だから何しでかしたの!?」
「これはクロカさん宛のお手紙では?」
ギルド本部長・・・うん。お呼ばれする理由はこれっぽっちも Throw in the trash、よっしゃスリーポイント決まった! ということは? きっと普段から組織に尽くしている優秀な職員のクロカさん宛に届いたんだろう。ご自慢ですか? ──おめでとうございます。僕もパートナーとして鼻が高いですよとここは素直にお喜び申し上げるで候。
「今日のお夕飯はなに食べよかな・・・あの・・・?」
ちょっとクロカサン・・・離してくれないと帰れないでござい。
「封筒にはリアム様ってあったから私ではない」
「開けたんですか・・・」
「仕方ないでしょう。上から回ってきた資料の中に紛れ込ませてあったんだから。イタズラだといけないし、専属ダンオペとして目を通さないわけにはいかなかったの」
それは仕方ないな。事務系の一切を任せることも含めて高額な報酬を出している。専属のダンオペは一種の秘書でもある。
「アウストラリア本部というと」
「王都の本部長って言うと、国内の全ギルドのトップよ」
「ねぇクロカさん。あなたは二日酔いで仕事が手につかず、今日一日業務をさぼっていてそんな手紙は見なかった」
「自分のためにしか嘘はつきたくない」
なんと素直なお断り。そして、なんと堕落的なダンオペだと普段の素行を罵りを続けてやりたいが、この人、愚痴は言うが仕事は最後までこなすんだよ。
「クロカさんその封筒少し貸してくれます?」
「ほら、まだ信じられないの?」
・・・イデア。──承知しました。
「あれれ? 宛先はリアム様とクロカ様じゃないですか。なら、クロカさんもいかないとですね・・・」
「は?」
宛先のリアムの名前の後に『&クロカ様』と、なんの違和感もない字体で続いていた。
「あ、アンタね!」
「ほ、ほら! 晩餐のご招待ですから、それもホテルでの食事ですよ!」
「いやよ! ロドリーホテルって言えば、国内最高峰の高級ホテルでそこで晩餐をいただけるっていうのはものすごく魅力的な提案だけど・・・要は庶民の知り得ない上流階級御用達ってこと! 毒でも盛られたらどうするの! それとも監禁!? 果ては暗殺!!?」
「やだな劇場ドラマの見過ぎですって」
「冗談じゃないわ! 演劇みたいな突飛な話だって言いたいのなら好きなだけ私をアホ女呼ばわりしてくれて構わない! たかが契約を結んだ冒険者のために・・・ために・・・くぅう」
別の事案なら個人の問題だと簡単に投げ捨てられたであろう。しかし今回はギルドが関わっている。わたしの所属する組織が、わたしを通じて、わたしと専属契約を結ぶ冒険者が呼び出しされて助けを求めているというのなら、サポートしてあげるのも業務の一環ではないか・・・と。
「ありがとうございますクロカさん。命に代えてでも守りますので」
「その前にドレス買うわよ。私のはまだ箱の中だから」
「ドレスコードとかあるんですかね?」
「大人としての嗜み・・・リアムはどうするの?・・・子供用のフォーマルウェアなんて仕立て屋に頼まないと」
『ご安心を』
「うわっ!? ビックリしたぁ・・・って、なんだイデアね」
『現在のマスターのサイズにピッタリのタキシードが確か・・・この辺に・・・』
イデアが広大な僕の亜空間の中を探っているようだ。ハハハ、前もこんなことがあった気がするが、ここはあえて前フリをしておこう。そんなもの買った覚えはな・・・。
『ありました』
「・・・マジであったよ」
ディメンションホールに手を突っ込むと触れた生地を掴んで引っ張り出す。掴んだのは黒のタキシードとズボンに白いシャツ、白い蝶タイ・・・。
『フォーマルウェアはサイズ違いで成人用、身長170cm程度のものまでを揃えてあります』
「ここまでくると執事ね。万能だわホント」
『いえいえ。恐縮です。晩餐の席では私もしっかりとサポートさせていただきますので、なんなりとお申し付けくださいお嬢様』
「まぁ、ありがとう・・・リアムもこのくらい見習って、紳士として私をエスコートしてよね」
「・・・はい」
イデアの取り出したシャツは首回りも袖の長さも完璧であった。ここまでくるともう脱帽するしか・・・あ、シルクハットまで。でも子供の体ということを考えると帽子まで被るのは流石にイキリ倒してはいないか・・・帽子はやめとこ。
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──1時間後。
「ほんと、私ってここまでできたのね・・・みんなが見てる。ふふ、なんか悪いわ〜、ドレスと靴一式買ってもらっちゃって」
「今回は僕の用事に付き合ってもらってるわけですから気兼ねなく着こなしてください。お似合いですよ」
「ありがとね」
「どういたしまして」
クロカの準備が整った。パープルドレスに、ヒール、更に買い揃えたハンドバックが側支えのいない平民であることを匂わせつつも、気品さを演出していて凛と美しい。この様を見れば、普段の彼女がどれだけ雑なのかがわかる。
「・・・このまちであんな仏頂面晒すのはリアムの前くらい」
・・・心を読まれた。一度立ち止まった玄関前でボソッと彼女がつぶやく。さて、僕たちは、国内屈指の絢爛さを誇るロドリーホテルの玄関まできていた。壁が白く塗られた美しい屋敷のようなホテルである。ロビーに入ると、天井には豪華なシャンデリアがぶら下がっていた。また、フロントで招待状を見せて部屋へと通してもらう。




