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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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15 Group of High Ball

「君たちは誰だ!」

「誰だ君はってか! 俺はこのハイボール団をまとめるラディ! そういうお前たち何者だ!」

「キュリー4歳!」

「そうか、プチキュリーだな!」

「キューちゃんはキューちゃんですよ?」


 出会い頭には不安げに腕を掴んでいたキュリーだったが、相手が子供と見るや僕が脱力したのに安心を覚えたのか、堂々とした自己紹介を繰り広げていく。それだけで物怖じが解けるとは、根性のある子だ。


「ハイボール団?」

「そうだ! この貧民街スロープを中心に活動している秘密組織だ!」


 ラディが土で汚れたキャップの鍔を人差し指で上げる。やはりここはメルクリウスの塔に朝を遮られた西の影、貧民街スラム、通称スロープ。それにしても炭酸水なんて物珍しいからノーフォークにもハイボールを出すお店なんてなかったと思うんだけどな。都ではそんなミーハーなものが流行っていたとは知らなかった。


「まぁ子供が名乗るような流行り物ではないと思うんだけどね」

「だ〜か〜ラァ〜・・・お前も子供だろうが!」

「あっはぁ、声に出てた・・・」

「つーかよッ! 名前名乗るのに子供も大人もないだろ!」


 僕の思考と口はこの高圧的な状況にカーボネーションしてしまったらしい。


「俺たちがハイボール団なのは”ハイボール”が俺たちのここぞって時の掛け声だからさ! いくぜ──ハイボール!!!」


 周りを取り囲んでいた子供達が目一杯拳を掲げて「ハイボール!!!」とラディに続いた。キャスケット、ハンチング、ベレーやチューリップなどその辺で拾ってきたようなバラバラの帽子が宙に舞い上がる。スラム付近を遊び場にしているような子供たちだし、キュリーもいるしで用心に越したことはないか。それに掛け声がハイボールとか意味不明だもの、なんか怖いもの、・・・秘密組織なのにめちゃくちゃ堂々と名乗ってますやんとか言ってやりたいもの。


「僕たちはおつかいの帰りに迷い込んでしまっただけだ! ここには特に用もないので、できればすれ違っただけってことですぐにでも立ち去りたい!」 

「なんて堂々とした拒絶だ!」

「うさぎを追って冒険してきたの!」

「意味不明だ!」


 ここは正直に答えよう。嘘を並べ立てたところで純粋なキュリーの口に蓋はできまい。僕はここに迷い込んでしまった経緯をハイボール団に簡単に説明した。


「おつかいの帰りにしては身軽だな」

「カツアゲしようとしたってこの通り大した荷物は持ってないんだ」

「おいおい、俺たちがそんなに相手も選ばず見境なく襲ういやしんぼに見えるか?」

「見える・・・」

「正直なやつめ! よし、ならお前の金品全部奪ってやる!」

「落ち着けリーダー!」

「そうだよリーダー!」

「止めるなブルック、キャシ〜! 俺はあいつに一度痛い目みせないと気が済まない!」


 僕に目にもの見せようと飛び出しかけたラディをブルックとキャシーが必死に宥めている。ここまで怒らせても秩序的に事を治めようとしているところを見ると、ハイボール団は性根まで腐った悪い奴らの集まりというわけではないらしい。


「バレてしまっては仕方ない・・・そういえばまだ僕の名前を名乗ってなかった。僕の名前はリアム。そして実は我々は世界を股にかけてアレやこれする秘密結社を取り仕切っている!」


 脅威の英才教育、すなわち貴族&名家系率を誇ったアリアの中でも幼かった男集団のノリは、こんなところだろうか。 


「その名もWWワールドワイド団!」


 世界規模!──ってことで、ワールドワイドウェブからの引用と命名です。ベタで何だかなぁ。彼らのハイボール団もよっぽどだけど、いい勝負しててなんか悔しいわ。


「な、なんだと! せ、世界を股にかけてだと・・・!?」

「や、やばいぜリーダー! 俺たちの活動範囲なんて高々この貧民街スロープだ!」


 しかし世界を語る恐ろしさを知らない子供たちをビビらせるには効果テキメンだった。フフ、ビビってるビビってる。


「落ち着けみんな! まだ威張りっこで負けたわけじゃない!」

「すっごーい! キュリーたちってそんなすっごかったんだ!」


 あぁ! ちょっとキュリーちゃん!・・・ええい、ままよ!


「わ、ワールドワイド団には、か、掛け声はあるのですますか!?」

「か、掛け声は・・・そう、カーボネーション! カーボネーションさ!」


 敵のハイボールにあやかって思いつきました。──ちょっと気に入ってるじゃないかって? ・・・気に入ったんだもん。


「カーぽナョン!」

「えっと・・・キュリーちゃん?」

「リアムちゃん! ポーズだよ!」

「あ、そうだね」


 両手を空に万歳! ──なるほどこのポーズは全身を使って相手を威嚇しているようにも、降伏しているようにも見えるというどちらにも言い訳の効く素晴らしいポーズだ! ・・・純粋なキュリーちゃんには逆らえないんだ。それになんか楽しくなってきたというか、どこか懐かしいと思ったら、昔、小学校高学年くらいの頃に病院で下の子達の面倒みていた時の感覚か。なつかし〜な。


「待て! その段取りの悪さ! さてはお前、WW団なんて嘘だな。ていうかアレやこれって具体的に何してるんだよ!」

「えっと・・・僕たちの団体は非営利団体で、世界をより良くするために日々ご飯食べて・・・ええっと、後は寝たり、起きたり・・・」

「パパとママのお手伝いをしてえらいえらい!」

「そ、そう偉くて健やかに育ってる!・・・あれ?」


 ・・・なんかもうめちゃくちゃダァーー! 


「あのー・・・」

「なんだ」

「ぶっちゃけると、悪ノリしました。お互いのことよく知らないし、郷に入っては郷にしたがえという言葉にあやかって」

「郷に入っては? む、難しい言葉はやめろ・・・見ての通りこっちの育ちはそんなによくないんだ」

「それじゃあ簡潔にこちらの提案をまとめますね。このまま何もなかったってことでここはひとつお互いに、引きませんか?」

「お前、その齢でそんなに謙ってどんな家庭で育ったんだ? 従うとかなんとか言ってたし、そんなだと舐められるぞ?」


 ^^どうしろと?


「自分も便乗したとはいえ、なんか終着点が見えなかったんでオチどころを必死に探してたんだよ・・・とりあえず、WW団は今日で解散するので」

「えぇ!?」

「おいちょっとコッチこい!・・・お前の連れ、もう少しごっこ遊び続けて欲しそうだしさ、付き合ってやれよ」

「えっ?・・・あ」

「うぅ・・・」


 キュリーが目でめっちゃ訴えてきてる。も、もしかしてこのノリを続けろと言うことなのか・・・そうなのか!?


「あのな、見ればだいたい察しはついた。けどな、せっかく面白くなってきたのに途中で放り出しちゃあの子が可哀想だろ」

「わ、わかったよ・・・」


 ウッ・・・純の論理をかまされた。僕の見栄は恥ずかしさで10傷ついた。──しかし私の嗜虐心は満たされたので如何程それが傷ついたのかはどうでもいい──少しは気にして!


「というのは嘘で・・・」

「嘘・・・?」

「いや、嘘じゃないっていうか・・・」

「どっちだよ・・・それじゃあいくぞ! お前達もまさか世界を平和にしようと動く正義の集団だったのか!? WW団!」

「まさかハイボール団! お前たちもか!」


 世界の平和を目論む路地の秘密結社とか、なんのこっちゃ。


「同じ志を掲げるもの、これ以上の争いは不要だろう!」


 そう言って出された右手に──。


「これで世界はまた一つ平和になった!」


 僕も右手を差し出して握手する、のだが・・・。


「これで俺たちも仲間だな! よし、お前たちもハイボール団に入れてやる!」

「やったー! わーい!」

「ありがとうございます・・・」


 キュリーがWW団公式カーボネーションポーズ、もとい、両手を上げて喜んだからついお礼を言ってしまった。 


「なんで!?」

「なんでって、手を取りあったじゃん? 苦しい戦いを経てお互いに対等だと認め合ったはいいが、同じ地域で同じ目的を掲げて活動する組織があるとろくなことはない。効率が悪い。だからどちらかが名前を譲って統一したほうがいいだろ?」

「い、一理ある・・・」

『なに言いくるめられてるんですか・・・』

「じゃなくてぇ!」


 そんな呆れた声で僕を責めないでくれ。どうもこういうノリはバランスが難しい。外して失敗するのも癪だし・・・恥ずかし怖いんだ、ムズムズして逃げたくなってきたんだ。

 

「それじゃあWW団は解散するのか?」

「えぇ!? また解散するの!? り、リアムちゃん・・・」

『発足から解散まで終戦処理内閣並のスピードです。ある意味歴史に忠実・・・』

「か、解散はしません!」

「だろ。お前たちWW団は俺たちの傘下に入れ。はいこれで一件落着!」


 あ、あれよあれよという間に、キュリーと僕は裏路地の先にたむろする不思議な子供達の集団、ハイボール団に入団させられた。


「わーい!ほらリアムちゃんも!」

「わーい・・・」

「違う! 俺たちのお決まりの掛け声はコレだ! ハイボール!」

「「ハイボール!!!」」

「ハイぽーる!」

「ハ、はいぼーる・・・」


 同調圧力というやつで、握った右手を高らかに揚げざるをえなかった。一体彼らはどんな集りなのか、繋がりは、なぜに掛け声がお酒なのか・・・未成年でお酒を浴びるような不良集団ではないよね? ど、どっかの誰かさんたちみたいに酒代せびってこなけりゃいいけど・・・。


「改めて俺はラディだ」


 リーダーらしきラディは背丈からみても僕と同い年くらいの少年だ。

 

「そっちの通った鼻筋が似てる兄弟はブルックとマッテオ」

「ブルックだ! よろしく!」

「マッテオです」


 茶色の髪で明るいブルック、礼儀正しく落ち着き払ったマッテオ、どちらも笑顔が清らかな眩しいお兄さんたち。


「こっちがキャシー!」

「キャシーです!」


 獣人とは親近感が湧く。犬耳族で狐の獣人ティナと比べて、少し間がゆったりと離れて頭からはえてる猫耳と細やかにうねる尻尾は実にキュートだ。ティナにはクールな可愛さがあるが、この子からは一生懸命な可愛さを感じる。


「ガタイの良さでみんなを支え頼れるスロー・ロブ!」

「よろしく〜」

「時間にうるさいカレンダー!」

「自己紹介する予定なんて今日のスケジュールにはなかったのに・・・よろ」


 ザ・闘魂のような太く立派な骨格を持つ見た目に反して緩い挨拶をしたスローに、手帳の背から取り出したペンを折りそうな勢いで握りながら、忙しそうにメモをとるのがカレンダー。


「少しでもキッカケがあればすぐ弾けるポップに──」

「イエーい! よろしく!」

「逆に周りがどんなに盛り上がっていても中々弾けない陰気なコーン!」

「ど、どうも・・・よろしくです」


 茶色とクリーム色の髪が特徴的なポップと、大人しめでとっつぁん坊や風のサラサラ被ったブロンド、皮表紙の本を一冊胸に抱えているのがコーン。セットだと実に覚えやすい。


「コイツらがハイボール団の幹部だ!」

「そうですか。みなさんよろしく」

「キューです! よろしく!」

「よろしくお願いします!」


 ブルック、マッテオ、キャシー、スロー・ロブ、カレンダー、ポップにコーンか。


「ところでお前達、そもそもどうして迷い込んだんだ? 話したくなければ話さなくてもいいが?」

「キュリーちゃんがおつかい中にうさぎを見たとかで追いかけ出して、気づいたらここに」

「うさぎ? そんなのいたらとっくに俺らの朝飯になってるぞ?」


 これは冗談? それともツッコミ待ち? 


「ハハハ・・・ちょっといいかな? キュリーの前で小動物を仕留める云々は・・・僕はダンジョンでなれてるからいいけど」

「なんだ? プチキュリーならあっちでポップたちと、ほら」

「はいぽーる! たのしー!」

「違う違う、ぽじゃなくてボ、ハイボールだ! イエーイ!」

「はいぽーるだイエーイ!」


 Hi Paul……なんちって。自動翻訳の助けがあるからキュリーの拙い言い間違いはそう聞こえるに違いない。


「ハイボールは、こうか・・・」

「何してる?」

「メモを・・・ハイボールはこういう音だって書き留めてるんだよ」


 自動翻訳がなくても読み書きできるように人種の公用語の文字はマスターしたけど、まだ聞いたことない新しい単語なんかが出てくればまだまだ前世語に依存中な訳で、こうして暇がある時に自動翻訳が機能した時の単語をメモしている。


「お前、さては勉強大好きだな!」

「ぜんぜん・・・ただ、覚えてないと将来困ることもあるかもしれないし、郷に入るためにも」

「ええい、難しい言葉を並び立ててはぐらかそうとしたってそうはいかない! その姿勢こそまさに証拠だというのに語るに落ちてるぞ! 裏切り者!」

「裏切り者!?」


 入団して早2-3分で裏切り者扱いって、コメディアニメの人気者Mr.ビーンが諜報員でももう少し上手くやるぞ!


「勉強ノートなんてそんなブルジョワジーものはしまった方がいいぜ。俺たちみたいなはみ出しものの前ではな」

「とにかくしまう──! 初めてのことだからとみんな許してくれる今のうちに」

「わかった・・・」


 ラディに指摘されたメモを仕舞うようにと耳打ちしてきたのは、スクールなら中等部に通っていそうなくらいの年上のブルックといマッテオ兄弟だった。


「ところで、ここにいるのが幹部ってことは他にもメンバーがいるの?」

「いや! 頭がいないと締まらないから俺がリーダーって体だが、ハイボール団ではメンバー全員が幹部だ! 俺たちは皆対等なのさ!」


 ・・・おいおい。


「素晴らしい考え方だ・・・それじゃあどうしてみんな昼間っからこんなところにいるの? 学校は?」

「あちゃ〜それを訊いちゃうのか〜! 言われてるぜラディ!」

「ウグ・・・パス1、やれコーン!」

「僕もパス・・・キャシー」

「パス! カレンダー!」

「その質問に答える予定はありません・・・しかしパスする予定も・・・」

「俺もパス〜、はいラディの負け〜」

「くそぉ・・・!」

「リアム、君って案外図太いのな・・・」

「直球な奴だぁ・・・」


 仕舞えと言われて懐にしまったペンと手帳のことなどお構いなしに、平日の午前中に彼らはこんなところで何をしているのか。さっきは平和活動がどうのではぐらかしたが、実際はもっと現実的な何かをしていたはずだ。だってここはスロープ。そして彼らの身につけている衣服から裕福というわけではないだろう。


「あ、あなただって今、ここにいるでしょ。おんなじ理由です・・・学校に行く予定がないだけです」

「ということは・・・なんだ、みんなもう卒業したのか」


 すると、カレンダーの右往左往はまだ続いていたようで。彼ら、見た目は僕より少し年上くらいに見えるが、実年齢より見た目が若く見られる子たちだったのか。うんうんわかるよ。僕も少し成長は遅い方だから、・・・なんて、これ自虐的な皮肉だから。


「卒業した!?」

「な、何を言ってるんだお前は? 卒業なんて都市伝説だろ・・・なぁマッテオ?」

「そうだと思う・・・本当にその歳で卒業しちゃったの!?」

「そ、卒業なんてムリでしょ!」

「卒業・・・!?」

「ナナナ、私の予定に卒業なんて・・・」

「卒業したらハイボールみたいなパーリィーも卒業しないといけないって聞いことあるぜ!」

「勇者物語にも勇者が卒業したなんて話書かれてないのに・・・あわわ」


 勇者の英雄譚が書かれた一般書物に「勇者;〜学校出身」とか在籍当時から活躍していない限り書かれてはないだろう。研究資料ならいざ知らず、でもコーンが大事そうに抱えている書物のタイトルはこれでわかった。


『その辺でイジワルは終わりにしたらどうですか?』

『わかったよ・・・』


 悪ふざけがイデアに咎められたので、白状します。はい、イジワルしました。90%くらいの先入観を以て、彼らにわざと卒業したのかと言いました。気になったんです。すみませ・・・ん?


「──しっ!・・・誰か来る」

「キュリー、コッチに」

「どうしたの?」

「わからないけど・・・ラディ?」

「静かにしてろ新人──・・・あ」

「俺たちが一番近いからって本部も人使い荒いよさぁ。たく、速度違反なんてしたのどこのどいつだよ。治安が悪いスロープにも暴行騒ぎはあっても今どき速度違反する奴ぁいないって」

「この辺りか? 規定値以上の魔力速度が検出されたってのは・・・」


 固まって息を殺すように警戒していると、帯剣した騎士風の二人の男が愚痴を零しながら曲がってきた。


「「あ・・・」」


 向こうからやってきた二人組と相手を伺うラディの目が完全にあう。


「お、お前たちは──!」

「ヤべぇ! 逃げるぞ!」

「ちょ──」


 ハイボール団はパンくずの代わりに突然石を投げ込まれたハトのように散開する。僕はその人たちの身なりを見て特に逃げるつもりはなかったのだが、腕を引っ張られたので、キュリーを左腕で抱えて回収し走らざるをえなかった。


「どうして君達まで逃げるの! あれってただの巡回だろ!?」


 速度違反がどうのと言っていたから、彼らが探しているのは多分僕のことだった。それなのに──。


「奴らには色んな呼び方があるんだ。サツ、ポリ、マッポ」

「そんな呼び方テレビもないのにどこで──それってつまり警察!?」

「街を巡回してる警察と騎士のタッグ! 最近仕事サボり気味だったから、俺たちを教会の孤児院に入れようと躍起になってる!」

「仕事!?」

「街の外の森に出向いて木材の切り出し! 賃金安いくせに重労働で、俺たちみたいな魔法も碌に使えないやつじゃなくて魔法を使えるやつを雇えばすぐ終わるのに、ダンジョンがあるから誰もやりたがらないんだとさ!」

「はぁ!?」

「最近は花粉がきつかったからなぁ! スロー・ロブは花粉症、カレンダーは鼻炎、キャシーは結膜炎が出るし、コーンはくしゃみがひどいんだ!」


 警察ということなら、ますます目があっただけで追われる理由が気になっていたところ、そのどうしようもなくどうしようもない理由を聞いて思わず足元が疎かになり廃材で躓き、転びかけた。


「ッとと! 痛くなかった?」

「びっくりしたけどおもしろいよ!」

「そう・・・それで! 別に強制労働ってわけじゃないんだろ!」

「俺たちが孤児としてここで暮らしているのを黙認しているのは、手に職をつけてるからって名目で、その仕事をサボってるってなればな!」

「お仕事はサボっちゃダメだよ? お姉ちゃんはそれでよく上パンさんに怒られてるんだって」

「・・・4歳の子供に説教されるとは」

「でもそれ躍起になるはずだ! 領の体裁だだ崩れ!」

「だな! だが昼間仕事に出れば──!」

「当然学校にもいけない!」 


 酒場の看板がぶら下がった樽の並ぶウットデッキの軒下に体を捻りながら滑り込んだラディに続く。


「おかげで期末試験もボロボロさ。静かにしてろよ・・・」

「あのガキども入り組んだところばかり走りやがって・・・あぁーあ、靴が泥だらけだ」

「蛇行してるうちに見失ったな・・・どこいった」


 騎士たちは散開したメンバーたちの中から僕たちを選んで追ってきたようだ。それに、足をあげて靴底に付着した泥を見る仕草が態とらしい・・・彼らは気づいてる。僕たちが着けた小さい足跡を追って、着実に気づいていないふりして近づいてくる。


「冒険者の奴ら、足元見やがって。十分な魔石を確保できたら荷物持ちはすぐさよならだ!」

「だよな・・・他の街なら腐るほど仕事があるのに、日銭を稼ぐのがやっとだはは!」

「荷物持ちが必要な冒険者は初心者だったり弱くて稼ぎも少ないし、ジレンマだよな〜」

「俺たちが批判できたもんじゃないがな!」

「違いない!」


 すると、自虐ネタを肴に大笑いする男たちの声が頭上の張板を通って聞こえてくる。隠れたデッキの扉が開いたようだ。


「なんだなんだ? 巡回がこんなところで何してる?」

「ロウローか! なぁこの辺で孤児の連中を見なかったか?」

「この街の騎士は税金から高い給料もらっててスロープの子供も捕まえられないのか?」

「冗談だろ? きっと嘘に違いない! 職務中に酒を飲みにきた言い訳をしてるんだ!」


 面倒ごとの香りがする。ロウローと呼ばれたのは人か集団か。


「そういうことか! なら黙っててやるから、なんなら奢れよ!」

「か、勘弁しろよ。職務中だ・・・」

「こちとら朝っぱらからお前らの顔なんて見て萎えてる・・・殴られたいか!」

「わかったよ! 行くさ!」


 ただならぬ空気を感じ取った僕は咄嗟にキュリーの耳を塞いだ。──が、威嚇の効果はテキメンだった。ロウローに絡まれた警察騎士たちは堪らずその場から去った。


「俺たちに威張られたからって職務遂行を諦めるなんてホントなよっちいな」

「最近は忠義もない! ちょっと才能があるからと、給料ばかり目当てで仕事に誇りもない楽したいやつばかりだ! ──クソッ! 俺たちだったらもっと──!」

「ワハハ! だが愉快だよな!」

「ようラディ! でてこいよ! それと一緒に隠れてる奴らもだ!」


 ──足元にいるのがバレた・・・この探知、おそらく空間属性魔力の波長によるものだ。


「お前わざとここに隠れたな」

「へへっ、バレたか」

「頭の回る小僧だ。ところで、そっちのガキ2人は?」


 騎士に容赦無く噛み付く素行といい、隠れているのを指摘されて出ていくのを躊躇ったのだが、早々に顔を出して親しげに会話するラディに続いてデッキの下から出ることにする。


「コイツらは新しいハイボール団のメンバーさ」

「その身なり、お前ら暮らしに困ってる家庭の出じゃないだろう? こんな不良どもと絡んでないでウチに帰れ・・・目障りだ」

「そんなこと言うなよ」

「やかましい! お前も人様の家の子を巻き込むなっ! 信じられるのは同じ穴のムジナらだけ、それが社会から滑り落ちたスロープに住む俺たちが行き着いた格差の真理!」


 騎士たちを追っ払った後、取り巻きと共に店の中に戻らずラディと言い合っているのは朝っぱらから酒気を帯びている髭面の男。


「ど、どうしてそんな言い方するんだよ!」

「そっちの嬢ちゃんのことは知らんが、そこのお前はダンジョンに出入りしてるだろ」


 こんな時間から酒を飲んでいる男に指差しで質問された。さて、どう答えるべきか。


「どうしてそう思うの?」

「子供一人で28階のガーデナーを倒したくせに、噂にならないわけないだろう?・・・言ったろ、目障りなんだよ」


 シッシと手で払うジェスチャーをすると男はそのまま酒場の中へと消えていった。


「あの髭面の男の名前はネップ。この街のルールで下敷きになった奴らの集団ロウローのキャップで、主にギルドや当座仕事に派遣する労働者をスロープから斡旋してる男さ。ああ見えてキャシーの親代わりをしてるし、面倒見はいいんだぜ? 慕われてるし、ただ・・・」

「今日のところは帰るよ。おつかいの帰りだし、遅くなると心配される」

「それがいいだろう」


 このまま残って再び怒鳴られても面白くない。他のメンバーたちに別れは言えないが、この辺でお開きといこう。汚れたキュリーの服も綺麗にするのは忘れずに。それとロウローは人の名前ではなくて、彼らの烈称兼通称のようなものだったらしい。ロウロー(Low Law)か。


 ──解散後。


「奴は相当に稼いでる・・・お前たちとは住む世界が違う人間だ」

「そんなことはない! 俺だってここに馴染んだ!」

「・・・なら奴に助けでも乞うてみろ。戦い方を教てくれーって。だが断る・・・俺たちみたいな滑り落ちたスローパーとつるむような噂が立つなんてゴメンだと心の中では思ってる!」


 ロウローの溜まり場となっている酒場の中から、ラディとネップの言い合いを再集合したハイボール団のメンバーたちが重く視線を落としながら、外で聞いていた。





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