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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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12 Pharming

私の名前はクロカ。ノーフォークのオブジェクトダンジョン”テール”を攻略したパーティーそのリーダーのギルド登録を担当した伝説のダンジョンオペレーターにして、この度、羨望の功績を讃えられてステディエムへ栄転となった。


「はぁあああ・・・いま、国で一番ホットな商業都市、金の集まる街。ここで貿易商の大富豪でも引っ掛けて玉の輿・・・の予定だったのに、転勤して早3ヶ月。この美貌を男どもはどうしてほっとくの・・・挙句に・・・」


”あのクロカさん。ちょっといいかしら?”

”はい。どうしました?”

”実はね、メルクリウスに挑戦する子に案内ガイドを頼みたくて”

”えっ!? 私がですか!? でも私転勤してきたばかりでメルクリウスのことはあんまり知らないし・・・”

”だから適任なの”

”だから適任・・・ですか?”

”そう。まだ一般窓口の方に出て日が浅いということは、ダンジョンに挑戦しているお客様との面識も浅いということ。それに初心者について中を回ればガイドの復習にもなるでしょ?” 

”でもやっぱり私がダンジョン内の案内なんて・・・”

”そう? 困ったわねぇ・・・前任者は昔案内した子がリーダーをしているパーティーに広報担当として引き抜かれちゃって・・・ここにいた時の給料の数倍を提示されたとか”

”やります!!!”

”よかった! 実はその子将来かなり有望らしくて、他の子供も一緒に面倒見なくていいから一人に集中してとりあえず10階(ツェーン)まで案内をお願いします。あ、ただし本人が後々望めば場合によっては専属オペレーターになってもらうから”

”はーい・・・はいぃイ!?”

”専属の方がこなす仕事量も少なくなるし、担当の子が稼ぐほど給料が上がるようになるから。じゃ、がんばってね〜!”


 一昨日の私のおバカ! ・・・目先の金に目が眩んだわ。将来食っていけるかもわからない坊ちゃんのために私の人生を割いてやることになるかもなんてぇ。専属に指名されたら給料出来高制とか言っちゃてるけど、アリアみたいに血筋有望ならともかく、まだパーティーも組んでない個人の専属とかホント最悪。案内ガイドの仕事はこの案内だけ引き受けて、ちゃっちゃと仕事終わらせちゃって、やっぱり伝説オペレーターの私にはやりがいが足りないとかなんとか、とにかくこっちから断って元の窓口の仕事に戻ろう。


『ズルズルとエスナさんたちのお世話になっちゃっいましたね』

「し、仕方ないだろ! なんだかんだで居心地は悪くないんだよ!・・・んー、小さい番数の窓口付近に比べて随分と人が少なくなったな。84番84番・・・ここだ! あのー、未成年用訓練のための案内を受けてくださいって言われて来たんですけ・・・」

「はいはい、今回あなたの案内を担当するクロカでーす。あなた名前は・・・ですけ?」


 ですけ・・・ですけってなによ。言うならせめて”ど”まで言いなさいよ。・・・ちょっと待って、今の子供のくせに妙に落ち着いた声、すごく聞き覚えがある。


「どうしてここにいるんですかクロカさん。職務中にお酒を飲んでついにやっちゃったんですか・・・飛ばされちゃったんですか?」

「間違えるはずがない! この生意気な物言い、人を見て区別する態度! なにより私をウワバミだと知っている! なんであんたがここにいるの!?」

「そのままそっくり質問返されちゃいましたけど、・・・あなた幻覚ですか!?──って、幻覚に聞いてもしょうがないですしね。それで現実を直視して余計なことは考えずに、クロカさんならどうすればここにいるのかをシンプルに辿って尋ねたんですけど・・・どうしてここにいるの!?」


 あっ、今度は”ど”まで言った!・・・違う違う。


「やっぱり私を馬鹿にしてる!」


 ま、まさか・・・まさか! コイツとこんなところで再会するなんて、嬉しくもなければ、ガキとは実りある恋もあるわけないし・・・うぅ、なんでぇ!!!?


「私ここに志願して自分から転勤したの。もう3ヶ月も前のことよ! あんた知らなかったの!?」

「スコルとマーナを敗ってからはダンジョンに行ってなかったから。シーナさんには旅に出る前にお別れを言ってきましたが・・・そういえば別れ際にシーナさんにクロカさんへの用事を頼んだ時に、もうここにはいないって・・・あの”もう”って、もうノーフォークにはいないってことだったんですね。てっきり、就業早々仮眠室で二日酔いに苦しんでいたのかと」

「なんでもっとちゃんと聞いていかないのよ!」

「あの日は学院入学組の壮行会の朝だったんで、時間がおしてたんです」


 お世話になった人たちに、旅に出る前日に挨拶したのだとか。意外と抜け目ないコイツのことだからシーナを気遣って人が少ない早朝を選んだんだろうけど。

 

「それでも話題に一切上がらないなんて、あ、アンタ私に興味なさすぎ。別にガキは趣味じゃないけど、癪に障るわ」

「2日酔いでは・・・」

「あぁん?」

「いや、クロカさんの仕事時間を尋ねたからいないって知ったんですよ! それにちゃんとお土産用意してシーナさんに預けてきたし全く気にかけてなかったわけではありません」

「お土産っ!?」

「クロカさんにはギルド長に渡したのと同じお酒を、結構奮発したんですから」

「なんですって!? それをシーナは自分の分も合わせて上手く一人でせしめたわけ・・・」

「シーナさんはそんなことする人じゃないですよ。ギルド長に預けると・・・こっちの方が危ないな。副ギルド長のハニーさんに預けるとか、なんだったらステディエムのギルド支部アドレスを調べて郵送してくれたり・・・」


 ウッ・・・言ってる本人に悪気はないんだろうが、自分だったらと重ねて疑った身にはグサッとくる・・・と、シーナを悪く勘繰る私ほどあの子は礼儀知らずの強欲じゃないとその達者な小口で思い知らせてくれている時だった。


「あの、こちらにギルドステディエム支部冒険者受付窓口のクロカ様はいらっしゃいますか?」

「あ、それ私だけど?」

「よかった。何度か寮のご自宅の方に伺ったんですがお留守で、新しく引っ越しされたばかりとかで聞き慣れない名前だったので安易にご近所の方に預けるわけにもいかず」

「そりゃあ荷配の時間って言えば仕事してる時間だもの。こっちに来てからというものずっと仕事詰めてたし」

「配達に伺った旨を報せる紙もポストに入れておいたんですが・・・」

「ポ、ポストの中を確認する暇もなくて。おほほほ」

「へぇー」


 な、何よその意外そうな「へぇー」は。


「意外で悪かったわね。私は仕事をしないんじゃなくて、やるべきこととやらなくていいことを分けてやるべきことだけをそつなくこなすタイプなの」

「かれこれクロカさんとは長い付き合いですけど、見直しました・・・1度目は・・・思い出せないので初めてってことで」

「あのねー、アンタねー」

「その、ノーフォークよりシーナ様という方からお荷物が届いています。お仕事中申し訳ありませんが、受け取りできますでしょうか?」

「あぁまぁそのくらいの荷物なら・・・シーナからですって!?」

「ま、まさか・・・」


 うっそでしょ。噂をすればってやつなんだろうけど、いくらなんでもタイミング良すぎよ! 


「ちょっと貸して! 木箱入りだと・・・だ、大吟醸ちゃん! これ鈴屋で売ってるお酒でイッチバン高いやつじゃない!」

「包みの紙袋の中から何か落ちましたよ!・・・拝啓、クロカ様。先輩、新しい土地で・・・手紙付き・・・なんていい人なんだシーナさん」

「あのー、署名・・・」

「な、なんてタイミングの良さ。それも態々仕事場にまで来るなんて! グッジョブ配達員!」

「あ、ありがとうございます!・・・?」

『何か我々の知り得ない未知の力が働いているような気がします』

『ウッソマジで!?』

『・・・確率的に絶対にないとも言えませんね。すいません。やっぱり忘れてください』

『ガクッ──!』


 あぁ、私の可愛いお酒ちゃん。・・・な、なんかリアムが膝からガクッていったけど・・・危ない! せっかくあの子が送ってくれた手紙にシワが──!


「貸しなさい! ・・・全く、返事かく暇もないくらい忙しいってのに、私の仕事増やしてんじゃないっての・・・なにニヤニヤしてんのよ」

「ちゃんと返事書くんですね。うんうん」

「つーか遠回しに私の仕事増やしたのアンタじゃない! そ、そうよ! アンタからの贈り物ってだけだったら別にお礼の手紙なんて書きもしなかったっての!」

「それはそれでひどくないですか!?」


 あ、危なかった。クールで自立した大人の女性が売りの私がもう少しで後輩思いの・・・あれ、私の目指してる理想像と目的の玉の輿ってなんか矛盾してない? あぁもう! こうなったら流れに身を任せてやる! ヤケよ、大便乗よ!!!


「決めた!リアム、あんたメルクリウスを攻略するんでしょ?」

「こ、攻略っていうか、あまり長居する気なかったですし、本格的に攻略するつもりはなかったんですけど」

「なんだ、ならお呼びじゃないじゃん・・・」

「色々あってしばらくこの街にいようかと。その間、街を見て回るだけでは流石に飽きるだろうし、片手間に見学してみるくらいならいいかなぁって」

「よし、あんた今すぐ私を専属に指名なさい!」


 オペレーターとしての地位か、生活を充実させる金か、どちらに転ぶかこれが運命ってやつよ!!! あわよくば両方頂戴!!!


「専属ぅ・・・?」

「なによその顔」

「うへぇって顔です」

「言わんでもわかるわ!」

「自分が訊いたんでしょ!」

「生意気、制裁!」

「イ、イッター・・・相変わらずだなぁ! もう!」


 生意気なコイツの頭に一発制裁を入れてやったわ。ちょっとやそっとじゃピーピー泣かないし、丁度チョップを落としやすい高さに頭があるのよ・・・ちゃ、ちゃんと手加減はしてるからね。ほんとに嫌だったら私のことなんてほっといて逃げるし虐待じゃなくてスキンシップよ、うん。


「あのー、受け取りの署名を・・・」

「さっきから邪魔よ、シッシ」

「そ、そんなぁ〜・・!」


 何よコイツ、いつまでここにいるのよ。今私の人生がかかった大事な話をしてるんだから空気読みなさいよね。


「ほらこれでいいでしょ。お疲れ様」

「ありがとうございましたー!」

「すっごい駆け足・・・って、建物内は緊急時以外走るの禁止よドアホー!」

「は、はぁ〜い!!! 失礼しましたー!」

「まだ走ってるじゃない。まさか私から逃げるのが緊急だっての? 失礼ね・・・と、お邪魔虫がいなくなったところで話を再開しましょ」

「一方的に断ち切って一方的に再開ですか!?」

「ここでは私がルールよ・・・ていうかアンタぁ、窓口に座る私を見てどうせならシーナの方が転勤して来てくれていたらよかったのにとか思ってるんじゃないでしょうね」

「なぜわかった!?」

「マジで思ってたのか! シーナのように安定思考じゃ玉の、もといなぁなぁの現場管理職以上のスキルアップは望めないの! 上を目指すなら私ほどアグレッシブでないとね! お前ほんと生意気なんだよ!」

「イタタ、ストップストップ! なんでもするから!」

「なら私を専属にして、精々ガッポガッポ金を稼がせるんだな!」


 よっしゃあ交渉テーブルから降ろした私の勝ち!──最後まで話を流せなかった僕の負け。しかしガッポガッポとは、一体おいくら千円稼がせる気でしょうか。


「とりあえず、1ヶ月金貨1枚でいいわ」

「金貨一枚!? 僕の方が破産するよ!」

「なら精々財布空っぽになるまで貢いで捨てられることね」

「つ、ついに本性表したね!」

「フン、私の性悪さなんて百も承知のくせに。あんたこそ、話逸らして時間稼ぎしようとしてるのバレバレよ。はい締結。決定ー」

「んなー!?」


 はい決定と言って、クロカは僕の手を無理やりとって握手させた。信用第一の街と言っても、握手をすれば互いが意思表示したとして契約は成立したものとみなすとかなんとか、あるのかなぁ。でもこれ、前世にあった近代私法の契約自由の原則的に考えれば自分の利益に(たぶん)ならないから強制されるものじゃないんじゃ・・・前世の法との照らし合わせができてないからこの世界のリテラシーがどの程度まで進んでるのか微妙にわからない! こんなことなら学院に行って法学を勉強するべきだったか?


「撤収ー!」

「撤収じゃないでしょ! 専属云々も、稼ぐにしても、専属にしないにしても・・・」

「アンタがギルドカード作ったときにそれはもうわんわん喚いて宥めるのが大変だったって今ここで大声で言いふらしてもいいんだけどなぁ」

「脚色ですならない大嘘ー! と、とにかく、訓練プログラム終わらせないと自由に探索できないんですから! ほら、ね、行きますよ!」


 この2年間しかないのだと悩み抜いて旅に出たのに、学院に行ってた方がマシだったかもなんて思うなんて・・・なんかもう、どう足掻いても言いくるめられそうでなるようになればいいと思い始めた。彼女はどこに来ても相変わらず好き放題してる・・・ある意味すごい。


「ねえねえ、ところでさ」

「なんですか?」

「寝袋とお酒持ってる?」

「ここまで旅してきましたから寝袋はいくつか・・・お酒は今ご自分の手に」

「ん・・・?」

「お酒は臭み消し用香り付けのための料理酒なら」

「ならあんたが料理と寝具の担当ね。面倒だから、泊まりがけで一気に終わらせましょー!」

「こ、この人は本当にシーナさんや案内受付してくれた職員さんと同じ組織に所属する接客員なのか・・・」

「みんな私を崇める〜♪」


 崇められることに戸惑いがない! 大抵のことは自分でできそうなものだから神でももう少し慎ましいと思う・・・こんなヒト崇めたくないぃい! 髪の毛掻きむしって間抜けなポーズを晒しそうな気分だ!

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