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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
Solitude on the Black Rail 編

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04 I can't sleep at night

「ダメだ・・・一旦出よう」

「死んでる──・・・?」

「・・・リアム?」

「・・・ごめんなさいッ、ぼーっとしてしまって・・・」

「・・・外に出よう」


 こんなにも、違うものなのか。殺されるか、殺されずに死ぬかの衝撃とその差というものは、儚げ幸せな記憶に残れない死、あるいは、自然に衰える死を迎えられないことに同情しか感じられない自分の冷酷さを責め立てる罪悪感の総量の差──。


「村長・・・」

「中はひどい有り様だったろう」

「中は・・・現在の状況は?」

「犯人を追ったミック、ヒメーシュ、グウィルムがやられた」

「ッ! それではアニーはッ!」


 村長は力なく首を横に振った。村の状況確認のために既に1時間近くが経過していた。


「ならば今スグ助けに行かないと!」

「犯人は東へとアニー を連れ去った。おそらく奴が向かったのは夜血森──夜月の森だ」

「・・・だから?」

「森に入るのに一番危険な時間帯だと分かっているのに助けにはいけぬだろう」

「だからッ、どうするっていうんで・・・? 敵を野放しにすると?」

「・・・敵は恐るべき未知で溢れている」


 村長や後ろに控えていた村人たちは、宿屋からジョセフと共に出てきてその隣に立っていた僕を一瞥して忌々しそうに視線を逸らす。


「脅威を排除するためには動かないと・・・?」

「そういうことになるか・・・朝になるまで、もしくは・・・外から応援が来るまで私たちは積極的に動けない」

「そんな・・・あなた方の事なかれ主義が生んだ結果を見なさいッ!? それでいて現実を見れば彼が犯人ではないことは明瞭で、石をぶつけるべき対象テキではない! それどころか──!」

「ジョセフさん!」

「・・・そうだねリアム。ありがとう。いけない、こんなことを議論している暇はなかった・・・村長ッ! 今すぐ奪還のために編成をッ!」

「あんな恐ろしい敵に立ち向かうために人員を割くことはできない。村の一番の手練れであったミック、その次くらいの階級にいたヒメーシュがやられた」

「だからなんです! この村には他にも男はいるし、そのほとんど誰もが村の自警団を本職と兼任するほど屈強だ! 女だって魔法を操れるし腕っ節だってその男に引けは取らない! 村人総出で解決に取り組めばきっとッ!」

「屈強だからなんぞや、あんな怪物に勝てっこない。今日だけで村民を含め十数人が殺されている」

「数で押せばなんとかなる!」

「束になってかかって敵う相手ではないのだッ! 人海戦術など・・・勝利を収めようが一つの命を救うに対しいくらの命が落ちるかッ!」

「臆病者!!!」

「私はこの村の長だ・・・! 村民の命を守る義務がある!」

「アニーも村民の一人だ!」

「これ以上犠牲にできないということだ! それが村の生まれでなかろうとわからぬわけではあるまい!」

「それじゃああなたはもし拐われたのが息子だったらどうした! アニーではなく己に更に近しい肉親だったら!」

「息子は死んだ! ついさっき殺されたのだッ!!!」

「ああたしかにグウィルムは残念なことになった! だが、命の危機を前にイチだとかジュウだとか引き合うのかッ!」 

「いくらお前が噛みつき叫ぼうが大義は此方にある! それと今朝信書を持たせ公都に伝令の馬を走らせた・・・じきに応援が来るだろうッ!」


 あともう少しでジョセフは僕が助けてくれるかもしれないと、談判したかもしれなかったので水を差せば村長との議論に拍車がかかる。


「宿からあぶれた彼はよそ者の僕のところへ・・・」

「よせ、ジョセフ」

「僕をよそ者だと差別するくらいのことを言いながら化けの皮が剥がれたというのに、結局はよそ者の力に頼るわけだ」

「なんだと・・・?」

「だってそうでしょう・・・あなたは今回この事件を解決、あるいは防ぐために足止めをした! ほとんどが言葉を交わしたこともない村人が怯えるばかりに閉じ込められた旅人は僕のところにいたリアムを残して全員が殺された!」

「そ、それは・・・」

「彼らにどう申し開きをする! 縁もゆかりもほとんどない1泊するだけのために立ち寄った土地で足止めを食い挙句に殺されてしまった! さぞ無念だろう!」


 宿屋に身を寄せた旅人たちにこの村の出身は一人としていなかった。


「それに命を落とした仲間たちの気持ちはどうなるんです」

「・・・命を賭してまで守ろうとしたものが無闇に、命を落とすことは──」


 ミック、ヒメーシュ、グウィルムの3人は殺人鬼の前に躍り出た。誰かがやらなければならない、誰かがやらなければ今度はまた誰かがやられる。


「それは望んでいませんか? それは勝手な妄想ではありませんか・・・」

「・・・リアム、だったか」

「すいません。口を挟んでしまって。ただ、死人に口なしというように、今となっては彼らに話を聞けないのだから、彼らの死後の気持ちを僕らが想像しようが、代弁としようが再現性に欠けます。死という恐怖を経て仲間を守りたいという勇敢な意志をどこまで保ち続けていたか、やはり最後には死にたくないと・・・そう思っても不思議ではありません」

「その通り・・・その通りさリアム!」

「ジョセフさん、あなたもです。死人に口なしと言ったでしょう。殺されたみなさんの仲間と同じように、殺された宿にいた客の声を聞くことはもうできません。頭に血が上っています」

「リアム・・・君・・・」

「だけど僕の方がもっと頭に血が上っている! あなたたちのせいで僕はとんでもない事件に巻き込まれた! 見たくもない光景を見せられて、見たくもない人間の汚い部分の押し付けあいを見せられて・・・」


 ・・・腹が立つ。勝手な話に聞こえる人には聞こえるかもしれないが、僕は人という性質たいしょうパーソナルをテリトリーで見がちな人間だ。


「村長、今晩だけで十数人が殺されている。果たして公爵様からの援軍がたどり着くまでの間に、村が再び襲われることはないのでしょうか」


 保証はないよね。僕がノーフォークからこの村に来るまで5日を要している。仮に今日村を出た飛脚が身体強化を使いながら急いだとしても3日はかかる距離、それを往復となると伝令を受け取ったブラームスが判断を下すまでと兵の編成に全く時間をかけなかったとして、最低6日はみないといけない。


「僕は明日の朝には出立する」

「な、ならぬッ!」

「ならぬ? 貴方に僕を止める権利はもうない。犯人がはっきりした今、貴方が僕を拘束すると言うのならばそれは不当だ。惨事に見舞われお気の毒にと言っちゃ悪いが一刻も早く、今にでも村を出たい・・・」


 村長は公正な立場を擁して犯人捜索の名目で僕ら旅人を足止めした。犯人こそ判明すれど、村長が制限を解除しない限りは期限まで効果が続く。しかし期間を延長しての足止めはできない、筋の通らない話だ。


『・・・僕は悪くないんだ』


 僕は悪くない。悪くないハズだ。場所が違えば文化も違う、慣習がある、僕は・・・悪くないし関係ない。


『朝食を食べに行こう──・・・』


 なのに、さっきから病院の廊下のイメージが頭に張り付いて離れない。何がそんなに引っ掛かっている。アレは、僕にとってとるに足らない出来事だった。それよりも、もっと、もっと悲しいことはたくさんあった。例えば、鈴華の──死。


「あなた方がなんと言おうと僕は明日の朝には旅を再開するッ! こんなところで足を止めている暇は僕にはないんだぁアアア!!!」


 なのに──。


「ハァ・・・ハァ・・・」

「リアム・・・」


 僕は決して前に出ない。

 僕は決して自分から危険に飛び込むような真似はしない。

 僕は決して感情に振り回されて命を危険に晒す馬鹿はしない。


「ハァ・・・ハァ・・・だからッ・・・今晩だけならッ手伝ってあげてもいいですよ」

「て・・・つだう?」

「敵の居場所を探知します。居場所が正確にわかれば、数の有利は此方にあるのだから叩けないこともないでしょう」

「子供が何を言っている? 手伝う? 悪いが子供の戯言に付き合っている暇は──」


 答えが見つからないで悩み続けるのは辛い・・・1秒でも。


「僕はAランク冒険者だッ!!!」


 手伝うだけだ。主力にはならない。それでいいというのなら、手伝おう・・・僕は、何を言ってるんだ?


「ただし宣誓を行ってもらう! 村人全員にだ! 一切外部に協力者ボクの情報を漏らさないと!」

「し、しかし公爵様から派遣された騎士にはどう説明を──」

「村長ッ!?」


 昨晩、村長は僕のギルドカードを見ていたな。というか僕から見せた。こんな子供がとにわかには信じられない事態だったろうから、偽造なり、それなりの警戒はしていたようだが。


「それなら彼らにだけは村長さんから真事を話してもらえれば、それだけは許します」

「どうして──」

「そこのところは、まぁ、彼らは僕のことをよく知ってるので」


 約3年間の週に数回、足繁く通った城の人とはもう顔馴染みだ。そうでなくとも、あの街で僕らは顔を知らぬ者はいないほどに有名だった。


「イデアッ!」

「はい。範囲は犯人が潜伏していると思われる夜月の森に絞ります。昨日通ってきたときにとったデータから・・・精密な探知に必要な魔力は約30万」

「なんだ、どこからともなく知らない女の声が──」

「こんばんわ、アンクトン村のみなさま。私はイデア、リアムの契約精霊で」

「もう少し節約できないの?」

「夜月の森と呼ばれる夜血森は一部満ちている属性によって例外はありますが魔素が濃く、それでいて栄養が補われた豊富な自然が織りなす土地に獣が集まり、それを求めて集まる魔物や獣そのものが変異するような因果サイクルを持つ森のことですから、したがって森に満ちた魔素を潜り抜け、尚且つ、魔物と人とを区別するのに必要な量となっています」


 魔素が濃ゆい場所に探知をかける手段は主に3つ。自分の魔力に自然の魔素を染めながら干渉し枝葉を伸ばすもの、その逆に自分の魔力を魔素に似せることで溶け込むように感応するもの、しかしこの2つはどちらもジワりと魔素の変化を待たないといけなかったり、分析に時間がかかったりで森の全容を把握できるほど順応するためには時間がかかる。その分消費する魔力は最後のソレより少なくて済むわけだが──。


「契約精霊? だがどこに──」

「これまたけったいな・・・」


 イデアが淡々とリアムのオーダーに従って説明をこなす。それを聞いていた村人たちは新たなる怪奇に恐々としていた。


「無作法をお許しください。この村には精霊使いがおりませんので姿が見えぬ精霊は珍しいのです。アンクトンには正光教の教会で1年修行してきた村長ワタシしかおりませんので・・・」

「大抵の精霊使いは実体に近い幽体を持つ精霊を呼び出し力を行使しますから、私の場合はどちらかというと特殊なので、要するに私が特別なだけなので無知を恥じることはありません」

「左様で・・・」

「無駄話は後で──!」

「そうですね・・・では、対象に巨大なエゴの影を落とします・・・なんて、いきますよ──ジオスペース・ストーム」

「──バースト」


 東の方角へと構えられたリアムの掌から放射状に広がる莫大な魔力が発射される。


「な、なんて凄まじいエネルギー!!!」


 巨大な磁気嵐まりょくが吹きつけ襲い、森の地磁気まそが減少する。手から離れた巨大な役割を与えられた魔力は森の全体を囲うように反対側へと走り──。


「リングカレント」


 さらに、森を東へと打ち寄せ突き抜けた魔力が、引き際から再び森の中を通ってリアムの手元に次々と戻ってくる。。


「解析」


 力任せの探知のため幾ばくかデータにノイズが走っているが、それでも──。


「見つけた・・・」


 多少ノイズで揺らめいているが間違いない。森の北の方に、魔物でも獣でもない人型の影が2つ、一つはアニーの魔力だ。 


「なんだ・・・風が変わった・・・それも目まぐるしく」


 四方を木に囲まれた森の中で、誘拐犯もまた、森に起こった変化を感じとる。水に変われば全てを押し流してしまう濁流を、火に変われば燃やし尽くす炎、土に変われば覆い被さる土砂へ、雷になれば黒く焦がす紫電となりて、風とならば全てを根こそぎ飛ばして奪う──。 


「1日目に君が部屋を借りられていなくて前日にジョセフの家に泊まったことから、今日も君を彼の家に泊める様指示があった・・・今となっては・・・それも杞憂だった・・・ッ君は予想以上に危機意識に長けていた。私には部屋を貸さない様言ってあった・・・その前の日から・・・」


 心根に深く突き刺さっている私の罪悪感とその原因を一通り話終わると、手の伸ばしやすい最近から新しい罪が甦ってくる──。


「で?」

「結局、宿は満室だったから・・・どちらにしても部屋は貸せなかった・・・」

「で?」

「でっ・・・って、これで全部・・・」

「あるだろう。お前には告白しなければならない罪が」

「もうっ、もう私に吐き出せることは・・・ない・・・だから助けて」


 喉の奥から裂け焼けるようで喋るのだってやっとなの。


「いいやダメだ」

「どうして・・・」

「俺が聞きたいのはそんな子供を邪険にしただとか、仲良しこよしで手を繋いで飾ったようなねちっこい性根のやりとりじゃない。お前の本質を飾るもの、息に自然と混じる・・・嘘の本懐」

「それだけはよしてッ! 私、もうこれ以上は何もしてないッ──!」

異端審問スリラー だ! 引き続き神に愛されるこの時を楽しもう!!!」

「こ、こないで・・ッ」

「この俺に魂の奥底をさらけ出しなァァッ!」


 バカな娘だ。礼拝堂の聖者物語の展示のように壁に貼り付いて。


「助けて・・・」


 それでも容赦はしない。もう一方の聖道に生きることこそ俺の掟だ。 











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