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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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273 title...Philia

「ハァ・・・」


 茂みの中からだろうが、葉と枝の間からみる空は空。青は青。いくら嫉妬しようと愛する人はもう他人のもの、それに虚しくて、でも私の忠誠は消えない・・・このまま、私は仕事以外の生き甲斐を失くしてって、そして・・・生き甲斐まで失くすのはイヤだなぁ。


「クンクン・・・」

「スンスン・・・ワン!」


 ・・・見つけた。


「キャッ! ど、どうして私の居場所が!?」

「ニオイで・・・」

「そ、そう・・・それでどうしたのティナちゃん。あなたが私に用があるなんて珍し・・・私を探してたんだよね?」

「はい。今日はお願いがあってきました」

「・・・?」


 今日はブラームス様に呼ばれたリアムについてきて公爵城に来た。だからちょうどいいと思った。この人なら、もっと私を強く、そして、リアムに相応しくしてくれる。


「ウィリアム、アイナ、ヴィンセント、リンシア・・・今日は私の召集に応じてくれて礼を言う」

「・・・今日、お話になるのですね」

「ああ」

「娘はリアムくんと、それからミリア様と一緒の別室で?」

「特にまだあの子にも何も話してはいないのでそれで良いかと。今頃、2人はミリアの土産話に付き合わされている頃ね・・・困らせてなければ良いけど」


 ウォルター達がスノー捜索の旅に出てあれから1ヶ月が経とうとしていた。テール攻略完了、及び、スノーの件の報告をしに王都に出向いていて、多少の冒険者人口の流出やインバウンド、これからのダンジョン運営などの方針を整理してつい1日前に帰ってきたと言うのに随分と精力的ではないか。


「久しぶりの王都はどうだったよ」

「昔の馴染み方にもたくさん面会なされたのでしょ?」

「うむ。やはり帰郷とはいいものだ。しかし懐かしい部分もあるが、同時に、相伴に預かろうと群がる欲に塗れた輩の多さにへきへきとした」

「だろうな・・・それで、あいつらの反応はどうだった?」

「なにも・・・誰もお前のことには触れなかった。リアムの演説はあまりにも衝撃的であったし、通商業等を通じて話は確実に広まっているはずであった。しかしなんのモーションもかけてこなかった。つまり民の耳にお前の生存と出生話が入ろうとも奴らは沈黙を貫くと言うこと」

「それで良い。それが一番面倒はないんだ。互いに知らんフリをするのが一番だ」

「お前が羨ましいと思うことも偶にある。だが、私は公爵であるからな・・・投げ捨てるわけにはいかぬ」


 リアムの名誉を守るために話させた真実であるけれども、やはり真相は闇の中。当人達でしか実証のしようがなく、奴らが激怒することもなければ沈黙を貫くと言うのであればこちらもこれ以上火を煽る気はないし、それで良い。


「結局、カミラたちからまだ報せはないと・・・」

「だな・・・今頃どのあたりにいるのか、そろそろ報告があっても良い頃だと思うんだが・・・」

「・・・そういえばウィリアム、アイナ、ブラッドフォード夫妻! 王都で聞いた面白いニュースが一つあるのですが!」

「おおそうであった・・・実はな? 来年度、王立学院の中等部にユーロから正光教会の聖女様がご留学なされるらしい」

「おいおいそれマジか? ・・・来年度?」

「そうだ。丁度来年度、娘達が入学するタイミングでのこと、年齢からして同級生となるからきっと皆の学校生活はより刺激的なものになるだろう」

「そ、そうか・・・そ、それは学院中が湧くだろうなッ!」

「お、おう、そうだなッ!」

「ですな。彼の法王様とも一線を画す神に選ばれし聖女様が同じ学び舎で学ぶことになれば、学生達は活気付くでしょうな」


 ヴィンセントが言ったように、本来なら喜ばしいビッグニュース・・・だが、俺はキョドってしまった。何故って、何故来年なんだと、だってリアムは・・・。


「・・・あなた」

「・・・ハァ、やはり話さねばならぬか」

「・・・なんだよ」

「土産話といえばもう一つ、まだ確証はない噂で、こちらはあまり進んでお前達に話したくはないが伝えておかねばなるまい」


 なんだ、その複雑な表情は。たかだが噂ではないのか・・・嫌な予感がする。


「噂・・・そう、妙な噂が上流階級の間で出回っておった。昨年あった宝物庫荒らしは覚えておるか?」

「覚えている。王城の宝物庫に賊が入ったとか、おかげで王族の方々は王の甥の祝い祭であるにも関わらず予定を繰り上げて帰還なされた」

「そう、それでだ。ハワードがお前やリアムのことに触れなかった代わりに、奴らの家の内情についての噂で・・・」 


 それからブラームスはとある噂についてウィリアム達に伝言つてことを広げる。しかしその内容は──。


「今、なんて言った・・・」

「だから去年の春、パトリックの結婚式が終わった頃に起きた宝物庫襲撃事件からのことだ。初めに話した吉報に合わせるように・・・どうしたウィリアム、アイナ、お主ら顔が青ざめておるぞ」


 その噂を聞いて俺はしばらく、放心してしまっていた。昔、貴族社会に身を置いていたからこそよく知っている。・・・出所のない噂はない。


「エリシア? それにミリアも?」

「リアム? リアムもブラームス様に呼ばれたの?」

「うん・・・ミリア、何か聞いてない?」

「いいえ、私も何にも聞いてない・・・なんだろ?」


 てっきり呼ばれたのは僕達だけだと思ってみれば、少し大人同士で話があるからと通された別の客室にはミリアとエリシアがいた。


「3週間ぶりくらいかしら?」

「そうだね、久しぶりの王都はどう」

「そうそう! 王都! 昨日王都から帰ってきたわけだけど──」


 それからはミリアの王都での話を聞かされた。王都にあるこの国で一番大きい劇場であった演奏会を聴きに行っただとか、挨拶にやってきたお客さん達にダイアナがすごく人気だったとか、王都までの道すがら途中経由した領地の話まで、そんな彼女の土産話が始まってからしばらく、窓の外を眺めていると──。


「失礼いたします」

「私たちが学院に行く時も経由するらしいわ」

「へぇー、それじゃあ立ち寄った時に案内してくれる?」

「いいわよ。おいしいケーキ屋さんがあってね」

「・・・失礼いたします」

「ど、どうぞー!」

「失礼いたします・・・ありがとうございますリアム様・・・さて、皆様、別室で主人と保護者様方がお待ちでございます」


 ホスト側になるミリアが話に夢中で気づかなかったので、慌てて代わりに僕が返事した。執事さんが呼びに来たので、女子トークはここまで。


「どうしてみんないるの?」

「ミリア、私、リアムの親が勢揃い・・・」

「父さん、母さん・・・これは・・・」

「友人と別れてからようやく寂しさをごまかせるようになってきた頃、こんなことを今3人に告げるのは偲びないが、こちらものんびりとはしておられんのでな」


 どうしてみんなここにいるのだろう。ウォルターのことで何か進展があったのか、しかしならばマレーネとレイアがいないのはどうしてか・・・僕の疑問に答えたのは、ブラームス──。


「リアム。お前に我が娘、ミリア・テラ・ノーフォークとの婚約を申し出る」


 ──そして、単刀直入に。


「パパ!?」

「ミリア、お前に拒否権はない。これはノーフォーク家からの正式な申し出だ」

「えぇ!? で、でも!?」

「嫌なの・・・?」

「嫌じゃない!・・・あ」

「それで、どうだろうかリアム」

「どうだろうかって言われてもそんな急に」

「すまんが、前置きしたように我々にもあまり時間が残されていないのだ」


 今の反応からしてもう一人の当人のミリアもこの事を知らなかったようだが。


「まず、本題に入る前に・・・エリシア。ミリアとリアムの縁談話を進めるにあたり、ブラッドフォード家には改めて爵位を与えることになる」

「爵位・・・?」

「うむ。今度は一代のみにあらず、ヴィアー領から分けられたブラッドフォード領は正式に割譲され、国も認める男爵位をエリシアに与えられることとなった。今回の遠征でそうなるよう兄上には話をつけてきた」

「わ、私が貴族? で、でも、どうやって・・・」

「ダイアナをお前達からの国への献上品としたのだ。国はこれで初めてダンジョンの至宝、ラストレガシーの一つを所有したことになる。それほどの大義があり、尚且つ、当代ブラッドフォード家当主ブラック・ブラッドフォードは一代貴族の名誉を与えられた者である。その血を引く名家の出でありながら、テール攻略にも大きく貢献したメンバーの一人であるともなれば新しく爵位を与えて」

「僕は爵位なんていらない」

「・・・そう言うだろうと思った。しかし言ったであろう。その血を引く名家の出ともなれば・・・であるから、今回爵位を与えるのはエリシア・ブラッドフォード」


 ブラームスは、両腕を組んで話を遮った無礼に僅かに害された気分を飲み込むと・・・?


「・・・はい?」


 何を言い出すんだこの中年は。彼女が貴族になる? それだと、必然的に──。


「系譜が男爵バロンに相当する一代貴族の爵位を得ていることもあって、今回、ブラック・ブラッドフォードから男爵バロンの継承を特例を持って許すこととした」

「家の経営する商会の運営は既に私に投げられている。その昔、爵位などやれるものならさっさとやりたいとも溢してもいた。これまで放浪を続けていた父に孫娘に急遽爵位を移すことになったと言っても文句は言えぬだろう」

「それにお義父様は魔侯爵の爵位もお持ちでいらっしゃる。ブラッドレイク家の現当主でもあらせられるのにこの国でも爵位を持つ理由はお義母様のローズ様がこの国の貴族の出であるからです。そして、ローズ様の子供はヴィンス一人ですから他の兄弟達にも一応は筋が通るようになっています」

「リアムには爵位を継ぎ女男爵バロネスとなるエリシアと改めて婚約を結んでもらう。そして、ミリアとも」

「複雑すぎで意味がわからない。そもそも家の位からして、仮に僕がミリアとも婚約した場合、なら実際に僕とエリシアが婚姻するタイミングは? 婚姻していなければ、所詮僕はただの平民だし、その辺の問題とかどう解決するつもりですか?」


 ──妻の序列はどうなるのとか、感情抜きにシミュレーションすればパッと思いつくことがいくつかある。


「その辺りは手抜かりない。全てひっくるめて解決する」

「ひっくるめて?」

「婚約に際してお前達には契約書を書いてもらうこととする。また契約には現在伯爵(アール)を名乗るパトリックにも参加してもらう。既にパトリックも承諾済みだ・・・世襲によって我々の持つ爵位は全てパトリックに受け継がれるから、いずれは独り立ちすればミリアには名乗る称号が無くなるわけだ」

「だ、だからと言って公爵家、それもこの国の王家の血筋をミリアが継いでいることに変わりない!」

「その通りです。もし爵位を持たなかったり、その辺の広場で捕まえてきた子供と婚姻でもして子を設ければ王家の血の気品が失われる。諭し方が悪くなって申し訳ありません・・・ですが、エリシアさんを貴族とし、かつ、格式を重んじなければいずれ爵位を受け継ぐパトリックが困るのです」

「であるから、契約を結べば仮に反故にした場合に莫大な違約金を払うことになる。不幸中の幸いか、この問題に一番首を突っ込んできそうな家はそこにおるウィリアムとの様々な確執のせいで無闇に藪をつつけない」

「家に迷惑をかけないため、だけどそれって僕に何のメリットがあるんですか?」

「ミリアが娶れる」

「ッ・・・でも、契約を結ぶと言ってもそれだけの建前となれば違反すれば相当の違約金が取られるはず。そしてそれはそちらもまた同じ。契約を遵守しないと・・・」


 必死に食い下がる。なんとかこの申し出を断る口実を探しながら、且つ、場を丸く納めるために、しかし──。


「我々のデメリットは心配するな。確かに私もお前も契約を結べば相手方に多額の違約金を支払うことになる。しかし多少の痛手であるが、公爵家ならば払えぬ額でもない。だが、4月にあるお披露目会でミリア、並びに、エリシアには婚約者がいることだけを発表させるから、それほどの博打であることに変わりはない・・・お前は4月に学院には入学しないのだろ?」

「ですが──」

「そう聞いておったが、違うのか?」


 どんどん、僕がミリアと婚約を結ぶ方向へと話が傾いていく。契約のある婚約書。そもそも、婚約自体が一種の契約であるが、文書にしたためるとなると、約束の効力は契約となりて、法的な拘束力は一気に跳ねが上がる。


「パパ、ママ・・・」

「エリシア、私たちも既に了承したことだ」

「あとは、彼の気持ち、そしてあなたの気持ち次第・・・」

「父さん、でも僕は!」

「・・・もう、ブラームス様もマリア様も、ヴィンセントさん、リンシアさんも知ってる」

「・・・知ってる?」

「私たちから話したの・・・」

「・・・何を?」

「・・・俺たちから話した」

「だから何、を・・・」


 ブラームス達に断る理由を尽く詰められて壁に追い込まれていたリアムであったが、これまで自分が秘密にしてきたある事柄をこの場にいる大人達が知っていると、父親と母親の俺たちから話したと聞いて・・・なんて、胸を締め付けられる視線、声、表情、震え・・・しかし・・・言えないッ。俺たちだって事前に相談してお前の気持ちを最優先に考えたかった。だが、最初の方針を捻って、蹴って、叩きつけて、何度もハンマーや斧を使って叩き折ってお前への相談もなかったのは俺の罪と愛故なんだ。なにせこれもまた、俺が背負った業とそれからお前が背負ってしまった役目のせい、なんだ・・・結局は俺の業に収まるのだが・・・許してくれ。 


「僕は父さんから名前をもらった」

「そうだ・・・」

「母さんがお腹を痛めて僕を産んだ・・・」

「そうよ・・・」

「それじゃあなんで、2人を信用して、懺悔して、話したことをどうして──ッ!!!」


 この時、僕は腕を大きく振って抗議するのだが、その後、直ぐに身を屈めた。・・・気持ち悪くなった、嗚咽しそうに、吐きそうになった。


「どうして・・・」

「大丈夫かリアム・・・」

「放っといて・・・」


 不意に裏切られたと思った。


「リアム・・・?」

「放っといて! じゃないと僕はここで──!」


 ・・・号哭してしまう。


「リアム! こっちを見ろ!」

「・・・ッ!?」

「お前は・・・勇者、なのだろ」


 怒鳴られてビクついて、恐る恐る僕は顔を上げる。しかし溢れ出しそうな涙を堪えるのに必死な僕の拒絶を頭越しに大声で怒鳴りつけた後に、そのまま怒鳴り続けるでもなく彼は宥めるようにそう訊いた。


「──    」


 この時、僕は混乱した。僕はてっきり、彼らに僕が・・・僕が・・・。


「どう、いうこと・・・」

「リアム・・・俺は昔、お前と同じ境遇の人を知ってるって言ったよな」


 一瞬、なんのことだかわからなかった。だが、その時の事を詳しく尋ねる事もなく、直ぐにウィルがどれのことを言っているのかわかった。自分が転生者だと告白してから、指で数えられるほどしか転生のことについて積極的に触れることはなかった、家族だからこそ必要なかった。そして・・・多分、あれだ。僕が転生者であることを初めて話した時のこと。それじゃあ、やっぱり過去の勇者は──。


「言った・・・じゃあそういうことなの?」

「・・・そういうことだ」

「じゃあ父さんと母さんは・・・」

「ブラームス様とマリア様がこのことを知ってるのを知っていて話した。つまり、お前が最も大切にしている思い出の一つを俺らが勝手に話したことには変わりない」


 秘密のタグにさらに付けられたタグ。


「・・・私の両親は共に聖戦で勇者のパーティーに加わり戦った。一つ知れば後は芋づる式に・・・だ」

「私は・・・知らなかったから、さっきヴィンスに教えてもらいました」

「・・・最初に話すべきだったのかも知れない。だけど僕は・・・僕は自分を守りたかった」

「そうか。そして、既に君とエリシアの契約は結ばれている」

「・・・はい」

「ウィリアム殿に聞いた。勇者の称号を得たのはエキドナと君が一線を交えた後のことだと」

「そうですが、契約を結んだ時、別に記憶がなかったわけじゃない」


 ・・・彼らも既に承知している。そして、その上でこの話を進めている。


「エキドナを必死に助けようと雷に打たれ、耐えて、そして一人の女性を救うことだけに集中するあの時の君を見て、私は思ったよ・・・ああ、だから君が・・・と」

「私もあなたに助けてもらった身で、家族ぐるみでこれまでもたくさんお世話になった。・・・でも、親の葛藤や拒絶は子供が自ら下した決断を前にしては実はあまり重要ではない。一番は・・・本人同士の問題」

「・・・はい」

「こちらはこれからの話だからな。お前が憂いていることであれば、ミリアには私から話す。それが、この話を初めに持ち出した私の責任だ」

「あ、あの・・・なんの話?」

「あなたの縁談の話ですよ」

「そ、その・・・」


 ・・・頼むから、そんな不安そうな目で僕を見ないでくれ。いつものハツラツとした声で、好いてる、好いてないを言ってくれれば僕はもっと楽なんだろう。けれど、彼女は貴族家の娘であり、いつかは家の定めた相手と結ばれる、お披露目会を3ヶ月後に控えて多少なりともそうした覚悟をしていたはずだから、既に家長によって申し出された縁談話においてきっと自分は選択権を持っていないと思い込んでるのではないだろうか。


「いいんじゃないの」

「エリシア!?」

「いいと思う。私も最初はあなたにただ助けてって、助けられて、そして・・・婚約した」

「えぇ!? 2人とも婚約してたの!?」


 今、ミリアを襲う衝撃の事実。確かに彼女は2人がそういう関係にあるのではと言うことには気付いていたが、てっきり3人仲良く縁談をということでエリシアに爵位だどうのの話をしていたのだと思えば、まさか既に婚約までを結んでいたとは思いも寄らない。


「いいよ・・・」

「本当か!」

「あの件についてはミリアにはあなたからお話を。ただし──」

「なんだ、言うてみよ」

「ただし、その前にエリシアに話さなくちゃいけない大切な話がある」

「申し出の拒否に繋がるような話か?」

「いいえ・・・僕からは」

「・・・よかろう。ならば正式な書類を交わすのはその後で良い」




 僕を信じて欲しい・・・




 ──場所を変えて、ゲートを使って僕たちは例の桜のある湖畔へ。


「まずはこれを」

「これは・・・」

「それは・・・ドラウグルを呼ぶための魔石」


 最初は彼女に特別なモノを渡すつもりはなかった。だが、ウォルター、ラナ、それにレイアにも渡してしまった。ならば今更だ。


「けれど・・・」

「・・・君なら、呼べる」

「そうなの?」

「僕の力が、君のなかに逆流した・・・逆流したのは一時的だったけど、その時の影響か・・・強い僕の魔力の影響を受けてか君の魔力質が僅かにこちらに近づいた」


 僅かに、僅かに、彼女の本質を崩さない程に僅かに、しかし、高ぶれば互いが共振し合うほどの媒質に。


「・・・気づいてた。だって、繋がった・・・そう、感じた」

「初めはエキドナと対峙した時、そして・・・アリアの剣城」

「秘密ってソレ?」

「違う・・・これは謝罪。秘密はこれから話す。だけど、僕が秘密を話す前に僕を信じて欲しい・・・僕は君を助けたかった」


 だから去年あの日の祝祭の夜、態と選択肢を残しておいた。


「僕にはイデアがいる・・・ハイドも・・・」


 君なら僕よりも忠実なドラウを、上手に扱える。


「僕はただの人間じゃない」

「それは、この前の夜に聞いた」

「そう。みんなに話したのはそれまで。だけどもう一つ、僕には重大な秘密がある」


 ・・・さて、この後に及んでなんと言い訳しようか。知れば彼女が傷つくかも知れないことは気づいていたし、いつかは話そうと思っていた。だけどまさか初等部を修了しない内にこうなってしまうなんて・・・彼女が一生を棒に振らない選択をするためには、もう少し成長するまで待った方がいいのではないだろうか。


「僕は転生者だ。リアムとして生まれる以前の記憶を持っている」


 ・・・惨めになるな。誇らしく胸を張れ。


「けれど僕はもうこの運命が枷だなんて思わない。例え違う世界の、違う人生の記憶があろうと、これまで生きてきたリアムは僕だ」


 例え、この重大な秘密を隠していたとしても、彼女と交わした約束にだけは嘘がないと、証明しろ。


「それでなのね・・・あなたは確かに物知りだものね」

「・・・同じ齢の子たちからしたらそうかもしれない」

「・・・違う世界って?」

「・・・この世界とは違うところ。そこでは人は魔法は使えないし、モンスターが蔓延るダンジョンもなければ、争いがないわけでもなく・・・だけど僕が生きていた周りは少なくとも平和だった」

「このことを知っているのは?」

「去年のことだ・・・ほら、父さんたちと決闘して、ファウストが襲ってきて、僕が国外に飛ばされて・・・その時に、父さんと母さんには話した」

「ティナは?」

「ティナは・・・彼女とは、転生したか否かそんなところで揺らぐような絆は結んでいない。きっとティナは僕が転生者であろうとなかろうと、関係ないって言ってくれる」

「じゃあなんで私には話したの・・・?」

「・・・良くも悪くも、僕は君に嘘をついたのだと思う。そういう罪悪感があった」

「ふぅーん・・・」

「・・・」

「・・・ねぇリアム。後一つだけ聞いて?」

「どうぞ・・・」






























「リアムは、恋をしたことがあるの?」


























「・・・ある」

















 ──1度だけ。しかし叶わなかった。自分自身で気づくことすら危ういほどの・・・初めての恋だった。だけど、そんなこと今はどれも関係ない。僕の目の前にいるのは君だ。


「そう・・・」


 それだというのに、君の反応がこんなにも気になってしまうのは・・・これまで嘘を吐いてきた、これが僕の罪と罰。


「わかった。他には?」

「ない。以上・・・これが今の僕の全て」

「そう・・・じゃあ私・・・帰るね」


 すると彼女は背中まで伸びた後ろ髪が浮かないほど静かに振り返って行ってしまった。約束も、葛藤も、怒りも、悲しみも・・・何もなかったかのように、話の内容も淡々としていたように思う。しかし気づけば彼女と2人で話し始めてもう1時間が経過していた。


「これでよかったんだ・・・なのにイデア・・・どうしてだろう・・・」


 どうしてなのだろう・・・どうしてボクは今になって・・・。


「どうしてだろう・・・どうしてあの匂いが今になって甦ってくるんだろう! ボクは・・・ボクは・・・もう違う世界にいるっていうのにッ・・・」


 どうして僕は、今になって彼女のことを思い出したんだろう。


「鈴華さん・・・ですね」

「・・・そう」


 エリシアが帰ってからは、桜の大木の根と根の間に腰を下ろすとしばらく膝を抱えていた。あるはずもないあの日の夏の匂いを探して──。




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