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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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270 Cerealia

「帰っていったのね・・・天に」

「わかるの?」

「なんとなくね。それにあの人の表情、なんていうか優しかった」

「それでそれで! リアム、女神様がくれたそのお宝ってなんなの?」

「・・・聞いたら腰抜かすよ?」

「おいリアム! 勿体ぶるなよ!」

「そうだそうだー! 我々はその宝の詳細を知る正当な権利を有しているはずだァー!」


 ケレスが空へと帰っていったのに気づいて、急いで集合した全員は彼女から受け取ったラストレガシーについてその概要を鑑定持ちのリアムに求める。


「宝の名前はゲーの涙、そしてレアーの嘆き」

「ゲー・・・それにレアー・・・なんだか」

「うん・・・僕も思った」


 皆の視線が1人に注がれる。


「えへへ・・・なんか偶然の筈なんだけど、こそばゆい」

「それでそれで?」

「ゲーの涙は荒々しくも偉大なる体躯と黒き体毛を持つ狼との絆を結ぶための魔道具、レアーの嘆きは美しく凛としたしなやかさと白い体毛を持つ豹との絆を結ぶための魔道具。端的に言えば遺産であり、スコルとマーナの子供たちとの契約石」


 彼らはダンジョンモンスターだから、この後もまた復活して冒険者達の前に立ちはだかる壁となるから遺産という言い方もちょっと違うのだが、このラストレガシーの説明としてはこれが妥当だろう。


「・・・は?」


 当然と言えば当然の反応。


「はぁーーー!?」


 当然と言えば当然の当然である反応。


「スココ!?」

「ママ!?」

「ママだったのかは知らないけど」

「パパかママかだったなんて聞きたかったんじゃない!・・・マーナ!?」

「・・・の子供」

「それってつまり、スコルとマーナってことじゃないのか!?」

「そうだけど、成長して強くなっても発揮できる力は精々飢餓くらいまでだって。あそこまでの力を持つには相当な年月がいるみたい」

「バッ!それでもスゴイ強いことに変わりはないだろ!」


 スコルの見せた超飢餓については適当なことを言って誤魔化しておく。それでも成長すればエリアGに生息する灰靇ハイロウ雷雹ライヒョウよりかは全然強いかもね。


「通常状態でさえ、熟練の冒険者パーティーでも1頭倒すだけでかなり苦労するってのに」

「その強さ故か、今回これは契約石なんだけど契約を結ぶためにはテイムのスキルがいるらしい」

「相応の力にはそれ相応のランクが必要ってこと?」

「そういうこと」


 流石レイア、理解が早い。だが──。


「でもテイムの制約があっても契約石ってことは・・・」

「報酬を得られる人間が限られるわけか」

「ン・・・たしかに」

「それで問題は、誰がどっちと契約を結ぶかってこと」


 さて、ここからが問題だ。


「俺はパス」

「ゲイル? えっ、一番に欲しがりそうなのに?」

「だって俺、テイムのスキル持ってねぇし」

「テイムなら・・・ン、なんとか後付けできる」

「それでもだ。アイツらのせいで散々な目にあったのに、ソイツらと契約すればしょっちゅうその面影を見ることになるわけだろ?・・・正直言って今回の戦い、俺にとっては確かに成長に繋がったがあまり内容は思い出したくねぇし」

「俺もパス」

「ウォルターも!?」

「俺にはブレイフがいるし、今回の戦いでこれ以上の力は分不相応だと感じた。何よりたった1頭の相棒を大切にしたい」

「あの・・・私もパスです・・・私はあくまでもサポートでバッファー・・・今回の戦い、もちろん胸を張って戦いに勝ったとは言えますが、血を流して戦った皆さんほど貢献できたとは」

「なら僕もだな・・・魔法を使わせれば超一流だが、今回の戦いで僕の才能が一番役に立ったというほどスプリングフィールドの男は烏滸がましくない」

「私もフラジールやアルフレッドと同じかな・・・それに、今回の戦いでもう一人の私の中のパートナーの名前を知れたわけだし・・・」

「それなら私もー! 折角名前を知れたんだからまずはララともっと絆を深めたいかな!」

「あの・・・私が貰えるなら・・・リアムに・・・」

「んー・・・私は・・・」


 まさか10人中7人もの辞退者が出るとは思わなかった。つまり残ったのはまだ迷ってるエリシアと、僕と──。


「ヒュ〜♪ヒュ〜♪」


 ・・・下手くそな口笛を吹いているミリア。


「ミリア・・・」

「ヘッタクソだな」

「んな!? 下手くそな口笛なんて吹いてないわよ! 今のは素晴らしい口笛だったから、決して私が欲しいな〜なんてアピールじゃなくて!!!」


 墓穴を掘る才能、ここに極まれり。彼女は自分を苦しい立場に追い込む、つまり生き埋めにする達人だ。


「いいんだよミリア。そもそも1つは君にって僕は思ってる」

「えっ・・・え゛っ!?」


 野太い”え゛っ!?”、いただきました。


「私でいいの!?1つ・・1つってどっち!?」

「レアーの嘆き、つまりマーナ(子供)の方をね」

「すっごく嬉・・・なんで!?」

「なんでって自分が欲しそうだったのに・・・」

「確かに、マーナの方ならミリアにやるのが一番かもな・・・トドメ刺したのコイツだし」

「でもあれだって、みんなの力があったから」

「らしくないこと言ってるんじゃねぇよ」

「せっかく人がしおらしくしてるってのに!」

「そういうのはしおらしいとは言わ・・・ギブギブ!」


 ミリアのヘッドロックがゲイルに決まった。見慣れた光景(こうかはばつぐん)だ。


「それに、この街のダンジョンの最高峰の宝を手に入れて献上品もなしなんてね」

「そんなお父様への義理なんて果たさなくていいのに!」

「ごめんごめんやっぱ今のはなし! 確かに僕の中で公爵家の権威が云々って忖度がこれっぽっち1ミリもないって言ったら嘘になるけど、でも1ミリのそれ抜きにしても絶対に君だ」


 ごめんね、態々言わなくていいこと言って。でもこれを見ている人たちにも・・・ね。見る人によっては・・・ミリアがちょっと嫌な子に見えちゃったら申し訳ないけど。


「君なら将来、民を守るためにこの力を使ってくれる」

「もちろん・・・けど」

「この後に及んで何を気後れしている。お前らしくない」

「そうだよミリア! ここはいつもみたいに”このお宝に相応しいのは私しかいないわオホホホホ!”って!」

「そうです! ・・・・オホホホ?・・・私たちも異論ありません!」

「ケホッ・・・あぁークソッ本気で締めやがって・・・なんだよ・・・まぁ、お前にだったら任せてもいい・・・それでも引け目を感じるっていうなら、将来の商会の代表として俺からは一つ貸にしとく」


 拘束から解放されたばかりでちょーっとゲイルは不満げであるが、他のみんなの意見も賛成だとほとんど変わりなかった。


「ありがとう・・・」

「で、もう一つなんだけど」

「それはもういいだろ」

「そうだよね。それにこうして選ぶの今日2回目だよ?」

「ン・・・2回目」

「リアムだよねー」

「リアムだな」

「お前以外いないだろう」

「リアムさん・・・でもエリシアさんはいいんですか?」

「ん?もちろん私もリアムでいいわよ・・・それに、私も今回の戦いでは別に得るものがあったし」


 やっぱり、全員一致で僕に票が集まった・・・だけど──。


「ありがとう。けれどゴメン・・・僕はコレを使う気はない」

「なんで!? せっかく私とお揃いなのに!?」

「お揃いはちょっと捨て難いけれど・・・見たろ、みんな・・・今回僕がどんな力を使ってアイツらに勝ったか」

「それは・・・」

「人間なんて領域にまだいるって自分では言いたい。だけど、烏滸がましくも自分が並外れていることを自覚していないというほど、謙虚でもない」

「でも何が問題なんだ?」

「力には相応の責任が付き纏う。しかし僕は子供で1人の平民。つまりそれは結局個人の裁量によるものとなり、僕にはとてもではないけど背負いきれない」

「聖人かお前・・・」

「そうですね・・・もっと欲望に忠実になってもいいと思います」

「無欲なわけじゃないよ? 僕に使命を与えようと・・・誰もが躍起になる。それが煩わしいだけだ」


 それにこれから先のことを考えると、10歳でノーフォークのオブジェクトダンジョンを攻略した少年の噂が広がった時、黒狼の子供なんて連れていたら余計に目立つ。


「でもそれだとどうする?」

「んー・・・リアムを差し置いてなぁー」

「だよねん・・・」

「なんか私まで気が引けてきた・・・」

「ミリアは気にすることはないって。ミリアなら大丈夫」

「そうかしら・・・?」

「ンー・・・?」

「うん・・・難しいね」

「やっぱり、使わないにしてもリアムが持ってるのがいいんじゃないかしら?」

「ですよね・・・」

「だが使わないってわかっていて・・・なぁ?」

「だったら・・・ものすごく差し出がましいんだけど、僕が一度預かってそれを与えるのはどうかな?」

「・・・というと?」

「もし辞退して、それでもみんなが僕に受け取れっていうなら、一度受け取った上で僕の好きにさせてもらうけれど、できればみんなに納得してもらった上で譲るなら相応しい人にこの宝を譲りたく思う」

「譲る・・・譲るって誰に!?」

「もちろんこの中から選ぶ。さっきの意見も全部考慮した上で・・・いいかな?」


 くれるというものを拒んだのだから、その解決策の一つは自分が提案するべきだろうと。そこで、僕の裁量で使わせてもらっていいかと尋ねたら、「いいよ」と揃った返事を受け取ることになった。


「ティナ」


 そして、僕は担い手にティナを指名した。


「はい・・・?」


 当の本人はただの呼びかけだと思ったようでピンときていない。だが他のみんなは”なるほど”と、なんとなく僕の意図を察してくれたようだ。


「これは個人的な感想になるけど、どこまでも、どこまでも、僕が離れて行こうが一番に付いてきてティナは一緒にいてくれた」

「はい・・・もちろんです」


 スコルに一人で特攻をかけようとした僕に付いてこれたのは君だけだった。


「勲章物となればここはゲイルって言いたいところなんだけれど」

「言っただろう・・・俺はアイツらと絆を交わすなど御免だ」


 犠牲を強いる君の選択には申し訳なく、そして感謝している。


「エリシアの活躍も、特に最後にパーティーを支えてくれた」

「当然のこと」


 やっぱり強いね・・・君は。これまでもたくさんの危機に直面してきた。ここぞと言う時にリーダーの僕以上にリーダーらしくパーティーを纏め上げた。


「ウォルター、ラナ、レイアにも助けてもらった」

「みんながいたからさ。いい夢を見せてもらった」

「私だって! みんながいないとやっぱり頑張れなかったと思う!」

「私も・・・みんながいてくれなかったら、きっと挫けてた・・・」


 兄妹だからかな。豊富な知識や戦い方の引き出しを駆使して、細かいあらゆる面で足りない部分を補い、パーティーに秩序を、バランスをもたらしてくれた。


「アルフレッド、フラジールは本当にギリギリまで耐えてくれた。縁の下の力持ちで、皆の裏に張り込み、常に護ってくれた」

「まぁ、もう少し目立ってもよかったんだがな」

「アルフレッド様・・・訳すと”照れるからやめろ”だそうです」

「おいッ!」

「中々できることじゃない」


 バッファーというサポート担当は、直接的な戦いに積極的に参加しない分戦いへの感情も入れ込み難い。困難に直面すればモチベーションを一番維持し難い曖昧な位置での戦い、そして彼らは皆、逃げなかった。


「そして、ティナ・・・君の拳の衝撃は空にも轟き、脚は大地をも調伏する」

「・・・大袈裟です」

「大袈裟かな〜?」

「そんなことないよな。ティナの強さはここにいる全員が知ってる」

「そうね。私の拳だって空を割るし」

「訳すと”自分と同じくらいのパンチ力を持ったティナなら文句なく相応しい”って言ってるのさ」

「何!? 今貴族の構文を素直に訳すの流行ってるわけ!?」

「それはいいですね。それでエッセイが書けそうです!」


 フラジールのまさかの執筆宣言に、パーティーに明るく優しいほころびが広がる。


「・・・それに、君がゴブリンの秘薬を飲んだのも偶然には思えない。尤も、スコルの子供と一緒に走れるくらいの韋駄天の脚を持っているのもティナしかいない」

「俺のゲートだと隣を走るのは確かに無理だ」

「それはティナしかいないな」

「だね」

「やったよティナ!」

「よかったですティナさん!」


 みんなの視線が一致したところで、パーティーの中でも最もティナと仲の良いレイアとフラジールが手を取って祝福する。


「リアム・・・私は・・・」

「僕としてもすっごく助かるんだ・・・家族のティナが受け取ってくれるなら、みんなの好意も無碍にはしなくて済む」


 どうだろう・・・と、僕は戸惑う彼女から精一杯の安らぎを得て、首を傾げて尋ね返す。


「あ・・・ありがとうございます・・・みんなッ」


 ・・・受け取った。──これでいい。


「おめでとうミリア、ティナ!」

「おめでとう」

「おめでとさん」

「おめでとう!!!」

「ありがとうみんな!」

「もう少しだけ・・・」

「いいよ・・・おめでとう」

「はい・・・おめでとうございます」


 ダンジョンの中でも最高峰の宝を受け取る人間が決まると、パーティーは今一度祝福にワッと沸く。ティナはその後1分か数分間、抱きついたレイアとフラジールの胸から離れられなかった。 


「おめでとうミリア、ティナ・・・」

「・・・よかったな」

「ありがとう」


 僕はしばらく祝福に湧く仲間達を見守りながら、スッと隣から拳を差し出してくれたアルフレッドと、コツン、と──。


「コントラクト」


 バチバチと、空に描かれた祝福の祝詞が弾けようとしているから、2人は急いで呪文を唱える。


「はゎぁ・・・!」

「ッ・・・!」


 魔法鍵を唱えると、それぞれの魔石から炎のように、赤い魔石から紅炎のように弾ける炎、青い魔石からは触れたら逆に凍てつきそうな青い炎のような魔力が立ち昇る。


「熱と凍りの象徴」


 魔石は魔力を放出しながら、2人の掌の中に吸い込まれていった。するとそれぞれの右手の甲に葉をつけない枯れ木の紋様が焼き付いて浮かび、そして、消えていく。


「雷みたいだった」

「ビリビリきました・・・」


 確かにそうも見えたかもしれない。そして彼女らの手に証が刻まれた・・・一度選んだら後戻りはできないってことだろう。


「さぁ・・・帰ろうか」


 お披露目は後からでいいだろう。契約をしたから、そろそろ送還の時間だ。 







「みんないる?」


 弾ける光華に切なさを覚えて終わりを感じながら、目を瞑り深く息を吸って、そして吐き出して目を開くと、そこには見覚えのあるちょっと不気味な門が建っていた。


「あれ・・・?」


 どうやらまた僕が戻ってくるのが最後になったらしい。


「こっちだリアム」


 すると、建物の外から僕を呼ぶ仲間達の声が聞こえてくる。


「誰もいない・・・」

「どうなってるんだ・・・」

「さぁ・・・」

「もしかして僕が避難させるように言ったから・・・」

「そんなこと言ってたの?」

「映像越しにダリウスさんにね・・・それにしても勝ったからもう何人かくらいは人影があってもいいと思うんだけど・・・」


 不気味なことに、建物の外、ダンジョンの転送陣前広場にはアリアのメンバー以外の人が一人としていなかった。


「とにかくダンジョンの外に出よう。きっと外になら人がいるよ」

「よし、いくか」


 喧騒の温もりを探して、僕らは転送陣のある建物へと急ぐ。しかし、いつもならギルドの係員さんが1人か2人はいる地下の転送陣広場にもまた、人っ子1人いなかった。


「あれー・・・?」

「あー・・・なるほど」

「そういうことか」


 だけどこういう時、魔力感知系の心得がある者たちは鋭い。ラナとゲイルはもう気づいた様だ。


「夢だとしても、まさか街まで無人ってっことはないでしょ・・・ないよね?」

「んーどうだろうねぇ・・・もしかして私たち、まだ野営中・・・いや、それどころかベッドの中なのかも」

「や、冗談はやめてよ・・・冗談だよね?」


 もし今日のこれまでが夢だったのだとしたら、なんとも長く恐ろしい夢であろうか。恐る恐る、誰もいない回廊を出て建物の外に出ると──。


「おめでとーーー!!!!!!!」


 スコルのメガフラッシュにも量は負けない嬉しい祝音が大気を震わせた。


「さぁ、本日の主役たちの帰還です! アリアの皆さん、こちらのステージまでどうぞ!」


 ナノカの声が人の壁の向こう側から聞こえてくる。すると、壁がザザッ──・・・2つに割れる。綺麗にケイト達スクールの職員が今日の日のために増設した屋外ステージまで続く道が現れた。


「おめでとう!」

「よくやったぞ!」

「かっこよかった!!!」


 僕たちがステージに上がると、広場を埋め尽くす観客たちから嬉しい声が届く。


「アリアの皆さん、本当に、本当に、登頂おめでとうございます!!!」

「おめでとうございます!」

「ありがとうございます・・・そう言えば、お二人とこうして舞台の上で話すのは初めてですね」

「そう言われればそうかもしれないですね」

「そ、そうです!!!」


 ものすごい歓声を受けて照れを感じながら、見知った顔のナノカとリッカと言葉を交わすことで舞台上での平静さを保つ。


「さて・・・今、この広場にいる全ての人たちは、ついにテールのラストボス、スコルとマーナを攻略したアリアを祝福するために集まってくれた方々です! そこで是非、リーダーのリアムさんからコルト登頂を達成された今のご感想を頂いたいと思うのですが、よろしいでしょうか!」


 緊張と照れとに僅かに手を震わせていると、ナノカが徐に拡声魔法がかかった魔道具を差し出す。僕はそれを受け取る事で、要求に対する承諾とし──。


「まずはアリアのみんなに。こんな自分勝手な僕にここまで付いてきてくれて本当にありがとう。僕は本当にいい仲間を持ちました」


 そう言って、隣を振り返ってスピーチを始めた僕を今も見守ってくれているみんなを一度見渡して、また、姿勢を正す。


「しかし仲間たちの力を借りても、今回の戦いは各々が何度も気を失いそうになるほど、時には本当に気を失ってしまうほどに激しい戦いになりました。熾烈を極め、極寒の厳しさを知り、何よりも稲妻の偉大さと恐ろしさを知ったゲームだった。仲間たちも、そして僕もあれだけの強敵になるとは想像だにしていなかった・・・流石はこのダンジョンの頂点にして天に座していた2頭でした」


 今、僕は仲間たちの正直な気持ちをリーダーとして代弁し喋らなくてはならない。初めに恐怖・・・如何に敵が強く皆どれ程に巨大な恐怖と対峙して、それでも折れることなく最後までやり切ったのか、誇らしい仲間たちに敬意を評して演出しなくてはならない。


「・・・」


 ・・・しかし、恐怖を演出すれば、声に出すほどに誰しもがとある謎に鉢合い、直面する。


「スコルとマーナの強さは、尋常じゃなかった。僕はあの血と激しい閃光の混じった天空より落とされた雷を、戦いの最中に恐れ慄きついつい血漿雷と表現しました。マーナが自らを犠牲にして生み出したあの恐ろしい雷を受けて、既に息絶えていたスコルが常識では到底考えられない復活を遂げた瞬間は本当に、身震いし、そして心底信じられなかった。・・・事実、あの様な事は滅多にあることではない。あれを生み出した原因は、そもそもマーナの生み出した雷を継続してずっと上空に溜め続けた僕にある。・・・と、同時に、血漿雷により復活したスコルの異常性を明らかにすればするほどに、そして僕のミスを浮き彫りにしていくほどに、反面、反面、反面、誰しもが不思議に思うのではないでしょうか。・・・マーナの血を継承したスコルを目の前にしてどうして若い冒険者でメンバー構成されたアリアが・・・独りで突っ走ったまだ10歳と幼い僕が復讐の権化に狩られる事なく渡り合えたのだろうかと」


 通夜に寝ずの番をするのは医療技術がまだ十分に根付いていなかった頃、不確かな診断の所為で死者が甦るかも知れないことから寝ずに死者を見張っていた風習の名残であると聞いたことがある。しかしイデアの解析を施した確かな死亡宣告を受けた上で、血漿雷によって復活を遂げた事は魔法という概念があるこの世界の常識をもってしても包摂することはできない。アナザーワールドの魔法のほとんどは、等価交換で成立するほどに万能ではない。  


「まさか・・・リアムのやつ・・・」

「いいんだ・・・もう10年は経つ・・・リアムも大きくなった・・・そろそろはっきりさせよう」


 これからの準備があるブラームスらと別れて、広場の一角にて、ウィルたちは舞台から遠く離れた場所で人混みを避けながらリアムのスピーチに耳を傾けていた。


「恐れることはありません・・・少なくとも、正体不明の人並みを外れた力を持つ子供の素性が知れないからと恐れる必要はもうない。こんなに素晴らしい祝いの始めの挨拶で、私情に塗れた告白をする・・・申し訳ない。しかし僕もこうして到達者となった今、これだけは譲れない。・・・そう。マーナがスコルの血を継承した様に、僕もまた、一人の血の継承者であります。・・・1人の英雄の血を継いだ子なんです」


 シン──と、会場中が静まり返る。英雄とは一体・・・、彼の血筋はこの街に住むものなら結構な人間が知っている。しかし、それはタブー。英雄と呼ばれた過去を隠す彼に触れるのは御法度だから、ならばと一方で別の人物を思い浮かべてしまう。絶望的な脅威に立ち向かったかつての勇しき英姿の知らぬ影を彼に重ねてしまう──。


「僕は・・・ウィリアムの息子だ」


 まさか彼ならそうではないのではないだろうかとも思ったが・・・思いなしだった。


「僕の抱える秘密はとてもデカい。ウィリアム・ギルマン・ハワード・・・かつて王都のオブジェクトダンジョンの一つを仲間と攻略して解放の英雄と呼ばれ、10年以上も前に王都より姿を眩ませたハワードのウィリアムこそが僕の父親です」


 みんなのために設けられた場所で、一端とは言え、私的なとある貴族のお家事情をこの場で公表するのは忍びない。・・・だけど、もし戦いの最中にアノ称号を僕が持つことを匂わす様な力を見せてしまった時はそうする様に言われている・・・英雄の息子という関係だからこそ、隠れ蓑としては無難である。


「おい良いのか・・・みんな確信はあったが、否定もできたのに・・・」

「ウィリアム・ハワードって死んだんじゃ・・・」

「初代アリアの強さを知ってる奴なら死亡説がデマなのは大抵知ってる」

「じゃあどうして英雄の息子がこれだけ活躍しといて今の今まで話題に上がらなかった」

「禁句だからだよ・・・爵位を持ってるのはあくまでもハワード家だ。それに公爵家にも匹敵する権力を持つ貴族様のお家事情に頭を突っ込む様な噂をコソコソ流して死刑にでもされたらたまらない」


 思い過ごしに終わったが、それでも十分に爆発力のあるリアムの突然の爆弾発言に、会場中がどよめく。どよめきの種類は、困惑──。


「言っちまった・・・」

「俺からそうする様に言ったんだ」

「これでよかったのよね・・・」

「これでいいんだ。ハワードの影がリアムを危険視する目に疑心を生む。逆にハワードを恨む奴らなら俺たちの境遇を知っているだろうから、同情もしてくれよう。何より今は、俺たちがいるのはブラームスのお膝元であるからな・・・」


 安全危険で言えば、これから先もずっとこの街に居るのが一番安全だ。しかしリアムはそれでも旅に出るのだろう・・・俺たちに旅に出たいと話してくれたリアムはそれほどの決意を漲らせていた。

 旅先では自分からハワードを名乗りさえしなければ早々に身元がバレることもあるまい。ただ一つだけ、まだ10の齢にして親の俺らでも達成できなかった偉業を成し遂げたお前のこれからの成長を側で見られないことだけが残念でならない。


「何よりリアムは貴族じゃない。ノブレス・オブ・リージュを強制されることはないのだから・・・」


 既に一財産築いてはいるが、家名も持たないリアムに爵位なんてものはない。だからこれから先も自分の選択で己の社会的な立場を模索していくことになる。しかしもしミリアとの婚約を結ぶのならば、もれなく公爵家の威光がついてくるからそれならそれでいい。


「私、エリオットを迎えに行ってくるわ」

「あ、私もスノーを迎えに行きます!」

「いいのか? 凱旋を見てかなくて?」

「どうせ人が一杯でリアムたちには近づけないもの。それよりもエリオットを迎えに行って、リアムたちが落ち着いたときに改めておめでとうを言うわ・・・ね、ニカちゃん?」

「はい。それにブラームス様が私たちを客賓として迎えてくれるらしいし、城の一室を借りられるからスノーたちも安心して近くに置いておくことができますから面倒をみるのにも先に迎えに行くのがいいかと思いまして」

「そうか・・・2人がいいのならそれでいいんだがな?」

「是非、ウォルターをスノーと一緒に迎えてあげてください、ニカさん」

「はい、お義父さん」

「んんー・・・でもね、陽が出ているとはいえこんなに騒がしい街中を女性2人で歩くってのもね〜?」

「俺がついていくよ・・・だからそんなねちっこい目でこっち見るな!」

「ちゃんとエスコートするのよ?」

「おう任せとけ!」

「それじゃあウィル、エスコートお願いね?」

「よろしくお願いします、ウィリアムさん」

「じゃあ私たちは先に城に行ってるぞ」

「パレードを終えて疲れてるみんなにたっくさんお祝いのお菓子を作ってあげないと」

「そうね。城に戻ってきたリアムちゃん達と熱い抱擁を交わしたいし❤︎」

「その辺の充電はリゲスに任せるとして・・・回復したとは言え精神的にはまだ疲れているだろうから、一段楽したら僕もみんなを診てあげないと」

「なら舞台近くで控えてる騎士隊に合流するのが一番手っ取り早いか・・・この人混みをかき分けるのは大変だがやるしかない」

「そうだね。ジュリオ君あたりでも探して事情を話せば、パレード中もアリアの側にいられるかも知れない」


 リアムからの重大発表のタイトルを聞き届けたところで、ウィル、アイナ、ニカはマレーネに預けた子供たちを迎えに、カミラ、エドガーはこれから始まる広場から城までのパレードに同行するべく観客たちの雑踏の中へと消えていく。


「血筋が血筋ですから、生まれつき保有できる魔力量も驚くほど多かった。これまでのボス戦を通して見せてきた高度な魔法の行使は、いつの間にか憑いていた契約精霊であるイデアに手伝ってもらったところも多くて、僕自身の熟練度はまだまだです。・・・これが現状の真実。しかし今となっては父もただの一般人で、その間に僕は生まれた。僕はウィリアムの息子、ただのリアム。これだけは誰であろうと否定させない」


 それからもリアムのスピーチは続く。父親が如何にして王都を出たのかを庶子の家出と勘当という言葉を交えながら命辛々の逃亡と駆け落ちという真実からはちょっとばかり歪曲し、貴族時代より交友のあったブラームスと母親の家族を頼って2人がこの地に根差した事、余計な事はなるべく省いて、シンプルに。


「さて・・・ここで遅くなりましたが、新年の挨拶を述べさせてください。皆様、明けましておめでとうございます。そして本日はアリアのためにこうして集まってくださり、式を催していただけたことに深く感謝します。今年もよろしくお願いいたします」 


 最後は、ここまで僕の話を聞いてくださった観客の皆さんに感謝を込めて。この集いは、祝賀祝勝の祝いの催し故に。


「とても驚きの告白でしたが、とても勇気のいる告白であったとも思います。改めまして、明けましておめでとうございます、そしてありがとうございました、リアムさん・・・。それでは、他の皆様方にも登頂達成されたご感想を伺っていきたいと思います。ではリーダーのリアムさんの次に、我らが公爵領を治める領主ブラームス様のご令嬢であらせられるミリア様。今のご感想をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「よろしいわよ」


 淡々と、僅かかばりの間を開けて話の衝撃をなるべく後に持ち越せるよう計らってくれた・・・ありがとう、ナノカさん。


「リアムにはまだまだ負けるけれど、お父様の血を受け継ぐ私だって強い・・・」


 それからはミリア、アルフレッド、エリシア、ゲイル、ウォルター、ラナ、レイア、フラジール、ティナが順番に今回の戦いに臨んだ意気込みと、終わってからの感想を述べていく。


「みんながいてくれてよかった・・・終わり・・・」

「ありがとうございましたティナさん! そしてありがとうございました! アリアの皆さん!」

「こちらこそ・・・?」

「それでですね・・・そのー・・・」

「はい?」

「ミリア様とそれからティナさん・・・そのー・・・」

「ミリアとティナ?・・・あぁ」

「?」

「私とティナ?」

「スコルとマーナとそれぞれ契約されたお二人に、是非このオブジェクトダンジョン最高峰の宝を披露していただきたく思うのですが・・・」


 恐らく彼らは映像が届いていたギリギリまで直前の映像をこの広場で確認していたものと思われる。


「それはいいけど・・・そういえば、これってどうやって呼べばいいの?」

「ン・・・たしかに」

「えぇーっと・・・それは・・・」

「普通に来いって念じればいいんだよ。そしたら契約が後は全部やってくれる」

「ああそっか」

「さすがウォルター・・・」


 ウォルターはやはりこういう時でも頼もしい。さすがブレイフを相棒にもつ先輩テイマーである。


「来て・・・」

「来て! ダイアナ !」


 そして──、


「ウォフ!」

「ニャアア!」


 2人の手には先ほど刻まれた雷紋が赤と青の光を放ちながら浮かび上がる。すると契約に応じて現れた魔法陣から黒い毛玉と白い毛玉が召喚される。


「か・・・かクアか」

「かわわ」


 ──カワイイーッ!!!


「!?・・・ビックリしたぁー」


 舞台上にお尻をつけて座る2匹を見ての観客から上がったカワイイコールにビクついてしまった。・・・フゥ、胸に手を当てて呼吸を整えよう。


「キャアア! お座りしてティナさんを見てる!」

「ライヒョウちゃんも! でも毛繕いして、ちょっとマイペースさんぽいけどそこがいい!」


 ティナとミリアに呼ばれて舞台上に登場した2匹の幼い獣に舞台上のナノカとリッカはもちろん、大勢の観客たちが食い入るように見ていてもうメロメロである。 


「オイ、オヤトゼンゼンチガウジャナイカ・・・ナンダアノカワイイイキモノハ」

「ダイアナって・・・もう名前付けたのか」

「いいんじゃないでしょうか・・・公爵家に携わる者としては相応しい名前だと思いますよ」

「ハハッ・・・俺は単に精霊の名前を呼んだだけだから名付けの苦労は知らないが・・・」

「私もー! まだ会ったことはないけどね・・・でもお互いが嬉しければそれでいいんじゃないかな!」

「んー、ティナはなんて名付けるんだろう・・・」

「リトルリアムとか? 毛並みなんてそっくりだし」

「やめてよエリシア・・・もう」

「ごめんなさい。でも褒めたつもりだったのよ?」

 

 予想外の2匹が出てきてこれには僕たちもタジタジである。大きさはまだ普通の小型種くらい。・・・オイ、ダレカツッコメヨと隣から聞こえてきたのは無視しよう。


「ミリア様はもう名付けられたのですね。ダイアナちゃんですか・・・実に可愛らしいくも気品のあふれるお名前で・・・さすがですね」

「そ、そうよ!・・・もっと」


 もっと大きいと思ってたんだけど・・・これはこれでありね・・・ボソッと聞こえたこれも無視しよう。


「ティナさんはお名前はどうされるんですか?」

「えっと・・・まだ決めてないけど・・・」


 リッカに現状の候補を尋ねられてコチラにチラッと目配せするティナ・・・今のも見なかったことにしよう・・・おっと、あれは──。


「おぉーい! パレードの準備ができたぞー!」


 ブラームスとマリアが複数の騎士隊を引き連れて、空飛ぶ天井のない馬車の1台に乗って舞台の横へ乗り付ける。


「うぉおおなんだこの可愛い生き」

「ちょっとミリアこの子! ものすごく可愛い!」

「でしょー! 名前はダイアナっていうの!」

「あら、いい名前をつけたわねー!」

「わ、私にも・・・まぁ良いか」


 マリアのダイアナへの食いつきが予想以上に良い。大衆の目の前であることを少し忘れているのではないかというほどの茶目っ気に溢れた母の姿を見せた。


「一通り、インタビューは終わったかな?」

「はい公爵様!」

「そうか・・・それでは! これよりパレードを執り行う! 道順は広場から公爵城まで! また、今日は祝いに際して貴族街の方まで解放する! 往来の制限は我が息子パトリックが去年挙式を行った時と同様とするが、ただし一々手順を追ってアナウンスしている暇はないので、最近この街に居を構えたり、立ち寄った者達は地元の民にルールを尋ねてくれ!」

「任せなさいー!」

「任せるぜー!」

「ウォオオオ祭りだぁー!」

「ところで公爵様、お祭りの名前はどういたしましょうか?」

「ふむ、今回の祭りは例年の新年祝いとはちと趣向が違うからな・・・祭りの名は──あぁ・・・何か希望はあるか?」


 すると、ブラームスがコチラを見て祭りの名前をつけるのに何か希望はないかと。


「ケレーアーリア・・・」

「それはケレスとアリアを掛けたのか?」

「あ・・・確かにそう聞こえるかも・・・けれどこの祭りの名前は元々、春を祝う祭りの名です」

「春・・・そうか春か・・・よろしい! これよりアウストラリア王国公爵並びにノーフォーク領領主ブラームス・テラ・ノーフォークが宣言す! これより祝賀祝勝の祭りケレーアーリアを開催とする! 皆、存分に新年と新しい春の訪れを祝ってくれたまえ!」


 ブラームスが高らかにケレーアーリアの開催を宣言する。さぁ、これからまた一段と騒がしくなりそうで・・・楽しくなりそうだ。









 ──時間は、アリアが剣の間でこれから始まる戦いの前の最後の休みのひと時を過ごしていた時まで戻る。


「な、何故ジュピターがあんなところにッ!」

「そう驚かれるな。私も最初はあなたのように目を疑った。しかしあの剣は今やウィリアム・ハワードの所有物」

「ウィリアム・ハワードだ? まさかギルの・・・」

「母はグレイス・ハワード、父はギルマン・W・ハワードJr.・・・父親が亡くなってからはJrを名乗ってはいないそうですが・・・ウィルはギルマン・W・ハワードの孫だと聞いとります。私も初めてウィルに会った時は心底驚いた。何故彼があの宝剣を持っていたのか、幼い頃から顔を知っていたエリオットがいなければその場で殺していたやもしれん」


 リアムたちが壁や床から突き出る水晶が美しい剣の間で1時間、前回の時と同じ時間の再現をしている間、語られるウィルとマレーネの初めての出会いの話・・・ふと懐かしい名前が出てきてマレーネはエリオットとスノーが眠る揺り籠へと視線を向ける。


「ギルは・・・」

「今申した通り既に亡くなっていると聞いとりますが・・・?」

「そうか・・・ギルは死んだのか」

「それではこれもご存知ないか・・・初めてウィルと会ったとき、聞けば彼はこの街にも現れたものと同種の不思議な建造物から侵入することができるダンジョンを攻略した・・・その時です。彼があの剣を手にしたのは」

「そういうことですか・・・ソロネの奴め・・・」

「・・・事情はよくはわからんがね、どうやら納得はしたようだね」

「こちらの詮索はあまりしないでくれ・・・私も隠密に動いている」

「左様で・・・どうぞもう一度お掛けになってください。ハーブティーなどいかがでしょうか。この街で今最もあの頂を制する可能性のあるパーティーの挑戦が始まります・・・」

「・・・いただこう」


 沸かしたお湯がポットの底や内側にぶつかって泡の入る音を鳴らさぬようにゆっくり静かに回し入れながらハーブティーを淹れて、マレーネと家の中に招き入れられた客はリアムが作った小型映像魔道具でのアリアの戦いを観戦する。相変わらず我が故郷の住人は俗世の事情に疎いと見える。



 ・

 ・


”神解け、是色──異空!!!” 


 リアムの解いた雷が前を行くミリアへと追いつき、マーナを穿つための迅雷の領域へと導く。


「勝ったね・・・」


 そういうと、マレーネは戦いの結末を最後まで見ることなく魔道具の魔力供給スイッチを切り、そして対面に座る客人に向き直る。


「素晴らしい・・・アレがまだ10になったばかりの少年の力か・・・?」

「あの子は・・・当然といえば当然の血筋なのさ・・・あなたならご存知でしょうに」

「え・・・ええ、そうですね・・・」


 精霊王の一角に深い関わりを持つ家の血筋なら、あなたはよく知っているだろう。


「それで・・・あなたほどの方がなぜこのような人の世に・・・」

「もう、昔のように名前を呼んではくれないのですね」

「・・・」

「・・・先ほどウィリアム・ハワードと出会った時のことを話した時、あなたはあの揺り籠で寝ている子供を見ましたね・・・」

「あぁ・・・左の男の子の名前はエリオットと言うんさね。あの子もウィルとアイナの子さ」

「・・・もう一人の子は?」

「もう一人の子は私の曾孫さ」

「曾孫・・・それはもしや人と妖精の混血・・・」

「・・・私は故郷とは数百年も連絡をとっていなんだがねぇ・・・もはや──」

「そう顔をしかめないで欲しい。私はそう言った古い思想に囚われていない。・・・私も、あのたくさんの魂が失われた戦いの最中人の男に恋をし、戦いが終わると想いを芽生させ、愛を育み・・・やがて一人の子供を産んだ」

「ま、まさか・・・いやしかし・・・しかしあなたは・・・」

「あなたの影響も少なからずあったのかもしれないが、あれは私自らの選択だったと胸を張って言える・・・幼い頃はよく可愛がってもらった。そして里を出る時、あなたが大切にしていた櫛を託してくれた・・・家を捨て自分を然も故郷とゆかりもない人間のようにおっしゃっていたが、今もあなたは櫛を子に送る風習だけは大事にされているようで・・・ほら、そこのテーブルに・・・」

「まぁね・・・それは多少は残るモノもあるさ。自分の生まれ育った場所の全てを醜く思っていたわけではない」

「あなたは人の世界に飛び出すことを選んだが、私の場合は同胞も受け入れることを認めざるを得なかった・・・私もレイザーもそれだけの貢献をし、里のために尽くした・・・」

「それは驚いた・・・」

「そうだ・・・過去の私も同じように驚いた」


 レイザー。そうか、100年前の聖戦で勇者と共に戦ったあのレッド・レイザーか・・・昔、自分を聖戦の英雄に喩えて将来の道を語り合っていたエリオットとウィルたちの話にチョロっと名前が上がったような、なかったような。


「可愛らしいな・・・抱いても?」

「慎重に抱えな・・・その子たちは、私が責任を持って親から預かってる子さ」

「もちろん、承知しているとも」


 すると、彼女は徐に立ち上がって、ゆりかごへと近づいた。ゆっくりと、ゆっくりと、足音を忍ばせて、ゆっくりと、ゆっくりと手を伸ばして掌を背中に回して──。


「ウェッ・・・うぇえええん!!!」

「おっと・・・」

「・・・すまないが戻してやっておくれ。側で穏やかでない音が鳴っていたからねぇ・・・途中一度夜泣きをして起きとったからそろそろ眠かったのやも知れん」


 音は十分に配慮していたと思うが・・・それだと光か・・・この魔道具、便利だが夜に使うと目立つ。


「・・・」


 失念していたねぇ・・・あの子たちが帰ってきたら一応、開発者リアムに進言しておくかね・・・ん?

 

「マルデル・・・いや、族長殿・・・?」

「この子なら・・・」


 この子なら、もしや──・・・。


「お前の父と母に許してもらわなくていい・・・しかし許しておくれ。私はお前を愚かにも同じ痛みの渦中に負の鎖で連ならせようとしている」


 ・・・この子なら。


「ギルはもう死んだ・・・そんなに時間が経っていたとは、ならば旅の途中アテを探して別れてしまったあの人ももう・・・」

「今直ぐその子を揺籠の中に戻しなッ!!!」


 呼び掛けても返事せず赤子に語りかける私を不審に思った彼女は、敏感にも僅かに漏れた悪意を感じ取ったらしく、とても年の功をとった老人とは思えないほどの俊敏さで杖をこちらに向けた。


「もう遅い・・・ブート」


 しかし杖を構える腕は震えているしもう遅い。部屋中にある鉢植えの植物の蔦が足元にいつの間にか伸びて陣を形成しており、マレーネはその上に立っていた。


「自然を愛し、共存する・・・我ららしい家だ・・・だからこそ、仕掛けるのも容易だった」

「な、何をッ・・・」

「すまない・・・マレーネ・ゲー・ホワイト・・・家を捨てし関わりのない他人アテビトよ、私は・・・」


 マレーネの全身の皮膚を痺れが貫いた。干渉形の付与魔法、これは麻痺パラライズの陣・・・。


「や・・・ヤメナ・・・私は任され・・・よしとくれ・・・頼む・・・」

「眠れ・・・あの櫛ももらっていく」

「やめ・・・とく・・・」


 落ちる最後の最後まで、その麻痺する老体で私に向け続けた敵意に満ちた瞳、見事であった。


「人と生きる道を選んだあなたには苦しかろう・・・しかし私もまた、人と生きる道を選んでしまったから・・・短く限られた時間の中を生きなければならない」

 

 私も容赦はできない。長すぎる旅に疲れ、疲労する足の行くままに立ち寄った街で手がかりはまだ見つかってはいないが、こうして材料を手に入れた。


「私はこの子を使って、我が子を取り戻す」


 この子ならまだまだ親と再会して成長を共にする時間がある・・・対して私の子は・・・もう、100年になる。












「おーいマレーネ! 寝てるのかー!」


 ブラームスと別れ、建物の外に出ると街は既に凄い活気に包まれていた。俺たちはリアムたちとは城で合流することにして、先にマレーネに預けているエリオットとスノーの迎えに来ていた。会場にまで足を運んでの観戦は断ったものの、いざ勝利となると祝勝パーティーには流石にマレーネも来るだろうし、誘ってやらないと──・・・しかしマレーネからの返事がない。まさか本当に寝てるのか・・・。


「マレーネ!」

「どうしたのかしら・・・」

「マジで寝てんのかな・・・ニカちゃん、鍵をお願いしていいかな?」

「はい」


 もし寝ているのだとしても、気持ちはわからなくない。戦いは夜通し続いたのだから、夜泣きでもない限りゲームが終わった今、机に伏せって寝ていても──。


「あれ・・・開いてる?」


 ニカが鍵穴に鍵を差し込み回すと、仕掛けが動く音は確かになく鍵は空回りした。


「2人とも・・・俺の後ろに・・・」


 何かがおかしい。赤ん坊2人を預けられてマレーネが面倒を見ていないとも思えないし、かと言って赤ん坊2人を抱えたまま外に出かけたとも考えられない。ならば子守中に眠ってしまっているか、だがそれなら鍵が開いたままなのはおかしい・・・俺たちは慎重に入り口の扉を開けて店の中に入った・・・すると──。


「何があったマレーネッ!!!」

「ウィ、ぅィル・・・」

「ああ俺だっ!!!」

「なぜか奴は私がハワードの血縁について匂わすと茶を濁した・・・それに族長となったまだ小さかったあの子供が態々里を捨てた私の家など訪ねてくるはずもなかった・・・もっと早くに気づくべきだったのさ」

「ハワードだと!? まさかアイツらがッ──」


 中に入ると、マレーネが床に臥せて倒れていた。直様介抱するべく肩を抱えると、僅かに意識を残していたマレーネの口から思いも寄らぬ単語が飛び出したため、ウィルは慌てて周りを見回し警戒する。


「よかった・・・エリオットは無事ね・・・」

「よかった・・・エリオット・・・は?」

「でもね・・・感じ取っていたのさ。私はエルフだが既にもう何百年という時をこの人間の国で過ごした。里を捨てて、人の世に根を下ろした私のところを彼女が訪れたのには理由ワケがあるはずさ。それを聞き出そうとした。外界に排他的であった里が混血たるエドやウォル達の存在をどこかで聞きつけ探りに来たのか・・・だが、エドが生まれまだ山村だった旦那の故郷に根を下ろしひっそりと暮らしていた頃・・・聖戦に際しては人と魔族と獣人ケモノビトと手を取り合って困難に立ち向かったと聞いた。ならそれとも・・・リアム、あの子だ。生まれながらに強大な力を持ちながら精霊と契約できず、しかし精霊王の寵愛などと・・・お前さんはてっきりパワーズの嫌がらせか何かだと見当をつけていたが、それが急にある日を境にステータス欄から消えたのは何故か・・・血筋では到底説明できぬほどの特異な力を身につけたあの子を脅威と判断した、だから・・・」

「スノー・・・スノーはッ! スノーはどこッ!!! ねえおばあさま、スノーはッ!!!」

「それがまさか、あんな小さな赤子のスノーを盗るためだったなどとッ!!!」


 朝の光を浴びて活力を取り戻し始めた植物達の交わす言葉が聞こえてくるような何ともいえない自然の作り出す静寂が魅力のこの緑に溢れた部屋で、必死に子供を探す母親の声を聞きながら唇を強く噛む曽祖母。


「だけどさッ!一番はッ・・・様々な推計を張り巡らせていた全ての心のどこかで、私は・・・かつての同胞に再会して故郷を懐かしんでいたのさッ!」

「もういいって!!! ・・・アイナ、今直ぐ祝勝会場に戻ってカミラたちをッ!!!」

「わかったわ! で、でも・・・リアムたちはッ」

「あの子たちには・・・伝えるな。アリアの側にはジジイがいる。いつもと勝手が違う道を走らせるより、固まってブラームスの近くにいた方が安全だッ・・・だから・・・警備の、そうだジュリオにこっそりジジイに伝えるよう言伝を。ミリアを通してリアムは他のメンバーとも面識があるアイツなら、きっと近くに配備されているはず・・・やっぱり俺がいくべきだな。アイナはエリオットとマレーネと・・・ニカを頼む」 

「スノーは・・・スノーッ!!!・・・スノー?」

「無念だよ・・・ごめんよ・・・すまないウォルター、ニカ・・・あんたたちの子を・・・盗ろうとしていた輩を・・・私から招き入れてしまうなど・・・と・・・」

「マレーネッ!!!」


 マレーネの足元に陣を描いていたのは眠り薬を調合するのにも使われる豆科植物の蔦だった。マレーネを昏倒させた術者は、マレーネに昏睡する魔法を付与すると共に、誰かに発見されるまでなるべく持続的に効果が続くよう魔法をかけたらしい。


「クソッ、モグリッ!!!」

「モグッ!!!」

「走るぞ・・・元々そうなりそうだとは思っていたが・・・思ったよりも長い一日になりそうだ」


 急がないと逃げられる。用意周到だが、裏を返せば追われなければ捕まらない自信があるってことだ。つまりマレーネを襲った奴は、祝賀祝勝に湧きながら、通行者や居住者が記録され関所と壁に囲まれたこの街に留まらない可能性が高い。


「何よりエルフなら、余計に目立つ・・・だが森に入られる前に追いつかないとエドでも追跡が難しくなるッ」


 まずは合流と連絡。街の門を管理する警備隊の連絡網を使って検問を──。


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