267 Face
時は超飢餓に陥ったスコルとリアムが対峙し牙を交え始めた時点から寸刻遡る。
「行ってしまった・・・」
「ティ、ティナさんもです・・・」
「ちょ、ちょっとどうすればいいの!? い、いっちゃったっていっちゃったわけで!?」
「いっちゃったものはいっちゃったんだろ・・・」
「でもどうして? だって私たちも戦力になれるはずなのに!」
「スコルを処理しきれなかった自分の責任と背負い込んだのか、それとも・・・僕たちが足手纏いだと判断したのか」
「で、でもスコルの復活はリアムのせいじゃないよね・・・だってリアムは確かにスコルを仕留めたって・・・」
「そうだ・・・リアムは確かに仕留めたと、そう言った」
「黄赤の閃光に目が眩む前までの焦りよう・・・リアムにとっても予想外の出来事だったはずだよ・・・」
「けど、足手纏いは・・・ありえるわよね・・・きっと心当たりがあるのは私だけじゃないはず・・・」
エリシアの胸の内の吐露に皆して黙り込む。
「じゅ、十分派手だったけどね・・・ハハ」
「そうだ・・・だがリアムはこうも言って行った。今回、自分の目的は如何にスマートに勝利できるかだったと・・・役割を全うできなかったなどと」
「リアムは自分の所為だって思ってる・・・でも違う。復活に繋がったのは長期戦に持ち込んだ単に私たちの実力不足・・・」
「リアムさんはあまり事を荒立てる事なく勝ちたかったわけですよね・・・でも何故でしょうか・・・」
「奴が出るとかなんとか言っていたよな・・・前回、俺たちが死んだ後に知らされていない何かがあったとか?」
「それに手を抜いていたって・・・本当にリアムが手を抜いていたのだとしたら、私たちはリアムにとってやっぱりタダの足手纏いだったのかな・・・」
「そんなことはないさ・・・タダのなんてあり得るはずもない。最初からそれだけの関係だったら、当にリアムは一人であそこに戻って・・・言ってて虚しいっていうか、自分に腹が立つなッ」
悔しさに塗れた拳・・・もしリアムがいなかったら、もちろん他の誰一人だって欠けていてはこのパーティーはアリアと言えないわけだが。
「どうして気づかなかったんだろう・・・」
「どうして? 何にだレイア?」
「・・・前回も私たちが死んだ後って確か、画面が真っ暗になって戦いが見えなくなったって言ってたよね・・・」
「前回も?」
「そう、前回も・・・」
「前回も・・・ッ──」
「リアムは一人で抱えて怖かったんだよ・・・それだけの恐怖が前回の時にもあったんだとしたら・・・」
確か前回のライブでは、私たちが死んじゃった後画面が真っ暗になったらしい・・・丁度、私たちの前にあいつが現れた時みたいに。てっきり、その後直ぐにリアムも死んじゃったからゲームオーバーで通信が途絶えたのだと思っていた。
「全部私たちのためだった──? どうしてかアイツは私たちには興味がないって言うか・・・危害を加えない」
「じゃ、じゃあリアムはそもそも今回の挑戦、最初から──・・・」
「どうしよう・・・私、パーティーの衛生担当のなのに・・・リアムが赤信号出してたのに全然気づけなかった・・・」
「ねぇみんな・・・私たちが急に居なくなっちゃったことが怖かったって言うのは痴がましいかな・・・」
「ラナ・・・気持ちはわかるが・・・」
「リアムね・・・言ってたんだ・・・半端に収まるのが一番苦しいって・・・今のリアムの状況は正にそれなんじゃないかな・・・」
「半端に・・・」
なんでも半端に収まるのは苦しい。成功もしていないが失敗もしていない・・・そんな状況に自分が陥った時、どう折り合いをつけるだろうか。それは状況によっては簡単で、でも複雑な時もあって・・・今回のリアムの場合、私たちの場合も複雑。
「それが私たちの所為なのかは定かじゃない・・・でも今議論すべきでもない。どちらにしても、リアムは今、本人も気づかず意図せずして苦しい半端にハマってるように思う・・・だから友達として、仲間として、リアムがそこから抜け出せるよう手伝いたい・・・それだけで、私たちが駆けつける理由にならないかな・・・」
カリナ・・・そう・・・リアムのお姉ちゃん・・・リアムが生まれてから1年くらい経つまではよく、一人でいることが多かった。だけどそんな時でも私は空気が読めないって言うか、放っとけなくて・・・私が楽しくないってのが嫌なだっただけなのかもなんだけど、私がどうしたのって声をかけると1回目には声を殺して涙だけ流していて、2回目にはすすり泣く事を辞めて、3回目からは涙痕をゴシゴシ拭って気を遣って笑うようになってくれて・・・それから4、5、6と重ねるごとの変化はあったのかどうかすら分からないほどに微笑なものだったけれど・・・リアムがお姉ちゃんって呼んでくれたって家族に受け入れられた事を満面の笑みで私に教えてくれたときのことはずっと私の中で励みになっている・・・今この時だって──。
『それが今じゃあの才能の鬼にヒケを取らない・・・才能の持ち主っていうか・・・まぁ私たちのリーダーなわけでさ・・・』
あれだけ過保護だったカリナがどうして弟のいる地元を離れて王立学院に入学したのかは私も知っている。名誉は守った・・・守ったからカリナ・・・次に会ったときにその・・・リアムがこんなに強くなってたからって怒らないでね。
「ラナ・・・?」
「──蝶でも飛んでた!?」
「蝶・・・?」
「あ、ごめんちょっと別のこと考えてた・・・」
「カリナのことか・・・」
「え、えへへー・・・はい」
「こんな状況だからこそ親しき友を思うのは無理もない・・・しかし今危機に陥っている我らの親しき友はリアムだ・・・」
「ごめん・・・」
やっちゃった・・・だよね。今はリアムのことを第一に考えて動かなくちゃだよね。
「でもラナの言ったこと・・・響いたわ。こんなこと、こんなとこでいつまで議論していても仕方ない・・・まさかみんなこのまま甘んじて今の状況を受け入れる気はないでしょ?」
「その通りだ・・・だが、だからと言って・・・話は頭に戻るがどうすればいい・・・リアムとティナも・・・多分、居るエリアBはここからほぼ3つのエリアを挟んだ場所にある・・・ここはエリアFの端っこで、反対側だ」
ラナがストレートに思いの内を皆に曝け出したことで、残されたパーティーの方針が固まっていく。しかしアルフレッドの言った通りここは戦場から孤立している。
「俺の番だ」
「ゲイルあなたね・・・いくらなんでも無理でしょ」
「き、気持ちはわかるがなー・・・ゲイル、俺も正直言ってこの距離は空間魔法だけでどうにかなるような距離じゃないと思う・・・」
焦っているのか、エリシアにキツい一石を投じられたゲイルをウォルターが優しく言い直してフォローするが、そんなことができるのもこのパーティーにはいないことは知っている。そう、リアム以外で・・・。
「皆、本当はどこかで解った奴もいるんじゃないか?・・・俺たちがエリアBに降り立ったリアム達の元にたどり着く方法はここに一つしかない」
しかしエリシアの言葉にもウォルターの言葉にも全く反応を見せずに、そう言ってゲイルはリアムの残滓として残された小瓶の一本を手に取る。
「・・・」
マジマジと見せつけるように突きつけられた小瓶はこの場にいる全員の注目を集め、かつ口を噤ませる。
「だんまりか・・・なんだ結局怖かっただけか」
「誰だって、怖いわよ・・・」
「それに・・・そもそも私たちを置いて行ったのはソレを置いて行ったリアムなわけだし・・・」
「本末転倒じゃないのか・・・それにもし戦闘が終わるまでに僕らが復活できなければどうなる」
「そうだな・・・それを飲むのはやはりリアムが敗北してしまった時だろう・・・」
煽り・・・正直、優柔、妥当・・・今意見を言わなかった残りのメンバーたちもまだ迷っているのだろう。
「わかるさ・・・お前らの気持ち、俺にもちゃんとわかる」
だから俺は、1本、1本と更に小瓶を手にとって──。
「ちょ、ちょっと待て、ゲイルお前本当に何をする気だ!?」
「あんた何考えてるの!? 後から澱のように沈むくらい馬鹿な真似しでかす前にもう一度、もう一度だけみんなで考えましょ!そしたら──」
「そしたら後から襲ってくる後悔が薄らぐか? それで、迷っていてもしその間にリアムが殺されでもしたら本当に全くこれっぽっちの後悔もなく我らは勝った負けたと胸を張り、堂々と泣けるのか!!」
亜空間を開き其処に小瓶を放り投げながら、説教か、説得わからないような口と威圧感で自分の行為を妨げるメンバーたちを黙らせる。
「俺は嫌だ・・・もう惨めな思いはこれっぽちもしたくない。やればよかったなんて後悔をするのも、やらなければよかったなんて後悔もウンザリだ!!!」
「そ、そんなの誰だってそうです!私だってもっと力があったら、もっと・・・ッ!」
「もっと・・・って思ってしまうものさ。それが人のいい面にだってなり得ると俺に引っ張り叩き込んだのは他ならぬアイツだッ・・・こうして最悪の未来と差し引きして絆が粉々になりそうな現在、それでも自分の手元に残るものってなんだ・・・ん? 俺の場合はな・・・大切な友人を助けたいのと、惨敗がわかっていても最後まで戦えばよかった・・・そんなところだ」
馬鹿な真似をして部屋に籠もっていた俺を、その後苦労した自分と同じ目に遭うがいいさと叱りつけつつ、最後にはちゃんと挽回のチャンスをくれた・・・取り返しがまだつくことを示し、本当にギリギリのところにいた俺にリアムは手を差し伸べてくれたんだ。
「でもやっぱりわからないよゲイル・・・本当に何をする気なの・・・お願い、私たちがあなたに黙ってやらせて後悔する前にそれだけは教えてくれない・・・?」
「レイア・・・まぁそうだよな。後になってなんでこんなこと黙ってさせちまったのか・・・俺だったらそう思うかもしれない」
レイア・・・少なくとも君にはわからなくて当然だろう。パーティーの癒し手である君はいつも先ず助けることを最優先に考えて動いている。
「ゲイル・・・お願い、私たちにも・・・教えて」
・・・お前達も仕方なくレイアの後に続くが、もうなんとなく他の皆は気づいているだろう・・・だから、そんなに焦った顔をして──。
「9回死んで、みんなを繋げる──」
・・・答えを知ると、焦りを呑みこむ。
「9回死んで・・・えっ?」
「ダメだ! やはり許容できない!!!」
「頼むよ・・・お前たちが許容するとかそういう以前に俺は・・・アイツに、こんな俺を受け入れてくれたお前たちにも、返さなきゃならないものがあるんだ・・・」
「第一なんであんたが9回も死・・・死ななくちゃいけないの!」
「償いなんていらないと言いつつアイツには絞られたがなぁ・・・全然足りないんだ・・・リアムは優しかった。あれだけの目に遭ったんだ・・・丁度、お前たちが危惧している奴が出てきたのもなんの因果か俺がアイツに薬を盛った時の出来事だし、あの仮面は本当に一体何者なんだ・・・ダンジョンに纏わる謎ももうさっきの血漿雷なんちゃらももうウンザリだ!・・・だろ? 仮面のアイツにリアムが再び苦しめられてるっていうなら、今度は俺は谷に落ちそうになっているアイツに手を伸ばして助けてやれる側に立っていたい」
俺の場合は・・・まぁ、実際にリアルで落とされたがな。知ってるか・・・一度犯した罪は例え相手に許してもらおうと、一日一日遠ざかろうと、害を加えた側はいつまで経っても償えず、曰く納得できないこともある。次は、そうなってしまった俺が俺と同じようにならないようにお前を引っ張り上げる──。
「お前の気持ちはわかった・・・だがどうしてお前が9回も死ぬ必要があるんだ・・・なら俺たちも一緒に死ねばいい・・・マザーエリアの方がエリアBに近い。其処からだったら、お前のゲートと全員回復した魔力でブーストをかければなんとか現場には駆けつけられる」
「お前たちも一緒に死んだらリアムとティナは仲間たちを失った状態の孤軍になる可能性がある。例え現場に辿り着く方法がなくても、それだけはダメだ・・・それを回避する・・・まぁ、俺が発った後も考えることは止めるなよ」
「でもやっぱり不可能よ・・・机上の空論に過ぎない・・・9回・・・回復したってリアムでもないあなたがどうやってマザーエリアからここまで感知するの? 1回死んだからって上限があるんだから魔力が足りないでしょ」
「ここにゲンガーを残していって、感知を手伝ってもらう。それと足りない魔力だが、要は持ち越せばいいんだよ。アイツが残していったものはなんだ・・・コイツ以外にもう一つあるんだ・・・俺にも、他のみんなにもな」
「魔石か・・・」
「そうだ・・・これに魔力を貯めて、使い切ったら次の瓶を飲んでまた死んで、それを繰り返してここと戦場を繋げるのに足りない魔力を補充する」
・・・なんてことを考えるのだろうか。仮に考えたとして、普通は実行することもない。
『や、ヤメ・・・』
言えない・・・。現状成功する確率とリスクが一番少ない選択だから。1人が犠牲になろうとも・・そんな損得で動くなんて、リアムが自分たちにしたことと同じだと非難したいところだが、これがどうしようもなくゲイルはリアムと同じで損得以前の問題として、リアムとそれから自分たちのことを思って提案している。
「・・・ゲンガー・・・お前はここに残って道標になってくれ」
言うべきだ・・・友人なら。
「ヤメろ ゲイル!」
「アルフレッド・・・」
「お前は一人犠牲になろうとしているがそうはいかないぞ! 僕だって、アイツには返し切れないくらいの借りがある! 一人で先にソレを返そうったってそうはいかん!!!」
「ならわかるだろ・・・」
「何がだ! お前が一人では支えきれぬ重責を自ら負おうとしていることか! お前が犯した罪がそんなに重かったというのか!」
「膨らんだんだ・・・」
「そんなことのために僕らもリアムもお前を受け入れたわけじゃない!それではまるで・・・未だ、罪人ではないか!」
罪悪感があることをいいことに肥え太らされた傀儡の家畜・・・本当はそう言おうとした・・・だが、こんな侮辱の言葉言えるはずはなかった。
「アルフレッド・・・」
「僕は・・・お前を認めている・・・」
「なら・・・わかってくれるだろ・・・お前ならわかってくれるだろ・・・」
アルフレッド・・・お前は気にも止めていなかっただろうが、入学式のあの日、俺もあの場にいたんだぜ・・・アイツと最悪な出会い方をした者同士、そしてさっきもリアムを叱ったお前なら・・・。
「これなら成功すれば全員揃ってリアム達のところにたどり着け、失敗してもウォルターの言った最悪の事態を回避できる」
「ゲイル!」
「やっぱり考え直そう! ね、ゲイル!」
「他にも、後少しだけ考えればきっといい考えが・・・!」
等々、他のメンバーの堪忍袋も限界に達して決壊してしまった。
「・・・」
だがその流れをスッ──と上げた片腕の掌でアルフレッドが静止する。
「礼など要らぬとアイツは言うだろう」
「礼など要らぬとアイツは言うだろう・・・だが俺はまだ償っていないんだ・・・これが・・・俺の償いになるんだ・・・」
残りの魔力を魔石に込めるとソレを亜空間に放り込み、矢継ぎ早にゲイルは薬瓶の中身を飲み干す。
「フラジール・・・こいつを支えてやっててくれないか・・・」
「は・・・はい・・・」
中身を飲み干した後、不用意にも体が消えぬうちに倒れてしまったコイツを僕は咄嗟に受け止め、そして・・・フラジールに託す。
「チクショオオオオォ──!!!」
暗雲が立ち込め、雷が唸りを上げる空に向かって、己の非力さを痛感したアルフレッドは──・・・叫ぶ。
・
・
「意識を手放してからは本当に一瞬だったな・・・さあ、はじめようか・・・」
起きて、目の前に現れたのは巨大な霊門。どうやらちゃんと成功したらしい。
「ゼンっゼン痛くも苦しくもない・・・さすがリアムが作った薬だ・・・」
まずは魔石にリチャージされた魔力を全て吸い取らせ、ここに来ての最初の1本目──。
「プハッ・・・ただ味はもう少し頑張ってほし・・・い」
残り7本。特段死んでは生き返るを繰り返したにも関わらず、なんら気になる変化もない。
「俺の好みは──ちょい苦の甘い・・・これはちょっと甘過ぎる・・・ミリアに合わせたの・・・か・・・」
一度ダメ出しし始めると一番面倒くさいからなアイツは・・・残り6本。
「まだまだ・・・これだけ飲むとちょっと胃もたれしてこないか? 気のせいか・・・」
しかし残り5本、コルトから計4本を飲み干したところでゲイルの中にとある違和感が生まれる。
「・・・まだ半分じゃない・・・のか?」
その変化は急に ・・・──襲ってきた。
「本当に俺はまた生き返ることができるのか・・・」
・・・指先が瓶のラベルに触れたところで手が止まる。
「う・・・く・・・」
ご、5本目・・・吐き出しそうになりながら、なるべく一気に──。
「・・・」
もっと生きる死ぬとは重大で、尊ばれ、重んじられねばならぬ起点と終点ではないのか。
「クソッ・・・クソッ!!!」
ヤケッパチになって6本目に手を伸ばしそして飲み干した。こんなに簡単に、死んで、生き返って・・・。
「いやだ・・・後・・・2・・・」
いいのか・・・? ダメだろう・・・ダメだとも。それなのに世の中の冒険者って奴らはどうしてそうも簡単に自分を危険に晒せる──?
「望んで死んでる奴なんていねぇ・・・」
生き返ることができるからって、望んで死ぬはずがない。俺は今、望んで、自分から望んで此処にいたはずだ。
「は、8ぃいい!!!」
声を滲ませながら、気合を入れて吠えながら8本目を手にとった。
「ゴホッ──・・・」
しかしこれが良くなかった。声を絞り出し間髪入れずに瓶口に口をつけたものだがら、喉に流し込んだ薬液が一部気管に入った。必死に咳き込み吹き出そうとするが、それでも即効性の薬は十分に効いてしまっているようで、溺れるように感覚がなくなっていく──・・・ここに来て一番最悪の死に方をした。
「もう・・・もう・・・嫌だ・・・嫌だ・・・どうして俺がこんな目に・・・くそリアム・・・リアムのクソやろう・・・恨んでやる・・・絶対に・・・絶対に・・・」
最後の1本。まだ5分か、たったそれだけの間に8回も死んだ・・・それも自殺だ。こんなの気が狂って当然だろ!!! お前はそれでも俺のことをまだ──ッ!!!
「お願いだ・・・俺を・・・認めてくれ・・・」
許してほしい・・・俺のことを・・・今日と同じようにお前を恨んだ、それも根拠もなく自分本位に、かつ、アイツの甘言にノッて流されて・・・俺はお前のおかげで成長したが、はっきり言ってこんな形じゃなくてもっと別の形で示したかった。
「この鬼畜野郎・・・溜まった・・・溜まったゾ!!!」
どうだ・・・どうだどうだどうだ!!! やった、俺は成し遂げた──!!!
「ってやってる場合じゃねぇ! まずはここから出て──」
ハッと我に返り、10秒ほど放心する。それから右膝を立てて足裏を大地に、かかとを浮かせてリヴァイブの門の間から飛び出す。
「方角は・・・とりあえずコルトにいるゲンガーに信号を飛ばす・・・リンクが繋がったら・・・」
外に出ると、転送陣のある建物の方へと人がなだれ込み辺りは混沌としていた。しかしゲイルにはこの状況に驚いて見せたりする時間はない。何故ってこの混乱、こんな所に街を造った奴らの方が──・・・そう考えるとなんかムカつくな。どうして俺たちが挑戦を断念しなくちゃならない。持ちつ持たれつだとリアムは言っていたが──。
「何せこんな量の魔力を一気に扱うのは初めてでな・・・悪態の一つでも吐きたい気分なんだ・・・ああわかっているとも。・・・さて、だけど俺はアイツより魔力の扱いが上手いって自慢してさ・・・アイツはそうだと俺を認めてもくれた」
何せ俺の方が小回りわ効くんだ・・・なんてただ俺の扱える元々の魔力量がアイツより遥かに少ないだけなんだが。
「・・・なんて気の遠くなるような・・・糸を針に通すよりももっと気の遠くなるような次元の・・・大きすぎて遠すぎるッ」
家が元々布屋だからな・・・針子の体験をさせられた時は案外これが簡単で、針に糸を通すなど朝飯前だった。なのに、こう・・・今の気分は丸ごと1軒か、それ以上もある巨大な毛糸玉から糸を慎重に巻き取りながら小さな針に通し、かつ、ほそぼそと糸の先が真っ直ぐ伸びるようにしなければならないという・・・こんな調子じゃ一日あっても足りない。
「やっぱりすごいよ・・・おまえ」
どれだけの修練を積めば、この途方もある距離を繋ぐほどの魔力の制球ができるのか・・・俺は知っている。
『ケケッ・・・』
「・・・きたッ!」
しかし俺には頼れる相棒がいるもんで、アイツが道標になってくれるから魔力糸を均一に保ち路を安定させることさえ考えれば後は一気に入り口まで糸を伸ばせばいい。出口を──・・・こっちは簡単だな・・・あの渦の中心の真下だ・・・いた・・・異常な魔力が2つ、側に・・・大きな耳に尻尾付きで人型──これだッ!!!
「ゲート」
俺がお前に再び戦いに戻るための剣城を届ける。
「開いた!」
「急がないと!!!」
「リアムさんとティナさんが・・・アルフレッド様、いきましょう!!!」
「ああ・・・アイツとも1秒でも早──」
「あっつぅ!」
「──っと、押すなよ・・・押すなよ!!!」
後は、みんな知っての通りさ。
「もう少し話してなくてよかったのか?」
「あいつらも心配だったのはわかるさ・・・わかるとも」
「それにしても、やりとげやがったな・・・お前」
「な・・・上手くいったろ?」
「これでお前は一つも二つも抜きんでた・・・この口が言うにはあまりにも痴がましいが言わせてくれ・・・すまない」
「そんな押し付けがましくないぞ俺様はな。友達のためさ」
「・・・お前それでもこの領一の商家の長男か?」
「お前こそそれで領地持ちの貴族家の次男──」
──バチ──・・・バチンッ!!!
「クハハ」
「ハハッ」
奇しくもこの望ましくない状況で絆を深めた2人は、2回、外野から聞こえてきた音に背中を震わせると顔を少ししかめつつトンっ──と軽く拳を合わせる。
「いつかこうしてアイツと拳を合わせられる日が来るといいな」
「気づいていたのか・・・?」
「あんなに物欲しげな目で見てればそりゃあな・・・大丈夫、きっとその日はそう遠くないさ」
・・・遠くはないとも・・・何故なら今日、俺たちは勝利する・・・そのためにも戻ってきた。
『まだだ・・・まただ・・・まだまた・・・ありがとうでごめんなさいになる・・・』
でも、力の一部を開放しても・・・アイツは・・・アイツ等はこなかった。
「いいのかな・・・もう一度、みんなと戦っても・・・」
どうなのさ、実際其処のところ。
『いいんじゃないですか・・・』
「・・・甘えじゃないか」
『甘えなのでしょうか』
「・・・わかんない」
こういうこと隣人に話すべきかどうなのかもわからないが・・・ビンタ、されちゃったんだよ。
「折角リアムがあそこまで追い詰めたのに時間とっちゃってゴメン・・・でも──」
「で、どうするの」
少しだけ息が整ってきた狼を正面から睨み返す彼女たちはやる気満々──。
「主軸はもちろんリアムだろう。俺等は邪魔にならないよう徹底しながらサポートに就こう」
「だろうな・・・僕たちのことは気にしないで思う存分やれよな」
「ティナ、休んでなくて大丈夫・・・?」
「大丈夫・・・それともう転ばない」
彼らも・・・みんな。
「リアム・・・私はいいと思います。既に私を受け入れて戦っていたのだから・・・」
「ティナ」
だよね・・・頼る頼らないの正当性を模索する前に、もう僕は選んでた。
「ゲイルは休んでて・・・」
「そうさせてもらおう」
「ゲイル、一応異常がないか診るから」
「頼む」
「レイア、フラジール。今からイデアがティナに作ったバグフィルターもどきの見本を一つ作るから、それを治療用に持ってきてる布に写してみんなに配って」
「わかった、やるよ!」
「皆さん少し待ってください! ティナさんが口元を覆ってるものと同じものを複製してお渡ししますから!」
「布・・・?」
「煤や灰を吸い込まないように・・・」
「なるほど・・・なら前衛組から作って渡してあげて・・・私たちは後からでいいから」
「わかりました」
「それとフラジールにはもう一つ、僕以外のみんなにバフを・・・魔力残ってるかな・・・」
「まだ僅かに・・・だけどよろしいのですか? リアムさんだってこの様子だと相当・・・」
「僕はいいんだ・・・むしろ、別の魔力が混ざると引っ張ってしまう」
「わかりました・・・ブースト」
リアムに命じられて、リアムと後衛以外のメンバー達にフラジールがブーストをかける。
「ここまで来たんだ・・・みんな、付いてきてよ」
そして──・・・地面を蹴る。
「何あれ・・・」
「み、見えないんだけど・・・ブート」
「魔眼込みでも厳しい!? あれじゃあ本当に私たちは単に邪魔だったのかもしれない・・・」
「ブーストかけてもらった状態の魔眼を使ってやっと・・・目で追うのが精一杯かも・・・」
「泣き言言ってる場合じゃない・・・俺がブレイフに跨って先頭を走る。前衛近接組はタイミングを見切りつつ隊列を組んで突撃しよう」
「ン・・・」
「風を切って、なるべく温度の変化が少ない道を作り出そう。ラナ、俺とブレイフの前面に風の加護を頼めるか」
「わかった」
「驚いてる場合じゃない・・・私たち前衛魔法組は・・・」
「何ができるか・・・」
「悪いけど、私も結構その・・・ガタが来てるって言うか・・・さっきのアレはもうできない」
「あんな大業何回もやられてたまるかっての・・・よし、とりあえず待機しとくか・・・」
「それが良さそうね・・・」
「みんなが主役ってリアムなら言うよ」
「だな・・・ウォルター、僕たちは後ろで待機してる。タイミングを見て3人のサポートをしよう。助けにきておいてこんなこと言いたくはないが、最早リアムは別の勢力としてみた方が良さそうだ・・・」
「俺たちだってあの次元の戦いを前にして大見得は切れない。チクチクといくから──」
「把握したわ」
「背中は任せたぞ」
「まかせろ」
まずはうォルターがブレイフと共に最初の一歩を踏み出す。
「・・・ブルル」
──が、
「ブレイフ・・・」
「ウォルター、ブレイフ・・・」
「ウォル兄・・・」
「落ち込むなって・・・そうだよな、泣き言言うなとか言って・・・俺が間違ってた」
リアムとスコルに追いつこうと踏み出したブレイフの足が数十メートル駆けた後に止まった。
「天馬でも、あの速度についていくのは・・・無理か」
・・・正直になろう。例え目の前で起こっている事実であろうと、あの戦いが生物の繰り広げられる領域にあるという奴は・・・自分を騙している。




