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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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257 Just the way you are

「ねぇ、今日こそ勝てると思う?」

「さぁーね。やっぱ無理なんじゃない? そもそも過半数がまだ初等部を修了してないパーティーだぜ」

「えー、でも今までで一番可能性がありそうじゃない。偉そうに言って、だったらあなたもラストボスに挑戦できるくらい早く出世してよね。全く、攻略って言いながらコンテストばっか見てるから雑多に生態にだけ詳しくなっちゃって」

「ゔ・・・」


 常連さんも。


「さて、今日はどうなりますかね」

「おそらくでしょうが、勝てんでしょうなぁ」

「何をおっしゃいますか。彼らはあのアリアの後継なのですぞ」

「しかしほら、前回なんて瞬殺だったでしょ?」

「それを言っちゃお終いでしょう」

「違いない」


 古株さんも。


「訊いてきた、この人混み、どうやら年越しイベントだけのせいじゃないらしいよ。今日この街にあるダンジョンのラストボスにアリアっていうパーティーが挑むんだって」

「へぇー。それで・・・そのアリア? ってそんなに期待されてんの? ダンジョン最奥の到達者が出たって話は最近偶に聞くけど、よっぽど実力がないとなぁ。それにこのダンジョン、まだ未到達だったよな」

「だね。でもってさ、なんと今日挑戦するそのアリアね、パーティーメンバー10人中8人がまだ成人してないらしい」

「まじ? そんなチンチクリンたちが騎士4個中隊率いても勝てないって噂のボスに挑むわけ?」

「そうらしいよ・・・なんでこんなに盛り上がってるんだろ?」


 にわかさんも初見さんもこんばんわ。時は更に流れて年末、テール周辺は前回に負けず劣らずの賑わいを見せていた。故郷の風物詩、除夜の鐘はないが新年を祝う風習はあるので、例年同様に年越し(カウントダウン)という大型イベントに中央広場は人で溢れかえっている。また、普段以上に賑わう人以外にも変化が・・・広場の一角には大きな2本のポールが立ち、目新しいオブジェクトが行き交う大衆の目を引く。 


「ふぅ、こんなところでしょうか」

「お疲れ様です先輩」

「・・・いいんですか? お貴族様がこんなところで下働きしてて」

「いいんです。だってこれは、高度な光学魔法及び水魔法の複合技術であり、立派な学問の域です。護衛もちゃんとつけてますし、いざとなったら先輩たちが守ってくださるでしょ? それにこんな新しい試みに参加しない、参加できないなんて悔しすぎますよ!」

「まぁ、あなたの旦那が許したのなら問題はないでしょうが」

「旦那様だろう、ケイト」

「別に本人がこの場にいないのですから呼称など、ね、フラン」

「は、はい・・・」


 結婚してもう半年が経ったが、最近も公務やらであちらこちらに引っ張りだこのパトリックとフラン。故郷のリヴァプールにも一度帰りましたし、久しぶりに会った先輩のギョし方というものを少し忘れつつあった私は、難なくその毒牙に・・・あれ? 忘れてなくても、こんなものだったかもしれない。 


「ほら。奥様からお許しいただきました。公式ってやつですよ」

「相変わらず・・・いえ、なんでもないです。公的な場でちゃんとしていただければ・・・」

「・・・次期領主様の奥さん困らせるなよ」

「い、いいんです・・・先輩は先輩、今更変われという方が難しいです」

「ほぅ、フラン。それはどういう意味ですか? まさか、私の性格が岩石のように凝り固まった修正も効かない頑固者とでもいいたいのでしょうか」

「せ、先輩?ちょっと・・・えっ、えっ!?」

「このスクリーンの試作してるときなぁ、作業中あまりにも背後でブツクサ煩かったもんだから、再三注意された挙句にリアムに”欲求不満ですかっ”て言われた上、冷ややかな目で一瞥されて・・・」

「あぁー・・・」

「更に追い打ちでため息ついて呆れられたんだと」

「ウガァアア!誰が行き遅れですかぁ!」

「えぇーっ!曲解!?」

「私は学術的な見識を広めるべく新たな知の探究に従事し、そのお手伝いができればという・・・あぁー! 論理的に目的を分けられない!」

「術式見て興奮して、背中越しにハァハァ息を漏らすのはなぁ。こんなすごい魔道具試作の最中に後ろで息を荒くされんだからかなりうざったかったと思うぞ」

「あ、やっぱりただの曲解だったんですね」

「んなッ! この魔導具は私の水魔法及び魔法陣の技術も使われているんですよ!? つまりこの魔道具は私とリアムさんの共同開発品です!」


 リアムはこの魔道具の開発者をケイトとして、実質主任を務めていた彼は協力者として自分の名前を載せる程度に留めていた。このスクリーンは冒険者たちのコンテストを含め、設置されたカメラから会場の様子を映し出すものだ。映像を映し出す技術のベースになっているのは既にケイトの持っている魔導技術であるが、この魔道具の要となっている技術モノは明らかに別で、映像を読み取ってさらにそれをデータ化して送る魔導技術は紛れもなくリアムが手掛けた部分なわけで・・・。


「でも先輩だって、自分の研究が邪魔されたら鬼の形相で責めるし、生存確認をしに訪れただけで”邪魔した、責任とれ”って下働きさせて・・・」

「・・・はて、記憶にありませんね」

「ちょ、ちょっとそれはないでしょう!? 私だって自分のノルマがあって締め切りももうすぐって時によく駆り出して! 目の下にクマ作って、こーんな!くぉーんな!」

「私の美しい顔がそんな醜く歪むはずない」

「それともくぉーんな!?」

「しつこいですね! だから私とあなたの共同研究ってことにしてあげたでしょ!」

「当然です。それにしてあげたではなくて、こっちがしてあげたんでしょ! 無数にも思える計算やらデバックやら、細かな修正から面倒な作業は私が一身に引き受けていたんですから!」

「ヴ・・・」

「先輩の理論の中に私の修正論もちゃんと入ってるんです!でも、ベースになっているのはあくまでも先輩の論文で・・・その割に、明らかに画期的な理論で中央学会でも発表できそうな論文を”・・・趣味だから”とか言ってビリビリに破いて丸めて捨てちゃうし!」

「だ、だってそれは・・・駄作というか、先人たちの築いてきた学にチョロっと遊びを足してモンタージュしただけのなんのひねりもないつまらない理論ばかりで・・・」

「つまらなくなんてありません! そういう何気ない遊び心が大事なんです!自分からしたら平凡かも知れませんが・・・先輩はもっと自分の為すことやることに慎重になるべきです! たったそれだけ肝に銘じるだけで、どれだけこの国の魔導技術が発展するか・・・」


 怒ってるんだか褒めてるんだか。なんだかんだ言ってフランはケイトのことを尊敬してるし、大好きなのだろう。時折挟まれたものまねも地味にうまい。


「・・・フラン、あなた結婚したからってちょっとのぼせ上がりすぎてるんじゃないの?」

「・・・じゃあ、先輩も結婚すればいいじゃないですか」

「・・・自分で言うのもなんですが、こんな紙とペンのインクの匂いが染み付いて取れない女を欲しいと思う物好きはいませんよ」


・・・騒がしい。しかし悪くない。こんなに生き生きとした同僚たちを私は実に久しぶりに見た。だが彼女は楽しそうに笑いながら、時折切なげに笑う・・・ならいっそ。


「なら、いっそ?・・・違う、だから、私はどうしたいのか・・・」

「やはりフラン先生がいると一層賑やかになりますねぇ、アラン先生」

「・・・」

「アラン先生?」

「・・・ッ、す、すみません。少し・・・考え事をしていたもので」 

「そうですか・・・いやはや、もうじき年の暮れですなぁ」


 もうすぐ夜がやってくる。しかし冬の空、それも大晦日だというのに空の色は白んで、蝉の鳴き声が煩い夏の空のように、沈み行く太陽の光を淡く感じる。 


「祭りだねぇ」


 今日は年に1、2度ある掻き入れ時。居酒屋神楽で暖簾を外したアオイは入り口から振り返って通りを行く人々をみる。その賑やかさに得も言われぬ、ゾクゾクと感情の奥底から湧いてくる震えを感じ、無性に嬉しくなって笑う。


「アオイちゃーん!映像つながったよ!」

「そっか・・・それじゃあ開戦の年明けまで、働くとしますか!」


 ──が、絶好の商売時の今日、神楽はVIPの貸切だ。稼ぐチャンス、魅力的な機会に後ろ髪引かれるが、今日ばっかりはリアムの応援がしたい。リアムがいなかったら経済的にも精神的にも、今頃私はどうなっていたことか。リアムにはたくさん助けられた。そんな共同経営者の晴れ舞台なんだから、今日はみんなで画面の向こうの更に向こう、遠い場所で頑張るオーナーを応援しよう・・・だから、まずはカウンターの上に大量に積まれた出前を開戦の1時間前までに終わらせる!そしてリアムのくれた魔道具を通してその勇姿を見届ける!私だって商売人、転んでもただでは起きないのさ!


「すげぇ! 本物の偉い人だぁ!」

「本物の偉い人?」

「そ。あんた時々教会に来るだろ。けど孤児院の方にはいっつもジジイが来る。あれだろ、あのジジイってあんたの影武者ってやつなんだろ?」

「えっ?いや、それは多分僕の父で・・・」

「えぇー!影武者じゃないのかよ!」

「違う違う、影武者なら容姿が似てないと!・・・ね、似てないでしょ?」


 パトリックは子供たちの質問に肝を冷やす・・・質問の意図する所とはまた違った部分で。


「あの、パトリック様。それじゃあ・・・こう、領主様の裏で暗躍するブラックな組織とかないんですか?」


 この神楽で仕事をもらってるという孤児院の子供たちと出前のお弁当に入るハンバーグのタネをコネながらから、パトリックは子供たちの質問ぜめにあっていた。妻は広場の方に寄ってから遅れて来るみたいだし、これは普段できない経験だしと軽い気持ちで始めたのだが・・・まいったな。教会との連絡も用があれば互いに使いを出して文書で交信が通例だし、豊穣の祈り等の領地にとって重要な式典は年に1、2回と滅多にあるものでもない。まだ領主ではない僕は式典が終わると、ここぞとばかりにゴマをすってくる連中から逃げるようにさっさと退散してたからなぁ。さっさと帰る=誰も咎められないから偉い人、かぁ。


「ブラックな組織・・・」

「リアムが話してくれたんだ! 実録、世界の陰謀論 〜ノーフォーク公爵城より〜、メイドは覗いた!物語は領主様の執務室でメイドが机の下を掃除していたときに始まって〜」

「すると扉がノックされちゃうんだけど、部屋主でもないから返事をできるわけなく困っていると、返事を待たずに扉が開いて執務室の中に誰かが入ってきた!」

「部屋の中に入ってきたのは城の令嬢ミリア様! いったい何をしに来たのか、メイドは前貼りのある机の死角でクエスチェンマークを浮かべる」

「・・・が、その答えはすぐにわかる。ミリア様は返事がなかったにもかかわらず部屋に入ると、そそくさギィギィと下手くそな忍足でメイドの隠れている机に近づくの。ガサゴソ・・・ん? 何かを漁る音がしたと思えば、今度は”サクサク”と不思議な音が・・・これは・・・幸せの音だ! そう、ミリア様は部屋にメイドがいるとも知らずに領主様の机の上にあったクッキーを盗み食いしたの」

「そして口の中のクッキーを全部ゴクンと飲み込むと、キョロキョロと遅すぎる周辺確認をした後、死角にいたメイドにも気づかず満足そうな表情で部屋を出ていく。メイドは扉が閉まる音を確認すると、立ち上がってホッと一息ついた。しかし安心したのも束の間、箱の上にはミリア様が部屋に入ってくる前にはなかった紙が置かれていた。”申し訳ありません主人様。 ──メイド”・・・小癪なッ!」


 小癪なッ! とその文面を見て紙を持つ腕をプルプルと震わせたメイドは、クッキーの入ってる箱から1枚拝借してそれを摘みながら、しっかりとメイドの名を2重線で取り消して”ミリア”と書き換えた。しかし物語はここで終わらない。その後、ミリアに続き母上や、執事長、メイド長、料理長など城の主要部門を司る者たちが次々と執務室を訪れてクッキーを盗み取っていく。そして極め付けは、蓋を開けてクッキーが最後の一枚になっていることに気づいたものの、「このままでは私に摘み食いの汚名が、しかし1枚も口にしていないのに非難されるのも・・・ええい、ままよ!」と箱を空にしてしまった父上・・・この話には心当たりがある。もっと言えば既視感で、子供たちの話してくれた物語は多少脚色されているがその物語に出てくるクッキーはエクレールの新商品としてリアムくんが作った試作品だった。お茶会用として売り出しからティータイムに是非食べてもらって、味や食感の感想が聴きたいと。しかし、いざティータイムに蓋を開けると中身が空っぽになっていたので、唯一後ろめたい事情がない僕が保管していた父上を真っ先に叱りつけた。いい大人がくどくど・・・しかし私は1枚しか食べておらんと、往生際悪く罪を認めながら認めない父の言葉で、箱についていた指紋をリアムくんが調べると城中から犯人が芋づる式に見つかって、兎にも角にも僕が代表して彼に謝って・・・本物の偉い人というのはだからか。だとすると随分と可愛らしい陰謀論だ。


「確かにそんなこともあった・・・かな。けれど、間違ったことをしたら例えこの領地で一番偉い人だって叱られるんだよ。だからみんなも、悪いことはしちゃダメだよ」

「なぁんだそっか」

「じゃあ結局、リアムがこの領地で一番偉いってことなんだな」

「なんでそんなッ!・・・いや、そういうことじゃなくてね」


 自分も頭を下げた人物→その相手が一番偉いという理論。子供の論理というのは、柔らかすぎて、範囲が狭すぎて、しかし局所的ながらに筋はちゃんと通っていて、彼らの考えていることを予想して、理解して諭すのは本当に難しい。だが焦りに全身にギュッと力が入った一方で、理屈と建前と常識をコネて、コネて、そしてコネたような仕事ばかりで張っていた肩肘の力が自然と抜けていく。


「いいんですかアストル様・・・止めなくて」

「パトリック様が自ら皆さんとお話ししたいとおっしゃられたのです。故に我々があれこれ口を出して介入するのは野暮というもの。ただ、本当に根も葉もない噂話を始めたら止めましょう」

「ねぇねぇ、ところでパトリック様〜」

「なんだい?」

「新婚のパトリック様とフラン様はお貴族様だけど、やっぱり新婚だから毎日チューとかしてるの?」

「サァみなさん! そろそろコネ終わったでしょう! 次は成型をしますよ!」

「えぇー! あっ、アストル様お鼻のてっぺんにお肉が・・・」

「ほ、ほんとですか!?・・・あれ?」

「ついてなかったけど、今ついたよ」

「・・・やられましたね、アストル司祭」

「・・・やられました」


 根も葉もある話であったが、慌ててアストルは止めに入る。しかし子供たちにおちょくられて返り討ちにあった司祭を見て、アメリアは今ここにいられる幸せに心の底から感謝して、噛みしめる。


「時間を宣言してスコル・マーナ戦はじめるなんて前代未聞、けど、今のアリアならきっとできるわよね」

「負けたら負けたで、その時学んだ悔しさを蔑ろにするようなことはしたくない・・・真面目だよね、リアムくん」

「本当、できたリーダーだ。いったい誰に似たんだか」

「そうね〜、私もあの年齢であんなにしっかりとした考えは持ってなかったわ」

「俺だって・・・って今のは俺へのパスじゃなかったのか! まさかの強奪!?」」

「騒がしい男ね、まったくしょうがないヒト❤︎」

「おいおい、気色悪い表現はよせよな・・・あれ? リゲス、エクレアとコロネちゃんたちはどこ行ったんだ? さっきまでそこにいたのに・・・」

「エクレアならコロネとテーゼ商会の店長さんやパピスちゃんたちと一緒に出張サービスに精を出してるわ」


 曰く、彼らの挑戦はまだ終わっていない。前回だって、リアム以外は瞬殺だったのに果たして始まったといえるのかどうかすら危ういところだが、自分たちの手によって生まれ変わったアリアがどこまでやれるかは未知数で、正直楽しみだ。


「よし、売り上げに貢献するか!」

「じゃあ私はビールな」

「じゃあ僕も」

「私の分もお願いね」

「私もー!・・・って言いたいけど、私はフルーツジュースをお願い」

「・・・そんないっぺんにもてねぇよ」


 脳裏に秘めし期待をよぎらせた後、ウィルは遠目にリゲスに指差された方に場内を歩き回って商品を売るエクレアたちを見つけると、約束の時間まで後6時間、暇つぶしのお供を物色するため立ち上がる。だが立ってしまったが最後、使いっ走りさせられるのは必然というもの。


「休め筋肉〜」

「はい、いつも通り喧しい挨拶をありがとうございま・・・休め!? えっ、ちょっとテンション低くない!?」

「こんばんわー・・・あっ、ギルド長の足が当たった! も少し詰めてくださいよ!ばっちい!」

「悪い悪い・・・ファ〜、今からイベント進行しなきゃいけないのに・・・ばっちい!? ダメだよナノカちゃん!それは傷つくよおじさん・・・筋肉も心も」

「ふぁああ・・・あくびうつった。ギルド長、筋肉って傷ついたらより強くなって再生するらしいですよ〜」

「そうなの?あー、筋肉痛って筋肉が傷ついてるから痛いのかぁ」

「私は筋トレしたことないんで真偽の程はわかりかねますが」

「えっ・・・? ま、でもホント、筋肉の再生云々、その他もろもろの真実なんて今はどうでもいいかもなぁ。今俺はものすごく幸せ・・・その事実だけで十分だぁ」

「そうですねぇ〜」

「ちょっとちょっと2人とも! なんでステージの上で座り込んで・・・ナノカに至ってはゴロゴロしてるの!年越しっていう大事な時だからこそ節操持って己を律し、次に来る年に備えて」

「それってなんか、年寄り臭くない?」

「ナノカ!」

「イダだだだ! ごめんなさいー!」


 ナノカの耳をリッカが摘んで思いっきり引っ張る。


「でもー! だってこのこたつに入ったら出るに出られなくなくなっちゃって!」

「なに? この摩訶不思議なちゃぶ台はこたつって言うの?」

「そうそう。リア・・・リトルウルフからの差し入れだ」

「リトルウルフ・・・今日の主役からですか・・・なんか余裕ですね」

「んにゃ。その逆だよ逆・・・お詫びだってさ。年越しの忙しい時に挑戦するからって・・・あいつ、真面目なんだよ」

「すみません・・・邪推して」

「まあまあ、リッカちゃんもこっちきて一緒にあったまろうや。ポカポカして気持ちいぞぉ」

「いやですよ。ギルド長と同じ卓の下に足を突っ込むなんて」

「そ、なら入らなくていいんじゃな〜い?」

「ゔ、今日のギルド長張り合いがない・・・そんなにその中って気持ちいの?」

「あったかーい」


 さっきはあったボケツッコミが今度は成立しない。たった数回のやり取りでダリウスのやる気を削いで堕落させてしまったこのこたつというやつの中は、それほどまでに気持ちいいものなのか。


「配達で〜す」

「おっ、頼んでた弁当がきたみたいだぞ」

「ちょっと! 今仕事中なんですけど!」


 すると、配達と称して3人の会話に割って入りステージに上がって来る人影が1つ。


「まぁまぁリッカさん。おっ、こたつですね? いいですねー。冬の厳しい寒さに晒された体を優しく迎えてあっためてくれる優れ物」

「アオイさん、このこたつのこと知ってるんですか?」

「知ってるよ? このこたつの開発には私も関わったからね」

「へぇー・・・あの、椅子じゃなくて地面に座るのはどうして?」

「極東の座敷スタイルを取り入れたんだよ。私も床(畳)に座るのはどうかと思ったんだが、開発主任曰く足を伸ばしながら入れるのが醍醐味なんだと。ゴロゴロもできるし」

「・・・でも、それだと一般的なご家庭じゃ置き場所に困るのでは?」

「ふっふっふー。ご安心召されい。布がない分多少物足りないかも知れないが、一般的なご家庭にあるテーブルの裏に設置するだけで簡易こたつができる魔導具セットを我々は開発したのだ!それとな、こたつには今ここにある座卓式の他に掘りごたつというものがあってだな、居酒屋神楽では椅子に座るのと同じ感覚でこたつを楽しめるようになってる」

「へぇー」


「へぇー」と、ついさっきま舞台上でダラケまくる2人を相手に息巻いていたリッカが、アオイのお店自慢に感心して見せる。・・・さて、ここで問題です。なぜ椅子に座る文化が浸透している国で生まれ育ったリッカが、ちゃぶ台なんて遠く離れた異国文化の机を知っていたのか。


「それは、屋外はもちろん屋内の作業でさえ億劫になる冬、1日の仕事の締めに冷えた体を労るのにぴったりですね」

「でしょー・・・外から体を温めてくれる掘りごたつ、内から食の幸せで満たしてくれるおつまみとお酒のトリプルパンチでこの寒い冬を乗り切ろう!」

「このこたつの提供は、定番のお酒おつまみから、異国のお酒おつまみを楽しめる食彩豊かな居酒屋神楽でした。なお、こたつをお求めの方は鈴屋ノーフォーク支店へ足をお運びください。今あるテーブルをこたつ化するもよし、お見積もり、間取り、座敷の改築等のご相談も受け付けます」

「よろしく! それじゃあ私は次の配達があるからバイバーイ!」

「はーい!ありがとうございましたー!」


 宣伝も終わり、生き生きと手を振って舞台から降りるアオイと、それを送るリッカ・・・。


「って宣伝かよ!やっぱリトルウルフつえぇ!」


 そうして手を振って舞台から降りるアオイを見送りながら一際大きなツッコミを入れたのは、アオイと一緒に配達にきたフヨウから弁当を受け取ったばかりのカミラであったが、寸劇を傍聴していた客たちからもポツポツまばらにツッコミが入る。脚本・演出=リアム&アオイ・・・なんか不自然だなぁとは思ってたんだよ、途中から、具体的にはアオイが舞台に上がってきたあたりから。


「アオイちゃん、商売根性たくましいわ。お姉ちゃん感心しちゃう」


 突然、妹の参加した寸劇に大きな声でツッコんだカミラに少しビクッとしたが、一方で商売根性逞しい妹にフヨウは素直に感心する。さて、早く残りのお弁当を配り終えて、表で場外スクリーンを設置するスクール教員の皆さんといるフラン様を迎えに行かないと。


「いいなぁ、あのこたつってやつ。僕も一台欲しいなぁ」

「うーん。まぁ魅力的ではあるが・・・ぶっちゃけ、私たちが今身につけてる小型の魔導カイロの方が需要あるくないか?」

「そうよね、明らかにこっちの方が需要あるわよね」

「魔道具カイロは使い方を間違えると危ないから安易に売り出せないんですって。かくいう今紹介のあったこたつも、長時間入り続けたり、入ったまま寝ちゃったりすると危ないみたいよ?訓練の合間を縫って、付属させる説明書作りに難儀していたわ」

「たしかに、低温とはいえ長時間熱に当たり続けるのは体に良くない」

「へぇー」

「自宅で使う暖房の魔道具の扱いには注意が必要なのは当然のこと。それが手軽になっていくごとに、危機意識は薄れるものかもしれないわ」

「リアムの作る魔道具は大抵、注ぎ込む魔力を調整したりする必要もなく自動調整してくれるからな。だからと言って魔力を注ぎ込みすぎたりすると・・・ゔ、一回の供給でできるだけ・・・私もやっちまいそうだな。熱を産み出したり動かす魔道具は特に扱いが難しくて注意が必要な道具・・・か」


 地球でも、こたつの中で寝ると危ないとか、カイロによる低温火傷には注意しなさいとか、常識としてこれらの扱い方はありふれていた。しかしここは異世界、かつ、魔導カイロもこたつも魔力が続く限り熱を保ち続ける。だから使用法を間違えば途端に人体に有害になる。遊び半分で勝手に改造なんてされた日には堪ったものじゃない。


「ところでアイナ、エリオットはやっぱり・・・」

「スノーちゃんと一緒にマレーネが預かってくれたわ・・・予定通りに」

「俺もここに来る途中で改めて誘いに薬屋に寄ったんだけどな・・・頑なだった」

「そう・・・母さんはやっぱり・・・」

「・・・ほら、ビールだ。弁当もいいタイミングで着いたみたいだな」

「ありがとう」


 赤ん坊をこんなにたくさん人が集まって、気温の変化も激しくて、騒がしい場所に長時間置いておくのは倫理的に憚られる。しかし頼みもしないのに自ら世話役を買って出たマレーネ・・・唯一の救いはリアムの作った小型の受信機を受け取ってくれたことだろうか。今日、本当はこの場にいるべき1人が既に欠けていること。そのことにエドガーは内心情けなさを感じながらも、同じ気持ちを共有するウィルから差し出されたビールを受け取る。


「低温火傷、使用方法を違えたり不良品による発火事件、脱水・・・ より工夫し、お客様の声を真摯に受け止められるよう法に則ったルールを作る。現在皆様のお使いの試作魔導カイロは更なる改良を目指し、我がブラド商会で鋭意開発中であります」

「こんばんわ、ヴィンセントさん、リンシアさん」

「こんばんわ。今日もまた、同席させていただきます。日を跨いで、年を跨いでの長丁場になりますが、どうぞよろしくお願いします」

「こんばんわ皆様。今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします」


 ゆく年くる年。ヴィンセントとウィルが握手を交わすと、アイナとリンシアの妻同士が年末の挨拶を済ませる。


「公爵様はまだお着きになってない・・・ふぅ」

「まったく、なんとかうまい具合に人混みを抜けられたからよかったようなものを、店が心配なのもわかりますがもう少し部下にドーンと任せて信頼するくらいの気構えを持ちなさいな」

「グッ・・・痛いところをつきよって」


 次いで、時間ギリギリまで店の切り盛りに精を出し、貴族、平民の序列を気に掛けるガスパーとテムが関係者用の特別席ゾーンに到着する。


「ふぅ・・・間に合ったぁ!」

「お疲れ、ニカ。大変だったなぁ」

「いえいえ。久しぶりに仕事をしたというか、体を動かしたというか・・・新年を迎える前に溜まっていた余計な垢が落ちたような気がします」

「それは、悪くないな・・・だが、もう少し自分の体を労ってやれ。お前はスノーにとってただ一人の大切な母親なんだから」

「お気遣いありがとうございます、お義母さん」


 ここ大一番にギルドの顔として目の前の舞台にゲスト出演しているダリウスの代わりに、親の代から培ってきた敏腕で支部の指揮を執るハニーの元、育休中ながらも同僚として仕事を手伝いに行っていたニカが帰ってきた。遅すぎず早すぎず、ニカをしっかりと時間に帰してくる辺り流石だ。


「・・・来たか」


 そして──。


「随分な歓迎だな」

「こんばんわ、公爵様、公爵夫人」

「楽にしなさい。くるしゅうないぞ」

「こんばんわ」


 なんだかんだ、あれからここ半年は顔も合わせていなかったからして、前回の終わり方からすれば因縁の再会になる。


「ほらよ」

「・・・何の真似だ」

「僧侶も酒飲む年の暮れ、今年積んだ徳を自慢しながら悪い垢を削ぎ落として忘年に耽る。で、来年も娘の名前連呼して、今と変わらない馬鹿面のままあの狭い部屋でふんずりかえってるがいいさ」


 しかしブラームスの予想のどれもを外して、意外にもウィルは酒の入ったコップともう一つ、1本の布切れを差し出してきた。


「どういう風の吹き回しだ」

「息子に教えられたのさ・・・息子の人生は息子の人生。一度決心したことに親がとやかく言うなんざ、筋が通らねぇ・・・違うか?」


 ブラームスは呆気にとられる。まさかこの後に及んで自分は約束はしたが、息子がそれをどう解釈するか、その点に置いて自分は一切の裁量を持たないと堂々と宣言した。それは、貴族の我らからしたら政治的な駆け引きにさえ発展し常習するものであるから、交わせば領地の利益の次にそれを為さんと努力し達成すべき誓い・・・しかしあの子は依然として正真正銘平民ウィリアムの息子リアムである。親が他人と交わしたただの暴論・・・血税という言葉がある。民の血肉にも代わる税を使って生きる糧とする我らにはある使命が、リアムにはない。同時に、私はウィリアムに平民として生きる道を選んだお前を匿ってやったのだからという建前で約束をさせたわけで、こちらから持ちかけた約束を守るよう更に迫ることの何と醜いことか。俺に何言ったって、俺があんたと約束しようと息子は息子。息子がどんな選択をしようと俺に選択を躊躇わせる権利はあれど、絶対に実行させる、阻止するまでの力はない。当人を交えない約束など所詮その程度のことなんだよ、今の俺たちにとってはな・・・と、ブラームスはウィルの言葉をそう解釈した。


「相変わらず切れぬ糸だ・・・」


 なんの中身もない。向こう側にぶら下がっている実を取ろうと自分から泥沼に飛び込んでおいて今更ながらに、実は自らの都合が引き起こした幻想で、挙句足は嵌り身動きが取れず、抜け出すことも敵わない状況にいることを思い知らされた。 

 

「公爵様ともあろうお方が何をおっしゃる。さっ、今日は息子娘の晴れ舞台だ。子が親に反抗しようと、親が子に縛られない道理はあるまい」

「・・・健気なことだ」


 反抗したら縛りつけるのが親の役目。一理ある。だが、こうは考えられぬものなのか。子は写し鏡。叱りつけて縛りつけたいのは己自身、然り──。


 ”お前はいいな・・・気楽で”

 ”・・・”


 大人だって間違える。その点をまず認めて欲しいと幼少の頃、机に是が非でも私を縛りつけようとする大人たちに対して思ったものだ。己を律することに躊躇いを持つことを止めてくれ。それを承知した上で理を説くのであれば、当然の如く己が常にその条理タレ。なぜ貴様なんぞに私が律されなければならぬのか。・・・愛してるのなら、この反感にヒビを入れてくれ。愛する子の道を阻む大きな壁にヒビを入れ、乗り越えるための足場を作ってやるもよし、砕くための手助けをしてやるもよし。そして、お願いだ、ここから出してくれと・・・。


『こいつの壁は最初からボロボロだった。そのことを当時の私はないものねだりで羨望したが、同時に家に必要ないものとして扱われる立場を知り、辛いの一言では言い表せぬ失意の裏返しであることが解った・・・今でも完全にわかったとは言えん、このザマじゃな』


 蓋を開ければ簡単な道理だった。こいつの壁の攻略を手伝う者はないが、なればこそ壁を壊す邪魔をする者もいなかった。つまりこいつの壁は全て砕いた物であった。

 思い出すのは、城で夜な夜な開かれる会の端っこでいつも一人明後日の月光を眺めていた小僧。大人も子供もそれぞれのグループを形成し、そして流れゆく本流の中で、集団になびかず、流されず、また、唯一真逆のスタンスをとり、己を必死に消そうとしていた階級という路傍の小石のこと。


「それでは、我らが誇らしいアリアの武運を祈ってぇえええ!」


 気を取り直しまして、本日の主役の保護者たちはアリア応援弁当と称しアオイが配達した弁当に付属していた鉢巻きをキュッと額に結ぶと躊躇いなく袖をまくり腕を大きく突き出す。


「うちのミリア()が1番だ!」

「うちのリアムとティナ()が1番だ!」

「うちのウォルターとラナ()とレイアが1番だ!」


 パピス主導の元作られテーゼ商会の物販でももちろん売られている鉢巻は、勢いよく席を立ち上がったブラームス、ウィル、カミラを筆頭に、アイナ、エドガー、ブラッドフォード夫妻、ウォーカー夫妻、「う、うちの旦那ヒトが・・・」と、見た目に反して常識人のニカもコソッとウォルターが一番だと宣言して額に当てて後ろで結びその時に備える。


「親ってのはホント・・・バカよねー❤︎」

 

 一方、自分の子供たちが参加する彼らと違って、少々複雑な立場にあるリゲスは「稼ぎどきだから? ダメだよ、みんなの先生なんだからお父さんが応援してあげて!」と、自分の代わりに会場を歩き回りせっせと働くコロネを視界に捉えると、 ”GOGO アリア”と書かれた に”&”と”コロネ”の名前を付け足し頭に巻いた。


「まだ始まってないのに、あそこだけ異様に盛り上がってんなー」

「ってこの領地の領主様じゃない!ほら、広場にあった銅像にそっくり!」

「ハアッ!? この領の領主って言えば、国のお貴族様で公爵様じゃなかったか!?」

「あんちゃんたちは旅人かい? 今日ラストボスに挑戦するパーティーには公爵様の御令嬢であらせられるミリア様もメンバーに名を連ねていらっしゃるのさ」 

「そうそう。愛娘のミリア様をああして周りの羞恥も気にせず盛大に応援する公爵様も今じゃ名物だ。微笑ましいだろ」

「ほ、微笑ましいか・・・?」


 娘とはいえ、あれだけはっちゃけて中年のおじさんに応援されたら年相応に、恥ずかしすぎてトラウマになるな・・・と思った俺は応援を素直に受け取れないくらいに捻くれているんだろうか。


「そろそろ指定された時間、出番なんだけど・・・出にくいな」


 また、今回ダリウス同様に解説に呼ばれていたルキウスはそろそろ出番なのであるが、一部異様に盛り上がってる観客を見て、タイミングを逃し登場を躊躇っていた。博識でずる賢・・・知恵の働く彼なら上手い口で、アリアが勝っても負けてもうまく締めてくれるだろうという明日の戦いを設定したギルド側が保険をかけた形である。


『今は・・・これでいいんだよ、マレーネ』


 ストレートに拳を突き出したウィルは、腕の傾きを少々斜め上に構えていた。今、突き出したコレとはかなり異質で周りくどくてめんどくさいやり方だったが、自分自身を対象とすることで家族の愛を確かめ合えた。難しい関係にある俺たち家族であるが、おかげで俺は今こうして胸を張って、堂々と隣で拳を掲げるこの親バカジジイに対峙できる。


「つ、繋がったァアア!遂にアリアが最後にして最も凶悪な試練のある入り口に辿り着きました! 時間ぴったり、年の変わり目まで後1時間と10分です!」


 保護者一同が拳を突き出した瞬間、ナノカの大きなコールが会場に響き渡る。何と絶妙なタイミング・・・いや、時間通りだ。

 

「愛してるぞ、リアム」


 ボソッと呟く。これが終わって、次の春が来て仕舞えば息子は自らの見聞を広めるべく旅に出る。世界は広い。それどころか、この世界以外にもまた別の世界があるってんだから・・・なのに、俺はずっと同じ所に留まっていて・・・あれ、おかしいな・・・? どうして今更こんな・・・。


「・・・」

「・・・」

「・・・」


──1時間後。


「今年もお世話になりました。来年もよろしくね、エド」

「こちらこそ、本当に家族共々お世話になったよ。来年もよろしくお願いします」


 今一度、逸る気持ちから浮き足立つ年の瀬を迎え、人生の足跡を記した行く年を惜しみつつ、来年くるまっさらな手記の1ページに手をつけんと礼儀を弁えて互いに祈る。一方、特にその瞬間を心待ちにして先走った3人の気力は持つはずもなく──。


「時間通りに辿り着いたはいいが、1時間以上のお預けは長すぎるぞ・・・息子よ」

「ウィリアム・・・お前の息子は我ら観戦者の心情など知ったこっちゃないぞ、絶対」

「だな・・・挑戦のタイミングは冒険者の自由。しかしこんなビックイベントに被せてきた割に歯切れが悪い!」

「あいつはびっくりするぐらい、今回の戦いを律したがってたからなぁ〜・・・」


 新たな気持ちを年の節目という行事から始めたい。前回から封印されし心の蠢きから、最大限に高めて挑みたいと望み実現した明日の1戦であったが、こうも神殿に辿り着いてから待たされる時間が長いとは・・・前回と然程変わらないインターバルのはずなのに、超長く感じるんだが・・・! 


「長すぎる・・・」

「それだけ、今回俺らがアリアにかける期待が大きいということだろうな」

「ところで、会話は目に見えて少ないが、水晶を採集したり前回と然程変わらぬ過ごし方をしているようだ。あれは一体どういう作戦だ? あの子らはこれから始まる劣戦において、どういう戦術を展開していくつもりなのか・・・ミリアは当日のお楽しみだの一点張りで頑なに教えてくれなんだ」

「・・・ああして前回と同じ行動をとることで自分を戒めてるんだと。私は止めたんだが、これは勝つために必要な過程であり、これがが最善なんだとリアムが譲らなかった」 

「戒めか・・・ふむ、それが果たして吉と出るか、凶と出るか・・・それで、開戦後の戦略は?」

「俺たちとの最終ミーティングじゃあリアムがスコルを担当して、残りのメンバーがマーナの相手をすることで各個撃破するって話だったが・・・」

「各個撃破・・・? つまり隔離か分散・・・あれはそれができなくて難儀するのであろう」

「実現するには私らが昔やって見せたような紙一重のコンビネーションが必要不可欠だ。しかし、半年以上かけて私らの指導を受けて準備してきた子供たちといえど、そこまでの連携が取れるほど技も心も研ぎ澄まされていない」 

「そうだな。あんな狭くて限られたフィールドで俊敏な2頭の獣を相手にする・・・改めてあの水晶舞台は酷い環境だ」


 あと、9分弱。ここにきて攻略談義に花を咲かせて時間を潰す。齎される現象フィールド条件からして先にスコルを、しかし願わくば同時撃破するに越したことはない・・・ああだこうだ、冷静を装って今にも爆発してしまいそうな感情から3人は頑張って目を逸らす。


「・・・が、これにもやはりリアムに策があるらしい。それは俺も教えてもらってない」

「私もだ・・・クソッ、勿体ぶりやがってリアムのやつぅうう! これだけ引き延ばしといてその手段がショボかったら許さん!」

何故なにゆえか」

「確信があるんだと。前回の戦いから得た経験ってやつが自分にはある。だから絶対にできるはずだと自信満々に言い切ったよ」

「・・・それは、大丈夫なのか」

「大丈夫だろう。あいつは愛なんて不定形に実に懐疑的で、素直で、真摯に向き合いたくて、頑張り屋で・・・自信を持って答えたいと努力して・・・まあ偶に空回る・・・で、その延長で実体のあるものに対しても臆病であるがやはり偶に空回る。・・・しかし、しかしだ! 我に策あり、 一遍の見落としもなくこの情報は完璧にして絶対であると、これまた自分の短所をよく知るリアムが冷静に告げた」

「ミーティングに同席してその様を一部始終見ていた私もあの言葉は信用していいと思う。酷いくらいに冷ややかな目であいつは語った・・・言い切ると表現するには些か不安な言い草だったが、私はリアムが絶対だと付け足したあの瞬間に体を震わせたよ。染み込んだ鮮血の色に魅了された者共の血を吸って、また残酷に、艶やかに咲く・・・これまで数え切れないほどの命を狩ったこの赤薔薇でも計り知れない底の深さ。あれは血の水なんてチャチな水溜りじゃなくて、生死の境目で何度も殺され続けた亡者の血が生み出した海の墓場、その禁じられた海に足をつけた生者のような・・・」 

「それは言い過ぎだ。テメェこれ以上人の息子をそんな血も涙もない殺戮者みたいに言ってみろ・・・容赦しねぇぞ」

「アレを見て能天気に息子自慢する主観的にしか見れないバカと視点が違うんだよ。それに貶しちゃいないさ。自ら望んで踏み込んだんじゃない。あくまで迷い込んでしまった子供さ・・・穢れちゃいない。しかしあの冷たさ、やはりあれこそが奴の真の武器だ。本当に恐ろしかった・・・あの時陰った影に落ちた瞳の更に奥だ。あいつの言霊が揺れているように聞こえるのはあいつの中で彷徨ってる亡者共のせい。そう錯覚したくなるほど覗いた深奥はホント、底知れない・・・」


 皮肉、屁理屈。そういうアイロニーで塗り固められた中に埋まっていたのは、誰もを恐怖のどん底に突き落とすようなどんなに知識を落としても足りない奈落だった。あのクレバスの底にあるであろう溜まり場には、私は絶対に足を踏み入れたくない。きっと、その深淵を覗いたのであれば、私の魂を形成する器は粉々に砕け、さなぎの抜け殻のように空っぽの肉塊が取って代わるだろう。


「そうか・・・」


 ブラームスはウィルとカミラの話を聞いて納得する。リアムの親でなく、リアムの友人の親である私でも憂慮すべき奴の根深い本質の一端を知っているつもりだ。奴は友情、絆、体裁、愛なんてモノをを優先しがちで、まるで己に欠けているものを必死で満たさんが如く取り巻く繋がりに執着してみせようとする傾向がある。例え圧倒的な正論であろうと、どこか躊躇いを含むような言い草。しかし今回彼らの行動の根幹となる理由、それが信念に臆病な奴の経験であり、ましてや知識だとするのならばこれほどに期待できることはない。幼かろうが鼻につこうが、あの子は私の大事な娘を預けた信用のおける家庭教師にんげんのひとりだ。不安定さが際立つからこそ垣間見える直向きな渇欲の儚さ。あのアンバランス→インテリジェンスの頭にインプットされている膨大な知を無碍にするなど、戦の道理を理解できぬ愚か者のみ。


『・・・その亡者に、リアムは含まれてないよな』


 カミラが感じたという亡者たちの存在を聞いて、ウィルは不安になる。すると、そっと隣から手が差し伸べられて、そして重ねられた。・・・アイナだ。・・・そうだ、大丈夫のはずさ。リアムは転生者。それはもう知っている。転生前の人格を引き継ぎ、新たな肉体と世界を得た息子は、周りとの関係性を改め、あらゆる二重の世界に生きるが故のギャップに苦しんでいた・・・だが、それももう俺たちは知っている。そしてギャップを生んでいた膜が取り払われた今、リアムの前世は今世と繋がったのだから、今のリアムも生きているのだから、昔のリアムだって、まだ──。


「・・・そうこう噂してりゃあ、どうやら時間だ」


 リアムが台座に突き刺さっている剣柄を握り、そして抜いた。


「では、改めましてルキウスさん。チームアリアはどのような戦闘プランを立てていると思われますか?」

「そうだね。前回の挑戦が失敗に終わったことを踏まえた上で僕が知ってるリーダーのリトルウルフくんなら、体力尽きるまで正面から殴り合うことはしないだろう・・・」

「ということは・・・?」

「僕の読みだと・・・各個撃破、かな」

「いやいや、リトルウルフならそれは一番あり得んだろ。あの舞台で各個撃破を狙うのは熟練の冒険者たちでも難しい」

「おっしゃる通り・・・だけど、期待してしまうんだ。彼なら・・・彼らなら、僕らが思いつきもしないような方法で、このダンジョン始まって以来の偉業を成し遂げてしまうんじゃないかって」

「それじゃあただの願望だろう・・・解説になってない」

「仮にこれまで多くの挑戦者たちが敗れてきたとはいえ、そもそも未到達の領域の話であり、未知数が前提の戦いのはずだ。その不確定要素はダンジョンという今我々が地に足つけて生きる世界より狭く限られた世界で、より一層重要性を際立たせるんだから、多少のビッグマウスは許してほしいものだね。新しい発見とともに時代の流れに急かれる僕らだって、そのくらいの夢を見たっていいはずさ」

「・・・壮大に纏めやがって。ちゃんと解説しろって煽った俺の立つ瀬がなくなるじゃねぇか」

「立つ瀬がないのなら、こちらの瀬にでも立ちたまえよ。プライドと生存戦略の狭間に揺れる爪先立ちでどれだけ踏ん張り続けられるか見ててあげるからさ♪」


 映像の中ではリアムたちが降りてきた水晶の螺旋階段を登っている。


「学長先生はわかってらっしゃるな・・・リアムのことをよく見てくれている」

「各個撃破か・・・かつて、それを成し遂げるまで後1歩のところまで迫ったのはお前たちが最初で最後だったな」

「いや、最近スコルとマーナの攻略は停滞気味だが、それでも挑戦者たちは着実に進化してる」

「そうなのか?」

「ああ。俺たちも教える側として今の最前線を勉強させてもらった。今のダンジョン攻略を支えている奴らも結構やるもんだぞ」

「それは・・・リサーチ不足だったな」

「公爵直々に視察するほどでもないさ・・・奴らとて獣、そこを重点的に意識してコンビネーションで攻撃を実質分散、コントロールした私らの華麗なる戦略とは正反対もいいところ。奴らはただの呑んだくれだ。酒のつまみを投げて片方がそちらに気を取られてる隙にもう片方を倒そうと火事場泥棒みたいにセコい上にその1をも狩れぬ軟弱者ばかりさ」

「ん? それは、餌で釣るということか? 中々に強かで私は意外とアリだと思うが?」

「破綻してるんだよ。本物の強者が相手なら奴らの方も本物の獣の本能が働いて、それこそ呑気に餌に食らいついて味を楽しんだりせんだろ?」


 敵は、この場にいる誰よりも格上の存在だ。より豊富な経験を積んだ大人でも超えられない壁・・・その壁に、まだ若いツバメたちが挑もうとしている。


「雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫なカラダヲ、僕ハモッタ・・・」

「それは・・・詩、なのかしら」

「訓練中に私の同化を改めて見せた時、リアムが詠んだのよ。でもリアムのオリジナルってわけじゃなくて、ミヤザワケンジって人が書いた物を一部抜粋してもじったらしいわ」

「ミヤザワケンジ・・・聞いたことがないな」

「そうね・・・でも、リアムちゃんは本当に強くなったわ」

「でしょ?でもね、リアム曰くこの場合の”僕”っていうのは決して自分だけを指してないらしいわ。あの時詠んだ詩の”僕”は”アリア”、アリアと言うパーティーそのものの声として詠んだらしいわよ」

「へぇ、リーダーだからこそ・・・なのかな。そう言う考え方、僕は好きだな」

「深いわねー」


 階段を登りながら、先頭のリアムは現在の屋外の様子が透けて見える天井を通して確認する。上空は荒れ、チラチラと黒く染まった影雪が降ってくる・・・ダークグレーの背景から更に黒い無数点が迫ってくる、なんとも恐ろしい光景だ。気温はこれからどんどん下がるから、この調子で雪が振り続ければ後にブリザードとなるだろう・・・外の天候は最悪だ。


「ちゃんと、勝ってくれないと許しませんよ・・・」

「許さぬと言うのは少々手厳しいですな、ケイト先生」

「まあ、休み返上してこんだけギリギリまで調整して準備したんだから、わからなくもないが他ならぬリアムの頼みだろう。それに一番応えきゃならんのは」

「違いますよ、ジェグド」

「・・・違うって?」

「ホッホッホ、なるほど・・・愛、故にですかな・・・」

「・・・ええ、愛ゆえにですよ」

「研究資金へのか?」

「・・・」

「・・・」

「・・・あれ、違った?」

「違ったじゃありません! 真逆でしょう!いっぺん死ね!」

「ま、待ってくれ! 俺にだって言い分が!」

「この後に及んでどんな言い分があると言うんです!」

「それは、お前の日頃の行いがだな!・・・あっ」

「ジェグド、ケイト! お前たちが騒ぐからケーブルが!──こ、これは・・・まずい、映像が途切れたぞ!」 

「き、切れたところからタンクの魔力が漏れてる! こ、こうなったら、我々で魔力を直接供給して応急処置をとるしか──!」

「うそだぁぁああー!」

「ああ、一番魔力のあるフランはもう帰ってしまったし・・・チッ、肝心な時にあの子は」

「無闇矢鱈と不満を振りまくんじゃない!とにかく急ぐぞ!」

「・・・こういう慌ただしい年越しは初めてです・・・が、悪くないかもしれませんね」

「何を呑気なことを! ビッド先生も協力してください!」

「はいはい・・・それでは・・・映像が復活しましたね。皆さん流石です」


 団結して、立ち向かえ。


「ギリギリセーフ!」

「やっぱ空間魔法って便利だよなぁ!流石フランだ!」

「フラン様、ね。アオイちゃん」

「いいの、フヨウ。・・・そうやって呼んでくれると、幼い頃のことを思い出しますね」

「ゲートの魔法があるとはいえ、間に合わないかと思ったよ」

「ごめんなさい。どうしてもあのスクリーンでリアムくんたちの姿を見てみたかったの」

「おかえりなさいませ、フラン様、フヨウさん、アオイさん。こちらにも映像はちゃんと届いてます。どうぞこちらにズズッと」

「頑張れリアムの兄ちゃん!」

「頑張って・・・リアムくん!」


 過去は巡るもの、募っていくは現在。


「未来は必ずやってくる。だが、過去に募るは現在のみ・・・お前たちは、現在もまだ十分やれるはずだ。それなのに何を嬉しそうにしている。もっと悔しさを表にださんか・・・まだ、枯れたわけじゃあるまい」

「アゥウ」

「スゥー!」

「・・・兄姉や父のことが気になるかい? そうかいそうかい、ならば、一緒に見ようかい。私だって、リム坊たちの応援はしたいのさ」

「・・・夜分遅くに失礼、どなたかいらっしゃらないか」

「ノック・・・気のせいじゃないね・・・こんな時間にノックかい。まさか、こんな直前にまた私を誘いに来たわけじゃあるまい・・・だが・・・慌ただしくどさくさに紛れて連れて行こうたってそうはいかん。私は、意地でも今日はここから動かんよ。わかったら・・・」

「夜分遅くにすまない・・・」

「ウィルたちじゃない・・・こんな大晦日の夜に急患かい?」

「そうか・・・今日は大晦日であったか・・・すまないな。我が故郷の懐かしく柔らかな匂いを感じたもので・・・同胞のよしみで、突然の訪問と礼儀を欠いてしまったことを許してほしい」

「急患でもない?・・・同胞・・・あ、ああ!・・・あなた様は──!」


 世界の現在は今も刻一刻と現在を生み出し、募らせる。そして各々が過去を巡り、これまでに思いを馳せて未来を見たがる、見たがらない。


「フッフッフ──」

「────エホッゲホッ!」

「ンフフー、おめでとう。その調子だ。このままいけばお前は新年を迎えられる」

「た、助け・・・ゴボボ!」

「さあさあさあ、お前は後何回、俺の審判を受ければ・・・って」

「規則的で不気味な物音がすると通報があったのはこの辺りか?」

「・・・残念。世界はいつも君を見ている。どうやら君が告白するまでもなく、世界が君を悪と認定したようだ」

「ンー!ンーンッ・・・」

「我に還りたまえ──執行完了」


 どちらにしても、我々は生きている限り未来を意識し続けるであろう。世界はあなたで、君が歴史で・・・君は唯一無二のかけがえのない特別な時間を現在過ごしている。


「それじゃあ、カウントダウンいってみましょう!1分前──59、58、57」


「56、55、54、53、52、51、50」


「49、48、47、46、45、44、43、42、41、40」


「39、38、37、36」


──35、34、33・・・先頭のリアムが、最後の1段を登りきる。


「25、24、23、22、21」


「20、19、18、17、16」


「15、14、13、12、11」


「10、9、8──」


 リアムに続いたアリアのメンバーたちが、全員舞台に上がった。


「7、6・・・」


 空は当然まだ暗い。だが明らかな異変はそこにある。吹雪になるだろうと思われた雪はシンと止み、空と陸の境界を生み出した厚雲の中には恐ろしい青い雷が走っていた。


「キタァアアア! 天雷の覇者たちが!」


 もはや彼らを雛と呼ぶものはいないだろう。だが、やはり若さとは誰もが欲する魅力的な一期でありながら、危うい。そう・・・想像するだけで、切なく、そして胸が熱くなってくる。 


「さあ、いきますよ! ・・・1! 」


 圧倒的な雷鳴を轟かせて、空から1本の図太い雷が落ちる・・・──くる。あの瞬間が・・・この瞬間を待っていた!明日一、そして今日一番の興奮の瞬間を──!


「ゼロ!せーのっ、Happy New year──」


 新年を祝う祝言が会場全体をが包み込んだ──。


「──アンン!?」


 ・・・だが、主軸となったナノカとリッカのコールが早々に疑心に揺れる。


「・・・」


 スコルの遠吠えから始まる予定だった、猛々しい新年の幕開けは出鼻から挫かれた。


「にゃっ!? にゃ、なぐっ・・・」


 会場中が静まり返る。本日のイベントの進行役たち、映像の中で起きていることにダリウスは頭を抱え、いつもは笑みに細い目を完全に見開き、ルキウスは眼前の光景を角膜に写しながら言葉を失う。また、あろうことか状況に全くついていけてないリッカの口がパクパクと遊ぶ。かろうじて、これまでもリアムたちの戦いを進行し続けてきたナノカのみが声を発する。これまで幾度となくリアムを中心に起こってきた奇想天外な不測の事態に鍛えられてきたナノカ、しかしそんな彼女でも、数秒間、演出抜きに言葉を詰まらせるほどの衝撃の光景。


「殴った・・・」


 目の前の光景をそのままに垂らし流す。幕は早々に消し炭となり、祭囃子は一気に山を超えた。精悍で高潔。巨大でありながらスラっと整った黒狼の顔が、黒い氣のまとわりついた拳によってを歪められている。明けた雷の中から出てきたのは、空に向かって吠える迫力の王者ではない。威厳はなく、たたずむ姿もなく、残存する雷のエネルギーを纏わりつかせながら、がむしゃらに、人のちっぽけな誇りを簡単に弾く厚力に食らいつき、熱く、強く、滾り髪を逆立たせ、歯を食いしばる、哀れな1匹の獣の顔を殴る恐れ知らずな1人の少年の姿だった。


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