23 スクール処世術・・・?
── 入学式が終わり、家族みんなが合流して家に帰り着いた後、それまで我慢していた3人から湯水の如く湧き出す質問攻めにあった。
「リアムッ!あれはどういうことなんだッ!父さんたち保護者の説明会中も気が気じゃなかったぞ!」
「そうよ!『あの子はどの家の子だったんだ?』『将来が楽しみな子でしたな』なんて、張り付いた笑顔で獲物を狙うように探って話している人たちがたくさんいたし!」
父さんの焦り方は実際すごかった。顔にびっしり汗を浮かべながらも興奮も抑えきれず、今日今までしていた我慢を一気に解き放つ勢いだ。しかし、「私も気が気じゃなかったわ!」といっている母さんはどこか少し嬉しそうで、その時の声真似をしてみせるくらいには余裕がありそうだった。・・・まあ、「さすがリアムね!」なんて一人方向性が違うズレたことを言ってる姉さんも一人いたが。
「と・・・とりあえず説明するから」
と余裕がありそうでもなさそうでも、身を乗り出して聞いてくる三人に、僕は一から説明することにした。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「そうか・・・」
「災難だったわね・・・」
「・・・・・・」
説明が終わった後、三者三様の反応をみせる3人。ちなみに、あの挨拶の内容は棄権となったアルフレッドのカンニングペーパーが壇上の見えないところに貼ってあったことにした。
『これくらいの嘘はいいよね・・・・・・?』
そして今回、入学式後にあったアルファード卿との出来事は、みんなに説明していない。・・・然もないと、さすがに頭が追いつかないだろうし、変に混乱させるだけだから。
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「リアム・・・お前は明々後日からスクールに通うことになる・・・・・・。そして、これから先も今回のように同級生や先輩達に絡まれたりするかもしれない。そしてその時、父さんたちがリアムのそばについていてやれることはまず、ないだろう・・・・・・」
どこか悟ったように、しかし真面目に話す父さんの声に耳を傾ける。
「だから、まずは絡まれないように普段から礼儀を正すことだ」
「誠実さは大切だからな」と説いている父さん・・・。
『まあ・・・もう絡まれちゃったんだけどね・・・・・・』
僕は頭の中で密かに既に絡まれた件を自己申告する。しかし、アルファード卿との件を父さんたちには話していないので、既に絡まれたことを知らない父さんは話を続ける。
「── 相手を無意味に挑発せず、無難な返事を返していればいい・・・もちろん!やりたくないことはしっかりと断ってな・・・・・・」
父さんなりの処世術なのだろうか。なんか妙にリアリティがある。
「そして、それでも相手が絡んでくる時はカリナや父さん達のところに戦略的撤退を・・・・・・グヘッ!」
視線をテーブルに落とし、真剣に語っていた父さん・・・。しかし、その頭上に何かが突如降ってき、父さんはその勢いでテーブルに叩きつけられる。
「── ちょっとウィルッ!・・・そこは『戦ってこそ男だ!』とか、もっと男らしい態度を説くものでしょ!始めはいいことをいってるな・・・って感心してたのに『反撃もせずに直ぐに撤退しろ』だなんて!・・・それじゃダメよッ!」
すると、急に熱弁を振るい始める母さん。どうやら父さんの上から降ってきたのは、勢いをつけて飛んできた母さんの火精霊バルサだった様だ。
「『男なら反撃をしろ・・・。それでお前がピンチになっても、父さん達はお前の味方だ!』とか、もっとリアムの成長に繋がる様なことをいってあげなきゃ・・・!」
「し・・・しかし、リアムは他の子と比べて小さいし・・・・・・」
消え入る様な声で母さんの猛論に反論する父さん。すると、母さんは僕の方を真っ直ぐ見据えて話の続きを始めた。
「私も、ずっとあなたの味方でいるつもりよ・・・。けれどね・・・難しい話だけど、あなたもいずれは独り立ちをして生きていかなければならない・・・。そして・・・スクールはそんなあなたとともに競い合ったり、時には協力しあったりする対等な友達を作っる絶好の機会なの・・・!それに、そんな彼らから得られる経験というのは、将来、とても大切なものになるのよ!」
『燃えている・・・!』
母さんは、徐々に固くこぶしを握り語り、その背後が燃えている様な幻覚を見せるほどに力強く語っていた。
「確かにリアムは他の子より早くスクールに入ったわ・・・。でも、自分が他のみんなより年齢が低いからって謙るだけじゃダメ・・・時には逃げることも大切だけれども、一度は自分自身の中で対抗して見なければダメ。もちろんあなたが誰かを蔑む様なこともね・・・。だから、あなたは胸をはって堂々としていなさい!」
「・・・はいっ!」
熱くも緩急つけて話す母さんの激励に、思わず返事をしてしまう・・・。敬礼までしてしまいそうな勢いだ。
「よろしい・・・!」
そういって腕を組み許可する母さん。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「「プッ・・・」」
すると、そんな母さんと僕を見た父さんとカリナ姉さんが吹き出しそうになった笑いをこらえる音が聞こえてくる。
「「── クスッ」」
今度は、それにつられ組んでいた腕を解き、口を手で押さえて笑いをこらえる母さんと僕。そして ──
「「「ハハハハッ・・・!」」」
「フフフッ・・・!」
我慢していた笑いが決壊し、大笑いする父さんとカリナ姉さんと僕。母さんも口を押さえて楽しそうに笑い、その後はしばらく温かい笑いに包まれる団欒となった。




