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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
第3部 〜ダンジョン ”テール” 攻略〜

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220 アストルの隠し事

 アメリアが失踪した次の日、つまりリアムたちの決闘の日の午後。いつもは庭や廊下を走り回る子供達の賑やかな声はなく、孤児院には現場検証や追跡のために捜査する警察が忙しなく出入りしていた。


「こんにちは。公爵家近衛隊所属のジュリオです」

「公爵家の・・・警察ではなくですか?」


 そんな孤児院の併設する教会の司祭室でアストルが警官のためにお茶とお菓子を準備していれば、公爵家近衛隊のジュリオが扉を叩き部屋を訪れる。


「どうぞ・・・」

「いえお構いなく。私も仕事で来ていますから」


 ジュリオはアストルの淹れた紅茶を遠慮しながらも、彼の対面のソファに座り、外で冷えた体を温めるために一口だけと柔らかな湯気の立つカップに口をつける。


「早速本題です。失踪したアメリアさんについてお話しを伺いたい」

「何故昨日の今日で、公共機関の中でもトップクラスの権力を持つ公爵家の近衛隊の方がいらっしゃったのか? 近衛隊が動くのは、連続殺人だったり他領地からの侵略行為の阻止など領民の命が複数以上脅かされるもっと凶悪な事件のはずです。それがたった一人の、さらに孤児のアメリアの失踪事件に顔を出されるとは・・・」


 ジュリオの対面に座るアストルの眉がひそめられる。このところ連続して人が失踪するなんて話は聞かないし、考えたくもないが死体などが出てきたわけでもない。公爵様の近衛隊が駆り出されるほどの事件など・・・まさか失踪や殺人を公表できないほど悪質な事件にアメリアは巻き込まれてしまったのか!?


「どうして我々が動いているのかとお尋ねされれば、失踪したアメリアさんが我々が追っている闇に巻き込まれた可能性があるとだけ。機密のため詳しくお話はできませんが、一刻も早く事件の真相を明らかにし審査する必要がある。これからお尋ねすることも、失踪したアメリアさんをいち早く保護するために必要な聞き取りなんです・・・ご協力を」  


 アストルの予感は存外に的を射ていた。ジュリオはファウストのことは機密だからと伏せて、しかしアメリアに命の危険が迫っている可能性のあることだけを匂わせる。


「・・・わかりました。私の答えられる範囲であればご協力しましょう」

「ありがとうございます。では・・・」


 アストルはジュリオの聞き取りを承諾する。彼もやはり教会の司祭である。人の、それも家族同然のアメリアに命の危険が迫っているともなれば、ゴチャゴチャと教会側の機密について交渉している暇もないだろう。その辺は成り行きに任せる。

 

「・・・アメリアさんは成人です。しかし彼女は修道女シスターにもならずかといって独立しているわけでもなく、何故ずっと孤児院にいらっしゃるのか?」

「確かに彼女はシスターではありませんし、成人もしている。しかし何故今も彼女が孤児院にいるのかと言われれば、それは彼女が孤児院に必要な存在であるからです。彼女は誰よりも、きっと院長である私よりも子供達に信頼され慕われている。彼女は孤児たちの重要な支え、なくてはならない存在で・・・」

「孤児院運営の規則では、孤児たちの独立を促すために15の成人までに仕事を探し職につくこととなっています。ここは平等に等しく子供達に将来の機会チャンスを与える施設でもある。そのような例外は認められないはずです」


 ジュリオがそれらしいことを述べていたアストルの主張をきっぱりと遮り、覆す。


「それは・・・もちろんそうなのですが・・・」

「この孤児院には教会も併設しているため志願する者および、どうしようもない理由で行く宛のない者は教会に入会し、聖職者として生きていく道も用意されている。そのために我らが主人ブラームス様も教会のみならず、孤児院の運営にもご出資なさっているのですよ?」


 いずれ孤児は独り立ちをしなければならず、やってくる別れも平等でなければならない。それが領主から資金を出資してもらって孤児院を運営するアストル、ひいては教会の責任である。


「アストル様。あなた何か隠していらっしゃいますよね?」

「そんなことは・・・」

「聖職者であるあなたならばきっとやましいことではないと信じております。加えて、あなたのお人柄はよく存じておりますから」


 ジュリオは内心かなり焦っていた。今、あまり長く近衛の自分たちが四方に散らばるのは良くない。現在、次期領主とはいえ現在代理であるパトリックしか城にはいないし、当主の留守に加えてアリアの決闘・・・箝口令が敷かれているために表に出すことはできないが、どうにも悪い方へと事を結びつけてしまう自分がいたから。


「だからお話ください。あなたは一体何を隠していらっしゃるんですか? その胸の奥に秘めた秘密を、是非アメリアさんを救うためにお聞かせ願いたい」


 この街の教会を仕切る司祭であるアストルは、現在王都の教会にいる司教を除けばここの実質の最高責任者である。その人柄は素晴らしく、人々のために奉仕し、日常生活に問題を抱えていたり、喧嘩や諍いがあれば仲裁に走り親身になって話を聞く。その傍らで神事をこなして孤児院の子供達や家の事情でスクールに通えない者などの教育にも従事している。

 教会の規則のために既に司祭となった彼には結婚は許されていないが、年上年下問わず彼は多くの方面から非常に人気があり、多くの人間に見られ戦うオブジェクトダンジョンのコンテストさえなければ、間違いなくその人気は頭一つも2つも抜きんでていたものとなっていただろう。


「・・・・・・」


 そんなアストルが何か隠してはいないかと聞けば黙り込んでしまった。やはりこれは何かある。


「これから話すことで本国や教会に不信感を抱かないでいただきたい・・・実に個人的で身勝手なお話ですから」


 慎重な前置きである。そしてアストルは罪人に断罪を告げるように重い口を開き、アメリアの素性について語り始めた。


「彼女には、父親がいます」

「・・・それは、孤児もまた人の子ですし、名前や顔がわからずとも必ず親はいたわけで・・・」

「違います。彼女の場合は "いた"・・・ではなく "いる" なのです」

「・・・つまり、彼女は孤児ではないと?」

「・・・はい」


 しばらくの沈黙の後に彼の口から告げられたことは、孤児のはずのアメリアに父親がいると言う衝撃の事実であった。


「ならばどうして彼女は孤児院に? まさかその彼女の親だという人物と何か関係が?」

「・・・その通りです。アメリアの父親は昔の私の顔なじみで、まだ幼かった彼女のことを私に託し必ず迎えに来ると言って旅に出て行きました」


 それはまだ、アメリアに物心が付いて色んなことに興味を持ち始めた頃の話だった。


「アメリアの父の名はゲオルク。短い間でしたが、修行時代には共に協働した仲間でした」

「アストル様の修行時代と言うことは・・・」

「・・・私が彼に出会ったのは彼此もう20年以上前の話です。私がまだ右も左も分からない若い見習いの学生だった頃、母国の正光教会の神学校でわずか3ヶ月というとても短い時間でしたが、彼は教会の規則のもと同じ屋根の下で生活を共にする同輩でした」


 現在から20年ほど遡るアストルとゲオルグの学生時代。


「ゲオルクはとても優秀でした。教典の祝詞の一節を一度見ただけで全て暗記してしまう。また課外の奉仕活動のために学校の外へと出向いた際には、抱える闇の大きさに囚われず困った人に手を差し伸べる彼は、慈愛の心にあふれ、まさに聖職者の鏡のような人間だった」


 別に少々頭の出来が悪くとも、神に仕え人々のために奉仕する心があればそれはまさしく彼らの業界では優秀といえる。ただやはりそれはあくまでも務めを果たすための矜持に過ぎないのだ。つまりアストルの語るゲオルクの人物像は、それだけ優秀で理想的な聖職者の姿であった。


「しかし我々の共同生活が始まって3ヶ月が経った頃、彼は突然急に学校を辞めて教会を退会してしまったのです」

「それはなぜ?」

「・・・わかりません。ゲオルクが学校を出て行く際には同じ屋根の下で生活していた私たちにも何も言わずに行ってしまったため、当時若かった私はどうして彼のような模範となる人物がと苦悩しながらも、時が経つにつれ『彼は我々とは違う道を選び歩み始めたのだ・・・彼にもまた信仰の自由も人権もある。しかしきっと彼ならば世のため人のためになることを続けていくだろう』と信じるようになり、そう自分に言い聞かせながら己が精進のために切磋琢磨した日々を今でも昨日のことのように覚えています」 


 アストルは同じ道を志す同輩の突然の退会にそれは胸を痛めたという。何か彼は深刻な問題を抱えていたのか、抱えていたのであれば自分に手伝えることはなかったのか? 彼はゲオルクが退会してしばらく碌に勉強も手につかなかった。それくらいにアストルは真面目でお人好しなのである。

 

「やがて私も学校を卒業し、総本山の大聖堂で5年ほど修道士を務めた後に叙階され、司祭となってこの教会区へと派遣されました」


 しかしそれも自分の気持ちに分別をつけることが難しかった若かりし頃の話。アストルはその後自分がなすべきことを成すための努力を怠ることはなく、見事20の若さでこの街の教会の司祭へと抜擢されたのである。


「するとどうしてでしょうか? それから私がこの街の司祭に叙階されてそうですね・・・あれは1年か2年が経った頃です。前職の司祭様からお務めの引き継ぎを終えてようやくこの地にもなれてきた頃、いつものように聖堂で朝のお祈りを終えてふと振り返ってみれば、そこには私を訪ねてきたある男が立っていたのです」 

「その訪ねてきた男というのはもしかしなくとも・・・」

「はい。その男こそが数年来に再開したゲオルクでした。そして私を訪ねてきた彼には、同行者の子供が一人いたのです。その子こそが・・・」

「・・・アメリア」


 まるで残り数ピースで完成するパズルのように、空白にピースが次々とはまっていく。


「私も久しぶりの再会で驚きました。聞きたいことも積もる話もたくさんあった。そして私は当然のようにその再会を喜び、思わずいくつもの質問を投げかけてしまうほどにあの時は取り乱していた」


 しかしピースがハマれば同時に、そのゲオルクという男の怪しさも際立つ。


「一方、彼は冷静なものでとてもよく落ち着いていました・・・今思えば不自然なほどに。そしてたった数個、興奮する私をなだめるために言葉を交わせば彼はこう言いました。『用があってこの近くを訪れたのだが、昔、同じ学び舎で過ごしたお前がいると風の噂で聞いて立ち寄った。しかしこちらから訪ねてきておいて悪いのだが、少々急ぎの用があり困っている。お前とは積もる話もあるし、ゆっくりと話をする時間を取りたい。だからどうか、私が用を済ませここに戻ってくるまでの間、このアメリアを預かっておいてはくれないだろうか』・・・と」


 パズルは残り1ピースのところまで完成した。しかし絵の中心の残りの1ピースが見つからない。 


「私はその言葉を信じ彼の申し出を受け、まだ幼かったアメリアを預かった」

「しかし今もなおアメリアが孤児院にいるということは、その後ゲオルクが教会に戻ってくることはなかった・・・」

「・・・ありませんでした」


 残りの1ピースが見つからずとも、パズルの描きだしたものが何かの鍵であることは分かった。そしてそれがファウストの何かを知るための鍵であるということだ。


「だから彼女にはまだ親がいて、言うなればアストル様が後見の代理人として彼女を預かっている訳ですね」

「少なくとも、私らの教会の管轄と近辺の地区でゲオルクの特徴と一致する男の死亡は確認されませんでした。職業柄、そういった情報は必ず耳に入りますから」


 15年近くも前にアメリアを残して姿を消したそのゲオルクという男が、ファウストの一端を知るための大きな残りの1ピースを持っている。あるいは一端に留まらず、鍵が核心そのものの扉を開くものである可能性も。


 ・

 ・

 ・


「あぁぁぁああゔぁあああ!!!」


 鎖の球体のに囚われ眠っていたアメリアが、サクリファイスの呪文とともに苦しみ始め、絶叫する。

 

『アメリアはとても良い子です。まだ飛ぶことのできないヒナたちを優しく包み込む白く美しい翼を持っている。そんな彼女が、未だ孤児院に留まり自らの道を閉ざしてしまっている現実には私も大変に心苦しく思います。彼女には早く、自らの生の喜びのためにも巣立たせ自由にしてあげたい』

「あああああぁぁあ熱い・・・! 熱い゛・・・!?」

「イデア・・・!」

「分析しましたが、彼女の中で魔力と未知の力が衝突し合い暴走しています。ただ一つ、原因はあの胸の呪具のようです」

「それは見ればわかる! 解決策は!?」


 アメリアの明らかな異変を目の前にし、リアムがイデアに解決策を模索させる。


「・・・わかりません。あのメフィストと呼ばれた種子の生み出している力は、魔法の十大属性にも属さない力のようです。現在も並行してマスターのアーカイブに接続しながら該当するものを模索している状態で、具体的な解決策の立案にはもっと時間が必要です」

『せめてもの償いにと幼い頃からの彼女の衣食の費用は支給される私の給与から出させていただいております。何であれば今一度皆様からの献金の明細と教区からの補助金、教会の帳簿を見比べ調べてもらっても構いません』


 同刻、アストルはそう言うと実際にこれらの明細が書かれた帳簿をジュリオの前に出して提供する。司祭としてのアストルの給料は一般のそれよりも圧倒的に少ない。いくら教会で過ごし住居費だけはかからないとしても、そこから2人分の食費と1人分の衣類費になれば手元に残る金額はたかが知れている。


「熱い痛い裂ける痛いイタイ痛い・・・!」

「アメリアの体の中で起きている力の衝突に伴い細胞がものすごいスピードで破壊と再生を繰り返しています」

「どう見ても再生って感じじゃないんだけど・・・?」

「訂正。どうやらあれは再生ではなく・・・」


 結局、イデアでもその答えを探し出すことができず、状況を見守ることしかリアム等にはできないでいた。


『そのような心配はご無用です。毎月の教会の決済は予算決定のために提出いただいておりますから。ただし、もし万が一にもこれが必要となった時には再びこうしてお願いをしに伺うことはあるのかも知れません』

『もちろん。人々のため、我らが意志と宣誓に対する潔白の証明のためなれば、教会は協力を惜しみません』


 神に誓いを立てたアストルは嘘をつかない・・・ただ一つの例外を除いて──。


「・・・暗い」


 突然、アメリアの絶叫がピタリと止まる。


『それでは、私は一旦城に戻って調査を続けます。何か進展がありましたら、随時お知らせをお願いしたい。よろしいです──』

『アストル様!』

『・・・コロネさん?・・・失礼ジュリオ殿。なぜ君がここに・・・それにライトや他の子供達まで・・・今はお客様と大事な対談中です。一体何を・・・』

『お願いしますジュリオさん! アメリアを、私たちのお姉ちゃんをどうか助けてください!』


 また、アメリアの絶叫が止まる同刻に、突然、司祭室の扉をノックもせずに開き、密談中の部屋の中に侵入してきた者たちがいた。


『みなさん・・・アメリアはただ、ちょっと遠くまでお使いに行っているだけだとお話ししたではありませんか』

『そんなの嘘だ! それじゃあなんで朝からずっと知らない人が孤児院にまで出入りしてるんだよ!』

『それは・・・孤児院の建物の定期検査をだね・・・』


 あまりにもお粗末な嘘である。

 アストルは神への誓いを立ててから2回、嘘をついたことがある。1つはアメリアの出自を隠し、彼女を孤児だと言い張って彼らと一緒に育てたこと。


『俺は聞いたんだ! アメリアが・・・アメリアが誰かに攫われたかもって・・・警官のおじさんたちがこっそり喋ってるのを・・・』

『・・・!? ・・・聞いてしまったんですか』

『ああ。だからみんなで相談して、一番アメリアと仲の良かったコロネにも一緒に来てもらった・・・』

 

 アストルが吐いたもう一つの嘘は、昨晩から今この時までについていた嘘。


「この姿って・・・」

「暗い・・・暗いよ・・・みんなどこにいったの?  ジョン? ダニー? パディ・・・ポリー? ジェナ・・・トレイシー・・・」

「孤児院の・・・家族を呼んでいるのか・・・?」


 虚ろな目をしたアメリアが、順番にリアムたちも聞き覚えのある孤児院の子供達の名前を呼ぶ。やがて元の媒体である彼女を包むように増殖していた根の細胞も、絶叫が止まると同時に減速してある怪物の姿を形作る。


『大丈夫です・・・アメリアさんは我々が全力を持って捜索します』

『ジュリオさん!!!』

『ジュリオ殿・・・しかしそのような約束は・・・』

『子供たちが約束を破ってここまで直談判しに来たのです。・・・これも仕方のないことでしょうアストル様。あなたが子供達に出来るだけ心配を与えたくないことはわかります。しかしそもそもこの状況で勘付くなと言うのは無理があり、余計要らぬ不安まで子供達に抱かせてしまうだけだと存じます』

『しかし、それが果たして正しいのか私には判断しかねる・・・』

『私ももどかしいのです。そして今、私にできる精一杯がコレなんです』


 アメリアを救うためにも、この領地の未来を守るためにも・・・そんな2つの良心と使命を天秤にかけているジュリオもまた、嘘をついている。領から防衛策を任じられた近衛隊は、あくまでも最優先にアメリアを捜すのではない。第一に、アメリアを攫った何者かを探しているのだ。


『・・・わかりました』


 しかしジュリオの精一杯の嘘、それが子供達のためについた優しい嘘であることをアストルはわかっていた。


「ライト?・・・コロネ?」

『ありがとうアストル様! ジュリオ兄ちゃん!』

『ありがとうございますアストル様・・・ジュリオさん・・・』


 だから彼はまた、嘘をつく。


『まさか子供達が約束を破って押しかけてくるとは・・・ジュリオさん。過去はどうあれ、出自がどうあれ・・・子供達と私、我々にとってアメリアはとても大切な家族なんです。 どうか彼女を・・・あの子を助けてあげてください』


 アストルは真実の神ヴェリタスに誓いを立てた。彼の神こそが、正光教会の崇める善神である。


『全力を尽くすことを約束します。ではこれにて私は失礼させていただきます』

『神のご加護があらんことを』


 しかし、神に己が真実を差し出して誓いを立てた聖職者アストルは、愛すべき者を守るためにだけは嘘をつく。──それは何故か。


『コロネ、ライト・・・それにみんな・・・アメリアの無事を一緒に祈りましょう・・・主よ。どうかアメリアをこの困難から助け救いへとお導きください。お守りください』


 何故なら彼がヴェリタスに誓った真実とは──。


「アストルさ・・・ま」


──”常に人のためにあれ、広大無辺の愛をもって”。・・・それが、アストルの立てた誓いの真実であるから。


「驚愕です。まさかこんなことが・・・」


 最も尊敬し、愛し、親しい人の名を最後に沈黙してしまったアメリアを見て、イデアが再び語り始める。


「彼女の細胞はあの呪具から発生し増殖する未知の力に破壊され、同時に再生されていました。また未知の力が再生する細胞に浸潤。そして彼女の細胞は従来の人のそれよりも圧倒的に強く・・・」


 未だ種子から供給されアメリアの中を侵食していた力の正体はわからない。また、アメリアのその風貌は明らかに人の子の姿とかけ離れていた。


「つまりなんだッ!」


 リアムが答えを焦るほど、供物として捧げられたアメリアの状況は切羽詰まっていた。


「つまり・・・」


 拡大した体、縦に鋭い虹彩、蛇の胴と尾に変じた下肢。


「あれは、再生ではなく・・・」


 イデアがリアムの問いに答えようとする。


「キィィィィあぁぁああアア!!!」


 すると、アメリアだったそれが・・・怪物が、天を仰ぐよう背を仰け反らせて猛る。


「進化です」


 その溜めと咆哮との束の間に告げられた推測が、アメリアの変貌に対するイデアの答えである。



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