213 リアムVSウィル
「土竜剣狼」
ウィルが再び超スピードの中に消える。
『シンクロ、または土竜剣狼の自体が魔法鍵。魔法鍵は大抵発動する魔法やスキルの効果を表すもの。また契約精霊のモグリが出てきてから父さんはこの技を使ったから・・・!』
同時にリアムは頭をフル回転させて思考を巡らせ、整理し、ウィルを迎え撃つ。
「放電!」
リアムを中心に全方位へと雷が放たれる。
「おっと・・・まんまと当たるかよ」
しかしウィルには当たらない。
リアムの全方位攻撃を察したウィルは即座に、後方の効果範囲外へと逃げた。
そして──
「さあ、カウンターだ」
一直線に、リアムがいた場所へと・・・匂いのする方へと──
「重っ! イッテェー・・・ゲッ! こりゃあリアムの上着!」
ウィルが突撃し刺したのはなんと大木とそこにひっかけられていたリアムの上着。
「隙あり」
束の間、大木とリアムの上着に突き刺さったダガーを抜こうとするウィルの背後に、近くの木の裏に隠れていたリアムが斬りかかる。
「あっぶな・・・よくわかったな。カラクリが」
「モグラって言えば目が悪い代わりに匂いに敏感な生き物・・・父さんのそれって、モグリと感覚を共有してるんだよね?」
が、あと一歩のところでウィルはダガーを抜ききりギリギリのところでリアムの一撃を受け止める。
「感覚を共有して戦うとか普通混乱しそうなものだけど・・・!」
「よくわかったな・・・精霊とも契約してないお前が・・・!」
「それは精霊と感覚を共有する技はボクを修行していた時にカミラさんが使ってたんだ! キララと視覚を共有して修行するボクの監視をするために!」
「クッソカミラのやろッ!」
「呑月」
「・・・武器破壊か!」
「よし・・・折った!」
筋力の差を魔力の差で埋める攻防の刹那、リアムが刀に注ぎ込む魔力を暴発させ、同時に自分の刀を犠牲に触れる刃を通してウィルのダガーをも破壊する。
「武器を一本折ったからって喜ぶのはまだ早いぞリアム・・・俺がなんて二つ名で呼ばれているかは知ってるだろ?」
だがウィルは武器を破壊されても冷静である。かつて冒険者の中でもトッププレイヤーであった彼もまた、仲間同様当然のように空間収納の効果を持つ腰掛け@ポーチを持っており──
「狼の歯は何も一本じゃない。一本折れたところでまだまだ噛み付ける!」
「それはボクも同じだよ!」
リアムもまた、自分の亜空間に仕舞ってある刀の一本を取り出して鞘から抜く。
「月咬み!」
「バイトウーンド!」
振り下ろされるリアムの1本を、交差する2本の刃で受け止めるウィル。
「どうした・・・また武器破壊はしないのか?」
「クッ・・・!」
「しない・・・いやできないんだろう? この前のキマイラ戦は俺も見てた。その時ほとんどの刀の在庫を消費してしまった・・・かといって東方の珍しい武器ゆえにこれを取り扱っている鈴屋でも入荷している数にも限りがある」
「呑月!」
「おっと・・・へへ、また折れちまった」
ウィルの挑発に、再び呑月を使うリアム。
『虚勢を張って思わず使ったけどこの戦い・・・これ以上もう武器破壊はしないほうがいいか』
今度1本の犠牲に対し2本の武器を奪うことに成功した。だが──
「刺突・・・」
ウィルの言った通り、リアムの刀のストックは残り少ない。一方アウストラリアでもメジャーなダガーを使うウィルには余裕がありそうで・・・。
残りあと3本・・・これからは無駄な消費を避けるため、短期決戦に持ち込まねば勝機はない。
「──三日月!」
刀の剣先を敵に向けて突進する刺突の技。とても大味な技だが、敵に脅威を感じさせる大胆な一撃を繰り出す。
「ロックウォール!」
「ウィンドスラスト!」
「チッ! だが──!」
ウィルが迎え撃つために岩の壁を出現させる。しかしリアムは突進しながらより速く強力な暴風の壁を纏い──
「単調だ・・・避けるのは容易い!」
軌道直線的に突っ込んできたリアムに対し、岩の壁で同時に死角を作ったウィルは左に跳んでこれを回避する。
「右に・・・」
しかしこの対応はリアムの予想内・・・いや外だった。なぜならウィルが跳んだのはリアムから向かって右。つまり刀を持つ利き腕側で、もしこの状態から刀の刃を外に向け振られようものなら、後ろに下がりながら避けるウィルが対応することは難しく──
「上弦の月!」
当然、リアムは即座に刀の刃を外に向けて通り過ぎざまに右外に向かって刀を大きく振る。
「・・・そして、読みやすい」
が──
「刀が砕け・・・!」
ウィルがピンポイントで構えたダガーがそれを受け、同時に互いの刃がボロボロに砕ける。
「確かにお前の魔力は強く、異常だ」
刀身が砕けてしまった刀を見て驚愕するリアム・・・
「だが武器を破壊する程度の魔力なら、俺でも流せる」
そんな彼を見て、ウィルは少し口角を上げて冷静に笑う。
「さあて、消耗戦といきますか」
前傾姿勢で着地しインターバルを極力減らしたウィルが、再びリアムに襲いかかる。
「モールクロー!」
「また土の・・・!?」
背後から感じる魔力の蠢き。先ほど見た地面から生えてくる土の棘の攻撃か──。
「壁・・・!? テレポート!!!」
リアムに向かって伸びるのではなく、上に向かって何本も生やすことで壁を作り追い詰める。これにはたまらずリアムもまた、瞬間移動を使って緊急離脱するが──
「2度目だぞ・・・なぁ、リアム」
だがまたもウィルは空中に逃げたリアムのワープ先で彼の背後を取ると──
「スタブウーンド」
今度は確実に、新しく握ったダガーをリアムの背中から胸へ貫通させ・・・
「鏡花水月」
「スカッたか」
しかしウィルのダガーはグサリと刺さることはなく、リアムの体の向こう側まで振り抜かれる。
「立待」
──空中。リアムは素早く、反転して己の幻影とにらめっこしながら深く息を吐き体を脱力させ・・・
「月光」
とても自由落下中とは思えないほど安定した振り抜き。幻影の向こう側から攻撃をスカしたウィルが出てきたところを腕をムチのようにしならせながら逆手に持った2本目の刀を下から上へ振り抜く。
立待からの月光は本来、リアムが得意とする待ちの構えで迫ってきた敵を牽制する真下から体を縦断するように走る脱力型からの高速の切り上げ技だ。
「ウインド」
「クッ!」
しかしウィルは一手先を読んでいた。
ここは空中。よって真下への風の攻撃は自分の落下抵抗を増やすだけでなく、リアムの落下速度を加速させてワンテンポ疾い回避を実現させる。
「ロックレイン!」
更に上から、ウィルが魔法で生み出した岩が再びリアムに降り注ごうとする。
「サンド!」
リアムより断然重く、重力加速度影響をいより受け迫る岩々にこれには咄嗟の判断で、さっきウィルがやって見せたようにリアムはサンドの魔法で全てを砂へと変化させ対応する。
森に広がる大量の砂の雨。同時に──
「無茶苦茶やりおるな・・・あの親子」
「ええ。急に光ったり煙が上がったと思えば、今度は森に砂の雨が降ったわ」
と、実は先ほどのリアムの放電で引火していた森の木々に砂の幕が降りる姿を遠くからオペラグラスを使って観戦していたブラームスとマリアが観測する。
「どうして・・・鼻は煙のせいで効いてないはず」
「そうだな。さっきの雷・・・俺を牽制する役目と同時に森の木々に引火させてから煙を発生させて・・・臭気で鼻を鈍らせる一手でもあった」
「そりゃあ当然・・・気付くだろうけど」
「ああ、まあな・・・だが俺が今モグリと共有して高めている感覚は嗅覚だけじゃない」
2人とも砂かぶり。また、満足に呼吸もできない環境。
「直感と直観だ」
しかし互いの姿は見えていた。魔眼が捉える砂の揺れが・・・すれ違いざまに再び壊れた互いの武器が。
「なあリアム。獣の狩ってのはさ、獲物の習性や性格、特徴に合わせて行われるもんだ」
雨から霧へと変わった砂が徐々に晴れていく。
「そんな狩の中でも1番大事なのはなんだと思う・・・?」
また1本。リアムの刀を折ったウィルが得意げに語る。
「直感と・・・直勘・・・」
「そうだ。視覚でも聴覚でもましてや嗅覚だけじゃあ狩は成立しないし失敗することもよくある。一方モグラってのは陰気な獣さ。その一生のほとんどの時間を土の中で過ごす生き物だ。そして餌は土の中にいるミミズや土壌に生息する昆虫を食う」
ウィルは一体今になって何が言いたい。まさか自分にはそんな獣の野生の勘が備わっているとでもいうの・・・か。
「──まさか!」
「そう・・・お前も知っていた通り人間が感じる以上のあらゆる匂いを嗅ぎ別けて獲物である虫を見つけて食うんだ。そしてそれにも獲物を嗅覚として感覚的に捉える直感はもちろん、経験や知識が導き出す直観が必要だとは思わないか?」
前世で言うところの第6感。
言語化できない領域にある暗黙知に野生の勘。
呼び方は様々あるが、人間が多くを考えて動くところを大半の獣は一瞬の命のやり取りをするために本能にしたがって動いているといことは確かで・・・
「直感ならまだしも直観まで増すって・・・チートじゃないか!」
「お前だって桁外れの魔力にオリジナルスキルまで持ってるじゃないか・・・だからありだ!」
当てずっぽうの確率操作にも近いそれをチートだと非難するリアムに、堂々とお前もチートだと言い返すウィル。そう言われれば言い返せない。
「さぁて。タネも明かしちまったし・・・そろそろ決着としようや」
「モグッ・・・!」
それも野生の勘というやつなのか、何かを察したのかウィルが最後の決戦を宣言する。
モグラの考えていることなんて知りもしない。しかし彼らは視覚という情報が欠落した世界で棲む生き物で、嗅覚と直観を頼りにその日を生きる糧を見つけ食らう。
「これしかないか・・・」
正直言ってそんな曲芸にイデアなしで対抗するなど無謀。
視覚強化+嗅覚強化+ウィルの才能と戦闘経験&モグリの生物的特徴と野生の勘による直感と直観の強化・・・ボクがこれに対応するためには──・・・
「待宵」
残りの刀は一本のみ・・・ならばもう一度、得意な待ち型からの一閃にかけるのがベスト。
「インサイズドウーンド!!!」
最後と宣言したらしく直線的な突進。ウィルのそれに合わせて柄に手をかける。
「雨月──」
雨月は待宵で敵の攻撃を受け流す一の太刀・・・
「嘘だろ・・・ここは正面切ってやり合う場面だろ」
しかし──
「鏡花・・・」
それは、絶対に抜いたと思わせる気迫と勢いだった。
『ここでフェイントかよ・・・』
リアムは刀を僅かに抜いただけで、ウィルの攻撃を直前に僅かワンテンポ遅らせるとそれを離してまた元に戻す。
「だがそれもまた読んでたぜッ!」
しかしもう一本のダガーを取り出し素早い切り替え、ウィルの今の最大の強みは最速の臨機応変さである。
あと一歩で間合い・・・その一歩の一瞬に飛んできた攻撃を一本で受け止め破壊し、今出したもう一本でトドメを刺せば終わる。このフェイントは今のウィルからしたら自らの選択肢を捨ててしまう悪手だ。踏み込まれれば確実にヤラレるから攻撃してこないことは絶対に・・・
『捕まえた』
──ない・・・はずだった。
「バースト」
刹那、リアムの全方位5m以内の大気中に、普通では絶対にありえない密度と量の魔力が流れる。
「・・・グゥッ!」
ウィルは驚くべきことにリアムのバーストを受けても怖気怯みだけして、気絶することはなかった。しかし同時に、ボロッと魔圧に耐えられなかった2本のダガーの刃が砕ける。
「空間固定」
『体が動かねぇ・・・!!!』
また、バーストで発せられた魔力が一瞬にして動きを止めたウィルを磔にする魔法に変わる。
ウィルの直観は確かにリアムの追い詰められた緊張感を認識していた。しかしここにきてのこの我慢の連続に耐えるフェイントとそれをなし得る度胸、ワンアクションで一石二鳥の効果を見出すアイデアの豊富さ、柔軟さ・・・胆力。
「・・・・・・」
柄にかざされていたリアムの手が再び、刀を握る。
「・・・居合ッ!!!」
宵より待ちに待った月の夜に雨が降ってしまった。十五夜を逃ししばしの辛抱。しかし次の日にはまたやってくるであろう名月を待ち──
「十六夜!」
十六夜の日に──
「・・・!?」
「──宴」
名月の下、約束した宴を開こう。
「・・・どうして止めた」
振り抜いたと思われたリアムの居合は、空中で固定され動けないウィルの首筋ギリギリで止められる。
「それを振り切らねぇと勝てないんだぞ!!!」
ここにきてのリアムの歯切れの悪さにウィルは頭に血を上らせて怒る。あそこまで緊張感あふれる戦いをしておきながら、リアムは最後の最後を華麗に飾らなかった。
「たとえ生き返るとしても・・・死なない方がいいに決まってる」
「馬鹿が! 俺は死ななきゃ絶対負けなんて認めないぞ!!!」
「ううん・・・父さん。ボクの勝ちだよ」
しかし──
「なんだと・・・」
「だってこの拘束を解いて動ける?・・・父さん?」
「・・・!!!」
リアムは冷静に、ウィルの言葉を跳ね返す。
「うむ。リアムの勝利だな」
両者意識もある意外な幕切れ。その決着を、遠くの空から見ていたブラームスが呟く。
”2. 勝敗の基準は一方が行動不能か戦闘不能となりリヴァイブに送られた場合、または ”降参” を認めた場合に負けとする”
──それから、手元にある今日の決闘ルールのある一項を見て。
「熱くなりすぎ・・・か」
「まさか息子に手のひらで転がされるとは」と、項垂れるウィル。そして──
「俺の・・・負けだ」
「僕の・・・勝ちだ」
──詰みだ。状況唯一の希望も単純な引き算で今もなお成長しており、人外級の魔力を持つリアムが相手では勝機はゼロである。
「ウィリアム行動不能・・・リアムの勝利だ」
2人が同時に何かを言ったのを皮切りに解放されたウィルを見て、ブラームスはグラスを下げ、遠くから静かにコールする。
大将 対 大将。リアムVSウィル ──勝者 リアム。




