198 果たし状
「どうしてこんなことに・・・」
「・・・リアム」
いつも明かりが灯る時間、通りの明かりだけが時折部屋の中を薄く照らす。
「ティナは・・・何か知ってた?」
「・・・いえ。私も何も・・・」
「・・・そう」
静寂が近づいてくる。外の喧騒も徐々に、途切れ、途切れていった。
──翌日。リアムはティナとエクレールに向かった。
「こんにちは・・・」
「いらっしゃい! ってリアムくんじゃない? どうしたのそんな難しい顔をして」
「コロネ・・・さん。エクレアさんは?」
「えっとお母さんはその・・・お父さんと昨日の夜から留守にしてて・・・」
しかしそこには、店番を任され忙しそうに棚に商品を並べるコロネだけしかいなかった。
「そうなんだ・・・そっか」
一旦手を止めて、リアムたちから訳を聞いたコロネが呟く。
「わかった! 多分今日帰ってくると思うんだよね! だって流石に私一人に何日も店を任せるなんてことしないと思うし・・・だから戻ってきたら私が知らせてあげるよ」
パンッ! と手を叩いてコロネが提案する。
「だったら・・・その! よければ私も1日、ここで待たせてもらってもいいですか・・・お手伝いでもなんでもしますから」
「ティナ?」
すると、ティナが店の手伝いをしながらエクレアを待つ提案をコロネの提案にかぶせてくる。
「そうだね・・・うんいいかも! ちょーっと情けないけど私一人だと不安だったっていうか・・・真面目なティナちゃんがいてくれるなら心強いし・・・」
「どうかな?」と、ティナのお手伝いをリアムに確認するコロネ。
「いいの・・・ティナ?」
「・・・はい」
ティナはリアムの問いに「はい」と答える。
「それじゃあコロネさん」
「ううん! こちらとしても願っても無い申し出だよ!」
「はい。よろしくお願いします」
結果、ティナが決闘の情報を持ったエクレアが帰ってくるまでの店番をすることとなった。
──午後。場所は公爵城のテラスで。
「・・・決闘」
集められたアリエッタ(アリア仮)のメンバーたちが、リアムから話を聞いてため息をつくように各々零す。
「アリア全員ってことは、おじさんたちだけじゃなくてウチの父さんや」
「母さんも事前に話をしてたってことなのかな?」
「わかんない・・・とにかく突然だったんだ」
ウォルターとラナの質問にリアムが答える。
「そうね。本当に昨日は唐突だったわ・・・だから昨日はできればあの後も、一緒に居てあげたかったんだけど・・・」
「な・・・なによ! しょうがないでしょだって迎えがきちゃったんだから!」
「だからって・・・私まで一緒に帰ることなかったでしょ」
エリシアにジトッとした視線を向けられたミリアが慌てる。昨日あの後、すぐにミリアを探しにきた護衛が彼女を保護し、連れて帰ろうとしたところ──
「ちょ、ちょっとどこ引っ張ってるの・・ヒャッ!」
「い、いいからあんたも今日は帰るの!」
「わわかったから離し・・・下着が見えちゃう!!!」
ゾンビのように服を引っ張って離さなかったミリアに仕方なく、エリシアは彼女と一緒に帰宅した。
「それは・・・つまり、後衛サポートの私と・・・」
「私も・・・よねリアム」
「そうだと思う」
非戦闘員に近いフラジールとレイア。しかしアイナはあの時アリアの全員で来いといった。ならば──
「なんかワクワクすんな。それ」
・・・はい?
「ゲイル今なんて・・・」
「ん? だから、ワクワクするって言ったんだ」
突然、ワクワクすると意味のわからないことを言い始めるゲイルに、リアムは混乱する。しかし──
「悪いがリアム。正直ボクも今、緊張はしているが気分が沈んでいるわけではない」
するとゲイルに続き、アルフレッドまでもが、この決闘に対し前向きな意志を示す。
「どうして・・・」
「だってまぁ・・・親との決闘ともなればお前が複雑なのは十分に理解できる。しかし──」
「しかし、オレたちにとってはチャンスなんだ! ラストボスに挑む前の自分たちの実力を試す絶好の機会」
・・・それに。
「おこぼれじゃない自分たちのパーティーの名を自分たちの手で掴みとるチャンス! こんなチャンス、おそらく2度とない!」
おこぼれ、という言葉を使ったアルフレッドにリアムは目を丸くする。おこぼれ・・・たしかにアリアの名を提案してくれたのはマリアで、これまで自分は決してその名前を軽んじて戦いに挑んだことなど、一度もないが──
「・・・おこぼれ」
「お前の親父は別に喧嘩しようって言ってるんじゃない。ただ、決闘しようと言ってるだけだ」
「俺なんていつも親父と喧嘩してばかりだしな」と、しれっと家庭の内情を吐露するゲイル。しかしそこに、関係への嫌悪感はなさそうで。
「・・みなさんー!」
「・・・ティナだ」
「エクレアさんが・・・戻ってきて」
エクレールに戻ってきたエクレアから、ウィルたちがよこしたであろう手簡を持って、ティナが駆けてくる。
「ありがとうティナ」
リアムはそれをティナから受け取ると──
「内容は・・・」
紙を開く。
『
決闘ルール
1. 日は2/1土曜日。場所はエリアDにて実施するものであり、時間は正午。メンバーが揃い次第組み分けをし、戦いが始まるものとする。
2. 勝敗の基準は一方が行動不能か戦闘不能となりリヴァイブに送られた場合、または ”降参” を認めた場合に負けとする。
3. 対戦の組み分けは当日にクジで決定する。なお、対戦は同時刻に一斉に開始する総当り戦であり、大将同士のみ1対1の固定対決、またその他に特別枠として1枠、両チームがプレイヤーを指定できる枠を設ける。
4. また、3にあたり主催側はメンバーの不足により1名のチーム外助っ人を要請する。ただし助っ人は先に定めた主催側の特別枠の1枠に投入することでその有利性を相殺するものとする。
5. 上記ルールにより、戦いの組み合わせは1対1が2組、また2対1が4組となる。ゲストの数の有利性の部分では、ホスト側は年齢の有利性が存在するためコレが妥当の勘案である。また、勝敗がドローとなった場合、優先されるものは大将同士の戦いの結果とする。
6. 最後に、お互いが賭けるものについての確認である。今回の参加チームが互いに賭けるものは『誇り』であり『アリア』の名前である。
以上、決闘のルールとし、当日ルールについての質問は認めるが戦いは絶対に避けられないものである。
──アリアから、アリアへ。
』
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「試合だ・・・」
手紙の中身を見たリアムの第一声はソレだった。ただし──
『殺し合いが許された試合』
殺しもありの試合。オブジェクトダンジョンの中だからこそ成立する、決闘とはまた少し違ったニュアンスの戦い・・・ただ少しだけ、ホッとしたような。
『できないよ・・・父さん!』
しかし当日、リアムは足をすくわれることとなる。ウィルが言葉に、そしてルールに記した決闘という2文字。これをただの ”殺しありの試合” だと甘く打算してしまったことを。




