158 ダウト
「次を避けねば、確実に死にますよ」
沈んでいく。
「今度は完全なる急所、頭を狙います」
体が沈んでいく。
「まあどちらにせよ、出血多量での死が控えていますが」
意識が闇に沈んでいく。
「しかしこれは、我が恩人への敬意。よってあの方が愛したあなたをこれ以上苦しめはしません」
叫びたい。
「苦痛は味合わせました。しかし懺悔はいらない」
勝手なことを言うあの光に、それは違うと。
「あなたの魂はもうこの星の輪廻に乗っています。私は星を詠むことができませんが、それだけは確かです」
この血は咎人の血じゃない──
「ですから安心して逝きなさい」
自分がいつ、人を死に至らしめるほどの罪を犯したというんだ。
これは弱い者が流すただの──
「ただ、記憶がなくなるだけです。浄化された魂で来世再会すれば良い。それに」
ただ、の──
「最悪。私のもう一人の恩人は殺しても存在がなくなることはありませんから!」
た、だ・・・の──
──・・・ ・ ・そう、敗北者の愚血。
「さようなら。リアム、いえ。一条直人」
ケルビムの右手が、リアムの手を捉え──
「ダウト」
刹那。
「お前今、嘘ついたろ」
・・・嘘?
「こいつの魂がこの星の輪廻にのってる? ふざけるな」
・・・うそ。
「どうせケルビムの代わりにこいつの魂を枷にして、俺を次元の狭間にまた閉じ込める気だったんだろ?」
俺・・・だと?
「俺ばかりかケルビムまで内包しても壊れない魂の器なんて絶対にあるはずのない代物」
俺だと?
「だが確かにここに存在しているからなぁ」
ヤメろ。
「こいつを道連れにして。かぁー酷いことを考えるもんだ」
その我が怒りを沸騰させる嗤いを──
「我が逆鱗に触れた罪! 悔やむことなく逝け!」
今すぐに──
「はっはっは! 俺を前にして逆鱗に触れるとか」
ヤメ──
「冗談。笑えすぎて逆に逆立つ」
ロ。
「へぇー。案外、黒い長髪も美しいもんだな」
長髪が、水面に映った自分の顔を見て呟く。肉体は男だが、中々に悪くない。
「なぁ見てみて。ほーらお前にやられた腕も綺麗に元どおり〜」
少年が、無邪気な口調で背中から話しかける。
「如何せん。こいつの中には万能の魔力を持つオマケがいるからな〜」
よく見れば、少し成長しているだろうか。体が全体的に一回りほど成長していた。
「便利便利♪だが」
ニシシと笑う。しかし、細められた目の奥から覗く紅の眼孔は笑っていない。
「まああくまで俺が主役なんだが♪」
そして、無邪気な少年は左腕をスゥっと胸の高さまで持ってくると──
「なんか言えよ」
左手を怒りに震える仮面の体に添え、ゼロ距離からの無慈悲な零咆を放出する。




