143 足止め
「ククク、夜になってしまったが、なんとか間に合ったようだな」
「はい。先生」
それぞれのパーティが起こした焚き火に、中央のキャンプファイアーが、セーフポイント一体を明るく優しい光が包み込んでいる。フード付きのマントを纏い、そんなキャンプ地の日常を直ぐ側の森から見下ろす2つの影。その2つの影は、森からの川岸へと降りると、自然の暗黒の中にポツンと存在する夜の喧騒の中へと消える。
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「非常時だっていうのにラナの蘇生ですっかり夜だ! ッたくお前は一体何食ったんだ!」
「口の中が異常に痛い・・・口蓋から脳天貫かれるような突き刺す痛みを感じたところから記憶が・・・・」
「やっぱりスパイスたっぷり入れた後に香り出しに雷で煮込んだのが悪かったのかしら・・・」
「両方ですよミリア様!」
ラナが倒れて四半刻、ようやく彼女が意識を取り戻す。
「どうしたの? う、ひどい臭い」
「・・・」
「ああエリシア、ティナも戻ってきたか!」
そして、タイミングよく魔法の練習を河原でしていたエリシアと、ミリアのシチュー【極悪】の爆誕をいち早く察して避難していたティナが戻ってくる。
「ええ、陽も落ちたし、魔力も限界に近くなったから・・・」
流した汗を拭きながら、戻ってきた理由を話──
「それで、リアムとバカの姿がないけど2人はどこに?」
ふと、リアムとアルフレッドがいないことに気づいたエリシアが、彼らの所在を尋ねる。
「今、エリシアなんつった?」
が──
「へっ? だからリアムとバカの2人の姿がないけどどこに・・・」
「いや、その少し前」
「えっと・・・陽も落ちたし、魔力も限界に近くなったから・・・」
途端、ウォルターからの意味不明の逆質が。
「だぁーッ!唯一の希望がーーッ!」
「「・・・!?」」
そして突然、ウォルターが叫ぶ。あまりの唐突さに、エリシアとティナが ──ビクッ、と体を震わせるほどの叫びだった。だが──
『もしかして・・・』
勘のいいエリシアは、直ぐに何かよくないことが起こったのだと察した。
「・・・?」
一方ティナは、ウォルターの奇行に更なるクエスチョンマークを浮かべていたが。
普段は少々おやかましいエリシアだが、それでも彼女はリアムに続くスクール四年の次席である。
『リアム・・・』
彼女は願った。明日は自分にとっても因縁の相手との再戦となる。厳しい戦いになる。だからこそ、彼には傍にいていて励ましてほしい、見守っていてほしい。
「・・・・・」
パーティ全体が、暗い雰囲気に包まれる。
「じゃあ私がいけばいいじゃない」
が、その沈黙を直ぐに破ったのはミリアであった。
「だがミリアはまだ魔法が未熟だろう。つまり繊細な魔力コントロールが必要な特攻は・・・」
「んなこと言ってる場合じゃないんでしょ?」
ウォルターの駄々を、ミリアが強引な理屈で論破する。
「こうなったら・・・!ミリアにかけるしかッ!」
どうやら、ウォルターも腹を決めたようである。
「私も行く!ウォル兄!」
すると、彼の妹であるレイアもリアムたちの救出隊への参加を志願する。
「わ、私も戦闘は苦手ですが、サポートはできます」
そして、フラジールも。しかし──
「ダメだ! お前たちじゃ圧倒的に魔力が足りない」
ここは冷静に、ウォルターは判断を下す。貴族、それも公爵の娘であるミリアと、一代貴族家の家系であるエリシアはこの中ではズバ抜けて保有魔力が高い。フラジール、そして既に自分より多い魔力を持つ妹のレイアであるが、それでもやはりこの2人の魔力では途中で底を尽きてしまうのが末、これ以上無駄に行動不能者を増やすのは得策ではない。
「だから、気持ちだけミリアに預けておけ」
「ウォル兄」
「ウォルターさん」
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「悪いな。公爵様の娘で年下のお前にこんな大役まかせちまって」
「いいのいいの! こんくらい楽勝よ!」
ウォルター一行は、再び橋へと向かう。エリアDに入ってしまった2人の仲間を連れ戻すために。
「なんの騒ぎだ?」
が──
「それが、急に橋が渡れなくなったらしいんだ」
「「「はぁ!?」」」
はりきり気合いを入れていたのも束の間、彼らは橋の入り口の前でたむろする冒険者たちに、足止めを食らうこととなった。




